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一方────────

AIカメラをメルヘン&ぐりーんの肉を焼く青年視点に固定し、別行動を取っていた吐い信者丘梨栄枯と仙人は。


マリアレポート❿
VCHヴィジョンカードホルダーの扱いにも少しは慣れたようだ。
選ぶ、念じる、起動。
これがバトルカードの扱い方の基本。
中でもとくに変わっているのは“念じる”つまり
【R】しょぼいお米カードを例にとってみよう。
ペーパープレートのお米か、
お茶碗に入ったお米か、
平皿に置いた炒飯か、
このようにお米カードひとつとっても想像できる選択肢は多い。
もちろん【UR】フィンガーバルカンなど位置方向を指定する必要もなくこの“念じる”行程を飛ばすこともできる念じる必要もないバトルカードも多いが、
パパッと想像力豊かな彼女はこの“念じる”行程を脳内でしっかりとプラン立て一瞬ですることが可能である。
それが彼女、丘梨栄枯の探索者としてのひとつ明確な強みと言えるな。


部屋を舞い栄枯へと収束し単純な体当たりを仕掛けたボックススライムにタイミングを合わせ迎撃。
冷静に腕を振るい宙を泳がせたブラック包丁の剣筋がオレンジ、パープル、ブルー全てのボックスを黒く染め斬った。

カードを起動。すなわち彼女のクールなプランは起動、目の前へと落とし込まれた。
前方に勢いよく散布するイエローとブラックの混じるカラフルパウダーを浴びた暗がりより接近中のグリーンウルフは悶える。
目潰しの砂かけというよりは射撃、モンスターは彼女が放ったその粉を浴びることを拒絶する。

「やああああああああ」

吐い信者はその隙を逃さない、駆けていくヒールは飛び上がり────着地。

刀身以上の切れ味。力任せにステージごと緑の獣を縦にぶった切った。

彼女自ら考案し確立した戦闘スタイルふりかけと包丁でたたかった丘梨栄枯は、少し荒げてしまった息を整えながら振り向いた。

「うむだいたいわかった」

後ろで腕を組みやがて長くたくわえた顎髭をさすりながらそして足音を立てず近づいてくる、彼女の戦い様を見ていた仙人がいる。

「何点でしょうか仙人様」
「5点じゃ」
「5点……?」
「そう5点それが今の栄枯おぬしの戦士としての評価じゃ」
「それはナンテンマンテンの?」
「ほっほっほ、それはわしにもわからん」
「……ええ、なるほど」

5点、彼女の中ではプラン通りに一打も敵からの攻撃を貰わず比較的上手くいったものの、ナンテンマンテン中かの5点。
彼女はすこし分からず顎に手をやり仙人の目を見た。

接敵したモンスターを掃除した、静寂の支配しつつあるダンジョンの一部屋で2人は向き合う。

話はそもそも彼女が何故このような事をしているのかと、発端の部分のより仔細を仙人は栄枯に興味あり気に問うた。

「わしにならい強くなりたいときいたがなんのためじゃ?」
「ええ、すこし……恐れというものを払拭したいと思い」
「恐れ? 本当はモンスターと戦うのがこわいということか」
「いえ、すみませんそうではなく。もっと上の、天の方ということでしょうか? 【チンキス】、スキルを使うとまれに何かささやき聞こえてくるのです」
「なんじゃと!? それは悪魔じゃな」
「悪魔?」
「精霊と記憶の一部を失ったわしがここに呼ばれたのもそうじゃ、きっと栄枯おぬしに渦巻くダークネスに導かれたのじゃろう。そのスキルからは闇のニオイを感じる」
「闇……それはいけないのでしょうか? ときどき念仏を唱えながらチカラをかしてくれているようですが、ええ、はなしかけても会話はできませんでした」
「ほーぉ、そのようなタイプか一方的にしゃべるだけとはなかなか上等な悪魔のようじゃの。ほーほーそれは隔絶した亜空間におり複数の傀儡を支配をしている場合もあるのぉ……。────わかったぞい念仏に聞こえるのは亜空間のふぃるたーぁを通しているからじゃな! じゃからおぬしの声がまったく届かぬのじゃ! わしの失われた記憶のカケラにもそのようなことがあった気がするぞ? 気がしてきたわい」
「なるほど亜空間のフィルターそのような……あのそれでその上級悪魔はいけな」
「そじゃった話をもどそう、闇も光も精霊も悪魔も気に入ったものについていく点は似たようなものじゃ……いけなくはないじゃが闇は光に比べてイタズラ好きでの制御する必要があるぞい、そうじゃ修行を積む必要がある。“恐れ”といったなそれは栄枯おぬしが今5点だからじゃ、本当の強さを手に入れフィルターを強固にすればその悪魔のささやきも己の支配下に置かれイタズラで与えたチカラだけを残し消えゆくことじゃろう」
「なるほど……そのようなっ」
「わしの見立てじゃと強さの芯がない素人同然じゃったおぬしはこの死のダンジョンに適応するためになんでもいいものもわるいものも吸収してしまっているのじゃ、それゆえに悪魔に気に入られその【チンキス】という珍しい闇の拘束系のスキルを手に入れたのじゃろう」
「そのようなっ! ではつまるところ!」
「うむ。ならばさっそく修行じゃ栄枯、これよりわしのスキル【幻闘げんとうシミュレーター】をつかう。そこでは亜空間に棲む上位悪魔よりも上質な無限の異電脳時間を過ごすことが可能じゃ、おぬしを悪魔のささやきもすぐに心地よい戦闘BGMになるほどに鍛えてやろう」
「げんとうシュミレーター? そのような?」
「わしは光の戦士じゃ闇を払い異世界を救ったこともある、わしのもとで修業すれば悪魔の伴奏のひとつやふたつ茶を淹れながら制御できるわい」
「悪魔の伴奏……ふふ、よろしくお願いします仙人様、ええ!!!」
「ほっほっほ、ではイクゾ幻闘シミュレーター……」


「エリアボム!」


白く爆発し導かれる。

膨大な光量に思わず彼女は目を瞑った。


おそろしい程にスムーズに理解し進んだ栄枯と仙人の会話劇、仙人の話をよく聞き深く理解し納得した彼女は迷わない。
選択肢、ワクワクのプランはひとつ。
仙人は覚悟を決めた彼女の星色の瞳を見てワラい頷いた。
若者が悪魔のささやきを恐れならばと強くなりたいと願う、それは老いた自分にとっても思いがけない燃え滾るようなインスピレーションの湧くいい展開である。


吐い信者丘梨栄枯は、仙人の発動したスキル【幻闘シミュレーター】の中へと導かれていった。






マリアレポート213
悪魔

うむ、悪魔。そのような存在がほんとうにいるのか?

人類の歴史をざっと見ていくと悪魔とは生まれ変わりの神よりも見つけやすいものだ。
人がそう決めつけ人を悪魔という、罪のない人が殺され裁かれもしただろう。
悪意のない人など存在しないからには悪魔は疑われ存在する。
とある昔ばなしにも度々悪魔として姿かたちを変え描かれる者たちがいる、
その隠された名をブライギッドの盗賊団といい、複数の創作話を都合のいいようにツギハギしていったところ彼らは悪行を重ねて死んだ人間の成れの果ての悪魔だとひそかに唱えられている。

強引だと思うか?
しかしわたしは確信している。この世界は思ったよりも悪意で満ちていてそれでいて光に満ち重力と時間の観測バランスを取っている、そのバランスとしての対価が電境世界であると。

つまるところフフ、今後何かがわかりブラックな未来歴史がふたたび紐解かれていくのはダンジョン。


死のダンジョンである。
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