彼氏と彼女の異世界生活

今雅 大路

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002話

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 現在俺はあのトイレに出現していた黒い何かの中を移動しているらしい。

 らしいという曖昧な表現なのは、視界には何も見えないからだ。

 正確にはあの黒いもやの様なものは見えているが、目を瞑っている様な状態の
視界なのに、あの黒いもやだけは見えるという何とも説明のしにくい状態だった


 それでも分からないが、分かることもある。

 まずこの黒い何かという存在、これははっきり言って良くない存在だと思う。

 さっきから憎しみ?負の感情っていうのだろうか?そういったものが意味もな
く俺の思考を引っ張ろうとしている感覚がある。

 だけどそんな精神支配のような攻撃も無意味だし、どうでもいい。

 俺の頭はこの先にさおりがいることは無根拠だけど確信していて、重要なのは
無事なのかそれだけだ。


『....君はすごいね。』


 突然そんな声が聞こえてきた。聞こえたといっても喋りかけられたのではなく
、頭に直接語りかけられた
ようだ。


『誰だ?お前がこの黒いやつを....さおりをどこかに飛ばした奴か?』

 
 その声が男性なのか女性なのかは分からない。分かろうとすることが出来ない
様な不思議な感覚だ。

 俺はこの声の主がこの黒い空間を使ってさおりをどこかに飛ばした奴だとは思
わなかったが、あえてそう聞いてみた。


『この僕をもうそこまで認識出来るとは。君はやっぱりすごいね。それは普通は
出来ないことだよ。それに君がここにいること自体、本来はありえないことなん
だ。』
 

 理解した。こいつは俺の思考が読めるんだろう。そして俺は本来ここにいるの
がありえない....ならこの黒い空間を使ったやつの目的はさおりだけってことだ



 誰だか知らないが人の彼女に手を出したそいつは地獄にいってもらうぞ。


『そういうことだね。それと落ち着いて。気付いてると思うけど、この空間では
今の君の様な負の感情は良くない。だからまず教えておくけど、君の彼女は無事
だよ、安心して。』


 この声の主とは初対面だが、この言葉は不思議と信じられた。
 

『君にはこれから大事なことを話す。君はもうあいつと関係してしまったからね
。ほしい。』


 俺はさおりのことだけが聞きたかったが、この声の主がこれから話すことを聞
いておかなければいけないと本能が理解していた。


『まずこの異空間を造りだし、君の彼女を別の世界へと転移させた存在がいる。
それは僕の様な存在であって僕とは全く違った存在だ。君の居た世界でいう所の
死神の様な存在と思ってくれていい。』


 死神というワードを聞いた時に俺は動揺した。


『大丈夫。君の彼女の病気のことは僕も知っているし君の考えているようなこと
じゃないよ....それよりも最悪だけどね。』


 それを聞いて俺は安心すると同時に不安にもなる。


『....死神という存在を話しても、君はそれを受け入れた上で彼女の心配しかし
ないんだね。』


 そういうことだ。死神だろうが俺にはどうでもいい。それで話は終わりじゃな
いんだろう?こんな非現実的な状況なんだ、受け入れるしかない。

 喋っても良かったが思考を読めるならこっちの方が早いと俺は頭でそう返答す
る。


『君の彼女が今いる世界、そこは地球のどこかではなく、宇宙にあるどこかの惑
星でもない。君の想像通りだよ。異世界....そこに君の彼女はいる。』

 やっぱりか。異世界小説を読んだことのある者なら予想は出来るだろう。でも
なんでさおりなんだ?


『君の彼女は聖女としての素質があった。素質がある者は人生を終えた後に僕や
僕と似た存在がその魂を呼び込み素質を覚醒させるきっかけを与える。その後に
その者が必要とされるだろう世界に転生させることがあるんだ....ちゃんと理解
できてるようだね。』


 よくある異世界小説の主人公とかがそんな感じだったからな。それにしても、
さおりが聖女か。


『君の彼女が転生するであろう世界に僕とは違う邪悪で強大な力をもった者が存
在している。それがこの空間を造りだした張本人の死神だね。あいつはどうやっ
てか君の彼女がいずれあいつのいる世界に転生することを知り、僕が力を与える
前に呼び込み始末しようと考えたってところだと思う。僕でも完全にはあいつの
思考が読めない程のやっかいな存在なんだ。』


 始末か....なめたやつだ。


『....君は強い。それは強すぎるくらいに強いんだ。だからこそ君は危険で危う
い。この意味は....分かるね?』


 そうだろうな。強さの部分は知らないが、それでもさおりを始末しようとして
いる死神とやらは、会ったら確実に殺してやる。

 殺すと言うと日本人なら物騒と思う者が大半かもしれないだろう、俺も日本人
だけどそこまで平和ぼけしてるつもりはない。

 大事な存在を殺そうとしてるんだ。逆に殺されても不思議じゃないだろう?


『君の今の感情はこの空間に毒されてのものではないのが分かるよ。何度も言う
けどそれは危険なんだ。それでも今回の死神の使った手段を考えると、これまで
の転生の様なやり方では手に負えない気がしている。』


 その死神ってやつはよほど強大な力を持っているんだろうな、それこそ俺なん
かでは到底及ばない力を。

 立ち向かっても無駄死にかもしれない。それでも俺は抗う。自分の為に、そし
てさおりの為に、な。


『....君と話せて良かった。僕には君が君の彼女を想う気持も伝わっているかね
。本来転生するはずではない者に僕は力を与えることは出来ない。こうやって君
がこの空間にいること、僕と会話が出来ていることも奇跡のようなものだからね
。君には不思議な力があるんだよ....それでも君はこのままでは君の彼女のいる
世界にはいけないだろう。』


 まぁそうなんだろう。だけどそれがどうした。俺はその世界とやらに行ってさ
おりを助ける。この空間にいることが奇跡なら、俺はその奇跡にでもすがってや
る。諦める気なんてない。


『向こうにいってしまったら....もう元の世界には戻れないと思うよ?』
 

 元の世界には戻れないと言われても動揺はしない。さおりは俺を待っているは
ず。なら行くだけだ。異世界だろうがどこだろうが、そんなことは関係ない。


『....分かった。僕は君に何も望まない。だけど僕は願うよ。力は与えられない
けど願い信じる。君が彼女の元に行きたいと願う気持ち、君の想いの純粋な暖か
さを信じ、君と君の彼女の未来を....僕は願う。』


 その声からは優しい不思議な力を感じた。すると黒く負の感情に支配されてい
ただけの空間に白い光の玉が無数に降り注いだ。




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