Wit:1/もしも願いが叶うなら〜No pain, no live〜

月影弧夜見(つきかげこよみ)

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断章Ⅱ〜最終兵器にアイの花を〜

神の敗走

◇◇◇◇◇◇◇◇

『…………何?……アルテミスが、堕とされた……だと……?』

 オリュンポス、地下5階、中央部。
 黒と赤の配線に塗れた薄暗い部屋の中。
 その中央に位置する、緑の液体と、目を瞑ったままの人の身体がの詰まったカプセル。……その中にて、神は報告を待つ。


「……はい、向かわせたアルテミスは———大気圏で爆散、アフロディーテは……大穴沿岸湾へと逃亡。付近にて、ポセイドンの反応も消失したまま……いくら機神とは言えど、これでは締まりがありませんね」


『…………ならば、ヤツらはここまで攻め込んで来るか……刹那、が起動するまでの時間稼ぎを———』

「言われなくともするつもりでしたよ、文字通り、死守してみせますとも。
 ……貴方様の、擬似同期神核真体———『Savior』の起動、の覚醒までは、ですが……」






『……ゴルゴダ機関、各隊の調子はどうだ?』

「まず、マーク済の3番隊、イチゴ隊長は始末して参りました。……βポイントにて、1番隊、2番隊、4番隊は、現在人界軍と交戦中。ζポイントのラース1人の6番隊は———おそらく、敗れたでしょう。

 ……Σポイントにて戦闘を続けていた5番隊、7番隊は、一部サイドツーを巻き込み、Σポイントごと崩落、全滅しました。……これで、ここへと辿り着ける道は、βポイントのみに絞られました」

『……ご苦労、刹那。……それにしても……いいのか?……せっかくのの機会だというのに、貴様は———』

「ええ、構いません。結局はエターナルの駒。『覚醒』が済めば、ソレで全て終わりです。の思い入れのあった弟子ですが———所詮は捨て駒。用が終われば始末するのみです」


 そう言い残すと、刹那は、一度深く会釈を残しその部屋を出る。

 ……そのまま刹那が向かったのは、その大部屋から出て左側にある大部屋だった。

『封』と札が押された部屋だったが、その部屋のドアは少し前に開けられたような痕跡が残っていた。



「———さあ、もうそろそろ起きる時間ですよ、ラース」


 優しく、刹那はそのドアに語りかけた。
 まさに父親を思わせるような、そんな優しく、穏やかな声で。

 ……敗れた、とまさに他人事のように言ってはいたが、既にラースは刹那の手の中にあった。……が、その体調はよろしくないようだったが。


「……ぇ」

 一方、ドアの先———中に入っていると呼ばれた女は、今の状況が分かっていないような、高く小さい唸り声を上げる。


「もうは終わった頃でしょうから、声をかけに来たのです」

「とうぶ……の、さい……せ———ひっ!」


 刹那はゆっくりと、その封の解けたドアを奥に押しやる。

 その大部屋の真ん中。
 暗がりに滴る血の水滴は、何故だか輝いているように刹那の目には映った。

「ひ……っ、ひぁ……は……っ!」

 ラースは未だに、その動揺と恐怖を隠せてはいなかった。
 まるで見えない幽霊にでも狙われていることを自覚しているかのように、恐れ、怯えていたのだ。


「……何を、そんなに怯えているんだい?」
「ひぃっ———?!」

 ラースの耳元に触れる、刹那の穏やかな声。
 ———しかし、ソレが与えたのは一時の恐怖と、畏怖の感情のみであった。


「い……嫌、いやあ……っ!
 ……だって、私———もう、しくじって……失敗して、無下にして、台無しにしたからぁっ!

 ……だから、でしょ。……ねえ、そうでしょ、私を消しに来たんでしょ、そうなんでしょ!」

 声の強弱、抑揚———この少女のそれらは、ほんの一瞬にして変化する。
 その中にある心、情緒の不安定さを助長しているようにもとれた。




「…………いいえ、私は、あなたに最後の任務を伝えに来ました」

「———最、後……最後……じ……じゃあじゃあ、あの少年ツバサを殺しに———」

「……あなたの最後の任務は、こちらに向かう者らの討伐任務です」

 最後の任務、のところまででは笑顔をこぼしていたラースだったが、任務の内容を聞いてからは態度が豹変する。



「———なん、なんで、なんで!……私はアイツに———アレ神威に狂わされたのに、なんで、どうして?! なんで私にやらせてくれないの、ねえ、どうし———」

「あの者との決着は———私につけさせてください。

 私もあの者のお陰で、の、1人ですから」



 その言葉の意味は、刹那以外に———知る者はいなかった。


「嫌よ、いや、いや! それこそ———それこそ嫌よ、なんでアイツを殺しちゃいけないの、なんで私はそんな雑用を———」

「………………雑用、ではありません。
 コレはあなたにしかできない仕事。……故に、あなたにのみ任せられます。

 ———期待していますよ」








「……うん、行ってくる」




*◇*◇*◇*◇

 一方。
 βポイントにて。

 機神ゼウスの心部に繋がる最後の道にして、全てが鉄で建造された、崩落させることすら難しいこの狭い通路では———。


「は……っ、ぐう、本っ当に、しつこいんだからっ!!」

「サナ、後ろは———」

「もちろん、背後は預けた。……ただ、この数……振り切るのは難しいわよ……!」



 人界軍———第三機動部隊、通称『魔導大隊』。

 人界軍の要にして矛でもある、サナ・グレイフォーバスとレイ・ゲッタルグルトの2名を中心にして成るこの部隊は、まさに人界軍、その魔術的技術力を結集した全てを担う最強の軍隊だ。


 ———とはいえ、このような狭い通路の中では、流石の人界軍とは言えども、大規模な魔法や魔術行使が行えるはずもなく。
 比較的小規模な魔術行使、そして白兵戦を強いられていたのだが———。


「囲まれた……!」
「数が多すぎる、レイちゃん、氷魔法を使うから、タイミングよく跳び上がって!」

「は……タイミングよくって、ちょっと待っ———」

 間髪入れずの、サナの魔力行使。
 地を伝う氷属性と定義された魔力の波は、触れた瞬間対象を氷の結晶へと閉じ込める。




「…………あっぶな……サナ、使うんだったらもうちょっと早く言ってくれないと……」

「ごめんってば~っ………………それよりも———」

 一瞬にして思考を切り替え、サナが鋭くも睨みつけた敵はというと———。

 ……もちろん、先程のサナの氷魔法で、辺り一面は白と冷気に包まれていたのだが、その中でも特筆すべきは———サナたちを囲んでいた敵が、凍りつくことにより形成された……『氷の壁』だ。


 サナたちを取り囲んでいた敵———ソレは、無数の『ロスト』だった。


 触れるだけでも、その行為は死に等しくなるほどの異物。主に仇なす生物兵器として使われた、あまりにも哀れな人間たち。

 その無様にも溶け出した身体が凍結した結果、場に生まれたのは幾重にも重なった氷の壁である。


 ……だったが。
 氷の壁は、動くことのなかったはずだが———。

「……溶け……出した…?」
「うそでしょ、私のグレイシアフリーズクリスタルを打ち破ったってえの?!」

 上がる蒸気、再び迫り来る灰色の波。
 対処できない、何度斬ろうとも、何度だって甦る最悪の敵、ロスト。

 そんな存在が、さも当然の如く———雑兵として扱われているのだから。

「…………どうやれば倒せるって……のよっ!」

「まだゴルゴダ機関のヤツらにすら遭遇してないってのに、もうみんな消耗しきってる……ましてやここで全滅すらもありえ———っ?!」

 魔力を杖に込めた瞬間、サナは自らの左手の違和感に気付く。


「……っあ、まずっ———!」

 侵食。
 既にロストの魔の手———その灰色の液体の侵食は、サナにまで及んでいた。



「ごめ……レイちゃん、私もう無理かも……」

 そう言われて、ようやくレイが振り向いた先には———すでに半身を飲まれたサナの姿が。

「なに……やってんだ……っ!」

 すぐさまレイは、自身の刀を振り回し、なんとかしてそのロストをサナから引き剥がそうと画策するも———無駄だった。

「な……っ……!」

 レイのその刀にも、既にロストの液体は纏わりついており、同時にレイは、自らの非力を心の中で静かに嘆く。



「…………は、最後の希望も……このザマ、打つ手なし……ね……」

「サナ、中から魔力を流し込むってのは———」



「無理。このロストそのものの液体が、魔力を受け付けない障壁っぽいのになってる。……残念だけど、私もここで終わり、か……」

「諦めちゃ……ダメ……私たちがエターナルを終わらせなきゃ……向かうんでしょ、『終末』に……!」

 そうは言いつつも、レイの意識は甘く蕩け薄れゆく。
 身体は、動かそうとしても反応せず。
 意識は、強く保とうとしてもノイズがかかるばかり。

 終わった。
 今度こそ、全て終わったと、何もかもおしまいだと思った時。





「…………全くだらしない、ソレでも貴様は王直属の騎士なのか?」

 直後、サナとレイを飲み込まんとしていた灰色の液体———ロストは、塵となって崩れ落ちる。


「誰か分かんないけど……困ってる人は助けなきゃ……っすからね……」

 その影より見えるのは、刀を持った1人の男と、パイルバンカーを抱えた1人の少女。
 ———だが、その男の方だけは、両者とも見覚えがあり。


「イデア……?……でも貴方、別ポイントでゴルゴダ機関と交戦してたんじゃ……」

「……そのゴルゴダ機関が、この女だ。……色々あって、共闘するハメになった」

「あっしは嫌々やってるだけっすからね!」

 颯爽と。
 その場に現れ、2人の前に立ちはだかったのは、イデアと———見覚えのない少女レイラであった。

「……ありがとう、2人とも。貴方は誰か分かんないけど……とりあえず恩に着るわ」

 状況が理解できず、困惑する2人の前に、さらに立ちはだかったのが、またしてもロストの軍勢。

「……は、ここまでやって……死にそうにもなったってえのに、まだ私たちに戦え、と……?」

「そのようね、レイちゃん……体力は大丈夫……?」

「人の心配より……自分の心配よ……っ!」






「……さて、そこでも始まったみたいだな」

 イデアと少女レイラは、動向を伺いながらも、自らの頭と体を動かし続ける。

「呑気に見てる場合じゃないっすよ、イデアさん。私たちだって、やらないと……」

「そうだな、爆剣の残り本数は?」
「カーオからもらった分だと……50本」

「……どこにそんなものが入っているかは知らんが、上出来だな。俺様にも少しばかり寄越しやがれ。

 ……この俺も少しばかり、投擲ってやつをやってみたかったんだ……!」
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