Wit:1/もしも願いが叶うなら〜No pain, no live〜

月影弧夜見(つきかげこよみ)

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緋色のカミ( Ⅰ ) /救世主(セイバー)

嘘と罪

*◆*◆*◆*◆


 私はずっと、口を閉じていた。


 昨日は、白とあの黒って人の話が終わった後、結局一度も白とは言葉を交わさずに寝床についたけど。

 でも、色々と衝撃だった。
 まず、白が日ノ國を滅ぼした張本人である事。

 人界王には誤解と説明していたが、その実、本当のことであったという訳だ。

 それと、予言。
 1人の魔法使い(多分私)と、『セイバー』だなんて苗字を持つ子供の子孫が世界を救う事。

 ……そして、白の本名。
 白が「兄さん」と呼ぶ人から呼ばれていたあの名前、『アレン』。

 あの名前は本名で、白の本名は『アレン・セイバー』であって……世界を救うのはほぼ私と、白と、あのイデアとか言う人で確定みたいな……もんじゃない!!



 い……いやいや、でも予言だし? 当たるかどうか分かんないし?!


 ……でも。
 実際、状況自体は当たってるんだよなぁ……





◆◇◆◇◆◇◆◇

 突然脳裏に浮かぶ記憶。
 ……あの人に、封印してもらったはずの、あの記憶。

 白髪の少年が、私の母を切り刻み、その肉をまるで動物の様に食い漁る情景。

 思い出しただけで軽く吐きそうになる———実際に数十回は吐き散らかした、そんな重い過去。

 そういえば私は、記憶喪失で義父さんに拾われたって義父さんが言ってたけど。

 もしこの記憶が本物なのだとしたら。
 ———なんで私は、こんな大事な事を忘れていたんだろう……


 ……もしかして、だけど。
この少年が。私の母さんを殺した少年が、白だとしたら。

 ……いや、ありえない。ありえないわよね、そんな事。

 まさか、そんな偶然が、あり得る訳が……
 どうしよう。朝起きたら聞いてみるべきだろうか。





********



 朝。日が昇り、眩しい日差しが入り込んでくる。

 あまりにも眩しすぎて起きてしまった。

 体を起こして目を開けると、隣のベッドで寝ていたサナが、なんだか悟りを開いたかのような———落ち着いた細い目でこちらを見つめてくる。

 
 そして、


「白、起きたばっかりで悪いんだけど、聞きたい事が……ある」

 と話しかけてきた。


「聞きたい……事?……いいよ、なんでも……どうぞ」

 体を伸ばしながら話を聞く。




「あのさ、白って……




 ……人を食べた事、ある?」









 聞き捨てならない言葉が飛び込んできた。質問のあまりの衝撃に、ぼんやりしていた頭にもスイッチが入る。

「な……何言ってるんだよ、なんで俺が人を食べなきゃならないんだ」

「心当たりとか……ないの?」

「も、もちろんある訳ないだろ、おかしいじゃないか、人を食べる人なんて。それこそ、日ノ國の伝説の鬼みたいなもんじゃな……」

「本当に、ないの?」


 少しサナの声が低くなった。まずい。これはガチだ。

「だからそんな事……」
「本当に??」








 ……ああ、なるほど。バレてんだ。俺の罪は。



 まあ、そうだよな、あんだけやったんだ。
 1年間。毎日欠かさず斬って食べてを繰り返す。まあそりゃあ、怪しまれないワケがないよな。
  
 やっぱり、そうだった。あの時の、金髪の幼女は……俺の守るべき人……

 まるで、月のような輝きを放ってる……『君』だった。


「……ごめん」

「何が?」

「ウソ、ついた。お前に」



「……やっぱり」
「そう、そうだ。あるさ」

「………………」


「もういっか、……この際だから全部話す」

「……お願い」


「俺は……殺人鬼だ。何人も何人も斬り殺して、何人も何人も食べてきた」





「……信じられない」

「だよな、急にこんな事言っても信じられるわけ、ないよな。隣にいるのが殺人鬼って、やっぱり……怖いよな……どうする? 旅はもうここで終わりにするか?

 …………俺としてはジェーンさんと交わした約束もあるし、ここで終わるわけにはいかないんだが、サナがここで終わらせたいって、そう言うのであれば、もう終わりにしよう。


 だって……いたくないだろ?……殺人鬼と一緒になんて」





 少しばかり、その少女が俯くのが見えた。

「失望した……だろ? 許せないだろ、こんな奴。…………誰も傷つかない世界、なんてものを目指しながらその実、本人は大量殺戮を引き起こした過去がある、だなんて」


 

「そうだよな、俺みたいな奴、誰かと一緒にいる事が間違いだったんだ……幸せなんて持つことは許されなかったんだ……夢だなんて抱く権利すらなかっ……」

「うっるさーーーいっ!」

「えっ」
 えっ、である。
 唐突、明らかに唐突な展開、発言だった。
 
「何でここにまできてずっと被害妄想してんの?! 私はただ聞いただけよ、確認しただけよ! 旅をやめるなんて一っっっっっ言も言ってないわよ!」

「えっあの」

 唐突に怒鳴り散らかされたことによって、被害妄想で沈んでいた俺の心も、なぜか自然と変わりつつあった。

「別に、白が過去にした事とか、今の白には関係ないでしょ、何でそんなに気に止む必要があるのよ!!」

 今の俺、には———関係ない……?

「白は自分のやった事を悪い事だって思ってて、もうそんな事しないようにしてるんでしょ?……なら、ならそれでいいじゃない、私もそれでいいから!!」

「それでいいって……でも……またいつ俺が繰り返すかなんて……!」

「この前みたいな威勢の良さは?……私の考えや夢を、真っ向から正論並べて否定した時の威勢の良さは、一体どこ行ったっていうの?」

 サナに押し倒され、力強くも告げられる。

「今の白は嫌い! すっごく嫌い! 威勢が良くないあなたなんて白なんかじゃない!

 ……だから、くだらない過去のしがらみなんて投げ捨てて、例え他の誰が何と言おうと、白には白なりの幸せってのがあるはずなんだから!

 だから変なこと考えないで前だけ向いて! 後ろと下ばっかり見てる白なんて……白じゃない!!!!」




「でも」「だって」
「自分は罪人で」
 浮かんだ言葉は、全てかき消された。
 その言葉は傲慢にも、「うるさい」だなんて一言で全部、一蹴された。

「……あ」


 ……驚いた。まさかこんな風に言って、俺自身を受け入れてくれる人が、こんな近くにいたなんて。


 誰が何と言おうと、俺なりの幸せがあるはず……
 なんだ、胸を張って「幸せ」だと言える環境なんて、以外とすぐ近くにあるじゃないか。


 俺自身が気付いてなかっただけで。


 ……本当に、これでいいのか。
 俺は。罪を犯したままでも。

 何人も、何人もだ。
 何人も殺してきた……
 何でそんな俺を、アイツは恐れないんだ……?

 まるで、師匠みたいだ。



 分からない。本当に分からない。


 胸の下に、柔らかい感触が伝わる。
 ……その後に、生暖かい感触が。
 これは……抱きつかれて———?


「もう、もういいから……昔の事に縛られるなんて、終わりに……して……!」

「……サナ……こ……あれ……俺、なんで泣いて……っ」
「……泣くって事は、まだ白が人間だって証拠……!……だから、だからもう、そんなくだらない事は……終わりにして!」


「俺は……俺はこれでもいいのか……? これでも……こんな俺でも……!」
「何度言わせるの……もう、もういいよ……その事は……っ!」


 互いの涙が滴り落ちる。

 されど1つは染み込み、されど1つは檻から飛び出した囚人のように、自由に落下し落ちてゆく。




 そうだ、もう俺は自由なんだ。
 過去のしがらみに、罪に囚われる事なく、生きていけば、そうすればいいんだ。

「……俺……俺は、人間として……生きて、いけるかな……?」

「……例え人間として生きてはいけないとしても……それでも、私は———!」
 





 ……俺は、幸せだった。
 それが許されないことでも、今の俺は幸せだ、という結論に至った。

 それでいいのか、と疑問に思いながらも。
 それでいいのだ、と無理矢理にでも納得して。

 

 本当は、逃れたかったのだ。
 サナの言った通り、過去の罪など投げ捨てて、自分1人、幸せにのうのうと生きたかった。
 

 それでも、投げ出せない罪がそこにはあって、俺1人じゃ、その罪に対峙することは敵わなかった。

 だけど、今は違う。
 今の俺には、一緒にその罪に立ち向かえる仲間がいるのだから。


「……んもう、恥ずかしい……こんな事……あんまり言わせないでよね……!」
 

 だからこそ、俺は胸を張って「幸せだ」と言えるような、そんな結末を。

 この旅の終局に想いを馳せ、そして祈るばかりで———。
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