母は何処? 父はだぁれ?

穂村満月

文字の大きさ
25 / 48

24.お母様の帰宅

しおりを挟む
 それからは、毎日、パパと魔獣狩りに出かけた。
 森にいる魔獣は、大体古狸か妖狐だ。角兎は、可愛すぎるから、倒さない。
 見つける度に、ちぎって投げていたのだが、パパが古狸を全く倒さないことに気がついた。パパくらいになれば、魔獣なんて赤子をヒネるより容易い。私の指導のために来ているだけで、魔獣を倒す気がないのだと思っていたが、妖狐や角兎はたまに踏んでいる。だが、絶対に古狸は踏まない。むしろ、私からも隠しているような気がした。
「パパ、これを倒してみてくれませんか?」
 目の前に、子ダヌキをぶら下げたら、目を逸らされた。怪しい。ナイフを出したら、子ダヌキをひったくられた。
「古狸は、保護魔獣なのですか?」
「!! そう、保護魔獣なんだ! 可愛いからね」
 イケメンに爽やかスマイルを重ねても、私は見慣れている。そんなものに騙されてはあげない。
「子どもにウソを吐いても、よろしいのでしょうか?」
 パパは、しばらく顔を赤くしたり、青くしたりしていたが、観念して白状した。
「シャルルに似てるから」
「そうですか。母には、内緒にしておいてあげましょう。ただし、私のお願いも聞いてください。黄色い熊は、私の友だちです。殺さないで下さいね」
 なるほど。その子ダヌキは、私に似ていると言うことか。それは、殺されたくないな。保護魔獣に決定だ。増えすぎて間引くというなら致し方ないが、子ダヌキを倒す人間は、私の敵だと思うことにしよう。


 とうとう、お母様が帰ってくる日が、やってきた!
 今日は、魔獣狩りに行かない。みんなで、お父様の家に集合して、朝からソワソワ待っている。転移魔法で、いきなり現れるハズだけど、どこに出てくるのかな?
「みんな、ただいまー」
 お母様は、玄関に現れた。リビングに出てくるという予想は裏切られた。我先にと、皆で玄関に移動した。
 お母様は、白い包みを抱えて立っていた。
「お母様、おかえりなさい」
 翡翠が、飛びついていくのを見ていた。私は、近くに行くことが、できなかった。胸が苦しい。そのまま子ども部屋に行き、厳重に戸締りをして、眠った。

 起きたら、もう夕方だった。
「琥珀、ただいま」
 枕元に、母と妹がいた。私の作ったバリケードの山は、すべて撤去されていた。龍相手に無駄な足掻きだとは、わかっていた。でも、誰とも話したくなかった。だから、部屋中に壁を敷き詰めて自分を隠していたのに、欠片一つ残されていなかった。
「おかえりなさい。身体の具合は、如何ですか?」
「私は、もう大丈夫だよ。琥珀こそ、どこか悪くしているのかな? ずっと寝ていたみたいだけど」
 お母様の顔は、最後に見た時と、たいした違いはなかった。風邪をひいていたと聞いていたけれど、そんな痕跡は、少しも感じられない。
「具合が悪いのは、頭の中身だけですよ。心配はご無用です」
 私は、のそりと起き上がり、布団の上で正座した。
「えーと、怒っているのかな?」
「そうですね。怒っているのかもしれません。お心当たりがないのであれば、お母様には関係のないことでしょう」
「ごめん。心当たりが沢山あるから、どれなのか教えてもらってもいいかな?」
 意外だった。心当たりはあるのか。あるのに、直す気がないのか。そこまで自分の存在が軽かったとは、信じたくなかった。やっぱり家から逃げ出して、何処かへ行けば良かった。
「酒スライムが、また新しい女を連れ込んでいることじゃないですか?」
「酒スライム? 何で、そんな呼称に? いやいや、絶対、それが本命じゃないよね」
「そうですね。あんなスライム、どうでもいいですから」
「え? ちょ。どうしちゃったの?」
「皆は、私のことをどう報告していたのですか?」
「琥珀は、今日も可愛かったよ?」
「なるほど。上手い手を思い付いたものですね」
「実際、可愛いから、仕方ないよね」
 私は、報告しなければならない問題を起こしたハズだった。なじられたことは、記憶に新しい。私に苦言を呈すなら、問題行動として、母に報告すべきだと思う。
 何故、言わない? 私をかばっているのではないだろう。きちんと養育できなかったことを、知られたくなかったのに違いない。
「ここ数ヶ月の私は、ちょっと家出をしては、女を連れ帰る日々でした。娼館で女を買ってみたり、森から女をさらってきたり。そのうちの一人は、●の穴に手を入れるのが趣味だというので、丁度いいと、お父様の新しい女として進呈致しました」
「ごめん。いろいろありすぎて、何処から話を聞いたらいいか、わからないな」
「それだけ放置していた、ということですね」
「そうだね。ごめんね」
「私は、謝って欲しいのではありません。そんなものは、何の役にも立たないでしょう。こんなにロクでもない息子を作り出しておいて、反省の欠片もないことに憤りを感じています。私のような存在は、一人で充分です。何故、罪を重ねるのですか?」
「琥珀が、可愛いくて仕方がないからかな」
 私の気持ちは、伝わらない。言葉の選択を間違えているという次元ではない。私が脈絡のない話題転換をしても、きっと母の返答も表情も何も変わらないのだ。
「そうですか。それでは、私は失礼させて頂きます。どうぞお幸せに」
 私は、立ち上がり、布団をたたんで片付けた。そして、窓を全開に開ける。
「魔法を封じても、気に致しませんよ。私など、落ちてケガでもすればいい」
「琥珀!!」
 母が魔法を使えるように戻したのを感じて、外に飛び出した。とりあえず、森へ。その後は、どこへ行こうか。行きたい場所など、何処にもなくなった。


 森に降り立つと、パパがいた。
「周囲の警戒を怠っておりました。未熟ですね」
「うん、そうだね。その速度なら、追いつける。逃がさないよ」
「逃げません。逃げても、行きたい場所がありません」
「ダディさんのところは?」
「目付きの悪い黒おじさんが、襲撃してきます。ダディを危険に晒す訳にはまいりません」
「そっか。じゃあ、しばらく一緒に旅暮らしをしようか」
「いえ、結構です。もう充分なのです。もう嫌なのです」
 私は、もう4つのお兄ちゃんなのに、我慢することに嫌気がさした。
「お兄ちゃん、ごめんね」
 翡翠が、空から降ってきた。
「琥珀、ごめんなさい」
 お母様が、転移してきた。
「お母様は、帰れ! 子どもを放置するな!!」
「もう放置しないよ。ごめんね」
 抱かれそうになったので、思いっきり避けた。そのまま走る。
 龍相手に、逃げても無駄だ。だが、逃げる。受け入れてなどやるものか。また子どもを置き去りにしている母など、絶対に許すものか。
「お兄ちゃん、どこへ行くの?」
 翡翠が、ついてきた。私は全力で走っているのに、翡翠は余裕を残している。翡翠は、いいな。羨ましい。
「お母様がいないところなら、何処でもいい」
「翡翠は、一緒にいてもいい?」
「できることなら、一人になりたい」
「エスメラルダは?」
「できることなら、共にありたい」
「魔改造されてるよ」
「一度、帰ろう」
 Uターンして、家に向かった。


「エスメラルダ!」
 エスメラルダは、また人間に近付いていた。さっきより手足が伸びている。あんの馬鹿スライムが、こんな時まで薬を盛ったのか。
「エスメラルダ。森に帰ろう。一緒に暮らして欲しい」
「帰らない。ここにいる」
 エスメラルダは、静かに微笑んだ。
 エスメラルダも、スライムの物になっていたのか。そうか。だから、何のちゅうちょもなく薬を飲んでいたのか。そうか。私は一人だ。もう何の遠慮もいらないな。
「ははははは。わかった。わかったよ。その通りだ。君は正しい。応援しよう」
「お兄ちゃん? お兄ちゃん? ちょっとお兄ちゃん? 少し待って。エスメラルダは、まだ言葉が自由じゃないだけだよ」
「もういい。何も聞きたくありません」
 すべてを忘れて、なかったことにしようと思った。祝福は、できない。私にできる精一杯は、この場から消えることだけだ。エスメラルダの邪魔をしないように。
「こはく様。ずっと一緒」
 エスメラルダに手を取られた。
「エスメ、ラルダ?」
「ここで、ずっと一緒」
 さっきと同じ顔をしているのに、同じには見えなかった。色が違う。輝きが違う。胸が裂けそうだ。
「わかりました。全力で応援します」
 エスメラルダを子ども部屋に連れて行き、部屋のドアに紙を貼った。紙には、「私に死んで欲しければ、部屋に入ってくればいい」と標準語と日本語で書いた。ドアから入らず、直接転移してきそうな人もいるが、そんなものは知らない。入ってくれば、自害するのみだ。死ねない身体にされていたって、自害することはできる。目に焼き付けてやろうじゃないか。
「エスメラルダの希望を、聞いてもよろしいですか。私の希望も聞いて頂きたい」
 エスメラルダの対面に立って話をする。
 今までの私は、私の思いだけで、勝手にエスメラルダの将来を決めていた。話し合うのが、嫌だった。怖かった。でも、言葉が通じるようになったのだ。きちんと向き合うべきだろう。
「希望?」
「したいこと。やりたいこと」
 明るい希望と、締め付けられる思いがある。やはり聞きたくない方が強い。私では、エスメラルダに釣り合わない。
「こはく様に、ごはん、つくる。ここにいる」
「私は、エスメラルダが大好きでした。人間にならなくても、大好きです。人間になっても構わないけど、そのままの貴女が大好きなのです。変わってしまうのが、怖いです。無理をしないで欲しい、と思っています」
 可愛いエスメラルダを失うのが、怖い。変わってしまう姿を見るのが、怖い。お父様の薬に安全保障などない。ずっと私だけのエスメラルダでいて欲しい。
「こはく様と、同じになりたい」
「私が緑小鬼になれば、解決しますね」
 なんだ。いい解決方法があるじゃないか。私は、この姿になど、なんの未練もない。親にもらった顔などいらない。エスメラルダと同じになって、駆除に来る人間を片っ端から駆除してやればいい。
「ダメ。そのままがいい」
「それは、卑怯ですよ」
「わたしの、きぼう?」
 首を傾げるエスメラルダが、可愛い。
「わかりました。応援致しましょう」
 エスメラルダには、勝てない。大好きだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お言葉ですが今さらです

MIRICO
ファンタジー
アンリエットは祖父であるスファルツ国王に呼び出されると、いきなり用無しになったから出て行けと言われた。 次の王となるはずだった伯父が行方不明となり後継者がいなくなってしまったため、隣国に嫁いだ母親の反対を押し切りアンリエットに後継者となるべく多くを押し付けてきたのに、今更用無しだとは。 しかも、幼い頃に婚約者となったエダンとの婚約破棄も決まっていた。呆然としたアンリエットの後ろで、エダンが女性をエスコートしてやってきた。 アンリエットに継承権がなくなり用無しになれば、エダンに利などない。あれだけ早く結婚したいと言っていたのに、本物の王女が見つかれば、アンリエットとの婚約など簡単に解消してしまうのだ。 失意の中、アンリエットは一人両親のいる国に戻り、アンリエットは新しい生活を過ごすことになる。 そんな中、悪漢に襲われそうになったアンリエットを助ける男がいた。その男がこの国の王子だとは。その上、王子のもとで働くことになり。 お気に入り、ご感想等ありがとうございます。ネタバレ等ありますので、返信控えさせていただく場合があります。 内容が恋愛よりファンタジー多めになったので、ファンタジーに変更しました。 他社サイト様投稿済み。

【完結】断罪された悪役令嬢は、本気で生きることにした

きゅちゃん
ファンタジー
帝国随一の名門、ロゼンクロイツ家の令嬢ベルティア・フォン・ロゼンクロイツは、突如として公の場で婚約者であるクレイン王太子から一方的に婚約破棄を宣告される。その理由は、彼女が平民出身の少女エリーゼをいじめていたという濡れ衣。真実はエリーゼこそが王太子の心を奪うために画策した罠だったにも関わらず、ベルティアは悪役令嬢として断罪され、社交界からの追放と学院退学の処分を受ける。 全てを失ったベルティアだが、彼女は諦めない。これまで家の期待に応えるため「完璧な令嬢」として生きてきた彼女だが、今度は自分自身のために生きると決意する。軍事貴族の嫡男ヴァルター・フォン・クリムゾンをはじめとする協力者たちと共に、彼女は自らの名誉回復と真実の解明に挑む。 その過程で、ベルティアは王太子の裏の顔や、エリーゼの正体、そして帝国に忍び寄る陰謀に気づいていく。かつては社交界のスキルだけを磨いてきた彼女だが、今度は魔法や剣術など実戦的な力も身につけながら、自らの道を切り開いていく。 失われた名誉、隠された真実、そして予期せぬ恋。断罪された「悪役令嬢」が、自分の物語を自らの手で紡いでいく、爽快復讐ファンタジー。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。

138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」  お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。  賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。  誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。  そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。  諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

処理中です...