【BL】眠りたくない夜には嘘を織り交ぜて

一月ににか

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過去篇

ぼくらは恋を自覚する(仮)2

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「えっ……、あの」
「どうしてインターフォンを鳴らさないんだ!」

 扉を開けると、すぐそばに昴が座り込んでいた。
 体を小さく丸めた姿は、まるで自分の居場所なんてどこにもないと言っているようで胸が痛い。
 慶太は裸足のまま玄関を飛び出し、すぐさま昴の腕を掴み立ち上がらせた。

「さと……」
 もう夜になろうとしてるが、残暑はまだ厳しい。
 昴の反応が鈍い気がして、慶太はただでさえ険しい表情をもっと険しくさせた。

「お前、いつからそこにいた?」
「……ちょっと前です」
 昴はたじろいだが、お構いなしに額、頬、首の後ろに触れる。汗ばんでいるせいか表面はそれほどでもないが、内側に熱が籠もっている。

「嘘だろ?」
 重圧感を与えないよう声を和らげ問い質すと、昴は申し訳無さそうに頷いた。
 怯える様子はないが、窺うような上目遣いが慶太の心を酷く揺さぶる。
 黒目がちな瞳はどこか不安げで、何も悪いことをしていないのに怒られるのを覚悟している迷子のようだった。

「どうしてこんなこと……、いや、悪い。
 無理に聞き出すつもりはない。
 ただ、外は暑いから、取り敢えず入れ」
 慶太は引き摺るように昴を招き入れた。

「待って、あっ」
 衝撃を受け振り返ると、昴が慶太の背中にしがみついていた。足が縺れたらしい。頭頂部と、赤くなった耳が見える。
 昴は咄嗟に手を離したものの、バランスを崩してまた慶太にしがみ付いた。

「ご、ごめんなさい」
「いや」
「ちょっ、わっ」
 散らかった靴を無視して、慶太は昴を担ぎ上げた。
 慶太の肩に伏せる形になった昴が脚をバタつかせる。

「大丈夫です。自分で歩けます!」
「暴れるな。これくらい大したことじゃない。それに、今のお前は信用できないからこのままでいい」
 慶太は聞く耳を持たず、大股で廊下を突き進んだ。途中、キッチンに立ち寄り冷蔵庫からペットボトルの水を取り出す。
 腰を屈めてもびくともしない慶太の体幹に、昴は抵抗することを諦めた。

「怒ってますか? 連絡返さなかったこと」
 寝室に到着し、ベッドの前で立ち止まったところで昴はぽつりとこぼした。
 顔は見えないが、しょげているだろうことは容易に想像できる。

「……すまない。今のは俺が悪かった」
「どういう」
「信用できないんじゃなくて、オレが落ち着かなかっただけだ」

 慶太は昴を抱えたままベッドに腰を下ろし、自分の脚の上に座らせた。
 身長差と、昴が縮こまっていることが作用して、互いの顔の高さがほとんど同じになる。
 至近距離で向き合った昴は困惑に眉を下げ、落ち着かない様子でいる。

「どうして、下ろしてくれないんですか?」
「オレが下ろしたくないからだ」
「ぼく、逃げたりしませんよ」
「わかってる」

 昴の言葉に嘘はない。本気で逃げようと思えば、簡単に逃げられた。
 慶太の手は昴の背中で結ばれているが、その力は解けないほどではない。
 慶太は、少しでも昴が不快感を露わにしたなら、解放するつもりだった。

 けれど、昴の右手は慶太のシャツを掴み、反対に左手は懸命に顔半分を隠している。
 恥ずかしいけれど離れたくない。ちぐはぐな態度がいじらしくて、慶太は猫可愛がりしたい衝動を必死に抑えた。
 ほんの少し、こらえきれなかった右手が昴の頬に触れる。
 親指で輪郭を撫でると、昴はその手を追うようにわずかに首を傾けた。

「こんなことされたら、また泣いちゃうじゃないですか」
「いいよ。お前、自分の家じゃ泣けないんだろ」
「なんで、こんな理由で家でメソメソ泣かなきゃいけないんですか」
 昴の瞳は一瞬ふにゃりと歪みかけたが、すぐに持ち直して心外だと言いたげに慶太を見返した。

「こんな理由? ……オレは思い違いをしてるか?」
「多分、してるんじゃないですかね」
 昴はわざと答えを暈した。
「そうか」
 ずり落ちないよう、慶太は昴の体を引き寄せた。
 前のめりになった昴の額がこつんと慶太の肩にぶつかる。

「勝手に自己完結しないでくださいよ」
 このまま、慶太の腕の中におとなしく納まるのは簡単だった。
 だけど、昴はもうそれだけでは満足できなくなっていた。
 慶太が昴のことを詮索しないのはやさしさだが、踏み込んできてほしいという気持ちが生まれ、育ってしまった。

「昴が辛い思いしてないならそれでいいんだ」
 慶太は聞きわけが良すぎる。
 昴は一度口を開き感情を吐露しようとしたが、それを飲み込んだ。
 慶太に寄り掛かっていた体を起こし、真正面から見据える。
 
「昴?」
 おずおずと手を伸ばし、人差し指で慶太の顔に触れる。右目の下から鼻筋へ確かめるように傷痕をなぞり、名残惜しそうに離れる。
 その指の動きはあまりにも繊細で、慶太は自分が壊れものになったような気がした。こそばゆくて仕方がない。

「ぼくは……」

 途切れた言葉を追って、昴の顔を覗き込む。
 昴はそれに気付いて、隠れるようと慶太の胸に顔を埋めた。

「里崎さんに会いたかった。会えたのがうれしくて泣きそうになったんです」
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