母は何処? 父はだぁれ?

穂村満月

文字の大きさ
2 / 48

2.父さん

しおりを挟む
 今朝のおやすみソングは、地理の歌だった。寝る前の勉強に耐えられず、寝てしまっても怒られないのはいいのだが、一晩中、変な歌を聞かせ続けるのは、辞めて欲しい。寝てるんだから、聞いてないし、覚えないと思うのだが、うっかり鼻歌で歌ってるのに気付くと、とても嫌な気分になるのだ。
 お父様が、食事の支度をしている隙に、父さんの家に逃げた。

 父さんの家に転がり込むと、居間で父さんと翡翠が食卓を囲んでいた。朝ごはんに間に合った。
「父さん、おはよう御座います。朝ごはんを頂くことは、できますか?」
「おはよう、琥珀。子どもが、遠慮なんてするな。好きなだけ食っていけ」
「お兄ちゃん、おはよー」
「おはよう」
 父さんの朝ごはんは、パンプディングと、野菜スープと、果物だった。以前は、もっと肉肉しいごはんだったのに、日々翡翠仕様に変わっている。朝から、野菜と果物の飾り切りが凝っていた。翡翠を可愛がりすぎだと思う。父さんこそ、私の実父だと思っているのに、違うのだろうか。
 琥珀は、茶色の宝石だと聞いた。私に琥珀という名が付いているのは、茶髪茶眼の父さんの子だからではないか、と思っているのだが。
「父さん、今日は狩りに出かけますか? 私に、弓を教えて頂けませんか?」
 父さんは、狩人だ。森に出かけて、弓で獲物を狩る仕事だ。パパに比べたら大したことないと卑下しているが、弓を構えた父さんは、最高に格好いい。村長より絶対、格好良い。
「勉強から逃れたいだけなら相談に乗るが、魔法を使える琥珀に弓なんぞいらないだろ。少なくとも、その腕じゃ、力が足りない。もう少し大きくなってからだな」
 素気無く断られてしまった。そういうところが居心地がよくて、この家に入り浸っているのだが、あまり相手にされないのも、寂しい。
「私を後継にする気はないのですか? 父さんが、私の父だと仰ったではありませんか」
「狩人が一人減っても、誰も困らん。琥珀は、自分のなりたいものになれ。なりたいものがないのなら、村長にでもなる方が、まだいいんじゃないか? シュバルツも、お前を後継にしようと思っちゃいないだろうが」
「お父様は、私を村長にしたくて、勉強漬けにしているのでは?」
「あんな勉強、村長になるのに必要ないだろ。あれは、シャルルと一緒に生きる為に必要な教養だ。あの男は、シャルルのことしか考えてないが、勉強をするのは、お前のためにもなる。俺も昔かじったし、真逆を生きていそうなシャルルは、シュバルツの上だぞ。嫌じゃないなら、やっておけ」
「お母様が、勉強をしていたのですか?」
 母は、文字の読み書きができない。皆がみんな読み書きが出来る訳ではないので、別におかしなことではない。だが、あのお父様に勉強漬けにされて、文字1つ読めるようにならないなんて、信じられない。もし本当だとすれば、頭の出来がかなり心配になる。
 優しいし、作ってくれるごはんは美味しいし、大好きなお母様だが、家事をする以外、何かをしていることは見たことがない。本来の跡取りはママで、血縁もないのに人徳だけで神様龍になったという謎の経歴を持っているが、恐らく、龍としての活動も何もしていない。村の中心にお父様とお母様の立像があって、村人から崇められているが、村の仕事も特にしていなかったと思う。
 精霊を統べる神様龍は、世界最強の存在だ。本来なら、一属性ごとに神様龍がいるのだが、何故かお母様は二属性の龍らしい。最強の中の最強と言われているのだが、父たちにちょっとにらまれるだけで、泣いて逃げ出すただのおばさんなのだ。
 お母様は龍の子孫ではないため、残念ながら、私は普通の子どもだ。お母様に媚を売りたい精霊たちにまとわりつかれているため、魔法の素養や護りの魔法の恩恵は受けているのだが、ただそれだけである。
「恐ろしい事に、シュバルツの先生がシャルルだ。何を何度教えても覚えた試しがないくせに、勉強だけできる不思議生物が、お前の母だ。シャルルについて行きたいなら勉強が必須らしいから、シュバルツが必死になっている。あと少ししたら、お前はずっとシャルルと一緒だ。頑張って来いよ」
 あと1年かそこらで、私は叔母の家に引越して、学校というのに通い、勉強をするのだという話は、以前より聞いていた。お父様から学んだことを、再度勉強し直さないといけない意味がわからないのだが、それがお母様の義務らしい。
「お母様は、お父様が怖くて逃げてしまったのでは?」
「あー、ある意味そうかもしれんが、お前を置いてったんだ。今は無理だが、そのうち、戻ってくるさ」
 父さんの目が、泳いでいる。誤魔化そうとしているサインだ。騙されないぞ。
「そのうちって、いつですか。父さんは、心配ではないのですか!」
「なんの問題もなければ、あと2ヶ月くらいか。心配はいつだってしているが、見に行ったところで俺は何もできない。いらん負担をかけるだけなんだ」
「見に行けるのですか?」
「俺が行くのは問題があるが、お前は息子だからな。受け入れられると思うぞ」
 翡翠が言っていた、寂しがっていたら連れてってもらえるというヤツだ。母の無事な姿を確認したいだけで、泣くほど寂しがってはいない。もう4つなのだ。そんなことは、言わない!
「父さんは行けないのですか?」
「なんだかわからんが、金髪よりはマシだが、茶髪もダメらしい。黒髪ならいいと言うから、シュバルツが行ったら、『お前、イケメンだったのか!』とか激怒してな。それ以来、滅多なことでは行けなくなった。シュバルツが何かしたんだろうな」
「お父様の所為ですか」
「いや、シャルルの所為だろ。未だに腹がすわってないからな。会いたいなら、ナデシコに頼めばいい。ナデシコは、毎日会いに行っている。この飯は、その土産だからな。お前のために作られた、シャルルの手製だぞ」
「父さんが作っているのでは、なかったのですか?!」
「俺が作った飯に見えるのか?」
 お父様の家では、お父様がごはんを作っている。パパの家では、ママがごはんを作っている。父さんの家だけ、家出中のお母様のごはんが届けられるなら、やはり私は、父さんの息子なのだ。
「やっぱり私は、父さんの子なのですね」
「何故、そう思った?」
 父さんの目が見開かれた。あれ? 違うのかな。
「琥珀だからです。琥珀は、茶色なのでしょう?」
「お前が俺の子だったらいいな、と俺が付けた名だからな」
「え?」
 俺の子だったらいいな? それは、違うということか? それとも、父さんにもわからないということか?
「当初は、子が生まれたら、その生母が名付けることで合意していた。そこでシャルルがお前に付けた名が、南瓜だった。シャルルの弟妹が、大騒ぎしてな。俺たちが、名付け親になることになった。翡翠はジョエルが付けた名で、次の子はシュバルツが考える。その次ができれば俺が名付けるのか、ナデシコが名付けるのか、どうするんだろうな」
 私の胎児ネームは、カボチャだった。南瓜は嫌いではないが、名前としては、あまり格好良いとは思えない。止めてくれた叔母叔父ありがとう!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

異世界で目覚めたら、もふもふ騎士団に保護されてました ~ちびっ子だけど、獣人たちの平穏のためお世話係がんばります!!~

ありぽん
ファンタジー
神のミスで命を落とした芽依は、お詫びとして大好きな異世界へ転生させてもらえることに。だが転生の際、またしても神のミスで、森の奥地に幼女の姿で送られてしまい。転生の反動で眠っていた瞳は、気づかないうちに魔獣たちに囲まれてしまう。 しかしそんな危機的状況の中、森を巡回していた、獣人だけで構成された獣騎士団が駆け付けてくれ、芽依はどうにかこの窮地を切り抜けることができたのだった。 やがて目を覚ました芽依は、初めは混乱したものの、すぐに現状を受け入れ。またその後、同じ種族の人間側で保護する案も出たが、ある事情により、芽依はそのまま獣騎士団の宿舎で暮らすことに。 そこで芽依は、助けてくれた獣騎士たちに恩を返すため、そして日々厳しい任務に向かう獣人たちが少しでも平穏に過ごせるようにと、お世話係を買って出る。 そんな芽依に、当初は不安だった獣人たちだったが、元気で明るい瞳の存在は、次第に獣人たちの力となっていくのだった。 これはちびっ子転生者の芽依が、獣人や魔獣たちのために奮闘し、癒しとなっていく。そんな、ほっこりまったり? な物語。

処理中です...