2 / 2
002話
しおりを挟む現在俺はあのトイレに出現していた黒い何かの中を移動しているらしい。
らしいという曖昧な表現なのは、視界には何も見えないからだ。
正確にはあの黒いもやの様なものは見えているが、目を瞑っている様な状態の
視界なのに、あの黒いもやだけは見えるという何とも説明のしにくい状態だった
。
それでも分からないが、分かることもある。
まずこの黒い何かという存在、これははっきり言って良くない存在だと思う。
さっきから憎しみ?負の感情っていうのだろうか?そういったものが意味もな
く俺の思考を引っ張ろうとしている感覚がある。
だけどそんな精神支配のような攻撃も無意味だし、どうでもいい。
俺の頭はこの先にさおりがいることは無根拠だけど確信していて、重要なのは
無事なのかそれだけだ。
『....君はすごいね。』
突然そんな声が聞こえてきた。聞こえたといっても喋りかけられたのではなく
、頭に直接語りかけられた
ようだ。
『誰だ?お前がこの黒いやつを....さおりをどこかに飛ばした奴か?』
その声が男性なのか女性なのかは分からない。分かろうとすることが出来ない
様な不思議な感覚だ。
俺はこの声の主がこの黒い空間を使ってさおりをどこかに飛ばした奴だとは思
わなかったが、あえてそう聞いてみた。
『この僕をもうそこまで認識出来るとは。君はやっぱりすごいね。それは普通は
出来ないことだよ。それに君がここにいること自体、本来はありえないことなん
だ。』
理解した。こいつは俺の思考が読めるんだろう。そして俺は本来ここにいるの
がありえない....ならこの黒い空間を使ったやつの目的はさおりだけってことだ
誰だか知らないが人の彼女に手を出したそいつは地獄にいってもらうぞ。
『そういうことだね。それと落ち着いて。気付いてると思うけど、この空間では
今の君の様な負の感情は良くない。だからまず教えておくけど、君の彼女は無事
だよ、安心して。』
この声の主とは初対面だが、この言葉は不思議と信じられた。
『君にはこれから大事なことを話す。君はもうあいつと関係してしまったからね
。ほしい。』
俺はさおりのことだけが聞きたかったが、この声の主がこれから話すことを聞
いておかなければいけないと本能が理解していた。
『まずこの異空間を造りだし、君の彼女を別の世界へと転移させた存在がいる。
それは僕の様な存在であって僕とは全く違った存在だ。君の居た世界でいう所の
死神の様な存在と思ってくれていい。』
死神というワードを聞いた時に俺は動揺した。
『大丈夫。君の彼女の病気のことは僕も知っているし君の考えているようなこと
じゃないよ....それよりも最悪だけどね。』
それを聞いて俺は安心すると同時に不安にもなる。
『....死神という存在を話しても、君はそれを受け入れた上で彼女の心配しかし
ないんだね。』
そういうことだ。死神だろうが俺にはどうでもいい。それで話は終わりじゃな
いんだろう?こんな非現実的な状況なんだ、受け入れるしかない。
喋っても良かったが思考を読めるならこっちの方が早いと俺は頭でそう返答す
る。
『君の彼女が今いる世界、そこは地球のどこかではなく、宇宙にあるどこかの惑
星でもない。君の想像通りだよ。異世界....そこに君の彼女はいる。』
やっぱりか。異世界小説を読んだことのある者なら予想は出来るだろう。でも
なんでさおりなんだ?
『君の彼女は聖女としての素質があった。素質がある者は人生を終えた後に僕や
僕と似た存在がその魂を呼び込み素質を覚醒させるきっかけを与える。その後に
その者が必要とされるだろう世界に転生させることがあるんだ....ちゃんと理解
できてるようだね。』
よくある異世界小説の主人公とかがそんな感じだったからな。それにしても、
さおりが聖女か。
『君の彼女が転生するであろう世界に僕とは違う邪悪で強大な力をもった者が存
在している。それがこの空間を造りだした張本人の死神だね。あいつはどうやっ
てか君の彼女がいずれあいつのいる世界に転生することを知り、僕が力を与える
前に呼び込み始末しようと考えたってところだと思う。僕でも完全にはあいつの
思考が読めない程のやっかいな存在なんだ。』
始末か....なめたやつだ。
『....君は強い。それは強すぎるくらいに強いんだ。だからこそ君は危険で危う
い。この意味は....分かるね?』
そうだろうな。強さの部分は知らないが、それでもさおりを始末しようとして
いる死神とやらは、会ったら確実に殺してやる。
殺すと言うと日本人なら物騒と思う者が大半かもしれないだろう、俺も日本人
だけどそこまで平和ぼけしてるつもりはない。
大事な存在を殺そうとしてるんだ。逆に殺されても不思議じゃないだろう?
『君の今の感情はこの空間に毒されてのものではないのが分かるよ。何度も言う
けどそれは危険なんだ。それでも今回の死神の使った手段を考えると、これまで
の転生の様なやり方では手に負えない気がしている。』
その死神ってやつはよほど強大な力を持っているんだろうな、それこそ俺なん
かでは到底及ばない力を。
立ち向かっても無駄死にかもしれない。それでも俺は抗う。自分の為に、そし
てさおりの為に、な。
『....君と話せて良かった。僕には君が君の彼女を想う気持も伝わっているかね
。本来転生するはずではない者に僕は力を与えることは出来ない。こうやって君
がこの空間にいること、僕と会話が出来ていることも奇跡のようなものだからね
。君には不思議な力があるんだよ....それでも君はこのままでは君の彼女のいる
世界にはいけないだろう。』
まぁそうなんだろう。だけどそれがどうした。俺はその世界とやらに行ってさ
おりを助ける。この空間にいることが奇跡なら、俺はその奇跡にでもすがってや
る。諦める気なんてない。
『向こうにいってしまったら....もう元の世界には戻れないと思うよ?』
元の世界には戻れないと言われても動揺はしない。さおりは俺を待っているは
ず。なら行くだけだ。異世界だろうがどこだろうが、そんなことは関係ない。
『....分かった。僕は君に何も望まない。だけど僕は願うよ。力は与えられない
けど願い信じる。君が彼女の元に行きたいと願う気持ち、君の想いの純粋な暖か
さを信じ、君と君の彼女の未来を....僕は願う。』
その声からは優しい不思議な力を感じた。すると黒く負の感情に支配されてい
ただけの空間に白い光の玉が無数に降り注いだ。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします
ランド犬
ファンタジー
異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは
――〈ホームセンター〉
壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。
気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。
拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?
召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。
SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない?
その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。
ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。
せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。
こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。
異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました
黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。
彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。
戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。
現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと!
「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」
ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。
絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。
伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進!
迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る!
これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー!
美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。
人生、逆転できないことなんて何もない!
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
おばさんは、ひっそり暮らしたい
蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる