全てが生

宮浦透

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3.苦悩

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 僕は死ぬことを考えた。
 季節は春、外に出ると寒い。だがしかし布団に潜っていれば少し暑い。そんな季節。
 そんな季節の、お話。
 楽になりたい。だなんて都合のいい話だ。この世界は生きている間、楽なんてものは存在しない。
 「君が言ったんだ」
 生きると言うことは、死ぬと言う条件が付き添う。死ぬから生きる。
 楽になりたい。なら死ねばいい。
 ある時僕は優しさについて言及した。心に余裕があった。しかし今はどうだ、なぜ死について言及している。
 「お前なんて生きてても意味なんてないよ」
 わかってる。わかってるんだ。そんなことは誰もがわかってる。
 「でも僕は生きたい」
 そう溢す。そうすると目の前にいた得体の知れない怪物は少し驚いた顔をして言葉を続ける。
 「お前自身が辛いだけじゃないか」
 「そりゃ辛いよ」
 辛いのには間違いない。
 ある時、僕を支配している人間は言った。その言葉はまるで僕を潰すかのような言葉だった。心配なんてしていなかった。心配の言葉なんて聞いたことがない。
 愛のない空間に生まれたからこそ、無感情に育ったのかも知れない。何があってもどうでもいい。それだけだった。
 今ただわかるのは、辛い、楽になりたい。それだけだ。
 「辛いけどね…」
 頭の中に浮かぶのはたくさんの思い出。高いところに行くのが一つの目標だった。この前それを達成できた。次は遠いところにも行ってみたい。とても綺麗だった。
 「辛いだけではないと思うんだ」
 「………」
 そう言うと目の前の怪物はゆらゆらと姿を消していった。
 この真っ暗な空間の中、よく見れば怪物は一体ではなかった。
 消えた怪物の左にいた怪物が話しだす。
 「いつ裏切られるかも分からない。そんな思い出にすがるのか」
 いっその楽しい思い出が辛い思い出になるかなんて分からない。そんなことは誰にも分からない。明日にすらこの思い出は辛い思い出になるかも知れない。
 それを知っているのはきっと神様だけだ。
 「きっと裏切られないさ。それに君たちより信用出来る」
 多少自信はなさげに、しかし心強く。
 「迷いはあるだろう。怖いだろう」
 怖いのは確かだ。しかし信じているのも確かだ。今生きられる理由はそれしかないのだから。
 「怖いし、迷いもある。でも俺は信じる」
 「………」
 理論なんてない。しかし自信だけはどことなく湧いてくる。
 よく見れば怪物は今消え去った二体の他にもいる。
 「お前は最低なクズだ」
 「………」
 反論すべきなのだろうが、反論なんてできない。その通りだからだ。僕は最低なクズだ。ある時僕は人を傷付けた。意識していたわけじゃない。僕自身も何故そんなことになったかなんて分からない。許してくれなんて言えない。突き放されたって仕方ないと思う。しかし僕は必要とされていた。この空間、支配されている空間、それらとは打って変わって、必要とされてる空間だ。
 「最低なクズは死んでも問題はない」
 怪物は喋ることをやめない。少し目は笑っているように見える。
 「楽になりたいだろう?死ぬがいい。死ねば誰もお前を責めたりしない」
 つまりそれは必要とされない空間に逃げると言うこと、必要とされている空間から逃げると言うことだ。しかしそれは最低ではないのだろうか。
 必要とされている空間から逃げたら、その空間に残る人は何をする。それは想像するだけでわかる。それこそが最低だと思う。
 「俺は逃げない。必要としてくれる空間がある限り僕は生き続ける」
 「………」
 少し暑いこの真っ暗な空間の中、僕の決意は固まりつつあった。
 支配されている空間、必要とされる空間。そしてこの否定される空間。この全てが僕に苦痛と幸せを与える。
 生と死を天秤にかけさせる。でもそれでもいいんじゃないかと感じてしまう。死を選ばなければ、僕は生きていける。死を選択しない限り苦痛もあり続けるが、幸せもあり続ける。苦しいだけではない。
 悩んで悩んで、悩んだ末に生を選べたならば僕は勝ち組だ。
 「お前らよく聞け!」
 目の前に広がった怪物の大群に向けて、大声を浴びせる。こんな声も出せるのかと感じる。
 「お前らが何度俺を死に誘導しても俺は生き続ける!お前らの行いは無駄だ!」
 「………」
 そう言うと怪物たちはゆらゆらと消えていく。目の前が透き通る。暗かったこの場所が、一気に明るくなっていった。

 「無駄なんかじゃなかったかもな…」
 少し暑かったのも、寒さへと変わる。
 そして僕は支配された空間へと足を運ぶ。
 苦悩を越えて、僕は生を選んだ。




 2021.04ごろ執筆。
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