魔力0の落ちこぼれ、最強魔道士の嫁になる ~十年前に助けた少年が、国家級魔道士になって求婚してきた~

haku

文字の大きさ
2 / 12
序章

2.十年前の約束

しおりを挟む

 何が起きたんだ。


 大きな鈍器――もとい魔法杖ロツドをせっせと背中に戻している少女を、少年は倒れ伏したまま呆然と眺めていた。

 持てる知識を総動員しても、今起きたことを何一つ理解できなかった。

 こんな女の子が、魔法を扱う凶悪な盗賊たちを、杖でぶったたいて倒してしまった。

 単純な物理で、魔法を圧倒してしまった。

「ふふん。みたか、わたしのまほう」
「……いや……あの……ただぶん殴ってただけのような……」
「まほうだもん! つえつかってたでしょ!」
「………………」

 確かに魔道士は、その力が未熟なうちは魔法杖を使う。しかしそれは、あくまで低年齢時の不安定な魔力を補助するためだ。

 少なくとも魔法杖を鈍器として殴打することを、魔法とは呼ばない。

 しかしこの年端もいかぬ少女に大の大人をぶっ飛ばせるような筋力があるはずもなく、そういう意味では確かに、魔法のような超常的な力なのかもしれない。

「ねえ、きみ」

 少女の不可思議な力に少年が首をかしげていると、少女にずい、と詰め寄られた。間近に迫った少女の、宝石みたいな黒い瞳に見つめられ、少年は慌てて視線をそらした。

「な……なんだよっ」

 やってることはむちゃくちゃだが、その少女は正直言って、かわいかった。

 全身の血が全部登ってきたかのように、耳まで熱くなるのがわかった。さっきまでの恐怖とはまた違う感情で、心臓がばくばく速くなり、頭の中が真っ白になる。

 少女はそんな少年をしばらくじっと見つめていたかと思うと、ふ、と口の端をつり上げて、言った。


「きみ、まどうしなのにすごくよわいんだね」


「な……!」

 唐突にかけられたあまりに身も蓋もない言葉に、少年はたちまち目をつり上げた。

「お、おまえの方こそ、魔道士のくせになんで魔法使わないんだよ!? 全部なぐってただけだろ! ほんとに魔道士なのかよ!?」

 そう言うと少女の顔が初めて年相応の子供らしく、怒りでほおを膨らませた。

「まっ、まどうしだもん! つえだってあるし!」
「殴ってただけだろその杖!」
「……っ」

 反論できないらしく、少女は拳をぷるぷるふるわせながら、ついに事実を認めて白状した。

「ま、まほうは! おおきくなったらつかえるの! まほうがつかえないのはいまだけなの! おおきくなったらまどうしになるの!」
「やっぱ魔法じゃねーじゃん!」
「う、うるさいうるさい! よわいひとはだまっててよ!」
「何だと……!!」
「なによ……!!」

 お互い息を荒くして額を付き合わせ、しばし睨み合い――最初にふっと目をそらしたのは少年の方だった。気まずげに顔をしかめながら、少年はなんでもない空間にぼそぼそと言葉を吐いた。

「……ふんっ、ま、まあ助けてくれたことは……ありがとな……けど! いいか、おれはな、大人になったらこの国で最強の魔道士になる予定なんだからな。今のうちにその……な、仲良くなった方がお得だぜ」
「ふーん」
「信じてねえな!?」
「うん。だってよわいもん」
「じゃ、じゃあ! 俺が本当に最強の魔道士になったらどうするんだよ!?」
「え? うーん、じゃあねぇ……」

 真剣に悩み始めた少女は、難しい顔で数秒押し黙ったあと、何かひらめいたようにぱっと顔を上げて、こう言った。



「けっこんしてあげる!」



「は?」

 きょとん、と少年は目をしばたいた。しかしその言葉を脳みそが理解すると、やはりなぜかまた顔が熱くなって、少年は激しく動揺した。

「け、けけけけけけけっこんっておま」
「かおまっかっかだよ」
「うっ、うるせー! 言ったな!? 約束だからな!? 絶対約束だからな!?」
「うん。どうせむりだもん」
「無理じゃねーし! ぜってぇ結婚してやるからな! ……な、名前、教えろよ!」
「りりなだよ。りりな・ろーずりっと。ま・ど・う・しの! りりなだからね!」

 念を押すようにそれだけ言うと、少女は少年の名前すら聞かずに、そのまま路地からいなくなってしまった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

王家を追放された落ちこぼれ聖女は、小さな村で鍛冶屋の妻候補になります

cotonoha garden
恋愛
「聖女失格です。王家にも国にも、あなたはもう必要ありません」——そう告げられた日、リーネは王女でいることさえ許されなくなりました。 聖女としても王女としても半人前。婚約者の王太子には冷たく切り捨てられ、居場所を失った彼女がたどり着いたのは、森と鉄の匂いが混ざる辺境の小さな村。 そこで出会ったのは、無骨で無口なくせに、さりげなく怪我の手当てをしてくれる鍛冶屋ユリウス。 村の事情から「書類上の仮妻」として迎えられたリーネは、鍛冶場の雑用や村人の看病をこなしながら、少しずつ「誰かに必要とされる感覚」を取り戻していきます。 かつては「落ちこぼれ聖女」とさげすまれた力が、今度は村の子どもたちの笑顔を守るために使われる。 そんな新しい日々の中で、ぶっきらぼうな鍛冶屋の優しさや、村人たちのさりげない気遣いが、冷え切っていたリーネの心をゆっくりと溶かしていきます。 やがて、国難を前に王都から使者が訪れ、「再び聖女として戻ってこい」と告げられたとき—— リーネが選ぶのは、きらびやかな王宮か、それとも鉄音の響く小さな家か。 理不尽な追放と婚約破棄から始まる物語は、 「大切にされなかった記憶」を持つ読者に寄り添いながら、 自分で選び取った居場所と、静かであたたかな愛へとたどり着く物語です。

強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!

ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」 それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。 挙げ句の果てに、 「用が済んだなら早く帰れっ!」 と追い返されてしまいました。 そして夜、屋敷に戻って来た夫は─── ✻ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...