Wit:1/もしも願いが叶うなら〜No pain, no live〜

月影弧夜見(つきかげこよみ)

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緋色のカミ( Ⅰ ) /救世主(セイバー)

修行 I /魔術行使

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「ふあ~ぁ……おはよう2人とも、さ、朝ご飯の時間だ……」

 (おそらく)何も聞いていなかった黒が起きてくる。すごいな、サナがあんだけ大声で怒鳴ってたのに起きないなんて。

 しかも俺たち2人はご丁寧にベッドまで黒が用意してくれて、3人並んでベッドで寝れる状態が出来上がっていたんだ。

 ……だからこそ、どれだけ黒の騒音耐性高いんだって感想が浮かんできた。

「今日のご飯は……はい、レタスとキャベツとピーマンの野菜炒めだ」

 黒は火属性の初級魔術で野菜を調理して持ってきてくれた。その間体感僅か3分。どんだけ早いんだ。

 ———それからは一言も言葉を交わさず、非常に微妙な空気の中、1人ご飯を食べ終えた。

 ……まあ、ついさっきまであんな重苦しい話題を出してたぐらいだからな……



 ……で、俺たちはようやく修行に移った。
「ねえ黒さん、修行って言っても具体的には何をするの?」

「何、ちょっとした技を教えるだけだ。これを覚えるだけでもおそらく世界が変わってくる」


「……で、その技って一体なんなの?」

「俺が初めてお前たちと会った時、ドラゴンを一撃で両断できただろ?」



 そういえば疑問だった。いくらドラゴンとは言え、魔力障壁ぐらいは纏ってるはずだ、それを何の苦労もなく両断できるなんて、よく……冷静に考えれば、普通におかしいのだが。


「確かに、あのドラゴンは幹部とか言ってたし……どうやって両断したんだと気になったはいたけど……」

「まあ、いくら俺でも人間だ。どう頑張ったって、基礎戦闘力じゃドラゴンになんて遠く及ばない。だからこそ、この技を使ったんだ。よく見ておけよ……!」

 そう言うと黒は少し大きな石を持ってくる……否、魔力で浮かばせ、持ってくる。

 ……いやいや、魔力を念動力のように使っているこの状況自体がそもそも理解できないのだが。


 そして黒は自分の手を構え、目を瞑りながら、
「背水の陣、しゅの項」

 瞬間、浮遊していた石が、突然その力を失い、自由に落ち始める。

 そのまま黒は、予備動作もなしに手を下から振り上げる……と。
 先程持ってきた石がパックリ割れてしまった。

 全くブレのない断面。断面のどこを触っても……こう、でこぼこによる不快感が全く浮かばないくらいには綺麗に切れている。

「見た感じ……身体強化魔術っぽかったけど……何か違うわね……」

「サナの言う通り、俺の教える技、背水の陣は身体強化魔術の派生だ」

「でも、身体強化魔術とはいえ素手で石を両断するなんて……」

「いいか、2人とも。魔術ってのはだ。氷魔術とかで結晶を作る時も、事前に出来たらこうなるって事をイメージして作り出すもんだろ?」


「そうよね、魔術そのものの定義が、魔力によって人間の思考をそのまま、あるいはある程度限定して顕現させる術式……だから、間違ってはないと思うけど…………」

 サナの言っていることが全く理解できない。
 お前一体どんだけ高度な魔術論説明してんだ、それともこのくらい分かるのが魔術世界では常識だってのか、おい??

「この背水の陣ってのは、今の自分にとって1番最悪で、もう引く事のできない状況をイメージし、その状況を打破する為に自分ができる事をイメージする。

 ……ここまでが第一段階、次に極限まで集中力を高め、身体強化、支援魔術を使うっていう技だ。サナは……自分に身体強化魔術を使った事はあるか?」

「ええ、何度か……」

「いつも身体強化魔術はここに魔力を流し込めばとりあえず強くなるだろう、みたいな曖昧なイメージで使ってないか?」

「言われてみれば……」

「だから具体的なイメージを持って魔術を使う。ようは魔術に必要なのは魔力の質、とかじゃない、イメージだ……!」

「なるほど!」

「だからサナはまず想像力を身につけてもらう。白は……」



「……俺は?」


「まずは魔術を使えるようになろう。自分の適正魔術属性は分かるか?」

「えっと…………回復……魔術」

「……マジか」

 一瞬にして、黒の顔が絶望の色へと染まってゆく。
 ……ひどくないか、回復魔術ってそんなに使えないのか?!


「……まあ、適正属性でなくとも魔術は使える。質は落ちるが、イメージでカバーだ。

 さあ、白はまず、基本の四属性初級魔術、炎のファイア、水のウォーター、風のストーム、土、岩のストーン、そして派生属性初級魔術の中でも習得しやすい氷のフリーズ、その次に支援魔術、身体強化魔術を習得しよう」


「多い……な……」

「仕方ない、今どきの普通の人なら大抵誰でも基本属性初級魔術は使えるからな……」

 突然告げられた衝撃の事実。
 まさかのまさか、目を背けたかったが、俺は普通以下だったということだ。

「お前は幼少期からずっと刀しか持ってこなかったかもだが、魔術が封印されていた時代でも、子供を外で遊ばせていたら勝手に魔術を使ってて、その頭角を現し始めていた、なんてことはザラにあったのさ」





「よし、そうとなればファイアから練習だ。そこに落ちてる古びた鉄板に火をつけてみろ」

「…………どうやって使うんだよ、魔力って」

 まあ、こうなる。
 使ったことのないものを感覚でやれ、と言われても無理なもんは無理だ、さっき言った頭角を表し始めていた天才とは違うんだ、流石に無理ってもんだよ。

「そうだよな、魔力の引き出し方が分かんないから魔術が使えないんだよな、俺とした事が盲点だった。だが魔力を引き出す感じ……結局そこに関しては、魔術行使には一切関係ないから、俺でも感覚でやってるんだが……」

「白、もっとシャキッとしなさい!……気合いもやる気も足りないわよ、ほら、杖貸してあげるから、まずは魔力の引き出し方を覚えましょう!」

 唐突に話を割って入ってきたサナから投げ渡されたのは……先端に青い水晶玉のついた、木製の魔法の杖。

「…………これが……杖か……木なはずなのに意外と重い……」

「その杖を回路にして直接魔力を流し込むのよ、まず鉄板に杖を当ててみて?」

 杖を当てた瞬間、コツン、と軽い音が鳴る。
「こう……か、で、次はどうすればいい?」

「まず自分の心臓をイメージして、そこから1本の管が腕と杖に通ってるみたいなのをイメージすれば分かりやすいかな。イメージできたら、その管に水……みたいな何か、液体を流し込むイメージで!」

「炎魔術なのに水のイメージ、か……流し込んだ……と思う」

「なら後は魔術をイメージするだけ!」

 と、錆びた鉄板が燃え上がる。

 ……これが魔術か。
 なんか、使った時に身体から生気が抜けていくような嫌な感じがしたんですけど。


「そうそう! それが魔術よ! 今の心臓から魔力を引き出すイメージを忘れないで!」

「流石は現役魔術師だ。俺よりも教えるのが上手い気がしてきたぞ……」
 
「もう私が教えるわ! 次は杖を鉄板に付けないでやってみましょう!」
「鉄板に付けないでって、どんなイメージでできるんだ?」

「さっきは魔力を液体みたいにイメージしたでしょ? 今度は魔力を気体としてイメージするの。紫色の気体……だったらイメージしやすいかな?」


「魔力を気体としてイメージ……」
「イメージできたら、その紫色の気体が鉄板に纏わりつく様に自分の心臓から引っ張ってくるイメージをするの。後は……」

 鉄板が再び燃え上がる。

「で……出来た……! ありがとうございますっ!」

 めっちゃかしこまってしまった。
 ———これが、魔術か。



 ……いやいや、こんなモノを自然と使える子供とか普通におかしくないか?!

「じゃあ次は水属性ね! 水属性や氷属性みたいな、無から魔力で固体や液体を生み出す魔術を『錬金術』とも言ったりするわ。
 ———まあ、炎属性みたいな魔術よりか魔力消費が少し大きくなるだけだから、あんま気にしなくてもいいけど」

「水属性か……実際に見た事ないからウォーターがどんな魔術かなんて分かんないんだけど」

「ウォーターは簡単! ふつーに魔力で水を作り出すだけよ!」


「それだけ?」

「それだけよ!……早くやってみなさい!」


「……そう言えばさ、サナって氷魔術を使うとき、ビギンズクラフトォッ! って叫んで魔術名を叫ぶじゃん? あれってなんか意味あるの?」

 ただただ純粋な疑問だった。


「私の場合、言葉1つ1つと連想するイメージを繋げて、詠唱したらすぐに身体が動く様に詠唱とイメージと感覚を結びつけているの。……まあどの魔術師にしても、詠唱を用いてイメージを簡略化するのが一般的なんだけどね。

 ビギンズクラフトって言った瞬間に目的の場所に魔力を送り込み、魔術名を言った時にすぐにその魔術のイメージを具現化できるようにしてるの。だから、魔術発動までが短いワケ」

 ほお……理解はできんが、ある程度なら見えてきた。

「なるほど……つまりテキトーにビギンズクラフトォッ! って言ってても、何の意味もないと」

「そうね……って、その言い方やめなさいよ、どうしてそんな男臭い雄叫びをあげないといけないのよ!!」

「ごめんごめん、でもほら、ウォーター出来たぞ。ビギンズクラフトォッ!」 

 杖は黒の方角を向いており、生成された水は黒におもいっきりかかる。

「その言い方やっぱ馬鹿にしてるわよね??」

 やっべえ、サナの声が低くなった。



「なあ、どうしてお前は杖をこちらに向けて魔術を使ったんだ?」

 髪の方からびしょ濡れになった黒からの質問。申し訳ないとは思ってます。

「誤解だって、あの鉄板をイメージして撃ったら、杖が黒の方角を向いてる事に気付かなかっただけだ!」

 ……あぶない、もう少しで2人の怒りが爆発しそうになっている……! 何とか話を逸らさなくては……っ!

「あーーーーっ! 魔力を使ったからお腹空いたなぁーーーーっ! もう昼っぽいし、ご飯食べたいなーーーーなんて!」


「今は朝10時だぞ」

「魔力の使い過ぎでお腹空いたりとか死ぬ事なんて滅多にないわよ、魔力はあんまし生命維持に使われてないもの」

 ———結果、墓穴掘った。

「あーーっそっかーーーっ! だったら次は氷魔術を習得しよーーかなーーー!」





 そんなこんなで、間に昼食を挟み、ついに俺は基本4属性、そして氷属性の初級魔術習得に成功した!



「フリーズ!」
「あばばばばざぶいざぶい、マジでごおりづげになるゔゔゔ」


 フリーズ、氷魔術の初級魔術で、叫んだのは俺であり、放った対象は———黒。

「何で黒に魔術を使ってんのよ?!」

「いやあ、試し斬り?」

 試し斬り……というよりかは試し撃ちであるが、俺の人生の経験上から咄嗟に出てきた言葉はこれだったのだ。



「試し斬りで……生きてる人間を使うやつが……ある……か……」

 黒は寒さで震え上がり、床にうずくまったまま動かなくなった。意外と初級魔術でも効くもんだな……とか思いつつ。


「で、次は支援魔術と身体強化魔術ね。まずは脚力強化からしてみましょう」

「……もう黒、いらないんじゃないのか」

「存在意義がないみたいに言わないでくれ」

 目に涙を浮かべながらも、黒は必死に訴える。

「それじゃあ白、一番最初の液体のイメージを思い浮かべてみて。それを強化したい部位に管を通して流し込むイメージをするのよ!」


「イメージできた……と思う」

「後は足に力を入れるだけ……だと思う、とりあえずジャンプしてみて」

「ほいっ」

 渾身の力で地面を蹴り、思いっきり跳び上がる。
「すげーーーっ! 木の上まで来てるぞ!」

 一瞬のうちに、2人を見下ろせるぐらいの高さまで来てしまった。

「他の部位の強化も同じ要領で行えるから、後は1人でやってみることね! それじゃあ次は支援魔術の基礎、魔力障壁の生成をしてみようかしら!」

「……もう黒、いらないんじゃないのか」
「存在意義がないみたいに……言わないでくれえぇっ!!」

 ……こうして、俺たちの魔術習得の猛特訓が始まった。
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