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30.スフェーン
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「美しい君。貴女の名は、スフェーンと名付けましょう」
私は、偽エスメラルダ改めスフェーンに向き直った。
名を付けたら大人しくなると聞いていたが、スフェーンの様子は、まったく変わらなかった。ギョギョギョと言いながら、檻から出ようと暴れるのみだ。やはり、名付けなど何の意味もないじゃないか。
しかし、何を言っているのやら、まったくわからない。エスメラルダが人語を解すので放置していたが、やはり緑小鬼語を習っておくべきだった。それとも、エスメラルダに通訳してもらえば良かったか。エスメラルダには、暢気に楽しく暮らして欲しいので、家に帰してしまったが。
「風の精霊様、私の周囲の空気をいつもの手順で硬化させて下さい」
出鱈目な防御魔法を施した後、スフェーンを檻から解放した。一般的な緑小鬼の攻撃方法なのだろうか。瞬く間に、殴る蹴るの集中砲火を浴びた。エスメラルダの顔でやられるのは、とても悲しくなる。でも、それだけだ。
私が精霊にお願いしたのは、身体の外周に見えない盾を作ることだ。力で押し切られれば、私の小さい身体など簡単に吹き飛びそうなものだが、どうしたことだか、それもない。精霊との意思の疎通も難しいのだが、今回はいいように捉えてくれたのだろう。
魔法を使うためには、呪文が必要だ。人間と精霊の間で意思の疎通をきちんとはかれる言葉でなければ、思う結果は得られない。私が普段使っている魔法は、そういう意味では、魔法ではない。魔法使いの呪文とは全く異なる言葉で、魔法を実現している。神龍であるお母様に媚びを売りたい精霊たちの足下を見た、脅迫に近いお願いなのである。だから、ある程度適当でも魔法は発動する。精霊に様と付けてはいるが、本当は、そんな十把一からげな呼び名では、応えてもらえない。それぞれ持っている名を呼ばなければならない。頑なに名を呼ばないから、精霊に嫌われてるんだよ、と翡翠は言っていた。
おかげさまで、暖色の剣しか出て来ないし、以前この魔法で窒息しそうになったり、余計な経験も沢山している。
「これも使っていいよ」
トパーズの短剣を地面に転がしてやると、スフェーンは拾って、私を刺しだした。刺さらないけれど。
「その使い方だと、刃が欠けるかもしれないよ」
しばらく観察してみたが、やはりスフェーンは、見た目が同じだと言うだけで、エスメラルダとは、まったく違うようだった。残念なような、エスメラルダの希少性を再認識したような、なんとも言えない気持ちになった。本当なら、この顔がエスメラルダなのに。
「大地の精霊様、スフェーンの檻に入れて下さい」
今度は、2人で一緒に檻の中に入った。
「これが、スフェーンだよ。光の角度によって、いろんな色に輝く。ファイアもキレイな石だろう? 美しい君の名に相応しいと思いませんか」
続いて、柵を1本魔法を使って、折り取った。その棒をスフェーンに突きつけて言う。
「私は、貴女より強い。抵抗しても、無駄に痛い思いをするだけでしょう」
「琥珀! 無事か?」
スフェーンとお話し合いをしていたら、家族総出で、転移してきた。翡翠が頑張って、全員集めたらしい。お父様が、そこはかとなくくたびれているような気がするのが、とても愉快だ。
「皆様、お揃いで、どうなさったのでしょう?」
私は、スフェーンの膝に座ったまま、ニンマリと笑った。
「「「「「!!」」」」」
皆、私が無抵抗で殴られて、ズタボロになっている想定でやってきたのだろう。心配してるだの、許せないだの、いろいろ言ってはくるものの、どうせ死なないからまぁいいや、という気持ちがあるのが、透けて見える。助けに来るのが、遅すぎるんだよ。
「そうそう。皆様に是非、紹介したい人がいるのです。お父様の紹介で、素敵な出会いがありました。スフェーンと名付けたのですよ。美しい人でしょう?」
なるべく瞳を潤ませて、なるべく頬を朱に染めて。
好きなように表情を取り繕うのは、得意なのである。なんとかお父様を手玉に取れないか、修行に修行を重ねた成果だ。泣きまね程度では落とせないなら、本気で泣いてみせればいいと思った。泣いても気にしてもらえないと、できるようになってから、体感したが。研鑽を重ねた今では、翡翠以外には、概ねバレない。
「タヌキは自然に還して頂きたいですが、ここは緑小鬼王国にしていただいても構いませんよ? 魔改造は、禁じますけどね」
スフェーンに抱きついて、笑顔で言い切った。
これで、またお父様が叩かれることだろう。痛い思いもしないで済んだし、いい気味である。
タヌキ王国の件は謝罪があったが、緑小鬼王国に関しては、駆除モンスターだからと全会一致で否決された。腹が立つ。
「ここは、私が作ったのでも、私が緑小鬼を集めてきた訳でもないのに、与えておいて取り上げるのは、ひどい仕打ちですね」
と、涙を流して愚痴っていたら、なんとお父様が認めて下さった。
バカスライムは、私が緑小鬼好きならば、と緑小鬼を集めてきたそうだ。すごいバカだ。私は、エスメラルダは好きだが、別に緑小鬼が好きな訳ではない。100歩譲って好きだったとして、ダンジョンモンスターとして採用するのは、おかしい。なんで好きな生き物を、殺して歩かないといけないのだ。
お父様に対する誤解は一部解けたが、より一層嫌いになったのは、何故だろう。
村長のお父様が許してくれれば、村の皆が許してくれる。まったく尊敬するところがわからないお父様だが、村人からは崇拝されているのだ。お父様とお母様が立村の立役者だから、その記念の銅像が村にある。確かに銅像は古そうなのだが、年齢的に立村時には生まれていないのだ。意味がわからない。
ともあれ、後は、パパや父さんに討伐されない様に気を付けるだけだ。
私は、ダンジョン内の全ての緑小鬼をしばき倒して服従させ、緑小鬼キングになった。全員、私の支配下においたので、勝手にダンジョン外に出ることを禁止した。これで、村は安全だ。出たところで、緑小鬼より弱い村人など赤子くらいしかいないだろうが、赤子の危機は、黒曜の危機だ。見逃すわけにはいかなかった。
緑小鬼の食い扶持は、お父様に丸投げしておけば良い。お父様が勝手に集めてきたのだ。責任を取って、養わせればいい。お父様は、女を1人増やすよりは安上がりだ、と簡単に請け負ってくれた。珍しくありがた便利なお父様だったが、そんな例え話は聞きたくなかった。
私は、偽エスメラルダ改めスフェーンに向き直った。
名を付けたら大人しくなると聞いていたが、スフェーンの様子は、まったく変わらなかった。ギョギョギョと言いながら、檻から出ようと暴れるのみだ。やはり、名付けなど何の意味もないじゃないか。
しかし、何を言っているのやら、まったくわからない。エスメラルダが人語を解すので放置していたが、やはり緑小鬼語を習っておくべきだった。それとも、エスメラルダに通訳してもらえば良かったか。エスメラルダには、暢気に楽しく暮らして欲しいので、家に帰してしまったが。
「風の精霊様、私の周囲の空気をいつもの手順で硬化させて下さい」
出鱈目な防御魔法を施した後、スフェーンを檻から解放した。一般的な緑小鬼の攻撃方法なのだろうか。瞬く間に、殴る蹴るの集中砲火を浴びた。エスメラルダの顔でやられるのは、とても悲しくなる。でも、それだけだ。
私が精霊にお願いしたのは、身体の外周に見えない盾を作ることだ。力で押し切られれば、私の小さい身体など簡単に吹き飛びそうなものだが、どうしたことだか、それもない。精霊との意思の疎通も難しいのだが、今回はいいように捉えてくれたのだろう。
魔法を使うためには、呪文が必要だ。人間と精霊の間で意思の疎通をきちんとはかれる言葉でなければ、思う結果は得られない。私が普段使っている魔法は、そういう意味では、魔法ではない。魔法使いの呪文とは全く異なる言葉で、魔法を実現している。神龍であるお母様に媚びを売りたい精霊たちの足下を見た、脅迫に近いお願いなのである。だから、ある程度適当でも魔法は発動する。精霊に様と付けてはいるが、本当は、そんな十把一からげな呼び名では、応えてもらえない。それぞれ持っている名を呼ばなければならない。頑なに名を呼ばないから、精霊に嫌われてるんだよ、と翡翠は言っていた。
おかげさまで、暖色の剣しか出て来ないし、以前この魔法で窒息しそうになったり、余計な経験も沢山している。
「これも使っていいよ」
トパーズの短剣を地面に転がしてやると、スフェーンは拾って、私を刺しだした。刺さらないけれど。
「その使い方だと、刃が欠けるかもしれないよ」
しばらく観察してみたが、やはりスフェーンは、見た目が同じだと言うだけで、エスメラルダとは、まったく違うようだった。残念なような、エスメラルダの希少性を再認識したような、なんとも言えない気持ちになった。本当なら、この顔がエスメラルダなのに。
「大地の精霊様、スフェーンの檻に入れて下さい」
今度は、2人で一緒に檻の中に入った。
「これが、スフェーンだよ。光の角度によって、いろんな色に輝く。ファイアもキレイな石だろう? 美しい君の名に相応しいと思いませんか」
続いて、柵を1本魔法を使って、折り取った。その棒をスフェーンに突きつけて言う。
「私は、貴女より強い。抵抗しても、無駄に痛い思いをするだけでしょう」
「琥珀! 無事か?」
スフェーンとお話し合いをしていたら、家族総出で、転移してきた。翡翠が頑張って、全員集めたらしい。お父様が、そこはかとなくくたびれているような気がするのが、とても愉快だ。
「皆様、お揃いで、どうなさったのでしょう?」
私は、スフェーンの膝に座ったまま、ニンマリと笑った。
「「「「「!!」」」」」
皆、私が無抵抗で殴られて、ズタボロになっている想定でやってきたのだろう。心配してるだの、許せないだの、いろいろ言ってはくるものの、どうせ死なないからまぁいいや、という気持ちがあるのが、透けて見える。助けに来るのが、遅すぎるんだよ。
「そうそう。皆様に是非、紹介したい人がいるのです。お父様の紹介で、素敵な出会いがありました。スフェーンと名付けたのですよ。美しい人でしょう?」
なるべく瞳を潤ませて、なるべく頬を朱に染めて。
好きなように表情を取り繕うのは、得意なのである。なんとかお父様を手玉に取れないか、修行に修行を重ねた成果だ。泣きまね程度では落とせないなら、本気で泣いてみせればいいと思った。泣いても気にしてもらえないと、できるようになってから、体感したが。研鑽を重ねた今では、翡翠以外には、概ねバレない。
「タヌキは自然に還して頂きたいですが、ここは緑小鬼王国にしていただいても構いませんよ? 魔改造は、禁じますけどね」
スフェーンに抱きついて、笑顔で言い切った。
これで、またお父様が叩かれることだろう。痛い思いもしないで済んだし、いい気味である。
タヌキ王国の件は謝罪があったが、緑小鬼王国に関しては、駆除モンスターだからと全会一致で否決された。腹が立つ。
「ここは、私が作ったのでも、私が緑小鬼を集めてきた訳でもないのに、与えておいて取り上げるのは、ひどい仕打ちですね」
と、涙を流して愚痴っていたら、なんとお父様が認めて下さった。
バカスライムは、私が緑小鬼好きならば、と緑小鬼を集めてきたそうだ。すごいバカだ。私は、エスメラルダは好きだが、別に緑小鬼が好きな訳ではない。100歩譲って好きだったとして、ダンジョンモンスターとして採用するのは、おかしい。なんで好きな生き物を、殺して歩かないといけないのだ。
お父様に対する誤解は一部解けたが、より一層嫌いになったのは、何故だろう。
村長のお父様が許してくれれば、村の皆が許してくれる。まったく尊敬するところがわからないお父様だが、村人からは崇拝されているのだ。お父様とお母様が立村の立役者だから、その記念の銅像が村にある。確かに銅像は古そうなのだが、年齢的に立村時には生まれていないのだ。意味がわからない。
ともあれ、後は、パパや父さんに討伐されない様に気を付けるだけだ。
私は、ダンジョン内の全ての緑小鬼をしばき倒して服従させ、緑小鬼キングになった。全員、私の支配下においたので、勝手にダンジョン外に出ることを禁止した。これで、村は安全だ。出たところで、緑小鬼より弱い村人など赤子くらいしかいないだろうが、赤子の危機は、黒曜の危機だ。見逃すわけにはいかなかった。
緑小鬼の食い扶持は、お父様に丸投げしておけば良い。お父様が勝手に集めてきたのだ。責任を取って、養わせればいい。お父様は、女を1人増やすよりは安上がりだ、と簡単に請け負ってくれた。珍しくありがた便利なお父様だったが、そんな例え話は聞きたくなかった。
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