世跨ぎ

宮浦透

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9.帰り道

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 夕日を背景に帰路を辿る目下の私も、笑っていたかった。
 街の電灯。月明かりが町を包み始める。
 裸足の私は今がわからなくてふらふらゆらゆらと歩いている。
 何処へ歩を進めるのかも分からなくなって、いつしか道は霞んで見えなくなる。
 ふと思い出した。懐かしい記憶。間違いを犯したいつかの私。何が正しかったのか。間違った道の先に私はいる。何かへの固執と何かへの嫉妬が私を変えた。
 ふと考えた。遠い未来の予定。正しい道を歩んだはずの私。何が間違っていたのか。正しい道の先に私はもう居ない。何かへの憧れと何かへの尊敬も、もう私にはなかった。
 糸が解けて行く。絡まった頭が一直線へと変わって行く。
 罪悪感に納得がいってしまう。
 どこへ帰って行くんだ。私たちの道を示せ。
 私は叫ぶ。過去と未来に明かりを灯せと。
 潮水に身体を漬け込んでいく。冷えびえとした感覚はあの罪悪感と少し似ていた。
 何か。何か。きっと。きっと。エゴだ。そんなもの此の世には存在しない。あるのは事実だけ。
 私の帰り道に明かりはない。
 帰り着いた先に命はない。
 意味なんてない。
 例外なんてない。
 未来なんてない。
 あるのはこれまでの過去だけ。
 これまでの全てに深謝を。
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