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第20話 退学

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「何があったの暗黒くん……? なんか人生って感じの顔してるけど」

「ぐみ……えげつないしごき?」

「はぁ……とにかく生きてはいますから……」

 何故か五百里の机の上に尻を乗せている2人の女生徒。

 ギャル……たち? に机を占拠されるのは悪い気はしないけど今日は色々ありすぎて……ありがたいけどこれ以上の成分はいらないな……。

 妙な距離感で見つめるエメラルドとグレープの瞳にナニかを悟ったような苦笑いで返した。

 バンッ、と教卓を叩く音が鳴る。がやがやと雑談をしていた3人はビリリと電気を得た機械のようにそれぞれの周防子に指定されていた席に着いた。

「また無駄話か、緑ひどり先ずはお前からだが」

「はいはーい」

「退学だ」

「え、ええええええええええええ!? ちょっと居残りで死ぬ気でがんば」

「うるさいぞ黙れ」

「いくらなんでも退学はやりすぎじゃないか……えっと、周防子先生」

「ぐみっ……こわい……」

「黙れと言ったぞ、次に黄組味きすみぷに」

「ぐみっ!!」

「退学だ」

「にゃ!? なんで!? ラノベの新刊も我慢したのに!」

 本日二度目、ジト目を見開き驚きの余り席を立ち上がり周防子に反論した。

 吐ききった黄組味、そして冷静にもどりたじろぐ黄組味をじっと睨みつける教壇の先生。

「貴様らに少しでも期待した私が馬鹿だった。乙組とはしょせん落ちこぼれの社会不適合者の集まり、ゴミだ、クズだ、役立たずだ」

「そこまで言う必要ないだろ、誰だってこんな自分の特殊な能力で入れる学校がありゃ脳死で入るって。ぶら下げた餌取り上げていきなり戦えっていうのは順序がちげぇよ、あんたらも都合よくキープしていたんだろ」

 椅子に座りながら間を見計らい五百里は発言した、目を合わせず淡々と述べ続けた終わりに紅茶色の瞳をじろり、睨みつけていく。

「なんだ貴様は、貴様も他人に構っている暇はないぞボロ雑巾。貴様の戦闘センスではその辺の吸血鬼にも勝てやしない。私にすら勝てないのだからな」

「うるさいッ! おれはッ、俺は底辺で負け続けた馬鹿だったけど勝てる勝てない神呪使いなんかよりほんとはモテるモテないの方が大事なんだよ! メプルさんもぜってぇお前らイカレタ集団から取り戻す! 曹雷なんて化石ジジイがどしたってんだよ、吸血鬼だって初陣で1体倒してんだ俺は! 俺なら鍛えればヤレるんだろ、だから俺に時間つかってここまでするんだろすわちゃん先生!」

 突然机を叩きつけ立ち上がる、ガラッと跳ね除けた椅子は後ろの席にぶつかり。その黒い瞳は周防子をターゲットし声を荒らげまくしたてた。

 睨み合う両者を、この先の未来を、唖然怪訝な表情で見守っていく女生徒の2人。

 少し見開いた周防子の瞳もやがて彼を訝しみ。

「……何を言っているお前は……?」

「……え……なにって、え……?」

「前にも馬鹿みたいに言っていたな、何故貴様が曹雷を倒そうとしている。状況を説明するためにヤツの名前を出したが、大企業への確約が目当てでもないだろう? 新参者のお前が逃げたところでなんらこちらもお前にも」

「え、だってそれはメプルさんのために!」

「馬鹿か、ちんぽか? 本当に脳じゃなくてお前はちんぽで行動しているのか、白川楓の事もまだよく知らないだろう貴様はそんな事のためにそう遠くない未来、復活してるであろう曹雷を倒すというのか」

「あ、愛した女は全力で守れ!!」

「…………」

「それが月無家の家訓、だから」

「…………」「…………ぐみ」

「え、あの、なんでだま」

「恥ずかしくないのか貴様?」

「ぜ全然恥ずかしくない! 今の俺は昔の俺じゃないメプルさんが好きだァァァ……はぁはこんな風に言っても叫んでも死にやしない!」

「うわぁ、暗黒くんインキャじゃなくてそんなキャラだったのあはは馬鹿っぽーい、てかこの世でそんなの見たことないあはは」

「ちょー恥ずかしいぐみ」

「い、インキとか恥ずかしいとかどうでも良いの! なんかもう最近色々と人生の最大イベントを超えてんの俺は! そしたら恥なんて概念は不思議とハイテンションに死滅したっての! あのとき、地下シアターで俺は一度死んでんだ! 今現在、全く新しい俺! ……神呪使いの月無五百里、だ!」

「あははインキャから大人の階段のぼりすぎでしょ、人類進化しすぎいうらやまー」

「すがすがしいほど振り切れてるぐみ……新人類」

「貴様はお笑い芸人の方が向いているな」

「そんなの全然興味ない呑気にテレビももう観ないし! 芸人の名前なんて全部、たった今忘れました! 俺は戦えって言われればその通りに戦いますよ!」

「フフ、はははははっ……それは戦士向けだな。馬鹿で非常に助かる」

 ヒートアップした応酬、五百里の発言を受けてついには笑い上げてしまった周防子。妖しい表情でその瞳は教卓に前のめり、そのなんとも言えない圧と間にヒートアップ一転思わずたじろぐ五百里の目をじっくりと覗き込んでいく。

 やがて一つながく息を吐き黒スーツは姿勢を戻し。

「今日は笑い過ぎて気分が良い、さっきの退学は取り消す」

 チョークを欠けさせながらぎりぎりと大きく書かれた黒板の【退学】の白文字はすぐさま赤いばつ印を重ねられ教壇の上に立つ周防子先生に斬り刻まれた。

「えやったああああ暗黒くんありがとありがと」

「助かったぐみっ!! あんこく」

「うわっ!? ちょ緑さん、えっと……キグミさん!?」
「キスミだあんこく。同クラぐみっ!!」
「あはは読めないってぐみっあはは暗黒くんどんまーい!!」

 両サイド、両腕ぎゅっと抱きついて来たギャルたちに五百里は驚いた。ぷらんぷらんとはしゃぎ喜びをシェアするように揺らされる両腕。

「だが勘違いするな退学にしようとしたのは茶番でも試したのでもないぞ、本気だ。貴様ら乙参組は居ても居なくても構わない、吸血鬼との戦いについて来れない控えの雑魚の肉壁の囮だ。貴様らが役に立つのは死んで腐った後の実験体ぐらいだろう、まぁ生きている内に実験する事もあるだろうが」

「ぐみぃ……」

「あははあたしらってそんなポジだったんだ……」

「もしかして、それで退学にしたのか……すわちゃん先生……」

「ふ、だから私は生徒おもいのやさしいすわちゃん先生だと言ったろ。死にたくない退学したいやつは後で私のところに来い、私を殺せる技を思いついたらでもいいぞ? ……フ、今日は以上だ落ちこぼれズども」

 告げ終わりバンっと教卓を叩きつけ教室から出て行った周防子先生。

 その去り姿よりも、教卓から湧き上がり噴出しつづける白と赤。

 舞い上がり噴き荒れつづけるチョークの雨に、左右の女子と顔を見合わせやがて訳の分からない目まぐるしい状況のまっただなかの3人は不思議と声をそろえて笑い合っていた。
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