Wit:1/もしも願いが叶うなら〜No pain, no live〜

月影弧夜見(つきかげこよみ)

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C・C・C(カーネイジ・クライシス・クラッシャー)

カラクリ

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******** 
◆◇◆◇◆◇◆◇
 
 時は少し遡り、イデアの視点へ。



「…………で、なぜキサマが来た? この俺様を、キサマ如き雑兵で止められるとでも思ったか?」

「でへへへへへ……イデア・セイバー……お前の存在は聞いているぞ、魔王軍に媚び売って力を手に入れた、卑怯者だとな…でへへへへへ……!!」

「……ふん。キサマは俺のことを全く分かっちゃいない様子だな……デカいだけの脳なしめ……その無駄にデカい頭で、少しは言葉遣いに気をつけたらどうなんだ?」

 対峙。
 相対していたのは。

 カーネイジ、その幹部的立場に位置する魔族。

「…………全く、下品だが犬の糞みたいな色してやがるぜ、体の色から品がないヤツだ。おまけに服も着てやがらねえ。そんな体格で恥ずかしくないのか?」

 ……と言う通り、黄土色にして、イボのついたその巨体が特徴的な、ゴブリンの魔族であった。
 衣服は着ていない。……羞恥という概念が存在しないのであろうか。


「ふざけるなよ~、たかが人間如きに罵倒されてムカつかないほど、オデは寛大じゃねえぞ、残念だったなあ!」
「……来るか? その巨体だと、両断するのもさぞ簡単だろうな」




 瞬間、その足が踏み出される、が。
 既にそこに、そのゴブリンの影はなく。

「一瞬で、後悔する間もなく両断して…………っ?!」

「ふっ!」


 早かった。
 まさか、まさかこの俺では見切れなかった、とでも言うのか、今のコイツの、ただの突進が……!

「の……お……あ……!」

 次の瞬間、目の前にゴブリンが出現する。
 あまりの激突。
 いくらこの俺でも、流石によろけるほどのパワー。

 し……しかし、迂闊だった……こんなヤツにこれほどの速さが……?!

「でへへへへへ……お前はオデには勝てねえ……へへ……」

「な、なんだと~っっ!! この俺が、キサマのようなブタに……遅れをとるなど……!」

 再度、刀を構える。
 見切る、見切れるはずだ、今の俺様になら……!
 アレン相手にも優勢だったこの俺だ、負けるはずがないんだ、こんな雑魚に……!


「…………来いよ、貴様如き、次に来た瞬間殺して…………っふ……あああっ!!」

 腹に重い一撃。
 思わず吐血。
 赤い、どこまでも赤黒い血の塊が地面へと吸い込まれる。


「な、なぜだ……! なぜこの俺が……キサマなんぞに……!」
「でへへ、お前、見かけによらず、弱いな……!」



 なぜ……?
 なぜ見切れない……?
 速すぎる、のか?

 いやでも、そんなはずはない。
 確かに、ヤツの走り出し……そこまでは見える……そこ「まで」は。

 問題はその後だ。
 まるで、この前のアレンの如く、たったの0秒でその場から消えてなくなった、と言っても差し支えのない動き。

 速い……いや、もはやそのような次元じゃない……のか……?

「…………か…………ふっ……うっ!」

 追撃。
 やはり、やはりヤツは、攻撃の瞬間、たったその瞬間だけ消えている。
 だがなぜ? 
 原理は? 
 何を用いて? 
 どのように?

 条件は? 
 そもそもそれはなんだ?
 魔術式か?
 それとも神技か?

 ……だめだ、今の俺には神力探知は不可能、ならば、ならばどう調べる……?

「でへへへへ~、お遊びはここで終わり、次で本当に終わりだ……へへへへ……」



 ……来る。
 踏み出した、走り出した、しかし、ここまでの数撃、ヤツは前からのみしか攻撃していない。

 ……という事は……賭けだが、前のみの防御に徹してみるか……!


 その姿が消えた瞬間。
 下に目を向けると、赤い何か、まるで血のように赤い、2つの円状の「何か」が移動していた。

 そして。

「……でああっ……へへへへ……」

 決まった……?
 走り出して、ヤツの姿が消えて1秒後、前に突き出した刀に感触。

 瞬間、目の前に現れたゴブリン。
 赤い「何か」のあった場所に出現した、ゴブリンの「足」。



 そうか。姿が見えなくなる、その意味がようやく掴めてきた。

 楽勝じゃないか、こんなカラクリ。見破れば、それはもう「強敵」として意味を成さない。

 大体俺が馬鹿だった、突然のことに焦り、冷静さを欠いていた。

 こんなもの、魔力を探知すれば簡単に防げるじゃないか。
 ……なぜならば、ヤツは『攻撃する瞬間、透明になっている』だけなのだから。



「……ふん、雑魚め、超能力———頼りとは情けないヤツだ」

「オデに勝った気でいるのか……?」
「当たり前だ。次で必ず、キサマを追いつめる」
「でへへ……できると……いいな!」

 また、その巨体は消えるも。
 やはりどうしても、その血痕、つまるところ俺が地に吐いた血痕は、消せなかったみたい……だな!


「…………ふ……ぅ……」

 腹にまともに一発もらう。
 ……が、目標は達成した。

「あで……これは……血?!」

 そう、わざと攻撃を受け、吐血し、その血をヤツに浴びせること。
 そうすれば、透明になる小賢しい技も使えまい……!

「追いつめたぞ、誰も次でキサマを倒すなどとは……口にしちゃいないからなあ!!」

 姿勢を低くし。
 大きく、それでいて無駄のない姿勢で、腰を落としながら地を踏みつける。

 いくら透明になろうと、今ならば確実に、完全に姿が視認できる……!

「お遊びは終わりだ……今度はキサマが……終わる番だ……!」
「で…………あ…………!」



 やはり、肉というものはこうも斬りやすく、こうも斬っていて気持ちのいい、ものなのか。


「終わりだ、糞ブタ野郎。……キサマ如き、余興にすらなるまい」

 その巨体を横に斬り捨てたイデアは、さらなる敵を求め足を踏み出す、が。



『………イデア、少し……レイちゃんの方を手伝ってくれない……かしら』

「…………ああ?!」
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