母は何処? 父はだぁれ?

穂村満月

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1.パパとお父様

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前作「死んでないのに異世界転生? 三重苦だけど頑張ります」の完結記念ssの「誰の子産むの?」のアンサーストーリーになります。

先にこちらを読んでしまいますと、前作のネタバレを出てきてしまうことを、お詫び致します。


琥珀の父は誰でしょうクイズ。
1、ジョエルパパ
2、キーリー父さん
3、シュバルツお父様
4、エメリー伯父さん
5、オーランドさん
6、日本人(会社の同僚)
7、その他


ーーーーーーーーーーーー



「琥珀、あなたはお兄ちゃんだから、いつでも翡翠の憧れの存在でありなさい」
 それが、私の母のよく口にする一番の大切な教えだ。どこかに消えていなくなる前に、百万回くらい言われた。言われた時は閉口していたが、いなくなってしまったら、もっと言って欲しいと思った。
 どこに行ってしまったのか、お父様たちに聞いても、皆目を逸らすだけで教えてくれない。いつかそのうち帰ってくるの一点張りだ。もういなくなって一月は経つ。何が、いつかそのうちだ。そんなことを言って、もう帰って来ないに違いない。
 みんながイジメて泣かせているのを、何度も見たことがある。逃げてしまったに違いない。私が子どもだからと、バカにしやがって。もう4つになったのだ。物の道理くらいわかる。お父様たちだって、4つの頃があったハズだ。何故わからないんだ。


「お兄ちゃん、どうしたの? 三角おめめで刀研ぎするのは、怖いよ」
 妹の翡翠が、やってきた。
 妹と言っても、母親は別人だ。うちは、父が3人、母が2人いる家庭だ。シュバルツお父様とキーリー父さんとジョエルパパとシャルルお母様とナデシコママと子ども2人の一家だ。一家と言っても、全員一緒に住んでいる訳でもない。父たちは、それぞれ自分の家があり、母と子どもの部屋がそれぞれの家にある。今は、私たち子どもは父さんと暮らしていて、ママはパパの家に大体いる。少し前まで、お母様はお父様の家に住んでいたが、いつの間にかいなくなっていた。
 産んだ人間だから、母はわかるが、実父は誰だかわからない。聞いてもそれぞれ違うことを言って、はぐらかされる。一番正解を知っていそうなお母様には、聞こうとした時点で逃げられるし、ママは笑うだけだ。父は3人とも自分の子だと言うが、そんな訳がない。妹の父を主張するのは、お父様とパパだ。その割りに、一緒に住んでいるのは父さんなのは、何故だろう。
 そんな状態だから、妹とも血を分けた兄妹かは、わからない。だが、ずっと同じ家で兄妹として暮らしてきた3ヶ月違いの妹だ。
 父さんは、いくら可愛いくても翡翠にだけは惚れるな、と言っていた。何をバカなことをと思っていたが、最近、多少は言いたいこともわかるようになった。
 翡翠のママは、美人だ。父親がいないかのような生き写しの翡翠が、無邪気にまとわりついてくるのを勘違いするな、と言いたいのだろう。血の繋がりがないかもしれない妹を、うっかり双子と勘違いすることはあっても、そんなつもりはないのだが。
「ああ、何でもない。いつものことだ。因数分解よりも三角関数よりも、大事なことについて考えていた」
「お兄ちゃん、お母様のこと、大好きだもんね」
「人聞きの悪い言い方をするな。母親が失踪中で、気にかけない子などいないだろう」
「そんなこと言ってるから、どこに行ったか、教えてもらえないんだよ。『お母様ぁ、どこ行ったのー』って、毎日泣き暮らしたら、3日で会わせてもらえるって、ママが言ってたもの」
「誰がそんな恥ずかしいことをするか!」
 砥石を片付けて、外に出た。翡翠が、服をつかんでついてくるが、無視だ。誰が泣くものか。お前が泣いて、お母様を呼び戻せ!


 外を歩いていたら、パパを見つけた。今日は、畜産の手伝いをしているようだ。牧草ロールを5つほどまとめて担いで歩いていた。
 パパの力持ちレベルが、人外すぎる。普通の4歳から脱却しきれない私は、パパの子ではなさそうだ。
「パパ、お仕事を終えてからで構いません。遊んで頂くことは、できますか?」
「こんにちは、琥珀、翡翠。すぐ終わらせるから、少し待っててね」
 パパは、村一番の格闘家だ。金髪翠眼、お母様がくれた童話の王子様のような見目に反して、とても人とは思われない力を持っている。暴漢が村を襲った時も、土地神様竜が暴れた時も、たった一人で戦って沈める私の憧れの英雄だ。少しでも近付きたくて、時間を見つけては、遊んでもらっている。お父様に見つかると、さらわれて勉強漬けにされるので、なかなか上達はしないが、いつかは継げる腕を手に入れたいものだ。

「はい。今日の得物は、短刀だよ。琥珀は嫌いみたいだけど、室内では長物は振るえないからね。必須技能だよ。頑張ろう」
 パパは、私と翡翠に短竹刀を投げてきた。パパも同じ得物を1本持っている。
「太刀を習いたかったけど、構いません」
 最終的には、全部習う予定だからね。
 私は、竹刀を受け取って、すぐにパパに駆け寄る。翡翠も走った。
 パパの膝を目掛けて、突きからの右払い。避けられるのはわかっているので、そのまま回転して、蹴りを叩き込む。時間差で両足で攻めたのに、かすりもしなかった。パパは移動しないルールなのに、どういうことだ。
 翡翠は、上半身を攻めている。翡翠の攻撃は、全部くらって、やられたーとわざとらしいリアクションを返している。そんな風にふざけてるところに、立て続けに攻め立てても、まったく当たらない。防御もされない体たらくだ。息があがる。
「そこだ!」
 パパは、盛大に吹き飛んだ。


「何をするのですか、お父様!」
 私も、翡翠も、気付けばお父様に抱えられていた。パパを吹き飛ばしたのは、お父様だ。お父様は、大体いつでも無表情で何を考えているやらわかりにくいが、パパ相手には容赦がない。
「あの手の筋肉バカは、遠距離から魔法で攻めるのが良いという手本だ」
「最終的に倒すのは目標ですが、今は近接戦の練習中でした。短竹刀で一撃入れなければ、意味がありません」
「ならば、魔法で短刀を100本くらい操れば良い。面で攻めろ」
「魔力には限りがあるのですから、節約できるところは節約するべきです」
「アレ相手に節約などしていれば、一生勝てないぞ。全力で叩け。手段を選ぶな」
「今日の目標は、稽古でした。倒すのは、今日ではありません」
「そんな無駄な時間があるならば、俺に付き合え。締切に間に合わん」
 正しい正しくないは、きっと関係ない。お父様との会話は、いつもこんな風だ。会話が成立しているようで、まったく話を聞いてはもらえない。
 聞いてもらえないこと自体は気にならなくなったが、聞く気がないのなら、話してくれなくていいとは思っている。

 今日も、寺子屋で過ごすことに決まった。
 翡翠が勉強したくないと言ったら、今日は世界史を習うことに決まった。謎の物語を丸暗記する勉強だ。地図があったり、国の数が200くらいあったり、それぞれの国の事件や産業や文化の推移がある、特に事件を習っていない国も時代によって地図の分布が細かく変わる。設定がやたらと細かい物語なのだが、これが何の役に立つ勉強なのか、全くわからない。同様に日本史という物語もあるが、何故、小さな島国に注目しなければならないのか、わからない。この世界観なら、他に注目すべき大国がいくつもある。
 妹の翡翠は、勉強するもしないも選択権が本人にあるのに、私に関しては強制だ。お父様が村長だからとか、兄だからとか、男だからとか周囲に言われていたが、お母様が育てた叔父と、お父様が育てた私のどちらが勉強が得意な子になるかという、どうでもいい夫婦バトルに巻き込まれているだけだった。私も、翡翠のママの子だったら良かった。勉強は嫌いではないが、このままでは、勉強以外何も身に付かないに違いない。
 お父様の家は、お風呂のお湯が使いたい放題だし、ごはんが美味しい。とても住み良い家なのだが、ごはん中やお風呂に入っている間どころか、寝ている間まで、勉強を強要されるのが、嫌なところだ。隙を見て、父さんの家に帰りたい。父さん、迎えに来てくれないかな。
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