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28④

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燦々と照りつける太陽、その陽射し。

肌を灼くその炎の下。

大観衆が見守る中、この青春のグラウンドで絶対に負けられないたたかいは始まった。


「手は抜かないよミレー!!」

迫り来る臙脂えんじ色のブルマを履いた、黒いショートカット。
敵の構える鍋の蓋を殴りたくる勢いで向かう。

「おい本気出すなよバカ! 子春手は抜け!」

「ええなんで!?」

子春は美玲とぶつかる直前で青いオーラを纏った右の拳をふにゃりとすかした。

「なんでも! クラスメイトが下手すりゃしぬぞ! てか俺が死ぬだろ!」

「でも本気出さないとこの学園の人たちつよいよミレー?」

「はいはいお前が一番つよいから抑えろバカ!」

「そんなことないってええ武術部の人とか! 女子相撲部もわたしより強いし!」

「なんだよその部は! どっかで聞いたな……いいからヤメロ! 絶対力を使うな子春!」

「ええええ! やだよおお」

「子春ちゃんごめんなさい」

ざんっ。っとクール美少女の木刀は駄々をこねていた黒髪ショートカットの背を斬った。

『有効』『虎白子春、討死』

「っし、さすが令月さん」

「たたた……ええええかほりちゃん!?」

「ごめんなさいB組の熱意に応えたい、ノッ!!」

髪を後ろにまとめた令月かほりは、わざと隙を見せまんまと足音を立て近寄って来た敵の男子を振り返り斬り仕留めた。

「熱い令月さんは珍しいな! 子春まじでたのむから問題だけは起こすなよフツウに大人しくな。……よし、D組来やがれ!」

「後衛上がりなさい、一気呵成でしてよ!!」

令月と可黒を中心に敵陣を攻め立てる。1年B組宴陣祭えんじんまつりの初戦は子春を失いバランスが崩れ守るD組の両陣がぶつかり合い砂塵を上げながら激しさを増していく。


「──なんかミレーも熱くない?」








「ワントップはうちのエース令月かほり、ここまでよくやってくれたわ」

「中衛の要は可黒美玲あなたよ」

「3戦目は狙い通り引き分けターンオーバーも成功でして最高のコンディションよ!」

うたげリーグ2戦2勝この必勝の陣で上級生だろうがやってやりますわ」


1年B組 宴陣トーナメント準決勝・陣

▼前衛 令月かほり(刀)

▽中衛1 可黒美玲(盾) 真田不礼(刀)

▽中衛2 笠木早夕里(薙刀) 那由多宗魔(薙刀)

▼後衛 川中島薫(薙刀) 弥生文子(薙刀) 墓場近史(薙刀) 豊川ういんど(薙刀) 仁川ぼると(薙刀)

▽指揮官 別所透蘭べっしょトーラ(ブーメ)

▽担任 多空たからひかり



「それで……委員長なんでまた鍋を」

『別所透蘭様ポニテver.完売!!!! なな、なんと全ショット完売です!!!! さすがお嬢さ──』

「これでワタクシ夏風邪も乗り切れましてよ! あなたのおかげでフル出場よ可黒美玲」

髪をかきあげ自慢のちくわを食す金髪ドリルのポニーテールが美しいお嬢様。どうやら学習したようで、ふーふーとその麗しい唇でちくわを冷まし火傷をしないように気をつけていらっしゃる。かしゃりかしゃり、謎の音が響く。

可黒美玲の自宅でやったあの時の例の鍋がクラスメイト分、赤と琥珀のベースの味に分け大鍋2つ。この炎天下、豪華な天幕の下で作戦会議と同時に結束ちくわ鍋パーティーが行われていた。

「いや意味が……たたかう前からみんな汗だくですよ!」

鍋を取り囲んだ1年B組、クラスメイトはぴったりと体操着をその汗で肌に張り付けるほど球の汗を流しその鍋に夢中のようだ。
別所透蘭を怒らせまいと献身的に食し空気を読んでいる者もいるようだ。

「甘いわね可黒美玲、ちゃんと冷やした甘いケーキもありまして!」

「くるみ味? おいしい……!」

クールなそのかわいい声が響く。少しいつもよりテンションが上がっている。戦いの後の甘いモノの効果だろう。

『──チッ、月のようなその美貌仄かにチラつくその雄を惑わすエロス、令月かほり全ショット完売……!!』

「さすが令月かほり、あなたのそのセンス認めざるをえないわね! この夏発売予定、べっしょ水産の新製品のくるみクリームのちくわ風ロールケーキでして! くるみがごろごろのお値段は大ボリュームの1本930円よ!」

「え、うそこの味で……安い」

汗ばんだ令月かほりがフォークでそのお皿に乗ったロールケーキをぱくぱくと食していくと。かしゃりかしゃり、どこからかまたシャッター音が鳴り響く。

「あの……さっきからうるさいこれは何ですか委員長……」

『多空先生・網タイツver.完売。多空先生・黒タイツver.完売──』

「ブロマイドでしてよ、宴ステージ突破商機は逃しませんわ」

「はぁ……」

『可黒美玲ちゃん完売!!』

「は!?」

『みなさまご安心を、可黒美玲ちゃんノーマルver.はまだまだ売れ残っております!! お鍋の戦士可黒美玲ちゃん予想外の人気です! 灼熱のちくわ美少年・可黒美玲ちゃんポニテver.はもう在庫がございません申し訳ございませんこちら可黒美玲ちゃんノーマルver.今なら3割引き更におまけのべっしょ水産のちく────』

「勝手に人を割り引くなよ……」

「ミレーー3割引だよ! すごいね!」

「たぶんすごくねぇよ」

『可黒美玲ちゃんノーマルver.完売!! 奥様がた、取り合わないで下さい! まだまだあります可黒美玲ちゃん独りコーヒータイムver.こちらはべっしょ水産新製品のくる──』

ちくわ鍋とくるみクリームのロールケーキを味わう1年B組の戦士たち。はじまった宴陣祭そして宴リーグを突破し進出した宴陣トーナメント、4組の強豪が出揃い次の試合に勝てば決勝戦。子春を擁する1年D組と2年生チームを破り番狂わせを起こした薙刀部隊戦法、エースの令月かほりと人気急上昇中お鍋の戦士可黒美玲の別所透蘭率いる1年B組フィーバーはつづくのか!?






「さぁ行け! Cランク!」

「後退は許さん!」

「自分の手で全てを成し遂げてみろ!」

「これまでの鍛錬を思い返せ! 相手は1年生、1人11殺がノルマだ! かかれッ!」

青い髪の指揮官の命令で突撃してきた3年A組の10人の前衛戦士。
並々ならぬ圧がB組の陣へと迫る。

「戦術もなにもないわね!」

「っですね! ……でもこの競技って結局これが一番つよいんじゃ?」

「可黒美玲行きなさい!」

「え」

「囮として必要な犠牲よ」

「ええ、なんで……」

「あなたはひとり、指揮官の采配に歯向かう愚か者だったのかしら?」

ぎろり、とその鋭いパープルの瞳に睨まれると副委員長可黒美玲は決して逆らうことはできない。

もしかして怒らせた……? はぁ、

「ッ……来い、先輩がた!」








「どけええ我々は勝たねばならんのだよ!」

「知らないです、よッ!」

「霞様の支配下Aランク昇格のためにいい!」

「なんですよっと、それッ!!」

囮役を言い渡された可黒美玲はこなれてきた盾捌きで3人のCランカーたちの剣撃をなんとかいなし続ける。
寄ってたかる圧に苦笑いを浮かべつつ。


「平和ボケの1年生風情が!!」
「私たちの邪魔をしないで!!」
「このお鍋野郎!!」


散々な悪言を吐く上級生、これはフツウじゃないと美玲は鍋持つ手にチカラを込めてお相手していく。

「いい加減意味不明なァ! うわっと!」
「クラス内のイジメならっ、俺が校長先生に報告しときますよ!」


「「「イジメではない愛だ! 不甲斐ないのは環境ではなく己の身だと思え! 鍛錬!!!」」」


「こわいってェ!!」


「成したわ、すべて読み通りよ薙刀部隊前線を押し上げながら囲み込みなさい!」








3年A組の10人のCランカーたちは取り囲まれた薙刀に斬り刻まれ全滅した。
しかし死にものぐるいの狂戦士たちはその練度の差を見せ1人11殺の勢いで薙刀部隊を斬り捨てただでは討死はしない道連れの意地を見せた。

そして。

刀と刀が勢いをつけてぶつかり合う。
両陣の衝突で巻き上がった砂塵に紛れ敵指揮官に奇襲を仕掛けた令月かほり。別所透蘭の命を受け1人指揮官の首を秘かに取りに行ったのであった。

青髪の女を襲った黒髪1年の容赦のない一太刀。

「──ほォなかなかやるな!」

「上から目線!」

「上だからな!」

「初対面ですけど!」

「世の中才能だけでは勝てない! っということだ初めましてAランク1年生!」

「ぁぐっ!」

木刀の鍔迫り合いを制した敵指揮官、蒼月霞は隙を見せた令月かほりの腹を蹴り上げた。
その攻撃に一切の容赦はなく1年生クール系美少女の顔が苦痛で歪む。

「どきなさい令月かほり! Sブーメ!!」

美しい所作から投げ放たれた。
宙を蛇行しながら迫る鉄のブーメ、当たると絶対にただでは済まないそのレギュレーション違反になりかねない最新のブーメ。
読めない軌道を描きながら蒼月に襲いかかった。

「なに!? このような武器は!」

寸前で身体を横に逸らし回転するブーメを木刀で弾き軌道を変え避けてみせた。

「はぁああ! あなた本気で蹴るなんて痛いじゃない!!」

令月がその間に体勢を立て直し蒼月に猛スピードで走り斬りかかった。
ふたたび、鍔迫り合う美しい両者。
戦場にアツく高まり合っていく。

「お前の鍛錬が足りてないだけだ」

「うるさい!」

「おまえがうるさい!」

「低レベル!」

「私はSランクだ!」

「意味分かんない!」

「その境地まで達していないだけだ!」

「とりあえずっ一発蹴らせなさい!」

「蹴らせない!」

「馬鹿!」

「馬鹿じゃない!」
「馬鹿にするなァァ!」

またしても鍔迫り合いに押し勝った蒼月は木刀を横に払った。
その剛腕の威力が令月を木刀の上から後方へと吹き飛ばした。

「甘いですわ! その体勢いただき!」

鉄のブーメは生命を得たかのように再び蒼月を襲った。
その背から胴を裂くような軌道で。
指揮官のお嬢様の思惑通りに狙い撃ち。

「こんなものはァ!」

身をかがめ脇から後ろへと勢い良く突き出した木刀が回転しながら襲い来るブーメのド真ん中を貫いた。
鉄のブーメはその回転力を失い空へと舞い上がりやがて堕ちてグラウンドにザクっと突き刺さった。
別所透蘭の隙を突いた鉄のブーメ攻撃は蒼月の素晴らしい刀捌きにより完全に無力化された。

「なんですって!?」

「飛び道具とは卑怯だぞ1年!!」

「戦いに卑怯なんてありませんわ」

「あ、る!」

「ありませんわ!」

「ある!!」

「お馬鹿でして?」

「ちがう!」

異次元のスピードで迫って来た蒼月霞は、メインウェポンを失った別所透蘭に手加減なしの剣速で斬りかかった。
はっ、と驚く別所透蘭の瞳に刃がもうそこまで迫っている。

ぱーんっ。

グラウンドに響き渡るその鈍く少し間抜けな音。

「ナニやってんのあぶねぇ! 美少女たちがガチになんなよ!」

突如現れた、お鍋の戦士可黒美玲。
激戦を生き抜き指揮官の別所透蘭に迫った凶刃を防いでみせた。

「び、びしょ! 貴様!? あ、サンドイッチの!」

「はい?」

「……軟弱Eランク男め許さん!」

「ちょ! タンマこっち盾だけ!」

「盾術も立派な武術だ! 受けてみろ!」

蒼月の連撃が鍋の蓋をばしばしとしばいていく。

「ちがうちがうそんなの習ってないから! ただのリサイクルショップの」

「ウソをつけ!」

「ウソじゃないですクール系美少女先輩!」

「た、戦いの際中にふざけるなぁ!!」

「むしろそっちが! 3年生なら模範的な生活態度を頼みますよ! 日々フツウを!」

「馬鹿にするなァ!」

「ええ!? してないしてない!」

「シてる!」

「してないですって!」

別所透蘭を背にし守りながら可黒美玲は蒼月の猛攻を耐え凌いだ。

「はぁはぁ……チッ、くっ! なぜ鍋の蓋がそんなにもつ! ……なら!」

上段にがっしりと握り構えた木刀。
その澄んだ青い瞳はターゲットを見据える。
何故か並じゃないオーラを彼女から感じ取れる。

「軟弱1年受け取れこれがSランクの鍛錬だ! 魔青斬ましょうざん!!」

青い斬撃エネルギーが可黒美玲に向けて放たれた。
青い三日月状の刃が迫る。
ただ事ではないその事態、放たれた技に対して可黒美玲は震えるその手でお鍋の蓋の取手を握り身を守るしかなかった。

「うおおおお」「きゃああああ」








1年B組は健闘むなしく宴陣トーナメント準決勝で3年A組に敗退した。
他より一層豪華な天幕の下に集まった1年B組。激戦に敗れ疲弊したクラスメイトたち、少し悲しげなムードが漂う中。

「いてててぇ……」

「可黒くん、保健室いく?」

「いや行かねえ4階だし」

「そうね……」

「ミレーざんねんだったね」

「あぁ」
「この学園にあんな強いやつがいるとは……な」

「だから言ったよミレー本気出さないと!」

「あぁ、そうだな……俺の間違いだった……」

「よくやりましてよ。1年B組」

「あぁ」「うん……」「そうだよ! 帰りにみんなでアイス食べようよ!」


敗北、その悔しさをバネにまた成長していく宴陣学園の生徒たち。来年の宴陣祭はもっと輝かしい汗と熱い砂まみれの青春ドラマがあることだろう──。








宴陣祭は先生チームAの優勝で終わり、熱気は落ち着きいつもの日常がまたつづいている。

ある日の可黒邸にて。
ダンシングアイドル戦記2のディスクは黒い据え置き機に挿入されゲームは起動した。
騒音対策でカーペットの上に敷かれた一枚の大きな操作マット。3人プレイ用のその大きな、足で操作するコントローラー。
普通の手持ちコントローラーでも不自由なく操作は出来るが、やはり身体を動かしステップを踏むこちらでしか味わえない醍醐味も多いだろう。


『NEW IDOL!!』

突如、大きなテレビモニターに現れた2人の女性的なシルエット。

「え、なんだこいつら!?」

「なんかアイドルっぽくないかも、でもキラキラ」

「私も好きだよ! えい!」

子春がステップを前に踏んだ。

「ちょ待て! おい、俺の咲を勝手に解雇するな!」

「え、でもこのひとたちセットみたいだし?」

「完璧に育て上げた俺の咲が……てかお前も初期選択キャラの由妃ゆきちゃんが1番って言ってたんじゃ……俺から奪っておいて」

「うーん、なんか飽きちゃったもん!」

「ええ……非情だな……」


『遠い星のミエル────』








「なんだよこの曲ノれなくてむずいぞ!」
「ライフがもう」
「うーんハチミツ……宇宙?」

「おい、私の居ない間にへたくそめ」

トイレから出てきたそのお方。
学生たちの遊びの日に何故か非番で可黒邸に来ていた。
偉そうに居座っている。

「こんなものちゃんと歌詞とメロディーを解釈すればできる」

「なんですかその本格は……」

「遠い星のミエル、ワタシほしの少女、出会い、わっかれ、くりかえしてーまた会える……またあえるからー。ちゃんと動きは歌詞とリンクしている。よく見ればほとんど星形のステップを崩したアレンジ進行だ、サビは意外とゆっくりでAメロはテンポアップするからそれを踏まえよく音を聴いてリズムにノって踏めば簡単だ。出陣料理は甘いモノかまりょく回復アイテムにしろ」

失敗時と成功時に一度だけ流せるリプレイ映像機能を使いケイコ警部は指摘した。

「いや突然え、なに……?」

『遠い星のミエル────』








ケイコの本格的なアドバイスのおかげか、なんとか遠い星のミエルをクリアした1P五十嵐、2Pクゥミ、3Pミィカのユニット。

LIVE成功のご褒美の能力を振り分け装備アイテムを更新し景色は変わり。サイコロで双六マップの歩を進めアイドルたちの個人イベントとモンスターとの戦闘をこなして行く。

「砂漠か! なら曲はサハラpossibleだ! 今書き起こす! ちゃんと歌詞を解釈するんだ、かほり」

「は、はい」

ローテーブルに置いたコピー用紙にペンを走らせその歌詞をすらすらと書き起こしていく。
やたらとやる気に満ちている本日のケイコ警部。

「この姉妹は遠い故郷の星へ帰るためにお金を稼いでいるんだからな、絶対にもう失敗はするなよ。見限られて居なくなるぞ。このルートは強運の豪運の3人マルチプレイでしか出現しないという情報だ、絶対逃すなよ」

「なんだよその設定……ファンの金でとんずらなんてアイドルじゃないだろ勝手に飲食チェーン店でも経営して帰ればよくないか、それにちょっと年齢不詳な感が俺の趣味じゃないなぁ。あと帽子脱いでほしいこいつらのせいでここまでリーダーで引っ張ってくれた五十嵐様が浮いてるしユニットのバラン」

「向こうもお前は趣味じゃないぞ」

「ナッ!? これはゲー」

「ゲームでも安易に馬鹿にするなアイドルにはそれぞれファンがいるんだ」

「は……はい」

本気で怒られてしまった美玲、彼女の表情は笑っていない本気だ。
安易に馬鹿にするものではないと身に染みて分かってしまった美玲。

突如、軽快なアイドルソングの着信音が鳴り響く。
黒い携帯電話をおもむろに耳に当て。

「はい」

『────』

「どうもありがとうございます。ええ、今後とも──」

ぱちんと折り畳まれ閉じられた。

「よし、どうせ私が行っても仕方ない。ヤるぞかほり。いいか、この曲はお茶目さ全開でだな、よし手の動きも加えて──」

「まじかよ刑事さん? てか令月さんあんまり耳かさなくていいよ、自分のプレイを」

なぜかケイコ警部にロックオンされた令月かほり、弟の友達との遊びにしゃしゃり出て来る姉のようなモノが後ろから踊りと歌の指導をおこなっている。

「えと……」

『だからあなたはいつまで経ってもろくなまりょくがないのよミィカ』

『まりょくだけあっても扱い方と属性がお粗末ですと……お姉様』

『いつものおちこぼれの負け惜しみね』

『おちこぼれの負け惜しみとはなんでしょう? ワタシ全属性でして』

『あら、全ぞくせいが中途半端ってことね』

『ふふ、お姉様は何属性扱えるのかしら?』

『どうしてそうひねくれてしまったのかしら? ふふ、きっとワタシがいじめすぎたのね』

『ひねくれるとはなんでしょう? ワタシ全属性でしてよ』

『ふふ、よっぽど全ぞくせいが好きなようね』

『お姉様もご無理をしないでください』

『ありがとう。でもあなたのその背伸びのほうが姉として心配だわ』

『お姉様心配などいりません、外では全属性がこれほど価値のあるものなんですね、ふふ』

『うふふ、その大好きな全ぞくせいのためにそのだらしないまりょくを増やすことね』

『だらしないまりょく? まりょく回復アイテムをご存知ないのですかお姉様?』

『ふふ、せいぜい道端で吐かないことね。それに魔法いりょくもしょぼいじゃない』

『吐きませんが? お姉様。魔法いりょくもお姉様より活躍の幅がありますが?』

『幅ぁ? フフ』

『全属性』

『全属性ばかね』

『イチ属性のばかは?』

『あの……だな、ユニットとして』


『イガラシは黙ってなさい』

『イガラシ、行きましょう。お姉様はお怒りのようです』

『待ちなさいイガラシ。ワタシと来なさい。おいしいブレンド茶があるから淹れなさい』

『お姉様イガラシはまりょくがお姉様ほど高くないのです。淹れるお茶もお姉様のお口には合わないかと、行きましょうイガラシ。めろんサボテンサイダーかっぷるジュースですっておいしそうよ』

『いやあの……』

『待ちなさいイガラ────』

やたらめったらしゃべる魔女姉妹のイベントマスに唖然。
イガラシ様がこいつらにイジメられている……。

「やっぱりこいつら解雇で」

「やはりアイドルはぶつかり合ってこそだ、紅茶を淹れろイガラシ、美玲」

「いいですけどその姉妹どっちか解雇しといてくださいね」

「それはできんイガラシ」

「イガラシミレー! わたしもカフェオレ! 牛乳で!」

「私はココアかな……イガラシ……牛乳で」

「令月さんまで……俺の五十嵐様がストレスで死ぬ前に解雇してくださいね! 五十嵐様は絶対的な王様なんですから!」

美玲は現在の推しである五十嵐様のため必死のクゥミミィカ姉妹の解雇を訴え操作マットを明け渡しリビングから台所へと向かった。

「はははそれはでき~んイガラシ美玲」








時刻は午後6時ちょうどになり。

「よし、タイムだ。リモコンをかせ美玲」

「え消さないでくださいよ?」

「ちゃんとタイムしている、かせ」

美玲は言われた通りにテレビの黒いリモコンをケイコ警部に手渡した。

『──8歳の男の子が誤って11階のベランダから──ピッ──』

「ちゃんと報道されているようだな」
「なら大丈夫だ」

「えいや転落事故じゃ?」

「どんな形であれ死ぬときはしぬもんだ事故は仕方がない、気の毒だがイチイチ気にするな。マァそれに死んだ後のほうが私の仕事なんだろう」

「霊媒師K……」

「ん、かほりなんだそれは?」

「……」

「この前のさんかく公園のことだよ! ね、かほりちゃん」

子春は唇に人差し指をあて、かほりを見て白い歯の元気な表情を見せる。
ケイコの中で何かが照らし合わされていく、もはやハッキリと分かり。

「ほぉ、そうか」

ケイコ警部は突然しゃべらなくなったその男をうっすらと微笑みながら睨み。

「よしつづきだかほり、子春! 美玲、お前はアイドルを分かっていない解雇だ。カレーの辛口ルーとピーマンがまだあったぞ飯を作れイガラシ! 青椒肉絲でもいいぞ、牛豚は問わんそれぞれの良さがある」

「何様だよ……てか勝手にひとんち!」

「いくぞ! かほり、子春!」

「「「サっハーラハ~ラハラ、possible! impossible?」」」

「「「いぇい!」」」

「もうメロディーがカレーだろこれ、知らないけど!」

『サっハーラハ~サっハーラハ~ラハラ、はら? ────』
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