偽りの神人 ~神造七代の反逆と創世~

ゆー

文字の大きさ
66 / 220
第三章 林間合宿と主なき神獣

ヨルムンガンド(2)

しおりを挟む
 大き過ぎる体のヨルムンガンドに頼み小さくなってもらう。マフラーほどの長さ、ショップに売られている蛇のぬいぐるみほどの大きさへ。

 そのヨルムンガンドを抱え、湖から離脱し夏目の服の下に隠し部屋へ集まる。



「とりあえず、美哉にも報告しないと」



 夏目は美哉との約束、現状の報告も兼ねてテレビ電話を繋げ今後のことを話し合う。ワンコールで電話に出る美哉は嬉しそうに声を弾ませていた。



『夏目! 待ってましたよ!』



 スマホの画面に映る美哉は、夏目からの電話を心待ちにしていた様子。楽しげな恋人には悪いが、今は楽しく話をしている場合ではないため切る。



「あ、悪いけど今はそれどころじゃないんだ」

『むっ、どういう意味ですか?』



 それに対して見るからに不満かつ怒る美哉だったが、画面越しに映る海のように蒼く澄んだ鱗を持つ蛇、それを抱える夏目を見て表情が変わった。



『……っ! 今、そこにいるのは夏目だけですか?』

「いや、燐と桜もいる」

『二人も一緒なんですね。何があったのですか?』



 説明を求める美哉に、桜が簡潔に答える。



『なるほど。小さくなっているとはいえ夏目が抱えているのが、ヨルムンガンドだということは分かりました。まずは、彼の話を聞くのが先です』



 ヨルムンガンドは、夏目の腕の中でとぐろを巻きながら語る。



「えっとね、ボク、日本じゃない場所の海底を自由気ままに泳いでたんだ。でも――」



 ある日、ヨルムンガンドの存在を知った何者かが海底に罠を張った。その罠の存在に気づかなったヨルムンガンドは、いつものように泳いでいたらあっさり罠に掛かり、海から引き上げられ呪術式が施された檻に入れられ日本に運び込まれたのだと。



 それが一ヶ月前の出来事。



「逃げ出そうと暴れたけど、体中に巻かれた能力封じの鎖と呪術式のせいで身動きが取れなかったんだ」



 しかし、能力封じの鎖も呪術式にも限界があったのか解けた一瞬の隙きに逃げ出した。身を隠すために水がある場所を探し彷徨いながらも追手から逃げ続け、追手もヨルムンガンドを捕まえようと使徒の三人を寄越してきた。



「逃げ出せたんだけど、ここがどういう場所かも分からなくて……。ただ、知ってる気配というか存在を感じてひたすらにそこを目指したの。けれど……」



 その三人は、逃げるヨルムンガンドに追いつき死ななければ何でもありと言わんばかりに攻撃を仕掛けた。



 胴体を殴られ、斬りつけられ、全身に痛みが絶え間なく送り続けられ恐怖と死にたくない思いでいっぱい。



 フェンリルは、ヨルムンガンドが言う知っている気配というか存在が、己のことだと理解する。同じ神の子である兄弟だ、感じ取れてもおかしい話ではない。



「死にたくなくて、追いかけ回される恐怖の中で、必死に逃げてこの湖に辿り着いたんだ……」



 湖の底に身を隠し、傷が癒えるのを待った。



「動けるようになったら、お腹が空いて日が沈んで静かになった夜更けに食べ物を探して出てくるの。ここしばらくはそんな生活をしてて、出てきたら知らない人がいて怖くなって攻撃したんだ。ごめんね……」



 そう説明するヨルムンガンド。あの時間、タイミングが良いか悪いかは置いておいて、夏目たちと出くわしたということらしい。



「そういうことだったのか。やはり、あの三人の狙いはヨルムンガンド」

「捕まえるために、死ななければ何でもありとかバカじゃないの!」

「使徒三人で、何がなんでも捕まえたいみたいだしな」



 燐、桜、夏目がそれぞれ思ったことを口に出す。

 腕を組みしばし考え込み、燐は可能性の一つとして意見を述べた。



「ただ、ヨルムンガンドを日本に運び込んだ人物が誰なのか、契約を交わすためとはいえ大胆な行動に出たものだ。あの女の使徒が言っていた『空海様』という人物も関わっている、と見ていいだろう」



 それにはフェンリルも同意した。



「そうだな。空海という奴は、悪神側の神殺しと見ていいだろう」

『そうですね。敵対する以上、ヨルムンガンドが奪われるとあちら側に引き渡すでしょう。ヨルムンガンドも、兄のフェンリル同様に強大かつ誰もが欲しがる存在の神獣。こうして、意思疎通ができるのなら抹殺ではなく保護するべきです』



 話を聞いていた美哉は、ここいるメンバーに言っているように見えて視線は夏目に向けていた。他の誰でもない、ヨルムンガンドをフェンリルと共に護ってほしい、とそう言葉の裏に込めて。



(ああ、そうだな。あいつらにフェンリルの弟は渡さない。俺たちでヨルムンガンドを護る)



 夏目も同じ気持ちのようで、画面越しに映る美哉へ強く頷いて見せる。その反応を見て微笑む。



(主よ、迷惑を掛けてすまぬ……)



 念話でフェンリルが謝る。



(迷惑だなんて思ってないよ。俺の方がずっと、迷惑を掛けてるんだし。それに、これくらい問題ない。大丈夫、俺たちで護ろう。大事な弟をさ)

(主……! くくっ、そうだな。世話の焼ける愚弟だが、敵に奪われるわけにはいかぬ)

(ああ!)



 夏目とフェンリルの間で話す内容は誰にも分からない。だが、ヨルムンガンドは何かを感じ取り交互に顔を見つめ小動物みたいに可愛く首を傾げていた。



「よしっ。ならば、今後の方針は決まった。ヨルムンガンドを保護し、その上で使徒の三人を倒す」

「そうね。使徒を倒すための作戦を練るわ」



 燐がそう告げれば、桜もやる気満々での表情で頷く。

 それに、夏目とフェンリルも、おおっ! と答える。



『私が出る幕はなさそうですね。三人共、無理は禁物ですよ? みんな、無事に帰ってきてください』



 画面越しに美哉が、三人と二匹にそう伝える。



「ああ、分かってる。みんないるから、大丈夫だよ」

「主と弟のことは、我輩に任せよ」

「ボクのこと、心配してくれてる?」



 笑って美哉を安心させる夏目、胸を張り問題ないと言うフェンリル、美哉を金色の瞳が見つめ心配されていることが不思議なヨルムンガンド。



「はい、先輩」

「分かりました。美哉先輩」



 燐と桜も、先輩の言葉を肝に銘じる。返事を聞いた美哉とは、ここで通話を終える。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜

美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊  ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め… ※カクヨム様にも投稿しています ※イラストはAIイラストを使用しています

魔眼の剣士、少女を育てる為冒険者を辞めるも暴れてバズり散らかした挙句少女の高校入学で号泣する~30代剣士は世界に1人のトリプルジョブに至る~

ぐうのすけ
ファンタジー
赤目達也(アカメタツヤ)は少女を育てる為に冒険者を辞めた。 そして時が流れ少女が高校の寮に住む事になり冒険者に復帰した。 30代になった達也は更なる力を手に入れておりバズり散らかす。 カクヨムで先行投稿中 タイトル名が少し違います。 魔眼の剣士、少女を育てる為冒険者を辞めるも暴れてバズり散らかした挙句少女の高校入学で号泣する~30代剣士は黒魔法と白魔法を覚え世界にただ1人のトリプルジョブに至る~ https://kakuyomu.jp/works/16818093076031328255

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

処理中です...