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【3】ずっと一緒にいたいから / ドールバース
しおりを挟む「あっちぃぃ!!」
トラックを走っていた希瀬が、汗をぬぐいながら僕の隣までやってきた。
「タイムまたあがったね」
「おー、サンキュ。つーか、碧生暑くねーの?」
差し出されたストップウォッチを素通りして、希瀬は僕の身体を上から下までじっくりと見た。
「暑いよ」
「嘘だー。全然汗かいてないじゃん」
本当に、暑いと思う。希瀬の視線が向けられた部分の温度が、ぐんぐん上がっていく気がするから。
「うーん……汗をかかないのは、体質みたい」
「熱中症になんねぇよーに、気ぃつけろよ」
ポンと肩を叩いて、希瀬はスタート位置に戻っていく。触れられた部分がジクジクと熱く疼いた。
ああ、この感覚は……
……きっとこの後、希瀬が触れた部分にヒビが入るのだろう。
希瀬に触れられた喜びと、自分の脆さに対する苛立ちを抱えながら、僕は曖昧な笑みを浮かべた。
僕は人形で、希瀬は主人。
僕は、希瀬に与えられたおもちゃだった。子供のころ、僕たちはずっと一緒に遊んでた。希瀬はそのときのことを覚えてないみたい。
成長するにつれて一緒の時間が減って、そのうち僕は忘れられた。それが悲しくて、僕はヒトになりたいと願いつづけた。その願いは、流れ星の夜に叶った。
そして、ようやく手に入れた親友の座。本当は、恋人になれたら嬉しいんだけど……
希瀬との距離が近づくたびに、身体に小さなヒビが増えていく。長袖のジャージで隠した腕は、もうボロボロだ。
この夏いっぱい、僕は希瀬の側に居れるかな。
記憶がないまま結ばれたら、僕は壊れ続けてガラクタに戻ってしまう。でも、希瀬が思い出してくれたら、ずっと側に居られる。崩れた僕を直せるのは、希瀬の記憶だけなんだ。
────ねぇ、希瀬。大好きだよ。
どうかお願い、僕に気づいて。そして、二度と僕を忘れないで。
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