22 / 75
22
しおりを挟む
現在ミジュクセカイの塔3500階。雷神風神を撃破しその後も攻略を進めていた父親パーティー。
そして、新たなステージ新たな敵。通称じゃんけんランド。
ワクワクする夢の国のようなテーマパーク。石の街道に様々なアトラクション施設。立ちはだかる数多のモンスターたちも訪れたプレイヤーを楽しませるじゃんけんランドの名物アトラクションなのだろう。
【ウォーターハンド(ぐー)】
手首から上を切り取られたかのような水の手の生物。宙に浮きその全身で敵に襲いかかる。(ぐー)
押し寄せるウォーターハンド(ぐー)の群れ。
父親はそれに対して背を見せ逃げ誘導するように。
位置取りは整い。
敵の隊列が間延びし、射線上に並んだ。
「最初はリミットメルト」
「じゃんけん……斬波爆王斬!!」
解き放たれた紅い激しいオーラ、凄まじい熱量の炎の斬撃エネルギー波が一直線に飛び無数の小爆発を起こしながら射線上に並んだ敵軍を貫いていった。
ウォーターハンド(ぐー)の群れは父親のリミットメルト技により効率良く燃やされ滅された。
「ふぅ」
「予想はしていたがきつくなって来たな」
辺りにもう敵影は存在しない。戦闘は終了し美しい刀白蜜は電子の荷へと仕舞われていった。
ドークスの弱点、味方のモンスターを切り捨てていかないと敵との戦闘力の差が開き戦いがどんどんつらくなる。能力が成長しないモンスターたちは消耗品なのだ。
ラヴあスのパーティーは5人が定員。今現在空きがない状態だ。実際に6人目を試していないから確定ではないが……。
俺父親と女神石像そして3936階で仲間になる……計算のサム、後はドークスでモンスターを更新してパーティーを組んでいくのがミジュクセカイの塔を攻略していく上で理想のスタイルと言える。
しかし、人間そう簡単には割り切れないもの、ゲームの中はゲームの外とは違う。ゲームだけど。
……いずれ別れは訪れる。悲しいけどこれはエロいゲームだ。決断を迫られる場面ももうすぐ来るかもしれない。
辺りを見回す。
パーティーの仲間、モンスターたちが父親の顔を見ている。
……割り切れないにんげんだもの!
「今日の戦闘はここまでにしよう」
その提案に頷き了解したモンスターたち。
戦闘はここまでだが、ずっと気になっていたこのステッカー。今日はこれを使ってみたいと思う。
集めた中に闘技場ステッカーやモンスターハウスなど色々あるが……。それらは今使ってもあまり意味のないと分かっているものだ。
電子の荷から取り出した三日月のマークのステッカー。
三日月のステッカー……。これを使ってみたいと思う。
父親パーティーが雷神風神を倒した後の神社本殿の中を物色し手に入れたこのステッカー。他にも珍しいアイテムがあの中には数点あった。
本来のラヴあスに存在しないはずのものがまたひとつ。
本日の戦闘はここで終了と言ったが、ステッカーの中にはモンスターと戦闘になるパターンもあるよな。
「俺はこのマークを宿屋だとにらんでいるが……」
「ラヴあス完全版たのしませてもらうっ」
石畳の床にぺたりと貼った三日月のステッカー。
辺りに壁がない場合はマナー違反ではしたないがこうする。
「足元にご注意だ」
父親パーティーは父親の元、床に貼り付けたステッカーの周辺に集まった。
「ハイッカー!」
じゃんけんランドの石畳の上からステッカーの中に吸い込まれるように一瞬にして移動し、その空間に現れた父親パーティー。
「なんだこれ……」
大きな窓から明るい陽射しが部屋に射し込み。木の温もりを感じる。その窓から見える外の景色は見たこともない草木植物が手入れされているようだ。
だれかの家なのだろうか。
辺りには色んな種類の椅子が無造作に置かれてある。
懐かしい暖かみのある部屋だがどこかおかしい。
足元には得体の知れない黒い線で描かれた魔法陣のようなマークが。
「宿屋って読みをしていたんだが、合ってる……のか?」
勝手に泊まっていい気分転換のホーム代わりのステッカーだったり?
それにしても椅子が多いな……。なんかちょっと怖い。
「いらっしゃい、あらあなたはどなたかしら」
どこから現れたのか。ふわっと人らしきモノがいつの間にか父親の視界に映っていた。
味わいのある色味の木の床をコツコツと。履いている淡くアオいヒールの足音を立てて歩み寄って来たその人物。
「俺はえっと」
現れた女性は父親とその辺りにいる仲間たちをちらりと見渡し。
「まぁいいわ」
「ワタシはモンスタートレーダーよ」
綺麗な枯れ草色の長い髪、星色の瞳に目を惹く胸元の開いた派手すぎない白いドレス。トレードマークなのか頭に被ったアオい三日月トンガリの白いつばの変わった魔女帽子。
見た目の印象は白い魔女と言ったところだろうか。
こいつは……。
「モンスタートレーダー……月のオカマか!?」
急に叫んだ彼に対し顎に手をやり少し首を傾げた白い魔女。
「月のオカマ? あら……どうしてワタシの取引先を知っているのかしら。ワタシは違うわよ」
そう……こいつは星の魔女。月と地球に変わったモンスターを下ろしている商人だとか。たしか未開地相手に好き放題している転売屋みたいなやつで……。
【ルナティックルナティッカダークサイドムーン~月の明かりは人類を照らしている。今宵も笑いながら~】
というエロいゲームに出てくるモンスター商人。地球人の田舎暮らしの育成屋が侵略してくる月の狂気と戦っていくモンスターバトルゲーム。ラヴあスとは違いモンスターが一応主軸だ……。
どうなっているんだ……。ついにラヴあス関係なくなったぞ。完全版でモンスター関連のテコ入れがこれってことか……?
わかりやすい仕草で考え込んでいる父親の顔を見てくすりと微笑っている白い魔女。
「ところでその子たちは何? かわいいわね」
彼女は父親の周りにぼーっと大人しく立っているモンスターたちに興味を持っているようだ。さり気なく目でひとつひとつを確認するように見ている。
こっちはラヴあスのモンスター……。相手はモンスタートレーダー。ぶっちゃけ女神石像を除けば大したものではないが……ここは。
父親はぐっと唾を飲み込み、彼女の不思議な星色の瞳を見据えて。
「お姉さん! このモグラ! 月のモンスターと交換してくれませんか!」
「のったわ!」
落ち着いたミステリアスな雰囲気の白い魔女は一変。
子どものように、その星色の瞳を輝かせ。
食い気味に元気な声を発して父親の提案を受け入れた。
「うれしいわさっそく交渉といきましょう」
「はいよろしくおねが」
「大事な商談立ち話をするわけにはいかないわ」
「好きな椅子に座るといいわ」
「あ、あぁそっすね!」
見渡すと、部屋のそこらじゅうに乱雑に置かれた色々な種類の変わった椅子の数々。
椅子なんて何でもいいが……。変わったのがどれに…………いや、そういうことか!
部屋に置かれた椅子たちを眺めて、ふと頷きながら何かをひらめいた様子の父親。
この椅子に決まりだ。
「じゃあこれで……」
父親は沢山あるうちの1つの椅子に堂々と座った。
彼が座ったのは石の椅子、背もたれも灰色の石で出来ておりその見た目とは反し何故か柔らかい座り心地の椅子であった。
「ふぉっ!」
予想外の座り心地に普段は発することのない声を上げてしまった。
そんな驚きを見せている間に、父親の周辺にごたごたと置かれていた椅子の美術館はいつの間にやら綺麗さっぱりと無くなっていた。
おそらくこの向かえの椅子に座った魔女の魔法により片づけられたのだろう。
「うふふ、なるほどね。じゃあさっそくワタシの子たちを紹介するわね」
白い魔女はそのトレードマークのアオい三日月トンガリの白いつばの魔女帽子をおもむろに手に取り脱ぎ。
「ババット」
そう唱えると逆さに持った帽子からマジックショーのようにナニかが吐き出されるように出てきた。
【石の蟹】
石の蟹だ。でかい、つよい、石属性の蟹。前方にも問題なく歩ける、戦闘行動に支障はない。
【石の山猫】
石の山猫だ。でかい、全身石の割にはやい、石属性の山猫。騎乗するのに向いている。
【石の板】
石の板だ。でかい、かたい。石属性の板。
「今日ワタシがトレードに出せるのはこの子たちよ」
部屋に現れた3体の精巧な石の彫刻のような見た目のモンスターたち。白い魔女の腰掛けた椅子の前のスペースで大人しく待機しているようだ。
読みは当たっていた。
そしてどうやら当たりだったようだ!
「……石のカード、こいつにします」
「あら、その子を選ぶなんて。これは親切心だけどモンスターは攻撃技がないと扱いづらいわよ」
「オーケーですかわいいので」
「うふふまぁいいわ余計なお世話だったわね」
「いえ。じゃあ、こっちはモグラを」
「そうね先にもらえるかしらその毛並気になっていたのよ」
「ハハ、はい。モグ蔵行ってこい!」
本当は最後にその毛をなでておきたいところだが。元気に送り出すのが俺のためだ。あばよ! モグ蔵元気でな。
タチモグラのモグ蔵は父親の顔を見て頷き白い魔女の元へと、てくてくと歩いて行った。
「さすーさすー、わぁふふいいわ」
「ギィーギィー」
タチモグラは白い魔女にその毛を撫でられ鳴き声を上げている。
ナニ! モグ蔵、鳴き声を出すのが早いぞ! チクショー、元気でな!
「じゃあその」
「そうね、このままこの子を引き渡したいところだけど」
シンプルな構造の木の椅子に座りながら石の板のモンスターに目をやる白い魔女。
「はい」
「あなたは得体がしれないわ」
「はい? あの?」
「知らない土地に売り飛ばしたとなると後々の処理が面倒なのよ」
ウソをつけよ、月のオカマたちに無責任に売り捌いてたろ。え、まさかコイツ俺のモグ蔵を借りパクする気か! 借りパクってなんだ。
「そうね、保証としてあと2人譲ってもらえるかしら。見たところこのモグラちゃんは石の板ちゃんには能力が劣るわ」
うぐっ、見抜かれていたか……。てかなんの保証だよ……。イヤ、それでもこれは十分おいしい。ついて来れなくなったモンスターを引き取ってくれるわけだ。むしろ俺にとっては精神的メリットしかない訳だが、ふっモンスタートレーダーお姉さん。
「わかった」
「アカアオ、お別れだな」
最後に積み木の手とそれぞれ握手を交わしお別れの挨拶をした。
積み木弓師赤と青は淡々と頷き了承し、ゆっくりとその足で白い魔女の元へと向かった。
これくらいあっさりしている方がこちらも助かるな。雇われのモンスター傭兵みたいなもんか。今までありがとうな。
「うふふ、交渉成立ね。うれしいわこの子たちセットなのね、かわいいわ」
新しい主人である白い魔女に対し跪いたアカとアオ。
え、俺のときそんなんなかったよ……? な?
「あの、ところでドークスは」
「あら、そんな古い呪文を知っているのね」
「あ、しまった!」
思わず、心の声が漏れてしまった。
ドークスなんてシステムはあっちのゲームにはない。うっかりしていた。……でも、知っているって……?
知っていてもおかしくないか色々と出張している魔女だしな……。
にしてもまさか実際に会えるとは、
「慌てなくても大丈夫よ、ワタシは呪文がなくても仲良くできるから構わないわ」
「あはは、はい」
父親は何かを取り繕うように微笑みながら返事をした。
さすがモンスタートレーダーの魔女ってことか。
とりあえずもう俺のモグ蔵とアカアオは相手さんのものだパーティーからは外しておこう。外し方は……心の中でパーティーと念じれば……出来た……。
初めてやって嘘のように出来ちまう、エロいゲームだからってことで納得しておこう。
パーティーと心で念じ視界に見えた。
モグ蔵、アカアオそれぞれと繋がっていたうっすらとしたエメラルド色の糸を切りトレードに出したモンスターたちを父親のパーティーから外すことに成功した。
「じゃあ、この子ね」
椅子に座った魔女が左手をふわっと扇ぐように動かすと。
石の板は導かれるように父親の元へと音も立てず静かに。宙に浮きながらスライド移動して来た。
敵意はない、父親は右手をかざし。
「ドークス!」
石の板は、父親のパーティーに加わった。
よっしゃー!
これはかなりの戦力UPだぜ。
よし、これ以上足元を見られないよう早くここからずらかるか。
「ワタシの子をそんなに喜んでくれてうれしいわ、ふふ」
「いや、はいハハハハ」
薄々気づいてたけど俺って交渉事向いてないな……。さすが人生フリーター。
言わずとも分かるお姉さんにボコられたのは。
帰ったらポーカーフェイスの練習しとくか。
「じゃあさっそく外でこいつを試したいので」
「そうね。また珍しいモンスターを連れて来てくれるとうれしいわ」
「がんばって捕まえてきます!」
白い魔女とのモンスターのトレードは終わり、隣で大人しく待っていた女神石像は父親と目を合わせ。
女神石像と石の板は、おもむろに席を立ち上がった父親の後について行った。
そして。
黒い線で木の床に描かれたあの魔法陣の内側。父親は空想のマナーを守り、ちゃんと出口らしき場所から退室することにした。
トレードは成功。月のモンスター、別ゲーの新たな仲間を得たが……どうなるかたのしみだ!
さて、どんな化学反応が起こるのか。さっそく戦闘で試したいな。
「女神石像、石のカードくん」
「デッカ」
「オールスリッパー」
ばたん。
(……なにが…………)
急に床へとふわりと倒れた。
異常な眠気がアタマの中を波のように押し寄せ。
思考と視界がぼんやりとしていく。
眠らないはずの女神石像は眠たい目で大きなあくびをしている。
コツコツと、その足音が耳におもく響く。
「その子がいちばんだいじな子ってわけね、ふふ」
「そんなにだいじな目でじろじろ見てたら、欲しくなっちゃうわ」
「ふふ、おやすみなさい渋いイケメンくん」
「オールスリッパー」
父親パーティーは見知らぬ三日月の家で。
深い眠りへとついた。
そして、新たなステージ新たな敵。通称じゃんけんランド。
ワクワクする夢の国のようなテーマパーク。石の街道に様々なアトラクション施設。立ちはだかる数多のモンスターたちも訪れたプレイヤーを楽しませるじゃんけんランドの名物アトラクションなのだろう。
【ウォーターハンド(ぐー)】
手首から上を切り取られたかのような水の手の生物。宙に浮きその全身で敵に襲いかかる。(ぐー)
押し寄せるウォーターハンド(ぐー)の群れ。
父親はそれに対して背を見せ逃げ誘導するように。
位置取りは整い。
敵の隊列が間延びし、射線上に並んだ。
「最初はリミットメルト」
「じゃんけん……斬波爆王斬!!」
解き放たれた紅い激しいオーラ、凄まじい熱量の炎の斬撃エネルギー波が一直線に飛び無数の小爆発を起こしながら射線上に並んだ敵軍を貫いていった。
ウォーターハンド(ぐー)の群れは父親のリミットメルト技により効率良く燃やされ滅された。
「ふぅ」
「予想はしていたがきつくなって来たな」
辺りにもう敵影は存在しない。戦闘は終了し美しい刀白蜜は電子の荷へと仕舞われていった。
ドークスの弱点、味方のモンスターを切り捨てていかないと敵との戦闘力の差が開き戦いがどんどんつらくなる。能力が成長しないモンスターたちは消耗品なのだ。
ラヴあスのパーティーは5人が定員。今現在空きがない状態だ。実際に6人目を試していないから確定ではないが……。
俺父親と女神石像そして3936階で仲間になる……計算のサム、後はドークスでモンスターを更新してパーティーを組んでいくのがミジュクセカイの塔を攻略していく上で理想のスタイルと言える。
しかし、人間そう簡単には割り切れないもの、ゲームの中はゲームの外とは違う。ゲームだけど。
……いずれ別れは訪れる。悲しいけどこれはエロいゲームだ。決断を迫られる場面ももうすぐ来るかもしれない。
辺りを見回す。
パーティーの仲間、モンスターたちが父親の顔を見ている。
……割り切れないにんげんだもの!
「今日の戦闘はここまでにしよう」
その提案に頷き了解したモンスターたち。
戦闘はここまでだが、ずっと気になっていたこのステッカー。今日はこれを使ってみたいと思う。
集めた中に闘技場ステッカーやモンスターハウスなど色々あるが……。それらは今使ってもあまり意味のないと分かっているものだ。
電子の荷から取り出した三日月のマークのステッカー。
三日月のステッカー……。これを使ってみたいと思う。
父親パーティーが雷神風神を倒した後の神社本殿の中を物色し手に入れたこのステッカー。他にも珍しいアイテムがあの中には数点あった。
本来のラヴあスに存在しないはずのものがまたひとつ。
本日の戦闘はここで終了と言ったが、ステッカーの中にはモンスターと戦闘になるパターンもあるよな。
「俺はこのマークを宿屋だとにらんでいるが……」
「ラヴあス完全版たのしませてもらうっ」
石畳の床にぺたりと貼った三日月のステッカー。
辺りに壁がない場合はマナー違反ではしたないがこうする。
「足元にご注意だ」
父親パーティーは父親の元、床に貼り付けたステッカーの周辺に集まった。
「ハイッカー!」
じゃんけんランドの石畳の上からステッカーの中に吸い込まれるように一瞬にして移動し、その空間に現れた父親パーティー。
「なんだこれ……」
大きな窓から明るい陽射しが部屋に射し込み。木の温もりを感じる。その窓から見える外の景色は見たこともない草木植物が手入れされているようだ。
だれかの家なのだろうか。
辺りには色んな種類の椅子が無造作に置かれてある。
懐かしい暖かみのある部屋だがどこかおかしい。
足元には得体の知れない黒い線で描かれた魔法陣のようなマークが。
「宿屋って読みをしていたんだが、合ってる……のか?」
勝手に泊まっていい気分転換のホーム代わりのステッカーだったり?
それにしても椅子が多いな……。なんかちょっと怖い。
「いらっしゃい、あらあなたはどなたかしら」
どこから現れたのか。ふわっと人らしきモノがいつの間にか父親の視界に映っていた。
味わいのある色味の木の床をコツコツと。履いている淡くアオいヒールの足音を立てて歩み寄って来たその人物。
「俺はえっと」
現れた女性は父親とその辺りにいる仲間たちをちらりと見渡し。
「まぁいいわ」
「ワタシはモンスタートレーダーよ」
綺麗な枯れ草色の長い髪、星色の瞳に目を惹く胸元の開いた派手すぎない白いドレス。トレードマークなのか頭に被ったアオい三日月トンガリの白いつばの変わった魔女帽子。
見た目の印象は白い魔女と言ったところだろうか。
こいつは……。
「モンスタートレーダー……月のオカマか!?」
急に叫んだ彼に対し顎に手をやり少し首を傾げた白い魔女。
「月のオカマ? あら……どうしてワタシの取引先を知っているのかしら。ワタシは違うわよ」
そう……こいつは星の魔女。月と地球に変わったモンスターを下ろしている商人だとか。たしか未開地相手に好き放題している転売屋みたいなやつで……。
【ルナティックルナティッカダークサイドムーン~月の明かりは人類を照らしている。今宵も笑いながら~】
というエロいゲームに出てくるモンスター商人。地球人の田舎暮らしの育成屋が侵略してくる月の狂気と戦っていくモンスターバトルゲーム。ラヴあスとは違いモンスターが一応主軸だ……。
どうなっているんだ……。ついにラヴあス関係なくなったぞ。完全版でモンスター関連のテコ入れがこれってことか……?
わかりやすい仕草で考え込んでいる父親の顔を見てくすりと微笑っている白い魔女。
「ところでその子たちは何? かわいいわね」
彼女は父親の周りにぼーっと大人しく立っているモンスターたちに興味を持っているようだ。さり気なく目でひとつひとつを確認するように見ている。
こっちはラヴあスのモンスター……。相手はモンスタートレーダー。ぶっちゃけ女神石像を除けば大したものではないが……ここは。
父親はぐっと唾を飲み込み、彼女の不思議な星色の瞳を見据えて。
「お姉さん! このモグラ! 月のモンスターと交換してくれませんか!」
「のったわ!」
落ち着いたミステリアスな雰囲気の白い魔女は一変。
子どものように、その星色の瞳を輝かせ。
食い気味に元気な声を発して父親の提案を受け入れた。
「うれしいわさっそく交渉といきましょう」
「はいよろしくおねが」
「大事な商談立ち話をするわけにはいかないわ」
「好きな椅子に座るといいわ」
「あ、あぁそっすね!」
見渡すと、部屋のそこらじゅうに乱雑に置かれた色々な種類の変わった椅子の数々。
椅子なんて何でもいいが……。変わったのがどれに…………いや、そういうことか!
部屋に置かれた椅子たちを眺めて、ふと頷きながら何かをひらめいた様子の父親。
この椅子に決まりだ。
「じゃあこれで……」
父親は沢山あるうちの1つの椅子に堂々と座った。
彼が座ったのは石の椅子、背もたれも灰色の石で出来ておりその見た目とは反し何故か柔らかい座り心地の椅子であった。
「ふぉっ!」
予想外の座り心地に普段は発することのない声を上げてしまった。
そんな驚きを見せている間に、父親の周辺にごたごたと置かれていた椅子の美術館はいつの間にやら綺麗さっぱりと無くなっていた。
おそらくこの向かえの椅子に座った魔女の魔法により片づけられたのだろう。
「うふふ、なるほどね。じゃあさっそくワタシの子たちを紹介するわね」
白い魔女はそのトレードマークのアオい三日月トンガリの白いつばの魔女帽子をおもむろに手に取り脱ぎ。
「ババット」
そう唱えると逆さに持った帽子からマジックショーのようにナニかが吐き出されるように出てきた。
【石の蟹】
石の蟹だ。でかい、つよい、石属性の蟹。前方にも問題なく歩ける、戦闘行動に支障はない。
【石の山猫】
石の山猫だ。でかい、全身石の割にはやい、石属性の山猫。騎乗するのに向いている。
【石の板】
石の板だ。でかい、かたい。石属性の板。
「今日ワタシがトレードに出せるのはこの子たちよ」
部屋に現れた3体の精巧な石の彫刻のような見た目のモンスターたち。白い魔女の腰掛けた椅子の前のスペースで大人しく待機しているようだ。
読みは当たっていた。
そしてどうやら当たりだったようだ!
「……石のカード、こいつにします」
「あら、その子を選ぶなんて。これは親切心だけどモンスターは攻撃技がないと扱いづらいわよ」
「オーケーですかわいいので」
「うふふまぁいいわ余計なお世話だったわね」
「いえ。じゃあ、こっちはモグラを」
「そうね先にもらえるかしらその毛並気になっていたのよ」
「ハハ、はい。モグ蔵行ってこい!」
本当は最後にその毛をなでておきたいところだが。元気に送り出すのが俺のためだ。あばよ! モグ蔵元気でな。
タチモグラのモグ蔵は父親の顔を見て頷き白い魔女の元へと、てくてくと歩いて行った。
「さすーさすー、わぁふふいいわ」
「ギィーギィー」
タチモグラは白い魔女にその毛を撫でられ鳴き声を上げている。
ナニ! モグ蔵、鳴き声を出すのが早いぞ! チクショー、元気でな!
「じゃあその」
「そうね、このままこの子を引き渡したいところだけど」
シンプルな構造の木の椅子に座りながら石の板のモンスターに目をやる白い魔女。
「はい」
「あなたは得体がしれないわ」
「はい? あの?」
「知らない土地に売り飛ばしたとなると後々の処理が面倒なのよ」
ウソをつけよ、月のオカマたちに無責任に売り捌いてたろ。え、まさかコイツ俺のモグ蔵を借りパクする気か! 借りパクってなんだ。
「そうね、保証としてあと2人譲ってもらえるかしら。見たところこのモグラちゃんは石の板ちゃんには能力が劣るわ」
うぐっ、見抜かれていたか……。てかなんの保証だよ……。イヤ、それでもこれは十分おいしい。ついて来れなくなったモンスターを引き取ってくれるわけだ。むしろ俺にとっては精神的メリットしかない訳だが、ふっモンスタートレーダーお姉さん。
「わかった」
「アカアオ、お別れだな」
最後に積み木の手とそれぞれ握手を交わしお別れの挨拶をした。
積み木弓師赤と青は淡々と頷き了承し、ゆっくりとその足で白い魔女の元へと向かった。
これくらいあっさりしている方がこちらも助かるな。雇われのモンスター傭兵みたいなもんか。今までありがとうな。
「うふふ、交渉成立ね。うれしいわこの子たちセットなのね、かわいいわ」
新しい主人である白い魔女に対し跪いたアカとアオ。
え、俺のときそんなんなかったよ……? な?
「あの、ところでドークスは」
「あら、そんな古い呪文を知っているのね」
「あ、しまった!」
思わず、心の声が漏れてしまった。
ドークスなんてシステムはあっちのゲームにはない。うっかりしていた。……でも、知っているって……?
知っていてもおかしくないか色々と出張している魔女だしな……。
にしてもまさか実際に会えるとは、
「慌てなくても大丈夫よ、ワタシは呪文がなくても仲良くできるから構わないわ」
「あはは、はい」
父親は何かを取り繕うように微笑みながら返事をした。
さすがモンスタートレーダーの魔女ってことか。
とりあえずもう俺のモグ蔵とアカアオは相手さんのものだパーティーからは外しておこう。外し方は……心の中でパーティーと念じれば……出来た……。
初めてやって嘘のように出来ちまう、エロいゲームだからってことで納得しておこう。
パーティーと心で念じ視界に見えた。
モグ蔵、アカアオそれぞれと繋がっていたうっすらとしたエメラルド色の糸を切りトレードに出したモンスターたちを父親のパーティーから外すことに成功した。
「じゃあ、この子ね」
椅子に座った魔女が左手をふわっと扇ぐように動かすと。
石の板は導かれるように父親の元へと音も立てず静かに。宙に浮きながらスライド移動して来た。
敵意はない、父親は右手をかざし。
「ドークス!」
石の板は、父親のパーティーに加わった。
よっしゃー!
これはかなりの戦力UPだぜ。
よし、これ以上足元を見られないよう早くここからずらかるか。
「ワタシの子をそんなに喜んでくれてうれしいわ、ふふ」
「いや、はいハハハハ」
薄々気づいてたけど俺って交渉事向いてないな……。さすが人生フリーター。
言わずとも分かるお姉さんにボコられたのは。
帰ったらポーカーフェイスの練習しとくか。
「じゃあさっそく外でこいつを試したいので」
「そうね。また珍しいモンスターを連れて来てくれるとうれしいわ」
「がんばって捕まえてきます!」
白い魔女とのモンスターのトレードは終わり、隣で大人しく待っていた女神石像は父親と目を合わせ。
女神石像と石の板は、おもむろに席を立ち上がった父親の後について行った。
そして。
黒い線で木の床に描かれたあの魔法陣の内側。父親は空想のマナーを守り、ちゃんと出口らしき場所から退室することにした。
トレードは成功。月のモンスター、別ゲーの新たな仲間を得たが……どうなるかたのしみだ!
さて、どんな化学反応が起こるのか。さっそく戦闘で試したいな。
「女神石像、石のカードくん」
「デッカ」
「オールスリッパー」
ばたん。
(……なにが…………)
急に床へとふわりと倒れた。
異常な眠気がアタマの中を波のように押し寄せ。
思考と視界がぼんやりとしていく。
眠らないはずの女神石像は眠たい目で大きなあくびをしている。
コツコツと、その足音が耳におもく響く。
「その子がいちばんだいじな子ってわけね、ふふ」
「そんなにだいじな目でじろじろ見てたら、欲しくなっちゃうわ」
「ふふ、おやすみなさい渋いイケメンくん」
「オールスリッパー」
父親パーティーは見知らぬ三日月の家で。
深い眠りへとついた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
88
1 / 3
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる