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16話 青春のグランド

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「話は平山から私の耳にも届いている。本題だがキミたちは、【きハル】のプラロボ制作をやっている様子がないが────忘れているわけではないな」

第11回アオきハルのプラロボコンテスト、略して【きハル】。
校長は中央作業台に置かれたままでいたおおきな箱を見ながらそう学生2人に向けて問うた。

「あーそれに関しては……この初代原点グランド」
「ふむ、私が一度来た時も進んではいなかったな新品のままにみえる」
「わたしが全話みてからって言ったから」

「ほやぁ?」「ん」

「…………」「おい黙るな、目配せするな、そこはつづけろ……」

ソファーから勢いよく立ち上がり発言したはいいものの、海魅の青い目は部長を見つめつづきをお願いとウィンクで促した。

「……水の星のグランドを全話視聴してからこの伝説のマイトパイロットの【グランド】を作りたかったらしい、この彼女、女子部員は。で部長の俺もそのビギナーのこだわりに大賛成ってわけです!」
「です。うん」

女子部員の代わりに部長は熱弁する、部員の彼女もうんうんと頷き彼の語った内容に同調した。

熱いこれを受けて拍手をし立ち上がる者と、

「ほおぉぉ! ちぱちぱちぱにっぱぱぱーー。なーにそえええプラロボ女子ちゃんまじ感動じゃん! ないないっ。いや、のいのいっ!」

「全話視聴して何が変わるという? プラロボを組み立てるだけだぞ?」

依然ソファーで脚を組んだまま、サンドカラースーツの男は渋い表情を深め平然と真反対のことを言ってのける。

しばらくあっけからんという表情でこの場の皆は校長を見つめ、

「のいのおおおおおおい!!! いやないない……校長ないないっ」
「ええええ……」
「っ…………」

校長は元気に騒ぐ赤髪メガネを離れた手のひらで制して、

「私はプラロボ部の学生たちに聞いている、プラロボコンテストで全話視聴したかまでは審査はされない、この工程の何がどう作品に活かされるというのだ?」

浦島銀河と佐伯海魅、プラロボ部に属する2人の学生たちに再び問うていた。

「んー……どういかされるの、ぶちょー?」

「おい……全話視聴したビギナー本人がバッチリ投げ出してどうする……」

女子部員は答えない……託されたのはやはり部長。シラガの部長を鋭く見つめる校長の瞳に、意を持って。

「お言葉ですけど全話視聴した今だからこそ伝えられるものもありますよ校長、このプラロボ部フタリの脳のフィルターを介してッ、プラロボを介してッ、まぁみててくださいこの90分の1伝説のグランドロボット、【グランド】でバッチリ優勝もぎとってやりますよ!!!」

部室内に響く、腹の底から流れ出てきた青年の声。

「チパチパチパツインニッパーーーー!!! くぃーーーーーー弟さんまさかの大きく出たねぇ」
「おおぉ優勝……おおきくですぎじゃない? くぃ」

元気な拍手に釣られてゆっくりと拍手の音が流れる。2人分の拍手。

「大きく出るのはいいが優勝ではなく最優秀プラロボ賞だ」

シラガ部長はじっと校長に指差す。
それは人によっては失礼にも捉えられる。
だが校長が指摘したのはさっきの話内容の方であった。

「あはははは……そ、そうでした! すみません校長また言葉のセレクトを間違えました!」

笑って取り繕うようにかきむしるシラガに女子たちの拍手は鳴り止んだ。

「え、ドヤったのになんも知らないんじゃん……」
「ドヤって大地に立ってたねぇ。カナカミ通信生も今のはないないってね」

「謝れるだけ……では期待しておこう全話視聴の成果とやらを」

かるく蔑む女子たちと、交差させていた二脚を大地にしっかりと立て直し腰を上げた校長。

青年の熱意に当てられたのか期待という肯定の意の言葉を込めて渋い声にて返された。

やがてすぐに学生たちのいい返事が4人ではせまいプラロボ部の部室に響いていった。






「とりあえず明日にしようぜ……」

「うん、でも優勝とか無理じゃない?」

「いやいやアッレっは! 意気込みというか……だろ? あと最優秀プラロボ賞だ(クールに渋く校長っぽく)」

「ふーん校長だましたんだ」

「人聞きの悪い……校長も男パイロット同士最終回のマイトとハークみたいに分かってくれてるって、あの人もプラロボとグランドに詳しいみたいだし。いやー今までなんか怖いと思ってたけど校長はいいひといいひと。たぶん」


「ふーん」


少し前に2人の大人のゲストは部室を去っていった。
部室に残った2人はそれぞれの重さの肩の荷を下ろし、ゆるりと余韻に先程のプラロボコンテスト優勝宣言のことを話題に話し合っていた。

実際のところ最優秀プラロボ賞を手にするのは並大抵のことではない、ハードなことであるとやんわり銀河はビギナーの海魅に告げ、

「あ、おまえそういやさっきのでとうとう水の星のグランド! 全話見たってわけだけどどうだった?」


「んー、マイトの勝ち」


「おい。感想それだけって難敵の校長とメイさんとやり合ってた俺が馬鹿みたいじゃないか……。あとゼンブ代弁させやがって俺はおまえの保護者か!」

「ぶちょーでしょ、バッチリしてよね」

「カナカミ通信生に言われたらうれしいんだけどな……」

「にひひ、カラメルバッチリ」

「それは、いらん」


時刻は午後6時を過ぎ、女子部員の放ったカラメルバッチリな正拳突きには苦笑をお返しした。



▽▽▽
▽▽▽



「余計なことは極力やめてくれ」

「のいのいなっにが校長?」

「浦島銀河のことだ」

「と言われても弟さんはワタシの太客だっからねー、ワタシという女子に貢いだ金額は相当だい。ないないっ」

「あまりに度が過ぎるとあのわけのわからない店をカモコウ近場から撤去させるぞ」

「え、こわっ!? やめてやめてプラロボお姉さんの老後のおたのしみを奪うとか、ないないっ。ってそんな事無理なんだからね小市民はしぶといよぉ」

「なら彼のおたのしみを奪うこともやめておくんだな、ろくでもないヤツは死にこの世界に存在しないマジックにすぎん」

「あの梯子があるじゃん」

「あんなものはもう10年は出ていない無駄に期待するのはやめろ、青春に囚われているとまた歳を取るぞ平山」

「ててててて、鉄くんには言われたかぁなぁい! 見た目渋すぎんよ! その見た目で校長は無理よ! いやバッチリ校長だわ、のいのい」

「相変わらずさわがしい、不審者は通報されないうちにかえれ」

「しゃーないぃ、今日は良い感じに育ったプラロボ好きの後輩たちと水の星のグランド最終話ぁぁぁなアオハルも見れたしだれかさんの校長らしい姿もみっれたことだしこのへんでドロンのいのいっ!」



おなじ青春をとうに消化した2人には沈みゆく夕日がよく似合う。
なつかしの部室棟からはなれ人影のすくないグラウンドをゆき、昔をすこし語らい別れていった。
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