偽りの神人 ~神造七代の反逆と創世~

ゆー

文字の大きさ
67 / 220
第三章 林間合宿と主なき神獣

ヨルムンガンド(3)

しおりを挟む
「さて、わたしたちは部屋に戻ろう。夏目、おやすみ」

「夏目くん、ヨルムンガンドのことよろしく。おやすみなさい」

「ああ。二人共、おやすみ」



 燐と桜は、ヨルムンガンドを夏目に預け部屋へ戻る。

 ヨルムンガンドは、夏目の膝の上にとぐろを巻いたまま顔を上げ見つめていた。



「えっと、ヨルムンガンドのこと訊いてもいいか?」

「ボクのこと?」

「ああ。俺は、ヨルムンガンドのこと詳しく知らないから。教えてくれるとありがたいなって」

「………………」



 ヨルムンガンドは考える。兄であるフェンリルと契約を交わす夏目のことを。己を傷つける人間か、それとも利用しようと企む者か。しかし、こうして見つめても敵意や殺意などは感じられず、傷つける意思が見受けられない上にフェンリルが信頼を寄せているのが分かる。



 泣いて流した涙を拭い、頭を撫でてくれたこと。その手が、優しくて温かさを感じた。大丈夫、彼は敵でも危険な人間ではないと判断する。



「いいよ。ボクの何が知りたいの?」

「……っ! ありがとう。そうだな、生まれとか……えっと、諸々かな」

「全部だね。そうだなあ、ボクは――」



 ヨルムンガンドは語る。フェンリル同様、神話に語られる己の話を。



 ――北欧神話に登場する毒蛇の怪物。その名は『大いなるガンド(精霊)』を意味する。



 ロキが、巨人アングルボザとの間にもうけたまたはその心臓を喰らって産んだ魔物のうち一匹だ。他の魔物がフェンリル、ヘラと。



 他の呼称では、ミドガルズオルム、ミズガルズの大蛇、ミッドガルド大蛇、ミッドガルド蛇、世界蛇など。



 ヨルムンガンドら子供たちはいずれ神々の脅威となることを予見した主神オーディンが、ヨトゥンヘイムで育てられていたヨルムンガンドを連れてこさせ海に捨てた。しかし、ヨルムンガンドは海底に横たわったままミズガルズを取り巻きさらには、自分の尾を咥えられるほどの巨大な姿に成長した。



 雷神トールが、巨人のヒュミルと共に釣りへ出た際にヨルムンガンドを釣り上げ、鉄槌ミョルニルでたおさんとしたが、船が沈むことを恐れたヒュミルが釣り糸を切ってしまい、海中に逃がしてしまう。その時、ヨルムンガンドは頭部に一撃を受けながらも海中へ逃れている。



 また、トールが巨人の王ウートガルザ・ロキの宮殿を訪れた際の話では、「猫を持ち上げて床から脚を離してみせよ」と言われたトールが猫の胴を高々と持ち上げたものの、床から離すことができなかった。実はこの猫は、ウートガルザ・ロキの幻術によって猫の姿に見えていたヨルムンガンドであった。



 そして、ラグナロクが到来する時、ヨルムンガンドは海から陸へ上がりその際に大量の海水が大陸を洗う様子が語られる。ヨルムンガンドとトールの戦いで、トールはミョルニルを三度投げつけ、ヨルムンガンドを打ち倒すことに成功するが最期に吹きかけられた毒のために命を落とす。決着は、相打ちという形で終わることになった――。



「――っていうのが、ボクの話だよ」

(フェンリルと同様に中々の逸話だな……。さすが、神話に名を連ねる神獣だ)



 ヨルムンガンドの話を聞きそう思う夏目。

 語り終えたヨルムンガンドの顔は不満気だ。



「でも、神の勝手な気まぐれなのか何のかこうして蘇らされるのは不服だよ」



 頬を膨らませるヨルムンガンド。この反応は、兄のフェンリルと同じでやはり兄弟なのだろう。



「だけどね、この時代には美味しいものや興味がそそるものがたくさんある。今、こうして存在してるんだしそれら全部でボクの欲を満たしたいんだ。もう、勝手気ままに脅威だからと捨てられるのも、殺されるのも嫌だよ……」

「……………………」



 ヨルムンガンドの想いを聞いた夏目は何も言えず、ただ頭を撫でてることしかできない。そんな主と弟を見たフェンリルは唐突に言う。



「我輩には生きる理由が今はある。主と交わした約束だ。主と共に自由に世界を渡り歩き、美味しいものや腹一杯に肉を食べ好きに生きる」

「フェンリル……」



 そう、以前に交わした約束とフェンリルの望みだ。あの時、フェンリルの全てを理解したわけでも知ったわけでもない。それでも、夏目はふいに「美味しいものを食べる旅を一緒にしないか」と。行ってみたい場所を巡り、美味しいものを食べ歩く旅を、そう提案した。



 その話を聞いたフェンリルは笑い、夏目のことをお人好しと評しだが今までそんな提案をしてきた人間はいない。



 夏目の提案に、フェンリルは嬉しそうに共に旅をしようとお互いの間で約束を交わし合う。

 これは夏目とフェンリルにとって大切な交わしごと。



「い、いいな~~!」



 それを聞いたヨルムンガンドは見るからに羨ましがる。



「フンッ。これは、我輩と主だけの約束ごとだ。愚弟の入る隙きなどない」



 フェンリルは意地悪くそう言いながら一刀両断してしまう。



「~~っ! ふぇ、んぐっ……うっ……」



 そんな風に兄に言われた弟は目に涙を溢れんばかりに溜め、今にも声を出して大泣きしてしまいそうだった。



(ま、まずいっ……!)



 大声で泣かれては、部屋の外にまで響き大変なことになってしまう。そう思った夏目はヨルムンガンドにも同じ提案を伝える。



「なら、ヨルムンガンドも一緒に行かないか?」

「ぐすっ……ふへ?」



 ポロポロと溢れこぼれていく涙が夏目の服を濡らす中、ヨルムンガンドは泣き顔で見上げ固まった。溢れてこぼれていく涙を拭いながら言葉を続ける。



「美味しいものをいっぱい食べて、興味が引かれることを全部しよう。俺でよかったらどこまでも付き合うぞ? ヨルムンガンドはどうしたい?」



 笑って訊く夏目の言葉に涙が止まり、言葉に悩みながらも答える。



「か、叶うのならボクも兄さんと、兄さんが信じる君と一緒に行きたい!」

「最初からそう言えばいいものを」



 ヨルムンガンドの言葉に、フェンリルはぶっきら棒に言いフンッと鼻息を一つし、手の掛かる弟だ、と表情が語る。

 夏目はもう一度、ヨルムンガンドの頭を優しい手つきで撫でた。



「じゃあ、決まりだな。一緒に行こうか、ヨルムンガンド。今後ともよろしくな。あ、そうだ。俺のことは、夏目でいいよ」



 笑う夏目に釣られたヨルムンガンドも、泣き笑いの顔で元気よく返す。



「うん! よろしくね、夏目!」



 こうして、ヨルムンガンドとも大切な約束を交わし仲良くなるのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜

美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊  ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め… ※カクヨム様にも投稿しています ※イラストはAIイラストを使用しています

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

魔眼の剣士、少女を育てる為冒険者を辞めるも暴れてバズり散らかした挙句少女の高校入学で号泣する~30代剣士は世界に1人のトリプルジョブに至る~

ぐうのすけ
ファンタジー
赤目達也(アカメタツヤ)は少女を育てる為に冒険者を辞めた。 そして時が流れ少女が高校の寮に住む事になり冒険者に復帰した。 30代になった達也は更なる力を手に入れておりバズり散らかす。 カクヨムで先行投稿中 タイトル名が少し違います。 魔眼の剣士、少女を育てる為冒険者を辞めるも暴れてバズり散らかした挙句少女の高校入学で号泣する~30代剣士は黒魔法と白魔法を覚え世界にただ1人のトリプルジョブに至る~ https://kakuyomu.jp/works/16818093076031328255

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

処理中です...