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冷たい朝の空気と、不穏な空気の充満した校長室にて。
事件のあった早朝のグラウンド。そこで見たもの、気付いたこと、体験したものを、ピネスはありのまま包み隠さず校長へと報告した。
ある種、この場で殴られても仕方がないそんな覚悟をもって、校長室の机の前で彼はいつもより神妙な様子で告げたが──
「すまない、これは私のミスだ。実は知らぬ間に【タコイカの本体】を奪われた。それに」
「あたしのミスだねぇー。校内に侵入した暴漢を制圧するのが用務員の勤めだからねぇ。蔓延していた呑気が祟ったかな」
大人の女たちは次々と続きそう言い、責任は誰のものなのか分からなくなっていた。
ピネスは自分が厳しく想定していた2人の反応との落差に思わず面を食らってしまった。だが、誰が何割を分割し負うか分からない責任の所在を決めるよりも、聳え立つあの大きな大きな疑問の方を先ずは解消したかった。
「それよりッ、アレは……なんなんすか? 外に立ってるあの円柱は……?」
「アレは、円形校舎だ」
「えんけーこうしゃ?」
「昔なつかしの学校の校舎のことね。形状が円柱だから狭いところに建てるのに効率のいい校舎よ。今の時代は残っている方が珍しいけど。しゃれていると思うわ」
ピネスのおうむ返しに問うたその言葉を、校長室に居合わせていた登別海が軽く説明した。
「ぅーー、なるほど。それが……一体?」
「簡潔に言うと完成間近の計画を逆手に取られたということだ。つまりアレは……我々ブク高の私有する味方陣地のダンジョンだ」
「しゆうする……ダンジョン?? 味方陣地?」
「ごほんっ────実はピネスくんとダンジョンを攻略し始めた初期の初期の方からコツコツと、その日を夢見て推し進めていたプロジェクトなのだが……まさかこういう不名誉な形で、皆に発表することになるとはな。というのも、順調に仲間のモンスターが増えてきたからな、いずれを見越して広い牧場が必要だと思っていた。そして精を出し片っ端からモンスターたちの移住登録作業をタコイカに記入し整頓していたところ、あと寸前のところで、私のスペシャルな目の入らぬところでその計画を横からかっさらわれたみたいだな……。ともかくっ! アレは私の建造しようと学習帳に描いていた、自家製のダンジョンの完成品、ほぼそのものだ!!」
またおうむ返しをした男子生徒の質問は、茶化さずに校長に詳らかに説明されていく。
そして話し合う内に、校長室に集まったブク高のブレインたちは、あの塀の向こうに聳え立つ円形校舎が本来私有するはずだった自分たちのダンジョンであり、校舎中に増えてきていた仲間モンスターたちを収容するための大きな入れ物であるのだと、おおまかに理解した。
生徒たちの暮らす既存の学校の校舎をちまちま改築していくより、外付けし明確にダンジョン性を高めた建造物を別に作る方が、いずれ様々な面で役に立つという、不黒文校長の綿密に練り上げていた判断でもあった。
そして、ある程度解消された皆の疑問は、次なる重大な疑問へと移り────
「ふむ────……いないというよりは、いなくなったが、正しい」
「いなくなった? それが帰ってきた?」
「そうだ。信じ難いが妹を迎えにといったところだろう。だが、サンチュのあ」
「どうすりゃ、ソイツのとこに行けますか校長先生」
「ん?」
「あぁー……まだ俺全然、全力じゃないんすよ。さっき朝飯食べた分、魔力が全快した分、それにサンチュの分、ぅー……はぁ……よく分かんねぇけどもっかい! まだこうして運よく生きてる分ッ、サンチュの兄ちゃんだっていう〝アイツ〟と戦って俺確かめてきます!!」
「へー、なかなか」
「ほぉ……」
ピネスからそんな前のめりな言葉と決意が出てくるとは思わず、用務員と校長は今放たれた彼の強い言葉に感嘆したような相槌を打った。
「なーに、アレはダンジョンだ。それも私のダンジョン、ならば檻に入れたも同然! いくら勝手に拝借されようが、日照権を奪われようが、その事に変わりはない。フッフ、こんなこともあろうかと用意していた私だけが知る裏技を、ちょちょいと入力すれば上までひとっ飛びだろう! つまりは、このスペシャルな校長先生に万事任せるがいい! それともちろん──可愛い生徒、一人では行かせないぞ!」
すらすらと響き流れる彼女の明朗な声が、白い風を流し込むように、室内に篭っていたどんよりとした空気を吹き飛ばす。
校長はいつも通りの笑みを浮かべる。居合わせたブク校のブレインたちの決意は、ひとつの熱意の元に固まった。
事件のあった早朝のグラウンド。そこで見たもの、気付いたこと、体験したものを、ピネスはありのまま包み隠さず校長へと報告した。
ある種、この場で殴られても仕方がないそんな覚悟をもって、校長室の机の前で彼はいつもより神妙な様子で告げたが──
「すまない、これは私のミスだ。実は知らぬ間に【タコイカの本体】を奪われた。それに」
「あたしのミスだねぇー。校内に侵入した暴漢を制圧するのが用務員の勤めだからねぇ。蔓延していた呑気が祟ったかな」
大人の女たちは次々と続きそう言い、責任は誰のものなのか分からなくなっていた。
ピネスは自分が厳しく想定していた2人の反応との落差に思わず面を食らってしまった。だが、誰が何割を分割し負うか分からない責任の所在を決めるよりも、聳え立つあの大きな大きな疑問の方を先ずは解消したかった。
「それよりッ、アレは……なんなんすか? 外に立ってるあの円柱は……?」
「アレは、円形校舎だ」
「えんけーこうしゃ?」
「昔なつかしの学校の校舎のことね。形状が円柱だから狭いところに建てるのに効率のいい校舎よ。今の時代は残っている方が珍しいけど。しゃれていると思うわ」
ピネスのおうむ返しに問うたその言葉を、校長室に居合わせていた登別海が軽く説明した。
「ぅーー、なるほど。それが……一体?」
「簡潔に言うと完成間近の計画を逆手に取られたということだ。つまりアレは……我々ブク高の私有する味方陣地のダンジョンだ」
「しゆうする……ダンジョン?? 味方陣地?」
「ごほんっ────実はピネスくんとダンジョンを攻略し始めた初期の初期の方からコツコツと、その日を夢見て推し進めていたプロジェクトなのだが……まさかこういう不名誉な形で、皆に発表することになるとはな。というのも、順調に仲間のモンスターが増えてきたからな、いずれを見越して広い牧場が必要だと思っていた。そして精を出し片っ端からモンスターたちの移住登録作業をタコイカに記入し整頓していたところ、あと寸前のところで、私のスペシャルな目の入らぬところでその計画を横からかっさらわれたみたいだな……。ともかくっ! アレは私の建造しようと学習帳に描いていた、自家製のダンジョンの完成品、ほぼそのものだ!!」
またおうむ返しをした男子生徒の質問は、茶化さずに校長に詳らかに説明されていく。
そして話し合う内に、校長室に集まったブク高のブレインたちは、あの塀の向こうに聳え立つ円形校舎が本来私有するはずだった自分たちのダンジョンであり、校舎中に増えてきていた仲間モンスターたちを収容するための大きな入れ物であるのだと、おおまかに理解した。
生徒たちの暮らす既存の学校の校舎をちまちま改築していくより、外付けし明確にダンジョン性を高めた建造物を別に作る方が、いずれ様々な面で役に立つという、不黒文校長の綿密に練り上げていた判断でもあった。
そして、ある程度解消された皆の疑問は、次なる重大な疑問へと移り────
「ふむ────……いないというよりは、いなくなったが、正しい」
「いなくなった? それが帰ってきた?」
「そうだ。信じ難いが妹を迎えにといったところだろう。だが、サンチュのあ」
「どうすりゃ、ソイツのとこに行けますか校長先生」
「ん?」
「あぁー……まだ俺全然、全力じゃないんすよ。さっき朝飯食べた分、魔力が全快した分、それにサンチュの分、ぅー……はぁ……よく分かんねぇけどもっかい! まだこうして運よく生きてる分ッ、サンチュの兄ちゃんだっていう〝アイツ〟と戦って俺確かめてきます!!」
「へー、なかなか」
「ほぉ……」
ピネスからそんな前のめりな言葉と決意が出てくるとは思わず、用務員と校長は今放たれた彼の強い言葉に感嘆したような相槌を打った。
「なーに、アレはダンジョンだ。それも私のダンジョン、ならば檻に入れたも同然! いくら勝手に拝借されようが、日照権を奪われようが、その事に変わりはない。フッフ、こんなこともあろうかと用意していた私だけが知る裏技を、ちょちょいと入力すれば上までひとっ飛びだろう! つまりは、このスペシャルな校長先生に万事任せるがいい! それともちろん──可愛い生徒、一人では行かせないぞ!」
すらすらと響き流れる彼女の明朗な声が、白い風を流し込むように、室内に篭っていたどんよりとした空気を吹き飛ばす。
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