掃除好きな彼女

叶 望

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掃除好きな彼女

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 とある山道に散乱する瓦礫を見て男とその護衛はあまりの惨状に馬から降りた。
 豪華な馬車であったらしきそれは、もはや原型を留めておらず、山のかなり上の方から落ちたのだと推察される。
 生き残りは居ないものと思われたその馬車の残骸の下から泣き声が聞こえてきた。慌てて護衛の男が瓦礫を除き始める。
 馬車の中に乗っていたと思われる遺体とともに小さな赤子が奇跡的に生きていた。
 母親が必死で守ろうとしたのか抱きしめられたままの赤子を取り上げる。
 護衛の主人は赤子を抱き上げて空に掲げる。

「お前は今日からワシの子じゃ。」

 空高く持ち上げられた小さな赤子は声を上げて笑った。
 青く澄み渡る空の元、エリシアと名付けられた女の子はこの日、両親を失ったが幸いにも育ててくれる人物に出会うことが出来たのだった。
 エリシアを拾った男はガルと名乗っていた。護衛はレオだ。二人は旅をしながらエリシアを育てた。
 男二人に育てられたエリシアは当然とばかりに男勝りな性格に育ち、愛らしい顔と性格が全く一致しない女の子に成長した。
 ガルは教養が高くエリシアにそれを幼い頃から叩きこみ、礼儀作法なども当然のこととして与えた。
 レオは身を守る為の護衛術を与えた。そして魔法を。エリシアは才能豊かに育ち英才教育の元で平民にしては妙に飛びぬけた人物に育っていった。
 旅をするので野営や狩もお手の物。とても女の子とは思えない育ち方をした。
 なぜなら男に女の子の育て方など分かるはずがない。見た目と中身がちぐはぐで妙に言葉が威圧的な少女が出来上がったがガルは特に気にしなかった。
 レオは常に頭を抱えていたが主の意向に逆らうことは出来ない。
 顔立ちが良いのが災いするなどこんなことがあっても良いのかと思えるが致し方ない。
 エリシアはあっという間に12歳になっていた。
 そんなある日、エリシアはガルから大事な話があると言われた。
 いつものようにガルの膝の上に座らされるエリシアはガルの言葉を待った。

「エリシア、明日から王都目指して旅立ちなさい。1年後に迎えにいく。それまで王都でしっかりとやりなさい。」

「ガルとレオは?」

「ワシらは別の用事がある。エリシアは一人で旅をした事はないだろう?せっかくの機会だからやって見なさい。」

「分かった。」

「あとそうだな、これを首に下げておきなさい。」

「これは?」

「お守りだ。」

 銀色の丸い円盤状の飾りの付いたネックレスを首にかけるとエリシアはすぐに旅の準備を始める。
 旅の準備と言ってもほとんど旅してきたのだからそう用意するものはない。精々食料や水を揃えるくらいだ。淡い金の髪を一つに纏め上げて男装するエリシアは随分と手馴れた様子で着々と必要なものを纏めてしまった。後は出発するだけだ。
 だが出立の日、二人の姿は無かった。
 お別れの挨拶もなく、目が覚めるとエリシアは一人だった。寂しくもあったが留まってはいられない。
 さっさと王都を目指して旅立って行った。

「はぁ、行ってしまいましたね。」

 大きな溜め息をついて護衛の騎士は小さな少女の後ろ姿を見つめる。

「なんじゃ、不服か?」

 かの騎士の主である男は不満げに己の騎士に目を向ける。

「いえ、不服などありませんが…。」

「なんじゃ、言うてみよ。」

「言葉使いを最後まで直せませんでした。」

「むぅ。それはそうじゃが……。」

 その言葉を聞いた男はばつが悪そうな表情で視線を反らした。彼女の言葉を直せなかった理由の大半が主であるこの男にあるのだから。

「ガルシオン様、エリシア様は無事に王都へ辿り着くでしょうか。今すぐにでも追いかけて後をつけては。」

「お前も大概だな。レオンハルト……。」

 この二人、どうにもエリシアに甘い。もはや溺愛と言っていいほどエリシアを愛している。
 ガルシオンはエリシアを拾った当初、ある程度育った時点で自立させて自由に過ごさせるつもりだった。
 ところが今ではもはや手放すなどとてもそんな気持ちにはならない。本当は今すぐにでも追いかけて行きたいのを我慢しているのだ。
 それは一重にエリシアの為であり、とある手続きをするためでもある。

「エリシアを驚かせる為じゃ。我慢せいレオンハルト。」

「はい。ガルシオン様。」

 そんな二人のやり取りを知らないままエリシアは王都を目指して歩いて行った。エリシアは今や冒険者のランクで言うところのCランク程度の実力はある。
 それは一人前として認められるレベルという事だ。襲い来る野党や魔獣などエリシアの敵ではない。危険な目に遭っていたとしてもそれを蹴散らすだけの実力がエリシアにはあった。
 だから王都へ向かう危険な道も難なく進み町や村で狩った獲物を売ったり必要なものを買い足したりしながら進んでいた。
 一つだけ普通と違う事をしたとしたら宿に泊まる時にお金を払わずに泊ってきたことだろうか。
 決して後ろ暗い事をしたわけではない。
 客室すべての掃除を受け持つ代わりに一晩宿で休ませてほしいと交渉した結果だった。普通ならそう上手くいくはずがない。
 しかしエリシアには魔法がある。掃除なんてお手の物だった。
 それに魔法の訓練にもなる。エリシアが魔法で掃除をした場所は新品さながらの美しさを取り戻すとまで言われるくらいにその手際も魔法の腕も素晴らしかった。お金を払ってまでエリシアの掃除をお願いに宿の店主が訪ねてくるほどだ。
 そんな事をしながら王都へと辿り着いたエリシアはここでも同じようにして泊めて貰う事に成功していた。
 ただ評判を聞きつけたとある人物がエリシアにとある話を持ち込んだ事で宿暮らしだった生活が一変してしまうのだがその時はそんな事を知るはずもなく二つ返事で応えてしまったのだ。

「この娘がその評判の?」

「はい。この娘が掃除を行った宿はどこも新品のような美しさを取り戻すと言われております。」

「そう。」

 じっとりと女がエリシアを値踏みするかのような視線を送った。エリシアの身につけているのは平民が町でよく着るような服というよりも、冒険者の着る服と言った方がしっくりくるような服装だ。
 男のようでありエリシアの女らしさは微塵も感じることは出来ない。

「いいでしょう。試しに使ってみますわ。」

 女はエリシアを引き受ける事にしたようだ。紹介してくれた宿の女将と別れてエリシアはその女の人に付いていった。
 連れていかれた場所は王都のお城の中だった。裏から入ってとある場所へと案内される。
 そこで服を脱ぎエリシアは体を清められて侍女服を渡された。
 お気に入りの冒険者の装いを取られたのには少々腹が立ったのだが新しく用意された服は肌触りが上質で服を取り上げられた事などすぐに忘れてしまった。

「さて、今日からここが貴方の職場になります。私は侍女長を任されているレイリアと申します。貴方の名前を聞かせて下さる?」

「私はエリシア。」

「そう、エリシアね。年はいくつ?」

「12歳。」

「ご両親はどこにいらっしゃるのかしら。」

「両親は死んだって聞いている。」

「育てて下さった方がいらっしゃるの?」

 こくりと頷いたエリシアにレイリアはそれ以上の詮索はしなかった。この時レイリアはエリシアが孤児院で育った孤児だろうと考えていたのだが、実際はちょっと違う。
 孤児は孤児でも育てたものが少しだけ特別なだけなのだが勘違いしていたレイリアは深く聞くことはせずに仕事について話を切り替えた。

「貴方は掃除が得意だそうね。だから試しに明日、この部屋の清掃をやってみてちょうだい。その出来次第で今後の仕事を割り振るわ。」

「分かった。」

「後、城に勤める以上、言葉は何とかなさい。礼儀も少しずつ覚えてもらうわ。」

「分かった。」

「せめて……かしこまりましたよ。エリシア。」

「かしこ、まりました?」

「そう。少しずつ直していきなさい。」

「頷くのではなく、返事をなさい。いいわね?」

「はい。」

 レイリアに指導されながらその日は言葉を直すようにと必死で頑張ったが、どうにも上手くいかないままだった。
 すぐに直るものではないと優しく諭しながらレイリアはエリシアの言葉遣いには根気よく付き合う必要があると感じた。

 次の日からエリシアの城の掃除が始まった。あっという間に美しく整えられた部屋は調度の位置が若干戻っていなかった所があったがそれ以外は素晴らしく侍女長であるレイリアは文句などひとつもなかった。
 エリシアは言葉遣い以外はと注釈は付くが、少し教えればまるで真綿のようにすぐに吸収する。レイリアは教えがいのある生徒を得て喜んだ。
 だが、それを疎ましく思う者たちは多い。レイリアは伯爵家の出だ。爵位も高くそんな人物に教わっている者が平民であると言うだけで、他の者たちは納得など出来ない。
 城に勤める多くの者は貴族の出であり平民出身など彼女らにとっては自分たちよりもずっと下の人間なのだから。
 レイリアに目をかけられている。
 ただそれだけで怒りの矛先はエリシアに向いた。

「これは一体どういう事です。」

 早朝レイリアはとある侍女の報告でエリシアが掃除をしたはずの部屋へと赴いていた。エリシアは目の前の惨状に何が起こったのかと目を瞬く。
 自分が掃除をして出て行ってからかなり時間がたっているのでどういう事かと聞かれても答えに困る。
 ずっと部屋に張り付いている訳にはいかないのだし、なによりここは自分が居ると何かと問題が多い。

「やはり、平民の者になど任せるものではないのですわ。」

 レイリアの隣で赤茶色の髪の侍女がレイリアに告げる。
 その瞳にはエリシアに対する蔑みの色が濃く出ており今もこちらを見ながら口元には嫌らしい笑みが浮かんでいる。

「エリシア、答えなさい。なぜこの様な事になっているのですか!」

「この様なと言われても……私もこの惨状には驚いています。」

「貴方はここを掃除していた筈です。」

「えぇ、確かに。とは言っても、半刻以上前の話です。」

 きょとんと首を傾げて何があったのでしょうねと言いたげなエリシアにレイリアが嘘をついているようには見えない。
 しかし、掃除とは早朝に行うものだが本来今も終わっていないはずの時間なのだ。
 それを半刻も前に済ませたというエリシアにレイリアはそれこそ理解できないと頭を抱えた。掃除がそんなに早く終わるなどあり得ないのだ。
 ただでさえエリシアの掃除をした後はまるで買ったばかりに戻ったような仕上がりになる。
 だからこそこの部屋も是非にと声が上がり始めていたくらいなのだ。

「半刻も前になんて終わるわけがないじゃない。自分がやったのを隠したいからそんな事を言うのでしょう。レイリア様、この様な者のいう事など信じる必要はありません。」

 惨状を報告した侍女は笑うように言った。そんな侍女を鼻で笑ってエリシアは床の泥にまみれた場所を指さした。

「私では無理。ほら、あの靴跡どう見ても私よりずっと大きいから。」

 確かにエリシアの指さした場所には泥にまみれた靴の痕がありどう見ても大きさは成人女性の物。

「それに、ほらあの髪の毛明らかに私の色じゃない。」

 床に落ちている赤茶色の長い髪を指してエリシアは答えた。
 その色を見てレイリアは思わず隣の侍女に目を向ける。

「な!違いますわ。きっと先ほど見たときに落ちたのです。」

 慌てたように侍女は答えた。レイリアは何とも言えない表情で考え込んでいる。

「レイリア様、取り敢えずこの部屋綺麗にしてしまっても?」

「えぇ、そうね。それにどういう風に掃除をしているのか見てみたいわ。」

「え?見るの?」

「そうよ。見せてちょうだい。」

「う、分かりました。」

 仕方ないとばかりにエリシアは答えた。掃除している間を人に見られるのはあまり好きじゃないのだ。

「では、やりますか。」

 パンと手を叩いて気合を入れる。そしてふわりと魔力が部屋に広がる。
 まるで舞うようにエリシアは魔法を使いながら部屋を清めていく。
 その様子を唖然としたまま二人は固まった。

「お、何だあれは?」

 城の外でたまたまその部屋を見上げた少年が驚いたように声を上げた。
 ふわりと舞う魔力は神聖で美しくその中で舞う少女の姿はまるで絵から飛び出した天使のよう。
 あまりの光景にその少年は固まって舞が終わるまでその場に立ち尽くした。
 そしてそれが終わると同時に駆け出した。

 礼をするように掃除を終えたエリシアは固まったままの二人に目を向ける。

「あの、終わりましたけど。」

 その言葉で我に返ったレイリアはエリシアの行った掃除と言っていいのか分からない。
 それにどこから指摘すればいいのかと頭を抱えた。

「な、何なのよそれは!」

 侍女が横で金切り声を上げた。その声の五月蠅さにエリシアは眉を顰める。

「何って掃除だけど。」

「そんな掃除があってたまりますか。一体何なのお前、あり得ない。」

 掃除の魔法なんて聞いた事が無い。何よりも魔法はそんな気軽に使えるものではない。
 魔法で掃除をするなんて一体どれだけの魔力が必要なのか。

「取り敢えず、部屋はこれで問題ありませんねレイリア様?」

「えぇ。……そうね。」

 部屋は確かに問題ない。後に残った問題はと言うと誰がこの部屋を汚した責任を取るのかだ。
 それに魔法の無断使用の問題もある。

「後、この部屋を汚した者の事なら、見ていた者に聞けばいい。」

「え?」

 エリシアの言葉にレイリアは何を言っているのか分からない。

「見ていたって誰が?」

「ほら、そこ。」

 天井を指してエリシアが答える。その途端天井でガタガタと音が鳴った。

「……その方たちは王家に仕える者でしょうから私たちが気軽に声をかけてはいけないわ。」

 その言葉にエリシアは首を傾げる。

「なぜ、使ってやらなければ可哀そうだけど。ねぇ?」

 天井を見上げてエリシアが告げる。その言葉に天井からバキ、ドカと音が聞こえてくる。
 暫くして天井裏からひらりと1枚の紙が落ちて来た。それをエリシアは拾って中を確認する。

「ふーん。愚かなことを。」

 呆れたような声を上げてエリシアはその紙をレイリアに渡す。
 受け取った紙にはレイリアには読めない暗号のようなものが書かれている。

「え?エリシア、これを読めるのですか?」

 レイリアの言葉になぜそんな事を聞くのかと首を傾げた。

「読めますよ?」

 レイリアは紙とエリシアを交互に見てどうしたものかと考える。

「何が書いてあるのですレイリア様?」

「それが……。」

「何ですこの文字は。読めないではありませんか。そもそもこんなのまで用意するなんてとんだ平民ですわね。」

 まるでエリシアがすべて企んだかのような言い方をして侍女はエリシアを勝ち誇ったように笑った。

「何を騒いでいる。」

 その声はいまだ成人していない少年のもの。深い茶色の髪に藍色の瞳の彼は部屋の前に立つ二人を一瞥して言った。

「これは、ランディ殿下なぜここに。」

「あぁ、ちょっとそこに用があって……な。それよりも何を騒いでいたのだ?」

「殿下がお気になさるほどの事ではございませんので。」

「そうか?ではその紙は何だ。」

「これは……。」

 レイリアの言葉を無視して紙を取り上げる。ランディはそこに書かれていた内容を見て呆れたように赤茶色の髪を持った侍女を指さした。

「部屋を汚したのはそこの女だ。下らぬ嫉妬で城を汚すなど愚かにも程がある。さっさと処分するなり何なりしろ。それよりも、私は部屋の中の娘に用がある。」

「な、私はそんな事はしていませんわ。何かの間違いです殿下!」

 侍女が叫ぶように言う。しかしランディは少年とは思えない程の冷たい眼差しで侍女を見て笑った。

「王家の影の報告を偽りだというのか?」

「な!ではやはり……。」

 ぎょっとしたようにレイリアは侍女に視線を向ける。

「嘘です!信じてください殿下。レイリア様、私は何もしていません。」

「ねぇ、もう行っていい?」

 そんなやり取りをする中、エリシアの暢気な声が上がる。

「な、エリシア今はそれどころでは……。」

 レイリアの言葉は途中で途切れる。ランディ殿下がその横を通り過ぎてエリシアの手を取ったからだ。

「エリシアと言うのか。先ほどの剣舞見事だった。もう一度見てみたい。一緒に来てくれ。」

「えっと、それは困る。」

「な、なぜだ。」

「これから獲物を取りにいかないとご飯が食べられない。それに寝床も確保しないと。」

「何を言っているのですエリシア!貴方にはちゃんと相部屋ではあるけれどベッドも用意されていたでしょう?」

「お前みたいな平民が寝る場所なんてないって追い出されたし、ご飯も貰えなかったから自分で用意するしかない。」

「な、何ですって!」

 レイリアは自分の目の届かない所でエリシアがされていた事を初めて知った。
 そして侍女へと視線を向ける。

「あ、私は何も……。」

 視線を逸らして焦ったような表情を見ればそれもまた嘘であるとすぐに分かる。
 やったのは彼女だけではないだろうが。

「何だ、エリシアいじめられているのか。」

「いじめって何のこと?」

 ランディ殿下の言葉に首を傾げるエリシア。状況を理解していない様子のエリシアにレイリアは頭を抱えた。

「じゃあエリシア。お前俺のものになれ。」

「俺のもの?」

「あぁ、それなら美味しいごはんも寝る場所もちゃんと用意してやる。」

「じゃあそれでいい。」

 エリシアの言葉はランディの言葉をきちんと理解していない。
 それによって受けるであろう弊害も。きっと今以上に大変な目に遭う。

「殿下、お待ちください。その娘は……。」

「何だ、俺の決定に文句があるのか?」

「い、いえ。」

「では問題ないな。じゃ、エリシア行こう。」

「うん。」

 手を繋いで付いて行ったエリシアにレイリアはもはや手の打ちようがない。
 エリシアと殿下の姿が見えなくなるまで見送ったレイリアは問題の侍女の処遇を伝えるべく厳しい表情で侍女を見た。

 ランディの傍にいろと言う言葉に従ってエリシアは彼の部屋で寛いでいた。周りの侍女や侍従もエリシアの処遇をどうしたらいいのか分からず遠巻きにしているだけだ。
 そんな日が続いたある日、部屋にとある人物が音を立てて扉を開いて中に入って来た。
 その人物を見てエリシアは目を見開く。

「ガル!」

「え?」

 ランディが唖然として固まる中、エリシアはガルに抱きついた。
 その後ろにはレオも居る。そして二人の後ろからランディのよく知る人物さえも。

「お爺様、エリシアの事を知っているのですか?」

 帰還の挨拶もすっ飛んでしまいランディは恐る恐る前国王陛下である人物に声をかけた。

「おお、ランディ。元気じゃったか?エリシア、喜べ。無事にお前を養女に迎える事ができたぞ。」

「養女?」

「そうじゃ。これで正式にお前は私の娘だ。」

「本当?ガル。うれしい!」

「父上、帰って来て早々全く。妹ができると呼ばれて来てみれば…。随分と可愛らしい妹ですね。」

 現在の国王でランディの父が養女となったエリシアを見てさらに可哀そうな目で息子を見た。
 新たな家族になったエリシアとそのエリシアに一目ぼれしたであろう息子。
 そして妹となるエリシアを溺愛しているのがひしひしと伝わってくる父の姿に息子が苦労するだろう未来が浮かぶ。
 国王は息子に頑張れと小さくエールを送った。

-END-
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