25 / 36
奪われどちらでもない案内役
第23話
しおりを挟む
秋斗のそばに駆け寄る木藤。
「秋斗……! 秋斗……!」
何度も名前を呼ぶ。すると、ゆっくりと目蓋が開き木藤より先に僕へ。
「ありがとう……」
と、消え入りそうな声で礼を口にする。そして、木藤へ謝る秋斗。
「先生、ごめんなさい……」
「違う……。違うよ。秋斗が謝る必要なんかない……。悪いのは、何もしてやれなかった俺なんだ……! 俺が、俺がしないといけないことだったのに、何もできなくて……。その結果、秋斗をもっと苦しめることに……。ごめんよ、秋斗……。本当にごめんっ……」
泣きながら、秋斗の顔に触れ謝り続ける木藤。
そんな木藤に秋斗は首を微かに横へ振り、違うと。
「先生のせいじゃないよ。先生に出会えたから、ぼくは生きてこられた。先生のお陰なんだよ。だから、泣かないで。最期に、先生に会えて嬉しいんだ。これで、みんなのところに逝ける」
そう笑って目蓋を閉じていく。一筋の涙を流しながら……。
秋斗は、木藤に看取られ亡くなった。
息を引き取った秋斗の身体に変化が起こる。
巨人サイズだった身体が縮み、僕と変わらないサイズへと。これが本来の秋斗の身長なのだろう。しかし、本来の姿に戻った途端に肉体が灰に。
これはいったい……?
どうして、秋斗の身体が灰になっていくんだ?
疑問だからけの僕に木藤が説明をしてくれる。
「肉体の活動を終えると、本来の姿に戻るんだけど実験の影響で命が尽きた時、灰になって何も残らなくなるんだよ……」
……そうなのか。それは、知らなかった……。ということは、僕も死ねば灰になって何も残らないということなのか……。
秋斗の最期を見送り、木藤に支えられながら車まで戻る。
「ナイくん。治療するから、そこに座って」
街を出て、入口付近に停めていた車の下まで戻ってきた僕ら。その頃には日も沈み、辺りは暗くなり始めていた。車の近くに焚き火を起こし、折りたたみの椅子に座り木藤が持ってきていた医療キットで治療を受ける。
「ナイ。大丈夫なの?」
「ああ。真冬も、疲れたろ? 座席を使っていいから休むといい。僕はこのまま、木藤に治療を受けるから」
「でも……」
「気にするな。こういうことは今までも経験している」
「分かったわ……」
僕を心配する真冬を少々、強引にだが車で休ませる。あまり、傷だからけの身体を見られたくはないからな。
前に座る木藤に、服を脱いで傷を見せ消毒やガーゼ、包帯と治療を受ける。
しばらく、会話はない。真冬も、やはり肉体的にというより精神的に疲れたのだろう。助手席で丸まってすぐ眠ってしまった。
まあ、色んなものを見て聞かせてしまったからな。
腕や脇腹、身体中にガーゼや包帯を巻かれた僕は焚き火を前に休む。
炎の揺らめきを見て、パチパチと音を聞く僕に木藤が色々と聞いてくる。
「あまり無茶をしない方がいい。消えない傷を増やすのはよくないよ」
「急になんだ?」
炎のゆらめきから顔を上げ木藤を見る。
僕の身体を見た感想か? 確かに、身体中には傷が絶えないがそれをどうして今に言う?
「傷だらけだとこの先、困るだろう?」
「………………」
は? 困る? 僕が? なぜ?
疑問符しか浮かばない僕の思考回路。
木藤は、いったい僕に何が言いたい? それと、その父親面みたいな言い方はやめろ。気持ち悪いぞ。
「こんな地下街でも出会いはあるはずだから」
「……………………」
本当に何が言いたいんだ? 言っている意味が分からない……。
木藤は、疑問だらけの僕を置いて言葉を続けた。
「傷を負い続けて、いざって時に心からそう思える人に出会っても、子が成せない身体だと嫌だろう? 好きな人との子を望むのは誰でも同じ――」
「余計なお世話だ」
木藤の話を遮る。声に怒気を含み睨みつける。
何が言いたいのかと思えば、そんなくだらない話を僕にするなよ。
なにが、出会いがあるはず、子が成せない身体は嫌だろう、好きな人との子を望む、だ! 僕は一度もそんなことを思ったことも望んだこともない!
怒りを顕にする僕。それでも、木藤は僕を見つめたまま話を続ける。
「いくら第二世代だとしても、幸せになる権利くらいはあるはず」
ちっ!
舌打ちと共に吐き捨てるように言い切る。
「僕らにそんなものはない」
その言葉に木藤は押し黙った。
「政府共はな、反乱や復讐を恐れて僕らから生殖機能を切除したんだよ」
僕が放った言葉に目を開き固まる木藤。僕は話を続けた。
「好きでそうなったわけじゃない。木藤は知らないかもしれないが、第二世代のほとんどが親に捨てられ、死を望まれ、育児放棄や虐待から保護された子供たちなんだよ。だけど、子供ってのは何かとお金がかかる。育てるのも一苦労だ。だから、そういう子供たちを寄せ集め実験体にされた。そして、その身に能力を植えつけられこの地下街に縛られた」
脳内に過ぎる過去。いいように、肉体を弄られ望んだわけでもない能力を植えつけられもう二度と拝むことのない太陽と地上の世界。
「それに、能力を持つ第二世代同士が子を成せばどうなると思う?」
木藤に問いかけるが何も答えは返ってこない。
「人工ではなく、能力そのものを持って産まれたその子は、復讐を望む者から利用したい奴らから狙われ奪い合い、殺し合いの始まりだろうな」
考えたくもないことだよ。産まれたその子には、なんの罪もないのに産まれた瞬間から命の危険しかないなんて……。
「だから人としての権利も、あるはずの機能も奪われ一生を縛られるのが第二世代だ」
最後に、木藤へ警告する。
「僕たちに性別はない。それと、この話を他の奴らにはするな。すれば怒りを買って殺されるから気をつけろ」
そこまで話すと会話は消えた。
焚き火のパチパチという音がやけに大きく聞こえる。
「秋斗……! 秋斗……!」
何度も名前を呼ぶ。すると、ゆっくりと目蓋が開き木藤より先に僕へ。
「ありがとう……」
と、消え入りそうな声で礼を口にする。そして、木藤へ謝る秋斗。
「先生、ごめんなさい……」
「違う……。違うよ。秋斗が謝る必要なんかない……。悪いのは、何もしてやれなかった俺なんだ……! 俺が、俺がしないといけないことだったのに、何もできなくて……。その結果、秋斗をもっと苦しめることに……。ごめんよ、秋斗……。本当にごめんっ……」
泣きながら、秋斗の顔に触れ謝り続ける木藤。
そんな木藤に秋斗は首を微かに横へ振り、違うと。
「先生のせいじゃないよ。先生に出会えたから、ぼくは生きてこられた。先生のお陰なんだよ。だから、泣かないで。最期に、先生に会えて嬉しいんだ。これで、みんなのところに逝ける」
そう笑って目蓋を閉じていく。一筋の涙を流しながら……。
秋斗は、木藤に看取られ亡くなった。
息を引き取った秋斗の身体に変化が起こる。
巨人サイズだった身体が縮み、僕と変わらないサイズへと。これが本来の秋斗の身長なのだろう。しかし、本来の姿に戻った途端に肉体が灰に。
これはいったい……?
どうして、秋斗の身体が灰になっていくんだ?
疑問だからけの僕に木藤が説明をしてくれる。
「肉体の活動を終えると、本来の姿に戻るんだけど実験の影響で命が尽きた時、灰になって何も残らなくなるんだよ……」
……そうなのか。それは、知らなかった……。ということは、僕も死ねば灰になって何も残らないということなのか……。
秋斗の最期を見送り、木藤に支えられながら車まで戻る。
「ナイくん。治療するから、そこに座って」
街を出て、入口付近に停めていた車の下まで戻ってきた僕ら。その頃には日も沈み、辺りは暗くなり始めていた。車の近くに焚き火を起こし、折りたたみの椅子に座り木藤が持ってきていた医療キットで治療を受ける。
「ナイ。大丈夫なの?」
「ああ。真冬も、疲れたろ? 座席を使っていいから休むといい。僕はこのまま、木藤に治療を受けるから」
「でも……」
「気にするな。こういうことは今までも経験している」
「分かったわ……」
僕を心配する真冬を少々、強引にだが車で休ませる。あまり、傷だからけの身体を見られたくはないからな。
前に座る木藤に、服を脱いで傷を見せ消毒やガーゼ、包帯と治療を受ける。
しばらく、会話はない。真冬も、やはり肉体的にというより精神的に疲れたのだろう。助手席で丸まってすぐ眠ってしまった。
まあ、色んなものを見て聞かせてしまったからな。
腕や脇腹、身体中にガーゼや包帯を巻かれた僕は焚き火を前に休む。
炎の揺らめきを見て、パチパチと音を聞く僕に木藤が色々と聞いてくる。
「あまり無茶をしない方がいい。消えない傷を増やすのはよくないよ」
「急になんだ?」
炎のゆらめきから顔を上げ木藤を見る。
僕の身体を見た感想か? 確かに、身体中には傷が絶えないがそれをどうして今に言う?
「傷だらけだとこの先、困るだろう?」
「………………」
は? 困る? 僕が? なぜ?
疑問符しか浮かばない僕の思考回路。
木藤は、いったい僕に何が言いたい? それと、その父親面みたいな言い方はやめろ。気持ち悪いぞ。
「こんな地下街でも出会いはあるはずだから」
「……………………」
本当に何が言いたいんだ? 言っている意味が分からない……。
木藤は、疑問だらけの僕を置いて言葉を続けた。
「傷を負い続けて、いざって時に心からそう思える人に出会っても、子が成せない身体だと嫌だろう? 好きな人との子を望むのは誰でも同じ――」
「余計なお世話だ」
木藤の話を遮る。声に怒気を含み睨みつける。
何が言いたいのかと思えば、そんなくだらない話を僕にするなよ。
なにが、出会いがあるはず、子が成せない身体は嫌だろう、好きな人との子を望む、だ! 僕は一度もそんなことを思ったことも望んだこともない!
怒りを顕にする僕。それでも、木藤は僕を見つめたまま話を続ける。
「いくら第二世代だとしても、幸せになる権利くらいはあるはず」
ちっ!
舌打ちと共に吐き捨てるように言い切る。
「僕らにそんなものはない」
その言葉に木藤は押し黙った。
「政府共はな、反乱や復讐を恐れて僕らから生殖機能を切除したんだよ」
僕が放った言葉に目を開き固まる木藤。僕は話を続けた。
「好きでそうなったわけじゃない。木藤は知らないかもしれないが、第二世代のほとんどが親に捨てられ、死を望まれ、育児放棄や虐待から保護された子供たちなんだよ。だけど、子供ってのは何かとお金がかかる。育てるのも一苦労だ。だから、そういう子供たちを寄せ集め実験体にされた。そして、その身に能力を植えつけられこの地下街に縛られた」
脳内に過ぎる過去。いいように、肉体を弄られ望んだわけでもない能力を植えつけられもう二度と拝むことのない太陽と地上の世界。
「それに、能力を持つ第二世代同士が子を成せばどうなると思う?」
木藤に問いかけるが何も答えは返ってこない。
「人工ではなく、能力そのものを持って産まれたその子は、復讐を望む者から利用したい奴らから狙われ奪い合い、殺し合いの始まりだろうな」
考えたくもないことだよ。産まれたその子には、なんの罪もないのに産まれた瞬間から命の危険しかないなんて……。
「だから人としての権利も、あるはずの機能も奪われ一生を縛られるのが第二世代だ」
最後に、木藤へ警告する。
「僕たちに性別はない。それと、この話を他の奴らにはするな。すれば怒りを買って殺されるから気をつけろ」
そこまで話すと会話は消えた。
焚き火のパチパチという音がやけに大きく聞こえる。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
包帯妻の素顔は。
サイコちゃん
恋愛
顔を包帯でぐるぐる巻きにした妻アデラインは夫ベイジルから離縁を突きつける手紙を受け取る。手柄を立てた夫は戦地で出会った聖女見習いのミアと結婚したいらしく、妻の悪評をでっち上げて離縁を突きつけたのだ。一方、アデラインは離縁を受け入れて、包帯を取って見せた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる