母は何処? 父はだぁれ?

穂村満月

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27.タヌキの保護活動

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 次の日、朝食を食べていたら、お母様がやってきた。黒曜を預かりに来たのだろう。玄関前でウロウロするだけでなかなか入って来ないので、パパが迎えに行った。

「おはよう御座います、お母様」
「おはよう御座います、琥珀さま?」
 昨日、母の傷をえぐった結果、おかしな方向に変化したようだった。腫れ物扱いをされているのはわかるが、そんな変化は期待していなかった。
「シャルル、様はいらないんじゃないかな。気持ちはわかるけど、琥珀は怒ってると言うより、残念な親たちだな、って呆れてるだけだから。いや、怒ってなくはないな」
「ごめんね、琥珀」
 母は、わかりやすくしょげていた。だが、通常でも、こんなものだった気もする。反省したと決めつけるのは、早い。
「謝罪はいりません。黒曜から目をそらさないで下さい。最早、私は手遅れですので、お気になさらず」
「琥珀は、手遅れじゃないよ!」
「私の性能や将来性の問題ではありません。親に対する信頼関係を構築できるかどうかの問題です。もう傷付きたくないので、巻き込まないで下さい。最悪、親がいなくとも生活に不自由はしませんので、お構いなく。パパがパパでいてくれる間はスネをかじるのもいいかな、とここにいますが、不満があるなら、即消えます。その件だけは、ご意見を聞き入れましょう」
「琥珀のお父さんを教えたら、許してくれる?」
「聞きたい頃もありましたが、今はもう聞きたくありません。父も母もいらないのですよ。黒曜だけ育てて下さい。迷惑です」
 母に黒曜を預け、外に追い出した。私は、ひどい子どもになってしまった。

「泣くくらいなら、やらなきゃいいのに」
「落とし所も、折衷案も思い付きません。もう本当に、苦しいです」
「そんなものは、大人が考えればいいことだ。琥珀は、タヌキの国のことだけ考えていればいいよ」
「はい」
 しばらく、パパに甘えさせてもらった。私の父ではないのは、わかっているのに。私は、どうしたら良い子になれるだろう。
 妹の前では、お兄ちゃんを演じていたが、エスメラルダの前では何も取り繕っていなかったことに気付いた。このままでは、マズイのではなかろうか。好きだ好きだ言ってるだけの、情けない男だ。森で出会った時から、これっぽっちも格好良くしていなかった。今更、かっこつけても格好悪いと思うが、こういう場合、どう挽回したらいいのだろう。


 すっかり冷めた朝ごはんを食べたら、森に来た。タヌキの保護プロジェクトを遂行する。
 まずは、適当な木を切って、パパと2人で工作を楽しんだ。作ったのは、看板である。今のところ、このプロジェクトは看板以外のアイデアはないので、面白い形にこだわって、変な看板を沢山作った。
 書く文言も決まっている。
「タヌキを害する者は、私のテキだ! こはく」
 これで、村人は絶対に手を出さない。多分、誰か1人がこれを発見したら、村人全員に周知される。タヌキごときのために、私と敵対する村人はいない。こんな時だけ両親の威光を利用するのは最低だと思うが、タヌキのためだから許す。
「タヌキを害する者は、誅罰を与える。 黒髪の村 村長の息子」
 あまり来ないとは思うが、村人以外対策は、これでいいだろう。メイジーさんの身請けで知ったことだが、村長の息子は、かなりキツイ脅し文句として利用されていた。村長看板よりも、息子看板の方が、正論が通じない感じが出るだろう。私の切れるカードの中では、一番効力がありそうだ。冒険者ランクも使えるだろうか。スライムの息子を自ら名乗るのは、タヌキのためでも、嫌になってきた。折角作った看板を、全てへし折ってやりたい。

「ひとまず、これで古狸が人に殺されることはなくなると思うのですが、如何でしょうか。お父様への恨みを晴らす対象にならなければ、良いのですが」
「人相手なら、まぁある一定の効果は見込めるだろうけど、天敵は人だけじゃないよ」
 パパは、パパの名で、とんでもない内容の看板を作り、刺していた。ベイリーさんが、死んでしまうかもしれない。
「狐、犬、テン、肉食鳥あたりですか? それらからも守ってあげたい気持ちはあるのですが、あえて放置しようかと思っています」
「どうして?」
 パパは、何者からもタヌキを守りたい派らしい。母はタヌキではないだろうに、愛が深すぎる。
「私は、私の手でタヌキを殺したくないからです。守りすぎてタヌキが増えすぎたら、森が荒れるでしょう? 駆除するのは簡単ですが、やりたくありません」
「苦手なものを増やしてしまったね」
「いいのです。パパとお揃いですから」
「そうだね」
 優しいパパの子になれて、良かった。


 夕飯を食べ終わって、そろそろ寝ようかという時間に、黒曜を抱えて、お父様がやってきた。パパに黒曜を渡すと、私のところへ来て、写真がいっぱい載っている本を無理矢理押し付けてきた。
「好きなのを選べ」
「なんの話ですか?」
 本のタイトルは、『最新! ヘアカタログ2011』と書かれている。2011年は、かなり前に過ぎている。私が生まれる前の本だ。しかも、女性向けの本で、女の人しか載っていない。私の頭をこのどれかの髪型に変えるとか、意味がわからない。
「確かに、俺の趣味と琥珀の趣味は違うだろう。お前が好きなのは、どの女だ?」
「私の好みは、エスメラルダですよ。そのままのエスメラルダが好きだ、と言いましたよね? もうおボケになられたのですか」
 なるほど。譲歩しようとした訳か。バカだな。ママの顔にするのはおかしいとは言ったが、そもそも魔改造をやめろ、というのが、伝わっていない。
「人間になった上で、緑小鬼の顔でいるのは、可哀想だと思わないのか?」
「エスメラルダを誰かに奪われるくらいなら、詰られる方がマシですね。そのままで充分、可愛いのですから、元の顔が一番ですよ」
「わかった。俺が悪かった。俺の所為だ」
 お父様は、本を持って、エスメラルダのところへ行った。私への説得は諦めて、エスメラルダと話し合うことにしたらしい。建設的だとは思うが、諦めが早過ぎる。どうしても魔改造をやめられないようだ。
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