ヴァルキューレたちの悪戯(ハラスメント)

yumekix

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はじまり

矢でも鉄砲でも持ってこい

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 長槍は明らかに適性がなかったので、残るは弓矢か銃ということになる。
 長槍がいくら有用な兵種と言っても、長槍が届かない位置から弓矢や鉄砲で撃たれるとこちらに反撃のすべはない。そこで敵の弓や鉄砲の間合いでは、こちらも弓や鉄砲を前へ出して長槍を掩護することになる。
 さて、弓矢に対する僕の適性だが。
 先程の長槍での失態を見られていたらしく、比較的弱い力で引ける弓を用意してくれた。他の志望者がやっているのを見よう見まねでなぞりながら、矢をつがえて射てみるが、全く前へ飛んでいかない。斜め前五十センチくらいとか、酷い時には射た場所のすぐ横にポトリと落ちる。見かねた足軽が、構え方を指導してくれる。

「弦を引く方の手の形はこうだ。で、顎を引け。そしてよく狙う。よし放て」

 ようやくまっすぐ飛んだが、まだ飛距離が全然足りない。的までの半分も飛ばずに矢は落ちた。
 ――と、ここまでは僕に適性がないのは当たり前。本番は次の、鉄砲の適性だ。FPSで鍛えた射撃の腕、見せてくれるわ。
 最初に火縄銃の撃ち方について簡単に説明された後で、いよいよ実践する。まず銃口から玉薬たまぐすりと弾丸を入れて、銃身の下部にささっている棒で押し込む。火蓋を開けて口薬くちぐすりを入れたら、火蓋を一旦閉じる。火縄に点火して火縄ばさみに挟んだら、銃を構える。
 ニートになりたての頃、まだネトゲ廃人になる前に、グァムの実弾射撃場でアサルトライフルを打たせてもらったことがある。その時に教わった構え方を思い出し、銃床ストックを肩に当てる。
 火縄銃は現代のライフルより反動リコイルが大きいと予想される。しっかりリコイルを押さえ込めるよう、銃床は肩に真っ直ぐに当て、腰を落として衝撃に備える。

「火蓋切れぃ」

 合図とともに火蓋を開き、照準を定め直す。自分の右目と、引き金付近にある照門、銃口の先にある照星、そして的が一直線に並ぶように構えたら、準備は万端だ。

「撃てぃ」

「押忍!」

 引き金を引くと同時に、衝撃に耐えるよう脚に踏ん張りを効かせる。押忍と叫んだのは、声を出したほうがより大きな力を出せるというシャウト効果を狙ったもので、少しでも強くリコイルを抑えるためだ。
 狙い通り撃つために僕が考えられることはすべてやったのだが、それでも弾丸は的に当たらなかった。撃った本人のひいき目で見れば、弾丸は的の右斜め上をかすめたように見えたが、実際には十センチ近くは離れていたのだろう。

「槍や弓に比べりゃサマになっとるが、外れだな」

 足軽が、そう言って笑った。
 やはりリコイルで銃口がぶれてしまったのだ。狙いさえ合っていれば当たるFPSとは違うのだ。
 ただ、鉄砲自体のクセというものもあるだろうし、こんな新兵の適性試験に使われるような安い火縄銃では精度も悪いだろう。僕より前に試験を受けた志望者達もみんな外していたし、そもそも鉄砲隊は一斉射撃で弾幕を張るのが目的だからこの程度の腕でも構わないはずだ。この安鉄砲で的に命中させられる人などいないに違いない。

「権三郎、命中!」

 僕の次に撃った志望者が、あっさり命中させていた。

「お前、相当な腕前だな」

 足軽に褒められて、権三郎という名前らしい痩せ型の男は顔をほころばせた。

「へい。生前は長年、鉄砲隊で足軽をやっておりましたもんで。鉄砲の腕も上達して、戦死するちょっと前には『必中のごん』なんて呼ばれとりました」

「ほう自信があるようだな。もう一発撃ってみろ」

 そう言われて権三郎は、銃身の中を掃除し始める。そして弾を込め、射撃体制を整えていく。
 いくら鉄砲歴が長くても、『必中』はさすがにハッタリだろう。それか生前は鉄砲を重視する根来衆か雑賀衆あたりにいて、足軽でも精度の高い銃を使っていたか。二度連続で当てるのは難しいだろう。
 ドォン、と音がして権三郎の鉄砲が火を吹いた。的の方を見ると、菱形の的の右半分が消し飛んでいる。

「命中!」

 チート転生者居たー!?
 何これ普通ラノベなら僕が射撃チートと現代知識で無双する流れじゃないの? 僕は権が主人公な転生ラノベのモブなの?

 と、その時。かみしもを着た立派な風体の男が、建物の中からこちらへ歩いてきた。途端に足軽達が血相を変える。

「これはご家老殿。いかがされましたか?」

 家老らしき男は志願兵達の方を見ながら言う。

「新兵の中になにやら珍妙なやつがいると噂になっていてな。上様が呼んでこいと仰せになって」

「珍妙といいますと、こちらの『必中の権』でございましょうか。鉄砲隊経験者の中でも出色の鉄砲の腕です」

 しかし家老は、首を横に振る。

「いや、もっと、ダメな方に珍妙なやつだ」

 ダメな方に珍妙? そんな奴をわざわざ呼んでどうするつもりだろう。しかも家老が『上様』と呼ぶってことは、信長の指示だ。

「ダメな方に珍妙なやつなら、こいつでごぜえます」

 足軽が、僕の方を指さした。

「僕っすか!?」

 いや、確かにダメだったのは確かだし、ひょっとしたらダメすぎて逆に目立ったかも知れないが、だからといって信長に呼び出されるとはどういうことだろう。
 呼び出しの理由に心当たりはないが、家老が「おお、こいつに違いない」と言っているから人違いではないのだろう。
 家老は僕に「ついて参れ」と言って、さっさと踵を返して建物の中へと歩いていく。偉い人の命令に逆らうわけにもいかず、僕は家老の背中を追いかけた。
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