案内役という簡単そうに見えるお仕事

ゆー

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大樹の下で真実を

第33話

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 大樹を見て思い出す。

 過去に一度だけこの場所に辿り着いたことがあった。あの時も、屍人に追われ死にたくなくて必死に逃げ続けここへ。近くまで迫ってきていた屍人は、僕が大樹の下まで来ると何故か引き返していく。

 その理由は今でも分からないが。

 クロとアカは、息も上がり一歩も動けそうにない僕のそばに擦り寄る。クロは僕の頬に自分の顔をぐいぐい押しつけ、アカは僕の後頭部に顔を押しつける。

「……い、言ったからにはちゃんと腹いっぱいに食わせてやるから……」

 掠れた声でそう言うとクロもアカも一言、嬉しそうに鳴くと僕と真冬の頭上をぐるぐる回った。
 息を整え、真冬に。

「これで依頼は果たした。真冬は……どうする?」
「どうするとは?」
「何となくだが、ここへ辿り着いたら真冬は会いたいというそいつの後を追う気がしたからな」
「……そうね。そのつもりだった」
「そのつもりだった……?」

 じゃあ、今は違うってことか? どこで考えが変わった?
 ということは僕の計画は成功したということでいいのか……。

 真冬は、大樹を見上げ言う。

「景はここで何を思ったのかしら……」
「は、い……?」

 真冬が何を言いたいのか分からず首を傾げ固まる。そんな僕を気に留めることなく続けた。

「私に会いたいって思ってくれたかしら……。一緒に生きたいって望んでくれるのかしら……」
「………………」

 ま、真冬……?
 な、何を言っているんだ……?
 僕は、真冬が何を伝えたいのか何一つ伝わらず疑問符しか浮かばない。

「お互いに想い想われ、支え支えられ、頼り頼られ、依存し合って狂おしいほどに愛し合ってくれるかしら……」
「……っ」

 お、重い狂愛だな……。でも、それを何故に今言う?

「ねえ、ナイはどう思うの?」
「…………えっ」

 唐突に問われ答えに詰まった。
 どうって……。えっ、それを僕に訊くのか⁉ どう答えろと⁉

 何も言えない僕に真冬は続けに言い放った。

「ナイって言う名は、からナイなの? それともを言いたくないからナイなの? 答えて」

「――――っ⁉」

 その言葉に僕は息が詰まった。
 心臓は大きく跳ね、喉に飴玉が詰まったかのような息苦しさを感じる。

 ど、どうして真冬がそんなことを言う⁉ まさか、本当に僕の正体に気づいたのか⁉ もしそうならどうやって気づいた⁉ ボロを出した覚えはないが⁉

 震える声で真冬に訊く。

「ど、どうして僕が、真冬が会いたがっている景だと思うんだ……?」

 その質問に真冬は、僕に近づき手を伸ばし右側の首筋に触れた。

「ここにある痣。この痣って、三日月に似た形の痣で私が見つけた景の証」
「…………っ!」

 真冬の言葉に僕の中にあった幼少の頃の思い出が蘇る。
 夏休み、海へ行った時だ――。


『景、ここに痣があるのね』
『あざ? どこどこ?』
『首筋』
『えー、見えないよ』
『鏡で見ないと、見えない位置にあるから。それにしても三日月みたいな痣って珍しいね』
『景も見たい! 真冬ちゃん、かがみ持ってない?』
『今はないわ。家に帰ったら見せてあげる』
『うん!』


 ――そんな会話をした。


 ああ……。そうだったな、真冬が教えてくれたんだ。首筋に痣、それも三日月みたいな形の珍しい痣があるって。
 首筋に触れる真冬の手に重なるよう手を当て苦笑する。

「もう隠し通せないか……」
「どうして、初めて会った時に言ってくれなかったの?」

 僕がこぼした一言に、当然の疑問をぶつける。
 その答えは最初からあったものだ。

「今の自分の姿を見せたくなかったから。人間の皮を被った化け物になって、もう二度と地上には出られない。この地下街で一生を、生きて性別すらなくなって案内役というこの地下街を盛り上げるための駒に過ぎない。だから……」

 そんな姿にまで成り果てた僕を、ずっと一途に好きでいて景を必要とする真冬には知られたくなかった……。

「真冬には、こんな地下街よりも地上で普通に幸せになって生きて欲しかった」

 そう述べた僕に真冬は怒った。

「なによそれ……! 普通の幸せってなに⁉ 地上にも危険なことなんていくらでもあるわ! それに景のいない世界で、幸せになれなんて私には無理よ! 私は景が好きなの! どんな姿になっていても、その身に獣を宿して性別すらなくなっても景を好きで居続けるわ! 景しか愛せない狂った私が、何も思わない男と共に生きるくらいなら、死んだ方がマシよ!」

 とまで言い切る。
 ほんと、痛いくらいに真冬の想いが伝わる重くて狂った愛だよ……。

 確かに、普通の幸せってなんだろうな……。言った僕でも分からない。それにこれは、僕が勝手に望んでそうだと思い込んだ願望を押しつけているに過ぎないことも理解している。

「景」

 真冬は僕の手に自分の手を重ね指までも絡ませる。

「私も、ここで一緒に景と一生を生きるわ」
「……っ。ははっ……。それはやめた方がいい。ここはそんな甘い世界でも優しい世界でもないぞ?」
「それでもいいわ。どんな世界でも、景がそばにいて一緒に生きてくれるのならどこだって関係ないもの。景がいてこそ私にとっての幸せだから」

 やれやれ……。頑固だな、真冬は。
 これは何を言っても諦めないし地上に戻ることもしないな。
 でも、こんな風に言われて想いを告げられて嬉しいなんて思う僕も真冬同様に狂っているんだろう。

「じゃあ、この地獄で血まみれた世界で化け物の僕と一緒に死んでくれるか?」

 僕のバカげた問いに真冬は即答だった。

「ええ。一緒に生きて死んであげる」

 笑う真冬。それにつられて僕も笑った。お互いの額を当て、指を絡め笑い合う。

 人工の太陽が傾き大樹を夕日が茜色に染めていく。その大樹のそばで見つめ合う。これまでの旅路で風呂にもろくに入れず血まみれで汚れきった僕と、そんなこと気にしない真冬との影が重なるのだった。
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