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第二章 神喰い狼フェンリルと不死鳥フェニックス
秘密の特訓と決闘直前(6)
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決闘当日の月曜日。屋上で燐と共に昼食を摂る夏目は説明を受けていた。
「十九時に決闘開始。それまでに生徒、職員は帰ることになっている。決闘場はグラウンド、その場には関係者つまり御三家、先輩たちが居合わせる」
御三家の当主、美哉の父親が決闘を見ているということ。
「会長に勝てば、縁談を白紙に。負ければ、このまま先輩は会長と婚約しそれと同時に夏目との縁を切る。それがこの決闘の条件だそうだ」
「……そこまでして、俺を引き離したいのか」
「先輩の父君は、夏目に勝ち目はないと思い込んでいるからこその条件なのだろう」
「じゃあ、勝てば文句はないってことだよな?」
「ああ。そうだ」
夏目の問いに不敵な笑みを作り答える燐。
他の説明も聞く。決闘中、神山学園の全体を東雲家の当主によって結界で護られるとのことで、好きなだけ神通力と能力を使っても平気。学園の外への被害は考えなくてもいいらしい。
美哉へ会う時間は、決闘前の少しの時間。
と、燐から一通りの説明を受け十八時半まで時間ができる。その時間も、夏目とフェンリルはできることをする。
部活には顔を出さず一度、家に戻り神通力を体に流す。お互いの信頼関係が、決闘の勝敗を左右すると考える夏目とフェンリル。
何が起きるかは誰にも分からない。それでも、やると決めた以上は全てを出し切る。
「………………」
「ふむ……」
フェンリルが全身に流す神通力を感じながらリラックス状態の夏目。彼の肉体は、流し続けたことで身体強化に繋がり頑丈かつ、殴る蹴るといった攻撃威力が向上しただの人間なら一発で屠ることが可能となり、治癒力も高まり掠り傷や軽い火傷なら瞬時に治し痛覚にも耐性を持つように。
再生力もあるこの肉体は、他の神殺しとはわけが違う。こうして、フェンリルと共に確実に力をつけている。本人は自覚がないが、使徒相手に遅れを取ること、例え神殺しが相手でも渡り合えるほど。
「主よ、そろそろ時間のようだ」
「ん? ああ、そうみたいだな」
燐が作ってくれた美哉と会う時間が訪れる。学園へ向かい、彼女が待っているであろう部室へと。しかし、扉の前で立ち止まってしまう。
「すーっ、はー……」
深呼吸を繰り返す夏目。会うのに緊張して、足が動かない。あんな別れ方をした手前、どんな顔をして会い話せばいいのか分からない。アホ毛も、ゆっくりだが回転し困ったと示す。
「……………………」
扉の前で立ち止まり十分が経過。決闘まで残り二十分しかない。
「主、何をしているのだ……」
「えっ、あ、いや、その……」
「やれやれ。早く会いに行くがよい」
「ちょっ⁉ ま、待って!」
夏目の背中を、文字通り押し部室の中へ強引に入れる。バンッ、と扉が開き押される形で前のめりになりながらも体勢を整える。
「ふぇ、フェンリル!」
「フン」
「夏目……」
先に来ていた美哉は、夏目とフェンリルを見て微笑む。その笑みにまたしても、夏目の胸を締めつけた。
美哉は困った顔で言う。
「無茶はしないでください、と言いましたよね? なのに、あっさり春人との決闘を受け入れるなんて……。夏目の身に何かあれば私は……」
と、不安と心配が入り混じった表情と声。
「夏目が生きていてくれるだけで……。私は、それだけでいいんですよ? 死ぬかもしれない、傷ついてまでこんなことをしなくとも私は平気ですから」
「…………」
そう口にする美哉の言葉を黙って聞く夏目の視界に映る彼女は、どこをどう見ても平気には見えず無理をして笑っていることも、心を殺して空元気にしか映らない。
確かに、無茶をするなと言われた。そして、夏目自身も美哉がいなくとも平気とも答えた。
これ以上は、美哉に迷惑をかけられない。だから、大丈夫だと。
そう言ったが、本当は違う。
夏目は行動に起こした。言葉だけでは伝わらない、美哉へ謝れないと思ったから。
美哉のそばに寄り、腕を伸ばし抱きしめた。
「……っ。な、夏目?」
抱きしめる夏目に驚き身を固くする美哉。
口から最初に出た言葉は「ごめん」の一言。
吐露するように、ずっと抱えていた気持ちを美哉へ伝える夏目。
「美哉がいなくても平気、これ以上は迷惑をかけられない、なんて言ったけどそんなことなくて……。美哉が同居するまでは一人で、寂しいなんて思わなかったはずなのに一緒に過ごし寝ていた時間がなくなってから寂しくて心細くて、本当は俺が美哉のそばにいたいんだってやっと気づいた」
「――っ!」
美哉から笑顔を奪い傷つけている自分に、怒りと苛立ちと無力さがずっと胸の奥に渦巻く。どうしようもない感情の本流が、爆発しそうでだがそれをぶつける場がない。そう思っていたが、思いがけないところからぶつける絶好の機会が巡ってきた。
「傷つけてばかりで、この気持ちに気づくのも遅くて。でも、最後かもしれない機会が巡ってきた。俺はこの機会を逃さない。ここまで来るのに、弱い俺をフェンリルや燐が強くしてくれる時間をくれた、何より今度こそ美哉を護るって証明するために」
「つっ……!」
「美哉にちゃんと俺の言葉で謝りたくて。もう一度、話したくてここに来たんだ」
夏目の腕に抱かれる美哉は泣いていた。ずっと抑え込んでいた涙が溢れ、止まらず流れていく。
「な、夏目……、わ、私はっ……」
婚約者がいたこと、家へ強引に押しかけた本当の理由も何も話さなかった。夏目の両親を死なせる要因、神殺しにしてこちら側に引き込んだ原因なのは美哉自身。
傷つけてばかり、と夏目は言うがそれは違うのだと。
(傷つけてばかりなのは、私の方なんですっ……。私が、夏目から大切なものを奪って……)
言いたいこと、謝りたいことがあるのに言葉が出てこない。涙で、上手く喋られない。
泣いている美哉を一度だけ強く抱きしめ離れる。
そして、瞳の奥に揺るぎない炎を灯し強い決意の眼差しを向け宣言してみせる。
「美哉、俺は勝つよ。勝ってこの縁談を壊す。そしたら、また一緒に住もう」
「な、夏目……」
笑顔を浮かべ言葉を続ける。
「俺は、美哉にならいくらでも振り回されてもいい。きっと、俺はこれからも迷惑をかけると思う。その分、美哉の望みを俺が叶える。この先も、死んだ先でも美哉と共にいられるのなら何でもする。だから、見守っていてくれ。必ず、フェンリルと共に勝って戻って来るから」
足元に待機していたフェンリルの頭を撫で、美哉の言葉を待たずに部室をあとにする。廊下を歩く夏目へフェンリルは言う。
「主。惚れた女に宣言したからには、勝利以外ありえぬぞ」
その言葉に夏目のアホ毛が上下に激しく揺れ肯定する。
「ああ」
言葉でも短く返答する。
(そうだ。俺は美哉が好きだから、この縁談をぶっ壊す!)
内心でそう言って認める。この気持ち、恋心を。
(敗北はない。負ければ俺も、フェンリルも死だ。そんなことになれば美哉も……)
――だから勝つ! 勝利以外はいらない!
真っ直ぐ前を見つめ答えを出す。
もうじき決闘の時間だ。
フェンリルをそばに従え、グッと手に力を込め握りしめてグラウンドへ向かう。
「十九時に決闘開始。それまでに生徒、職員は帰ることになっている。決闘場はグラウンド、その場には関係者つまり御三家、先輩たちが居合わせる」
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「……そこまでして、俺を引き離したいのか」
「先輩の父君は、夏目に勝ち目はないと思い込んでいるからこその条件なのだろう」
「じゃあ、勝てば文句はないってことだよな?」
「ああ。そうだ」
夏目の問いに不敵な笑みを作り答える燐。
他の説明も聞く。決闘中、神山学園の全体を東雲家の当主によって結界で護られるとのことで、好きなだけ神通力と能力を使っても平気。学園の外への被害は考えなくてもいいらしい。
美哉へ会う時間は、決闘前の少しの時間。
と、燐から一通りの説明を受け十八時半まで時間ができる。その時間も、夏目とフェンリルはできることをする。
部活には顔を出さず一度、家に戻り神通力を体に流す。お互いの信頼関係が、決闘の勝敗を左右すると考える夏目とフェンリル。
何が起きるかは誰にも分からない。それでも、やると決めた以上は全てを出し切る。
「………………」
「ふむ……」
フェンリルが全身に流す神通力を感じながらリラックス状態の夏目。彼の肉体は、流し続けたことで身体強化に繋がり頑丈かつ、殴る蹴るといった攻撃威力が向上しただの人間なら一発で屠ることが可能となり、治癒力も高まり掠り傷や軽い火傷なら瞬時に治し痛覚にも耐性を持つように。
再生力もあるこの肉体は、他の神殺しとはわけが違う。こうして、フェンリルと共に確実に力をつけている。本人は自覚がないが、使徒相手に遅れを取ること、例え神殺しが相手でも渡り合えるほど。
「主よ、そろそろ時間のようだ」
「ん? ああ、そうみたいだな」
燐が作ってくれた美哉と会う時間が訪れる。学園へ向かい、彼女が待っているであろう部室へと。しかし、扉の前で立ち止まってしまう。
「すーっ、はー……」
深呼吸を繰り返す夏目。会うのに緊張して、足が動かない。あんな別れ方をした手前、どんな顔をして会い話せばいいのか分からない。アホ毛も、ゆっくりだが回転し困ったと示す。
「……………………」
扉の前で立ち止まり十分が経過。決闘まで残り二十分しかない。
「主、何をしているのだ……」
「えっ、あ、いや、その……」
「やれやれ。早く会いに行くがよい」
「ちょっ⁉ ま、待って!」
夏目の背中を、文字通り押し部室の中へ強引に入れる。バンッ、と扉が開き押される形で前のめりになりながらも体勢を整える。
「ふぇ、フェンリル!」
「フン」
「夏目……」
先に来ていた美哉は、夏目とフェンリルを見て微笑む。その笑みにまたしても、夏目の胸を締めつけた。
美哉は困った顔で言う。
「無茶はしないでください、と言いましたよね? なのに、あっさり春人との決闘を受け入れるなんて……。夏目の身に何かあれば私は……」
と、不安と心配が入り混じった表情と声。
「夏目が生きていてくれるだけで……。私は、それだけでいいんですよ? 死ぬかもしれない、傷ついてまでこんなことをしなくとも私は平気ですから」
「…………」
そう口にする美哉の言葉を黙って聞く夏目の視界に映る彼女は、どこをどう見ても平気には見えず無理をして笑っていることも、心を殺して空元気にしか映らない。
確かに、無茶をするなと言われた。そして、夏目自身も美哉がいなくとも平気とも答えた。
これ以上は、美哉に迷惑をかけられない。だから、大丈夫だと。
そう言ったが、本当は違う。
夏目は行動に起こした。言葉だけでは伝わらない、美哉へ謝れないと思ったから。
美哉のそばに寄り、腕を伸ばし抱きしめた。
「……っ。な、夏目?」
抱きしめる夏目に驚き身を固くする美哉。
口から最初に出た言葉は「ごめん」の一言。
吐露するように、ずっと抱えていた気持ちを美哉へ伝える夏目。
「美哉がいなくても平気、これ以上は迷惑をかけられない、なんて言ったけどそんなことなくて……。美哉が同居するまでは一人で、寂しいなんて思わなかったはずなのに一緒に過ごし寝ていた時間がなくなってから寂しくて心細くて、本当は俺が美哉のそばにいたいんだってやっと気づいた」
「――っ!」
美哉から笑顔を奪い傷つけている自分に、怒りと苛立ちと無力さがずっと胸の奥に渦巻く。どうしようもない感情の本流が、爆発しそうでだがそれをぶつける場がない。そう思っていたが、思いがけないところからぶつける絶好の機会が巡ってきた。
「傷つけてばかりで、この気持ちに気づくのも遅くて。でも、最後かもしれない機会が巡ってきた。俺はこの機会を逃さない。ここまで来るのに、弱い俺をフェンリルや燐が強くしてくれる時間をくれた、何より今度こそ美哉を護るって証明するために」
「つっ……!」
「美哉にちゃんと俺の言葉で謝りたくて。もう一度、話したくてここに来たんだ」
夏目の腕に抱かれる美哉は泣いていた。ずっと抑え込んでいた涙が溢れ、止まらず流れていく。
「な、夏目……、わ、私はっ……」
婚約者がいたこと、家へ強引に押しかけた本当の理由も何も話さなかった。夏目の両親を死なせる要因、神殺しにしてこちら側に引き込んだ原因なのは美哉自身。
傷つけてばかり、と夏目は言うがそれは違うのだと。
(傷つけてばかりなのは、私の方なんですっ……。私が、夏目から大切なものを奪って……)
言いたいこと、謝りたいことがあるのに言葉が出てこない。涙で、上手く喋られない。
泣いている美哉を一度だけ強く抱きしめ離れる。
そして、瞳の奥に揺るぎない炎を灯し強い決意の眼差しを向け宣言してみせる。
「美哉、俺は勝つよ。勝ってこの縁談を壊す。そしたら、また一緒に住もう」
「な、夏目……」
笑顔を浮かべ言葉を続ける。
「俺は、美哉にならいくらでも振り回されてもいい。きっと、俺はこれからも迷惑をかけると思う。その分、美哉の望みを俺が叶える。この先も、死んだ先でも美哉と共にいられるのなら何でもする。だから、見守っていてくれ。必ず、フェンリルと共に勝って戻って来るから」
足元に待機していたフェンリルの頭を撫で、美哉の言葉を待たずに部室をあとにする。廊下を歩く夏目へフェンリルは言う。
「主。惚れた女に宣言したからには、勝利以外ありえぬぞ」
その言葉に夏目のアホ毛が上下に激しく揺れ肯定する。
「ああ」
言葉でも短く返答する。
(そうだ。俺は美哉が好きだから、この縁談をぶっ壊す!)
内心でそう言って認める。この気持ち、恋心を。
(敗北はない。負ければ俺も、フェンリルも死だ。そんなことになれば美哉も……)
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