ミリしら令嬢 ~乙女ゲームを1ミリも知らない俺が悪役令嬢に転生しました

yumekix

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第三章 王子の秘密

移動ルートを暗記せよ

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 夕食後、リディアの部屋にエウラリアが訪れておしゃべりをするのが恒例になっていた。

「クロエさんの靴のイベントにリディア様が絡んでくること自体は予想の範疇でしたが、アルボス家の令嬢との間に遺恨が残っていないかは心配ですね。今後の攻略に影響が出なければいいのですが」

 ぶつくさ言うエレナを、リディアは横目で見やる。エレナはリディアと二人きりのときもわりとメイドとしての態度を崩さないのだが、同じ転生者というだけでなく同性で乙女ゲー好きという共通点もあるエウラリアと話すこの時間は気が緩むようで、今もリディアたちと同じ小卓を囲んで座り頬づえをついている。

「わたくしがお止めすべきだったのですが、リディアさん、というか玲司くんはいつも突然、びっくりするようなことをするもので……」
「わかります。この子はゲームのリディア嬢以上に扱いづらい子ですので、エウラリア様もこの子を制御しようなんて考えなくても結構です」

 二人から口ぐちに責めるようなことを言われて、リディアは面白くない。今日に限らずこの二人はいつも息が合いすぎていて、ちょっと疎外感を感じることがある。

「まあ、それよりもフェンシング大会です。ハーレムルートを狙うとなると、少し忙しいことになるかも知れません」

 エレナが急に話題を切り替えた。

「忙しい? どうしてですの?」
「リディア様には、あまり先の展開を具体的には知らせたくないのですけれど、大まかに言うと、大会当日に攻略キャラ二人のイベントが同時進行するんですよ」

 エレナの説明によると、『チェンジ☆リングス』ではフェンシング大会のような学校行事のときには、主人公クロエを操作して校内のいろいろな場所を移動してまわるのだという。移動先に攻略キャラがいたりすればイベントが発生する。移動のたびに距離に応じたコストが消費され、総コストが一定値を超えた時点で行事の終了となる。
 そしてフェンシング大会では、フェルナンドとエルネストのイベントがそれぞれ複数発生し、それら全部のイベントを消化しないと好感度が上昇しない。どちらか一方の攻略狙いならもう片方のキャラのイベントが起こる場所は回らなくていいのだが、ハーレム狙いならば相当効率良く回らないと、全部のイベントを見る前に総コストを使い切ってしまう。

「決められた複数のポイントを最短の移動距離ですべて回るにはどういうルートを通ったら良いか、という問題を、『中国人郵便配達チャイニーズポストマン問題』と言うのですが、わたくしの大学での専攻と関係があったので、『チェンジ☆リングスのフェンシング大会でフェルナンドとエルネストの全イベントを回ることは可能か』というのをチャイニーズポストマン問題として解いてみた事があったんですよ。結果として、最も効率的なルート選択をすればギリギリ総コスト内でおさまりました。当時はリニューアル版の発売前だったので、ゲームの攻略とは関係のないやりこみ要素に過ぎなかったんですが、頑張って解いたのでブログ記事にまとめてアップしたところ、リニューアル版の発売直後に閲覧者から『この記事がリニューアル版のハーレムルート攻略に役立ちました』と感謝のコメントが書き込まれまして」

 ちょっと得意そうに語るエレナ。まあ、専門分野を趣味に活かしてそれが評価されたら、オタク冥利につきるだろうとは思うけど。

「という事は、リニューアル版でもフェンシング大会のイベントには大きな変更はない、ということですね」
「はい。両方のキャラの全イベント消化が単なるやりこみからハーレムルートのための必須条件のひとつに昇格しても、移動コストのキツさは変わっていないという事でもあります」

 ちょっと間違った場所へ移動したり、訪問する順番を間違えたりしたら、時間内に必要な場所を回りきることができなくなる。ゲームならルートを覚えてその通りに回ればいいだけだが、リディアたちはクロエの現実の行動を誘導しなくてはならない。クロエがこちらの意に沿わぬ動きをみせたり、なにかアクシデントが起こったら失敗もありうる。

「大会の日は授業はないので、女子たちは男子の試合を観戦してまわります。幸い、リディア様はクロエと仲がおよろしいので、一緒に回るようお誘いしてください」

 リディアがルートを覚えた上でフェンシング大会を一緒に見て回ろうとクロエを誘い、ルート通りに行動すれば、必然的にクロエは正しいルートで移動することになる。しかも大会は授業ではないので、生徒の侍女や執事は主人に同行するのが普通だとのことなので、リディアが万一ルートを忘れても、エレナがフォローできる。

「で、エレナはそのルートを覚えているんですの?」
「そりゃあもう。単位を落としかけてまで見つけ出したルートですから」
「ダメな大学生だったんですわね」

 まあダメな大学生だったおかげでハーレムルート攻略のための条件の一つがわかるわけだから、そこは感謝しなければならない。ありがとうダメ学生。

「当日はわたくしも付き添うとはいえ、リディア様にもルートを暗記しておいてもらいます。大会は来月ですが今のうちから繰り返し頭に叩き込んで置かないと覚えられませんので、早速今夜から反復学習を開始しましょう」

 そう言ってエレナは、メモ帳とペンを用意して、大会当日のルートを書きつける。

「さあこれを覚えてください。五分間で覚えていただいてからメモを隠して五分後に別紙に同じルートを書いてもらいます。それを三十分の間をおいて毎日三回繰り返せば、大会の日までには完全に頭に入っているはずです」
「うえ、今日から毎日ですの?」
「ええ。今日は初日なので覚えられなくても仕方がありませんが、明日から三回中一度も正解できなければ罰ゲームを考えますので覚悟しておいてください」

 やたらノリノリでそんなことを言いはじめるエレナ。その熱心さを大学の単位取得に向ければよかったのでは、とリディアは言いたかったけれど、怒りそうなのでやめておいた。
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