母は何処? 父はだぁれ?

穂村満月

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29.ダンジョン攻略

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 謎のダンジョンは、石のレンガで作られた地下道だった。大人が3人横並びで歩けるほどの幅で、家の天井と変わらないくらいの高さの通路が、どこまで続くのかわからないほど伸びている。どういう理屈か、石のレンガがほんのり光っているが、光源としては少し心許ない。
 少し留守にした程度で作れる規模の工作ではない。一体、いつから作っていたのか。バカ親のバカさ加減に、目眩を覚えた。
「大地の精霊様、尺短めの武器を御授け下さい」
 手の上に、緋色の短剣が現れた。なんで、いつもいつも暖色なのか。そして、宝石なのか。たまには、普通に鉄の剣とか出て来いよ。
「トパーズだ。可愛いね。使い終わったら、ちょうだい」
「ええ、いいですよ」
 私の所為だが、翡翠の部屋の宝剣コレクションが増えるばかりだ。キラキラ好きの女の子趣味なのか、物騒な刀剣マニアなのか、よくわからない部屋がパパの家にある。そろそろ気に入らなくても、リユースした方がいいだろうか。
「火の精霊様、10歩先に灯を燈し続けて下さい」
 それほど眩しくはない、星あかり程度の光の球を浮かべた。常時起動で、私の魔力がどれほどもつやら自信はないのだが、最速でエスメラルダを探すためには、出し惜しみはしない。
「風の精霊様、空を自由に飛ばせてください」
 頭のおかしいスライムが設置した罠は、宙に浮いた程度では避けきれないかもしれないが、浮いていれば多少被害も減るだろう。
「パパ、最速で救助を狙います。ここからは二手に別れさせて下さい」
「わかった。何かあったら、わたしを呼ぶこと」
「はい」
 普通にしていれば、どう考えてもパパの方が速いのだが、私に先に道を譲ってくれた。1歩目から何か仕掛けられているらしく、父さんは罠の解除と戦っている。
 私は、翡翠の手を掴んで、前に飛んだ。

「お兄ちゃん、私は一緒でいいの?」
 翡翠は、無抵抗で私にぶら下がっている。大人しくしているという言葉は、そういうことか。
「本当は、妹をこんな訳のわからない危険地帯に連れて来たくはないのです。ですが、今回は、最速でエスメラルダを見つけるための電池になっていただけると助かります」
「私にも、その口調なんだ」
「余裕がありません。自力で飛んでくれ!」
「はぁい」
 翡翠は、ようやく自分の魔法で飛び始めた。それに合わせて、速度を加速したが、手は離さない。右だの左だの指示を出すのも面倒だからだ。
 ダンジョン内は、沢山の分岐と行き止まりのある迷路だった。迂闊に全力で飛んでいると、壁に激突してしまう。だが、速度は緩めない。全力で飛び進み、全力ターンで激突を回避する。
 進行方向を変える度、行き止まりの激突を回避する度に翡翠は変な声をあげているが、無視した。私の妹は、世界最強の神竜の娘の半竜だ。私などより、余程丈夫にできている。大丈夫だ。魔力も分けてもらえるし、なんて便利な妹だろうか。黒曜は、珠のように大切にしよう。丈夫担当の妹と、愛でる担当の妹だ。妹の布陣は完璧だ。

「階段?」
 地下一階をぐるぐる回っていたら、下に降りる階段を見つけた。
 まだこの階をすべて探索を終えていないのだが、降りてもいいだろうか? あの性格の悪さなら、最奥でない場所にエスメラルダを隠すこともありそうだが。
「どちらでも同じですね」
 ここまでの道は、全て覚えている。上を探索仕切って下に降りても、下に進んで見つからず上に戻って探し直しても、違いがあると思えない。
 お父様の性格の考察と勘はあるが、正解はない。お父様は、調査依頼だと言っていた。ならば、最奥に行くことが想定されているだろう。素直に従って、未熟者め! と嘲笑われる確率が、如何ほどかということだ。嘲笑われたら、盛大に悔しがって、泣きながら自傷行為に走ればいい。あの阿呆は、お母様に泣かれるのが、一番堪える。手段は情けないし、死ぬほど痛い。あまりやりたくはないのだが、効果が見込めるのであれば、手段は選ばない。最悪のところまで、追い詰めてやってもいい。
 私は、浮いたまま、階段を下った。


 下った先も、似たような石レンガの地下道だったが、今度は、ところどころに小部屋があった。
 小部屋のサイズや形は、まちまちだ。どれも、お父様の家の囲炉裏の部屋よりは広そうなので、20畳から30畳といった広さではないかと思われる。部屋を通ると、箱が転がっていたり、噴水があったりするのだが、何の仕掛けだろうか。すべて無視して先に進む。

「あいつ、マジ殺す」
 しばらく進むと、生き物が現れた。小部屋の中に、緑小鬼が3人いて、私を見て騒いでいる。緑小鬼の中でも、最少種に分類されるスノットリングだ。戦闘力は大したことない。単純な肉弾戦なら負けるかもしれないが、魔法を使えば、どうということもない相手だ。だが、エスメラルダが好きだと公言しているところでの、この仕打ち。間違いなく、嫌がらせだ。エスメラルダとは違う種族だと、言い逃れするつもりでいるのかもしれないが。
「お兄ちゃん、わ、私が代わりにやるから」
 翡翠にも、スライムの思惑と私の気持ちがわかったのだろう。慌てているが、それでは意味がない。
「翡翠に危険が及ばない範囲での緑小鬼への攻撃は、許せません。できたら、倒さないで下さい。見たくありません」
「そんなぁ。じゃあ、エスメラルダは、どうするの?」
 翡翠の攻撃は、卑怯な手を使って封じた。阿呆の思うがままになってたまるか。
「勿論、見捨てるなんて、論外ですよ」

 私は、スノットリングの頭上を飛び越えて、先に進んだ。
 きっと皆殺しにして、先に進ませたいのだろう。次から次へといろんな緑小鬼に出会った。階を下ると種類が変わり、少しずつ大きな種類に変更していくらしい。
 大きくなれば、それだけですり抜けが困難になる。天井ギリギリのサイズ、全部合わせると横幅いっぱいのウルクハイの部屋は、どうにもならないので、死なない程度に吹き飛ばして、無理矢理通るしかなかった。
 魔法で遠距離攻撃をしてくる緑小鬼がいたり、スピード特化の緑小鬼がいたり、変なものが出てくる度に殺意を覚え、それを抑え込むのが大変だった。
 今のところ、エスメラルダもエスメラルダの種も出てこないが、緑小鬼以外も出て来ない。間違いなく、嫌がらせで決定だ。
 自分の手を汚すことなく、緑小鬼の死を見届けることなく、すべて無視して脇をすり抜け、先へ進んだ。緑小鬼を倒すのは容易い。エスメラルダ以外の緑小鬼など、死んでもなんとも思わない。だが、殺してやらない。


 もう迷路を作る手癖も見切った。迷うことなく、先へ突き進んだ。そのまま地下10階まで降りると、階段への通路が塞がれた。この階は、通路がなく部屋1つで終わりらしい。ようやく最奥にたどり着いた。
 その部屋には、緑小鬼が2人いた。1人は、エスメラルダで、もう1人もエスメラルダだった。2人で追いかけっこをしている。とても悪趣味な光景だった。
 翡翠の手を離し、最速でエスメラルダをすくいあげた。
「遅くなって、申し訳ありませんでした」
 酷い目にあっていただろうにエスメラルダは、可愛い微笑みを見せてくれた。
 私がすくいあげたのは、追いかけられていた方のエスメラルダだ。追いかけていたエスメラルダは、魔改造前のエスメラルダの顔をしたエスメラルダだった。こちらの方が顔は可愛いが、エスメラルダ本人ではない。
 お父様、その顔を覚えてらしたのですね! と感動するとでも思ったのだろうか。緑小鬼のエスメラルダが誰かを襲う姿を見せて、だからダメだと言っただろう? と勝ち誇る予定だったのか。
 ひとまず偽エスメラルダを檻に閉じ込め、翡翠の元に戻った。翡翠は、地面の上でぐったりとしていた。何をしているのだろうか。
「翡翠、お願いを聞いていただけますか?」
「うーん。聞けることなら、聞くかなぁ?」
 改めて見ると、翡翠もスライムのようだった。流石、あの男の娘である。兄の特技が女装で、妹の特技がスライムとは、黒曜の将来が心配だった。
「エスメラルダを連れて、転移で家に帰って下さい。可能であれば、パパと父さんの回収も、お願いします」
「お兄ちゃんは?」
「あちらのエスメラルダと、しばらく戯れようと思います。顔だけは、そっくりなので」
「何言ってるの? お兄ちゃん。あっちは、エスメラルダじゃないでしょう?!」
 スライムになっていたのは、なんらかの営業活動だったのか、丈夫な翡翠は、起き上がって、こちらを睨んだ。
「お父様が、前に言っていたんだ。エスメラルダが分裂した場合は、両方を愛せばいいのだと」
 芝居がかった、わざとらしい仕草で言ってのけた。阿呆本人が居ない場所でやったところで意味はないのだが、翡翠になら、真意が伝わると信じている。
「あんの、くそお父様め! あんなのに付き合って、痛い思いをすることないよ。やめなよ」
「それはそうだと、心の底から思っているんだけどね。お母様と、どうにもならないケンカをすればいいのに、と思わずにはいられないし、お母様にも思うところがあるんだ。
 それに、あれはきっとエスメラルダではないけれど、エスメラルダからできている。殺されても本望だ。攻撃力が低そうだから、苦痛は長引きそうだけどね」
 翡翠は、エスメラルダと私の腕を取り、空間転移を強行した。その結果、部屋に残ったのは、偽エスメラルダと私だけ。
 翡翠の魔法をこっそり妨害してやったのだ。お父様の教えは、時々役に立つ。今頃、怒り狂っているだろう。
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