母は何処? 父はだぁれ?

穂村満月

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ss.おひなまつりの日

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 嫌な日が、来てしまった。今日は、おひなまつりの日だ。
 そんな習慣は、同じ村でも他の家ではやっていないのに、母の母国の行事だとかで、我が家では毎年、お父様の家で開催されるのだ。
 女の子の息災を願うためとかで、部屋中人形が飾られる。人形を沢山並べるのが目的ではなく、女の子の数だけ並べたら沢山になってしまったというのが正解らしいが、この時期の客間は、人形で溢れて、隣の部屋まではみ出ている。お母様の人形と、ママの人形と、翡翠の人形と、いらないハズの私の人形があるためだ。それぞれにつき20体くらいの人形と、道具類が並ぶ雛壇が設置され、天井からも飾りがこれでもかと下げられている。それぞれ意匠が違うのだが、全部お父様の手作りらしい。無駄な小器用さが、遺憾無く発揮されている。
 中でも、いらないだろう私用の人形セットが、一番豪華だと言うのが、腹立たしい。作る度に上達するのだから、最後に作った私用の出来が良くなるのは仕方がない、と言われたのだが、絶対にそれだけではないだろう。私用があるのも、翡翠のしかないのが嫌だと、私が駄々をこねたからだと言われたが、本当かどうか記憶がないので、わからない。本当だったら、申し訳ないことなので怒れないのを良いことに、面白がって豪華にしたんじゃないかと思うのに、強く言えない。

 でも、人形が並んでいるだけなら、そんなに不満には思わない。私の人形だなんて言わなければ、ただの人形である。そんなことより、毎年、私も人形と同じ扮装をしないといけないのが、問題だった。
 翡翠は、蝶柄の赤いお雛様になっているが、私は鞠柄の桃色のお雛様である。父3人がお内裏様の格好で、ママは官女の扮装になっている。絶対に、おかしい。本当に、おひなまつりの日は、そんな行事なのだろうか。母の母国では、みんなこんなことをしているのだろうか。
 着物は丈を直すと何年でも着られるから、年に1度しか着ないから新調するのはもったいないなどと言われ、着せられた。だが、1歳の時から同じのを着ているらしい。似た様な柄の違う着物なのではないかと言う疑惑を持っている。絶対に、遊ばれている気がする。

 父たちは、いい。どんな格好をしていようと、酒を飲んだくれているだけだ。ひなまつりの日は、朝から酒が飲めるから、廃止されないのだ。私は、珍妙な格好をさせられた上、菓子を食べて、人形遊びをすることを強要されるので、なくなることを祈っているのに。
 お雛様を手に取って、ふふふふふーと笑いながら、和歌を詠まなければならない。適当に暗唱した歌を言ってるだけならまだいいが、たまに父たちの添削が入る。恋歌を作れだの、自分を歌に入れろだの、うるさい酔っ払いの横での人形遊びだ。苦痛しかない。こんな行事を強要されるなんて、母の母国の皆様も、嫌な祭りだと思っているに違いない。
「なかなかに黙もあらまし何すとか相見そめけむ遂げざらまくに(大伴家持)」
「家持は男でしょ。お雛様は、そんなの詠まないよ」
 翡翠もお雛様を抱えているが、歌は詠まない。去年は、まだ小さいからと免除されていたが、今年も小さいから免除らしい。どういうことだ。去年の私より大きいだろう。
「そうか? 意味を考えれば、どちらでも良さそうだが。そんなことより、翡翠は何歳まで、これを続けるつもりだ? 私は、翡翠の相手役をやらされているだけだから、早く卒業して欲しいんだが。普段、人形遊びなんてしないんだから、もう卒業でいいだろう」
「翡翠はね、菱餅もひなあられも、大好きなんだ。チラシ寿司も美味しいよね。この格好も嫌いじゃないし、お兄ちゃんも可愛いから、そのままでいいと思う。
 それに翡翠が卒業しても、次の女の子が増えたら、またお兄ちゃんが呼ばれると思うー」
 翡翠は、人形遊びよりも、カルピーとかいう謎の乳飲料と菓子のトリコらしい。ずっと口の動きが止まらない。ひなまつりと関係なく食べていればいいのに。
「なんでだ。女の子同士、翡翠と遊べば良いだろう」
「和歌を詠む子どもなんて、お兄ちゃんしかいないからだよ。一体、何首覚えてんのよ。即興で作ったり、おかしいでしょ」
 とても心外な評価だ。私だって、自分の趣味で覚えた物ではない。資料を渡されて、延々と歌を聞かされて、無理矢理覚えさせられたのだ。翡翠だって一緒にいたのだから、全部とは言わないまでも、いくらかは覚えているだろう。
「学校のカルタ大会で優勝しろと覚えさせられたのの他に、勅撰和歌集20冊くらいと、私歌集を数冊分だけだ。それらの歌を適当に組み替えて創作してるフリをしているだけで、自作したことはないぞ。『きみがため』を使えば、大体お父様は合格を下さる」
「相変わらず、芸術面が弱いな!」
「あとは、緑は髪ではなく、肌の形容にすれば良いだろう」
「マジ恋くらい、ちゃんと創作しなよ」
「そうだな。エスメラルダを思えば、50首くらいスッと浮かびそうだ」
「やめて、ホントやめて。聞きたくないー」
「やらないよ。エスメラルダに気味悪がられたら、生きていけないからな。ヘタ打つ気はない」
 人形遊びは、父が全員酒で潰れるか、夕飯の時間になったら終了なのだが、うちの父は全員、酒が強い。行商のおじさんに、酒精の強い物を入荷するよう頼んだのだが、持ってきてくれなかったのかもしれない。

「お兄ちゃん、酔っ払いがウザいなら、子ども部屋で遊ぼうよ」
 翡翠は、スッと立ち上がった。
「流石は、強靭担当。悪いが、私はついて行けない」
「なんでよ。ケンカ売ってんの?」
 翡翠が、睨んでくるが、私も引けない。
「なんで、私がおとなしくずっとここに座って、和歌なんて詠んでると思ってるんだ。逃げれるなら、とっくに逃げていた」
「そっか。着物が重くて動けないんだ。泣かないでよ。脱いじゃえばいいんじゃないの?」
「朝、やって見つかったから、脱げないようにされている」
「イジメじゃん。何やってんの。バカ父たちめ」
「朝から酒を飲む行事のためには、誰も味方になってくれない」
「何コレ。着物に釘を打たれて立てないようになってる!」
「そんなのは、序の口だ。中は、もっと恐ろしいことになっている。足は縛られて、崩すことも許されないんだ。だからって、倒れて寝ることもできないんだぞ。3人寄った文殊の知恵は、とんでもないな」
「そこ、関心するとこじゃないよね?」
「翡翠より可愛い顔で生まれたのが、悪いらしい。あと20年はいける、と言われた」
「マジで、ムカつくな」
「姿見で確認したら、確かに翡翠より可愛くなっていた」
「お兄ちゃんまで、そっち側か! なんなんだ。もう放っておいていい?」
「だから、さらに翡翠以上に可愛くならないように、助けて欲しい」
「助けてもらいたい気があるようには、思えないんだけど!」

 怒り狂った翡翠によって、父は全員、家から叩き出されたが、パパの家で飲み続けたらしい。
 私は、その後3日ほどそのまま放置されたので、ずっと翡翠より可愛く過ごした。無駄に、父たちに愛でられていたが、まつりが終わって猶、誰も助けてくれなかった。
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