追放された令嬢は魔法の過信を危惧した

叶 望

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追放

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 謁見の間には幾人かの貴族が集まっている。城に仕える魔法師や軍の関係者たちだ。

 そんな顔ぶれが揃う中、両親に連れられて王の前に立った。顔は上げずに下を向いたままなのは許しがまだ出ていないからだ。長ったらしい貴族の挨拶の後やっと許しを得て王の顔を見ることができた。

 あの王子が大人になったらこんな人になるのだろうか。

 精悍な顔つきの金髪に青い瞳を持つ王は玉座に座ってこちらを見下ろしている。横には王妃と思しき女性が座っており、淡いお日様のような艶やかな金色の髪に緑の瞳は柔らかく、まるで全てを包み込むような優しい微笑みを浮かべている。
 その周囲に立っているのは他の王子たち。その中に先日顔を合わせた王子であるシリウスの姿もあった。

「さて、エストリア譲。魔法で作った氷で熱い茶を冷ましたと聞いたがそれは事実か?」

 エストリアが答える前に軍の関係者と思われる男が声を上げる。

「もしそれが事実であれば、画期的な事だ。魔法で作った水が飲めるのであれば水場を無視して行軍することが出来るようになるのだ。」

「まさに。それが出来るのであれば重い水を運ぶ馬車に別のものを積むことも出来る。それを省くならば間違いなく行軍のスピードは今までとは比較にならない程に速まるだろう。」

「そもそも魔法の概念が一気に変わりますな。もしそんな事が可能だというのなら、魔法師の活躍の場も広がりますぞ。」

 捲し立てるように騒ぐ者達。しかし王もその喜びを理解しているのかすぐには止めようとはしなかった。そんな彼らの様子を見てエストリアはぞっと頭の芯が冷えるような感覚に陥った。

 彼らは魔法を過信している。

 それが何をもたらすのか想像もしていない。

 この場でエストリアがそれを事実だと認めてその魔法が広がればこの国はその魔法によってとんでもない失敗をおかしてしまうかもしれない。

 明らかな魔法の過信は人が相手である以上危険を伴う。

 もし、魔法を使う者が敵国の間者であれば何が起こるか。目の前の者たちは浮かれている今、そんな事をきっと考えていない。

 それでは私が国の将来を壊すことになりかねない。

 迂闊に王族の前で出した魔法の氷。たかが氷、しかしそれは下手をすれば国の将来を奪うものだ。危険だと言っても、子供の言葉など聞いてはもらえないであろう雰囲気がこの場にはあった。
 エストリアはそっと兄の様子を見る。困惑したままの兄と視線が重なった。エストリアの表情から何かを感じ取ったらしい兄はそれでもこの場で何もすることは出来ない。
 そして、こちらを楽しみに見ていた王子に悲しげな、そして懺悔にも似た表情を向けた。王子はエストリアと目があったが、その意味は伝わらない。

 そっと王子から視線を外して、真っすぐと前を向き王に答えた。

 王子がエストリアの瞳をずっと凝視していたことなどエストリアは気が付かなかった。

「お喜びのところ申し訳ございません。そのような魔法は使っておりません。多くの皆様を巻き込んだこと、深くお詫びいたします。」

 エストリアはそう言って頭を下げる。その言葉に周囲は騒然となった。

「我が息子が目の前で見たと言っておる。それを否定するか。」

「それは否定いたしません。ただ、魔法で作った氷と言うのは少々語弊がございます。」

「何?」

「【ドロウ】の魔法です。私が氷と言ったので氷を生み出したのだと勘違いさせてしまったのです。」

 エストリアはそういって【ドロウ】と言って魔法で氷を手の上に引き寄せて見せた。

 それを見た瞬間に周囲は残念半分と騒ぎを起こす原因となったエストリアに対する怒りが渦巻く。

「な、なんて事をしてくれたんだエストリア!愚かな。お前など、もはや娘ではない。我が伯爵家から出ていけ!」

「父上、お待ちください。」

 兄のラインストが引き留めようとしたがもう手遅れだ。王族に恥をかかせてそのままで許されるはずがない。エストリアは深くお辞儀をすると一度だけシリウス王子に視線を向ける。

 唖然とした表情の王子。

 許してと言うことは出来ない。

 じわりと涙が溜まってそれを零さないように静かにエストリアは謁見の間から退出した。

「待って!」

 ラインストがエストリアを引き留めようと追いかけて来た。

 周囲に誰も居ない場所で立ち止まったエストリアは焦ったような表情の兄を見ると、もうこうして会う事は出来なくなるのだと気が付き、ぼろぼろと涙を零した。

「ごめんなさい兄様。」

「なんであんな事を言ったんだ。魔法で氷を作ったのは事実なのだろう?」

「兄様は会場の様子をどう見ましたか?」

「それは……。」

「私の魔法は国を破滅に導きかねません。この国が私の魔法のせいで他国に蹂躙されるのを見るのは耐えられない。だったら、そんな魔法はなかったのだと私一人の処罰で済むならばそれでよいのです。」

「エストリア?」

「水を捨てれば確かに軍の行軍は速くなる。ですが、その水を誰かが故意に手を加えたら?魔法の水など見た目では飲めるものなのか、飲めないものなのか判断は出来ません。もし、それを行えば軍は壊滅です。魔法を過信してはいけない。それは我が国の為にはなりません。」

「それをちゃんと説明すれば…。」

 首を振ってエストリアは兄の言葉を遮った。

「7歳の子供の言葉など誰が信じるのです。浮かれていた先程の彼らは自分たちの都合の良い事にしか耳を貸しません。いつか、私の判断を殿下が悟られたとしても、どうか気にしないでとお伝えください。」

「エストリア。大丈夫なのかなんて聞く方が間違っているが、本当に一人で生きていけるのか?」

「大丈夫ですお兄様。私には魔法がありますから。」

「そこは心配していないよ。だけど私はいつでもリア…君の味方だ。離れても兄妹であることは変わらない。できれば私の目の届く範囲にいて欲しいと願うばかりだよ。」

「大丈夫ですよお兄様。お手紙もちゃんと……。」

 言いかけて、縁を切られたエストリアが連絡を取る手段など無いことに気がつく。

「リア。私の友人の知り合いに宿屋を営んでいる者が居るらしい。そこに行きなさい。」

 エストリアに金貨が入った袋と紹介状を持たせてラインストは国の将来の為に自分自身を犠牲にした妹を送り出した。

 出来る限り自分の目の届く場所で暮らしてほしい。何かあればすぐに助けに行けるように。

 兄と別れて城を後にしたエストリアは乗合馬車に乗って移動する。兄から紹介されたセルシオンと呼ばれる町。その町は王都から少し離れた場所にあるがそれでもそう遠くはない。3日あれば移動できるそんな近くの町だ。エストリアはまず紹介された宿へと向かった。
 紹介状を見せれば宿の端ではあるが置いてもらえる事になり、そのまま次の目的地へと向かう。服屋だ。平民が着るような服の中でもそれなりに着心地の良いものを数枚買い、服を着替える。
 そして靴屋に行きできるだけ履き心地の良い靴を選んだ。服と靴を揃えたのは理由がある。ドレスのまま過ごし続けるなど明らかに浮いてしまうのが一つ。

 そして女の子であると知られないようにする為でもある。

 女の子一人で生活するには日本とは違って危険だからだ。

 男装して髪はひと括りに纏める。そして生活に必要な最低限の品を揃えてから、今後お世話になる冒険者ギルドへと足を運んだ。魔法が使えるエストリアは冒険者として魔物を狩り、それで生活しようと考えたのだ。
 冒険者ギルドでは年齢や身分を問わない。身分証の役割も果たすギルドカード目当てに登録するものも居るが、それは暗黙の了解になっている。そうでもしなければ生きられない者たちは多いからだ。
 エストリアは名前をエルと新たに決めて、新しい一歩を踏み出した。それはエストリアが自由となった証でもあり、堅苦しい貴族の世界から解き放たれた瞬間でもあった。

「すみません。ギルドに登録したいのですが。」

「冒険者ギルドにようこそ。こちらに必要事項をご記入ください。代筆は必要ですか?」

「大丈夫です。」

 名前にエルと書き込んで、年齢を記入する。特技など書く場所があるが魔法なんて書いたら貴族であったことがバレバレになる。何も書かずに用紙を返した。

「では、こちらで登録しますね。」

 銀のプレートを受け取って説明を聞く。そして依頼を確認して自分に出来る物を探した。

 討伐依頼。

 一番低いランクの依頼はスライムやゴブリンといった定番の依頼だった。

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