Wit:1/もしも願いが叶うなら〜No pain, no live〜

月影弧夜見(つきかげこよみ)

文字の大きさ
35 / 256
再会と再開

再会と再開

しおりを挟む
「はあ、ぜえっ……も……もう見失ったよな……」

「ええ……多分……つけられてもいないと……思うわ」



 感動の再会。
 が、そんな奇跡的な再会を果たした俺たちに待っていたのは新たな敵、そして新たな負債。
だから。

「……サナ……幹部、ぶっ倒しに行くぞ……!」

「幹部……って、魔王軍幹部?! いやでも……」

 ……そう、黒は言った、「魔王軍幹部なら倒せる」と。



 今金が稼げる依頼は、討伐依頼ぐらいしかないだろう、それも特別報酬が手に入る魔王軍幹部討伐……!
 大丈夫だ、今の俺ならきっとやれ……




「あー、えーとね、現幹部って、2人しかいないんだ」

「…………はい?」

「2人……つまり、ダークナイトってやつと黒騎士、魔王の右腕左腕しかいないって事。

 魔族の壊し屋、魔王軍には所属していない、カーネイジって言う組織ならいる……そいつらなら、かなりの懸賞金がかけられているけど」


「……なん……だと……!」


 ………無理だ、流石に俺もコイツら2人に勝てはしない!……と思う。
「えっ……なんで……そんな減ってんだ……? 2年くらい前には……何人いて……」


 ……あの、つい先ほど出会った元魔王軍の老婆は除くにしても、一体全体何があったんだ……?

「白以外の他の勇者たちが、残った2人の魔王軍幹部を倒しちゃった訳よ。それに幹部の補充も行われてはいない。だからその2人しかいない訳よ。

 そのおかげで、戦線は前進、今のところは人界軍が優勢な訳。それもこれも、私たちと黒さんが2人も幹部を倒したからよ!」



「じゃあ……一体どうすれば……!……とりあえず、幹部補充まで待つしかないのか?」

「……まあ、そうなるわね」

「嘘だろ……! 刀も修理しなきゃならないってのに!!」

「刀……って、まさか白、その刀欠けたりでもしたの?!」

「……ああ、流石に10年近く使ってるからな、いくら概念武装とは言え、逆にここまで壊れなかったのが不思議なくらいだ」

「……問題は山積みね……」
「そうだな……とりあえず、王都に立てた家にでも帰……」


「ないわよ」


「……へ?」
「だから、家。もうないわよ」

 はい??????



「ない……ないってなんだよ、別にサナが何からやらかしたとかじゃないんだろ??……え、もしかして……俺か?! 人斬りだってバレ……」

「いいえ、そんな事じゃないわ。物理的に壊されたのよ、壊し屋、カーネイジ軍団によって。王都ごと、丸ごとね」


 あーなるほど、だから懸賞金がかけられてんのか。
 って何? なんだよそのふざけた軍団は????

 王都ごと……って事は王都は完全にぶっ壊れた?? 俺のいない2年の間に????

「……おい、ソイツらの本拠地教えろ、すぐさま殺しに行って、その腑引き裂いて……」

「落ち着いて! 本拠地なんてないわよ!」

「ない?」




「……そう、山賊や盗賊みたいな感じで、仮拠点を作っては移転してを繰り返してるから本拠地なんてない、どこにいるか分かんないのよ!」

 おいおいどーすんだよ、再会したかと思えばいきなり詰みじゃねえか。

「じゃあ……サナは今どうやって住んでるんだ?」

「狭い宿生活よ」

「なるほど、俺もまたあの宿生活に逆戻りと」

「大正解」




 ……なんてこった、なんでこんな事になってしまったんだ……
「と……とりあえず王都に帰るとして、食い物ないか?」

「食い物?? 何で?」

「何でってそりゃあ……ここに来るまでに食ってないんだよ」

「な……なるほど……とりあえず、王都に帰りましょう!」

「道、分かるのか?」

「分からなきゃ王都に帰るなんて言う訳ないでしょ」

 そりゃあそうだ。


◇◇◇◇◇◇◇◇



 そうして歩いているうちに王都に着いた……が。

 王都は俺の知っているそれとは明らかに変わっていた。

 まず外壁。めちゃくちゃ綺麗な壁だった。
 純白に煌めく白亜の壁。

 そこにぽっかりと空いた門を抜けると。一風変わった街の姿が。

 街に入ってみると、まず灰色の大通り、その後噴水が中央に座する広場。その奥には、より一層大きくなった王城が。



「なんか、全体的に綺麗になったな、……そういや、俺って死んでる事になってたのか?」

 ガスも言っていたが、もしかしてマジで死亡扱いになってるのか?

「……言いにくいけどそうね、白はあの戦争、いや、新・二千兵戦争で殺された事になっている。……けど、どうやってあの場から生きて帰ってこれたの?」


「サナが……俺に生きてくれって……言ってくれたおかげさ」


「……ぷっ……ふふっ……急にくっさい台詞吐くじゃない白!」

「え? ああ……確かによく考えてみたら恥ずかしい台詞だよな、でも……でも、ホントにそうなんだよ。その言葉を思い出した瞬間、力がブワーっと湧き出てきて、それで……」

「よく考えなくとも恥ずかしいけど……それで、どうかしたの?」





「……ああ、それで、また殺した」
「……」

 サナは黙り込み、少しだけ俯いた。

「そうだ、サナだって見ただろ? 俺が衝動に任せて、敵を斬り殺したのも」

「……まあ、そう……よ……ね」
「……でも、それでも。例え衝動に負けようが、俺は戦っていくって決めたんだ」


「……」

「もちろん、それが贖罪になるからだとか、そんな理由もあったりするけど、そんな義務みたいな理由で戦うとか、そんな訳じゃないんだ。………俺は、大切な人を守る為に戦うって」

「守る……為?」

「そう、……とある出来事で戦わなければならなくなって、今まで、何の為に、本当は何の為に戦ってたかって、今一度自問してみたんだよ」

「……」

「そしたらさ、やっぱどう考えても、俺は誰かを、大切な人を守る為に戦ってきた、それしか思い浮かばなかった。

 もちろん俺の身を飲み込む謎の衝動だってあるさ。でも、やっぱり今の俺には、守るべき大切な人がいるからさ、だから———だから、その為に生きるって、決めたんだ」


「じゃあ、やっぱり、私もいないとダメ?」

「……そうだな、何せ俺にとっての守るべき大切な人だから」

「守られるだけとは思わないでね……私もこの2年ですっごく強くなったんだから!」

「ああ、って事で……」


◇◇◇◇◇◇◇◇


「って事で……って、やっぱりご飯なのね」

 着いたのは、前の宿とは外見以外ほとんど変わらない、王都にしては質素な宿の2階。

 その一角を、サナは半ば貸し切り状態で使っていた。


「……ハムハム」

「そう言えば、刀が欠けてるって言ってたけど、明日直しにもらいに行くの?」

「……ハムハム」

「白ってば、聞いて……」

「……食べてる途中に話すのは礼儀がなってないだろ」



「は、はあ……」

 師匠の教育で、食べてる途中には話さないってのは何故か特にこっぴどく躾けられたからな。



「とりあえず、明日からは鍛治職人のところを訪ねるしかないな、俺も刀無しじゃ非力なガキだ。……サナも……来るか?」

「一応……行っとこうかな」

「……よし、それじゃあ、今日はもう寝る」
「なかなか早いわね……そうだ、銭湯行きましょうよ!」


「せんとー?」

「ここ2年の間に、王都にて温泉が発見されたのよ! だからそれを用いて、今まで上流階級しか使えなかったお風呂が、民衆が使える公共のものとして設置されるようになったの。それが銭湯!」



 風呂。日ノ國では入るのが常識だったが、この大陸に来てからは全くもって入っちゃいなかった……が、そうか、風呂って上流階級しか使えなかったんだな。ようやく納得した。

 ……ただ。

「やめとく」
「え゛゛゛……なんでよ」

「めんどいし、眠いし、それじゃあ俺は寝る」

 ……そう、数年間ずっと風呂に入っていなかったんだ、今更入ろうと言われてもめんどくさい以外の言葉が浮かばなくなっていた。

「その臭い体で眠るって言うの?!」

「……えっと、女はそういうの気にするんだなとは思うが、俺はあんまり気にし……」

「……だから、私が気にしてるのよ……パーティメンバーが臭いって事を……!」

「……」

「え……もしかして寝た……寝たっていうの?! 今の間に?!」

「……」
「…………まあ、仕方ないわね、今日はあのロボットとも戦ったし。さーて、私は銭湯、行ってきますか……」




********

 ……もう内心、私はこんな白を今のまま受け入れてしまっているのかもしれない。

 普通に考えたら、人を何人だって斬り殺してきた人と一緒にいる、だなんてやっぱりどう考えてもおかしいと思う。

 でも、この関係でもいいか、と思える自分がいて。
 2年の間、また白に会えるのを楽しみにしていた自分がいて。
 正直言えば、私は白が怖い。

 いつ白に襲われて殺されるかなんて分からないから。

 それでも、やっぱり白と一緒にいる事が。
 それだけでも白にとっては大切な事であって、白にとっての贖罪になるのなら。

 ……やっぱり、まだまだ旅に着いていこうって。そう思えたから。






********


 ……再会と新たな負債、白たちの旅は、まだまだ続いていきそうだ。
しおりを挟む
感想 203

あなたにおすすめの小説

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

処理中です...