母は何処? 父はだぁれ?

穂村満月

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31.幕間、琥珀女子会、シャルル視点

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 出産のために、ちょっと里帰りをして家を留守にしていたら、大事な息子がグレていた。賢く礼儀正しく可愛い子だったので、とても驚いた。
 普段から旦那たちに任せっぱなしで、ほとんど構っていなかった上に、出産のことを秘密にしていたのが良くなかったようだ。今なら、悪いことをしたな、と思うのだが、当時は恥ずかしくて言えなかったのだ。傷付けてしまって、後悔はしているが、もう1人授かることがあっても、言える自信はない。
 それにしても、思い切りのいい自傷行為は、とても胸が痛くなった。死なないように処置はしてあったものの、本当に身体が震えた。あんなに怒りを溜め込んでいるのに、こちらへの配慮しかない提案しかしないことに、本気で反省しなければ、と思った。
 とはいえ、いざ向き合おうと思っても、どうしたらいいか、わからなかった。その上、余計に傷付けるから、しばらく会うな、と言われてしまった。
 琥珀本人に、はっきりともう無理だと告げられたが、あの子は優しい子だ。子どもに構う時間がない時も、せめて裏を取れと助言してくれた。だから、会えないなりに出来ることを探してみることにした。


「今日は、集まってくれてありがとう。ええと、琥珀には、バレてないかな。できたら、秘密でお願いします」
 今日は、琥珀が気にしていた女性問題の関係者の皆様に、話を聞かせて欲しいと、お願いした。
 4歳の息子の女性問題って何だろう。私がその年頃には、男の子の友達がいたかどうかすら記憶にない。お父さんと公園に行ったり、お絵描きしたりしていた時期ではないかと思う。
 話を聞くために集まってもらったのは、翡翠と、メイジーちゃんと、エスメラルダちゃんだ。翡翠は生まれた時から知っている我が子同然の子だが、後の2人は初対面だ。里帰り前には、村にいなかった子だ。2人とも、両親はおらず、身一つで村に来たらしい。その経緯に息子が関わっているのであれば、確かに親として知っておかねばならない事項だろう。出産を隠していたのもダメだし、これを知らないのもダメだ。納得しかない。
「お母様、その秘密主義が、お兄ちゃんを不信のかたまりにしてると思うよ」
 翡翠も、琥珀と同じ4歳だ。なんで、うちの子たちは、こんなに賢く育ったのだろう。自分の不甲斐なさが身に染みてツラくなる。
「もう自分のことに構わないでって言われた手前、知られてまた自傷行為に走らないかが、怖いんだよ。嫌われるだけなら我慢するけど、もう泣かせたくないんだよ」
 許してもらえるなら、許してもらいたい。だけど、それよりも、琥珀が笑える状況にしてあげたい。

「じゃあ、まずはメイジーさんからね。
 お兄ちゃんが、ある日突然家出して、ベイリー伯父さんのところに転がり込んだんだけどさ。何があったのか、急に女の子を身請けしたいって言い出して、命懸けでお金作って娼館から請け出したのに、後は興味ないって、ママに預けてる女の子なの」
 ざっくりとした簡単な説明だけで、聞きたくない言葉がゴロゴロ出てきた。スタートから、衝撃の嵐だ。これを気付かず、放っておいたなんて、確かにひどい。
 メイジーちゃんは、狐色の髪になかなか整った容姿をしていた。少し年が離れている様な気はするが、息子の初恋の相手だと言われれば納得できる可愛いらしい女の子である。
「初めまして、メイジーと申します。
 琥珀くんとの初対面は、娼館の庭でした。大切なリスを探していると泣いていたので、探す手伝いをしました。リスが見つかったら、琥珀くんは喜んで、100万もの大金を置いて帰って行きました。
 それだけの仲だったのに、数日後、身請けがしたいと伯父様連れで現れて、大変驚きました。渡りに船と、受けたのですが、まだ琥珀くんは身請けが何なのか、わかっていない様子でした。
 お金がなくて困っている人を助けただけみたいでしたが、その年で女を連れ帰ってくるなんて、と叱られる琥珀くんには、申し訳ないことをしたとも思っています」
「そんなことが。うちの息子が、済みません」
 なるほど。話を聞いて、納得した。なんで娼館だよとか、なんで身請けだよとか言う疑問は、あらかた解消された。それが正しいかは別として、行動原理は理解した。女性問題よりも、金銭感覚や、伯父との付き合いに問題があるような気がする。いや、その前の家出が、諸悪の根源か。
「いえ。憧れて入ったお店ではありませんし、大きくなって買われた子なので、上級にもあがれません。禿のうちに抜けられて、幸運でした。琥珀くんに出会えて、とても嬉しく思ってます」
「そうですか。そう言って頂けると有り難いです。何かあったら遠慮なく教えて下さいね。可能な限り対応します」
「はい。お嫁さんになれる様、私も努力します」
 ん? 嫁? あれ? 話が。あれ?

「翡翠は、身請けのお金がどこから出てきたか、知ってる?」
 女性問題の前に、金銭感覚に切り込んでみた。
「家出して、村を出たところで、たまたま飛竜に狙われて倒したのと、それを売り払いに行ったら、伯父さんが困ってて、緊急依頼で飛竜を倒したのが、メイジーさんにあげた100万と、もうちょっと。
 その時、伯父さんが人前で、どかんとお金をくれてね。お兄ちゃんが、追いはぎに狙われて、みんな捕まえて、伯父さんに説教したの。その前に、勉強の学習年齢が18歳だって言ったから、伯父さんはお兄ちゃんが、18歳相当の常識があるんだと勘違いをしたんだと思う。
 そこで、急に身請けしたいって言い出して、火蜥蜴討伐に出かけて死にかけたのに、特に気にせず身請け話しかしないから、伯父さんがいよいよ勘違いして、お兄ちゃんの一世一代の恋を叶えてやろうって、2000万くらい積んでたよ」
 ちょっとバイトしたら、2000万!? そりゃあ、親なんていなくてもなんとかなると、言うのも納得した。琥珀なら、そんな苦労をしなくてもお金を稼ぐ方法がある。確かに、変な親ならいらないな、と自分でも思った。


「メイジーさんのことで皆に怒られて、嫌になったお兄ちゃんが、また家出したんだけど、その時に連れて帰って来たのが、エスメラルダなの。
 エスメラルダは、同族にイジメられてたから助けてみたけど、その後どうしていいかわからないから、相談しようと思って、連れてきたんだって、お兄ちゃんが言ってた。
 メイジーさんの時に、ちゃんとした大人に相談しろって、私がお父様を推薦しちゃったの。お兄ちゃんがワガママ言っても跳ね返すから、丁度良いかと思ったの。
 だけど、エスメラルダが緑小鬼だったから、話をする前に殺されそうになって、大切な存在だから殺さないで欲しいって言って。
 その時点では、そこまでの想いじゃなかったかもしれないのに、お父様がなんとかするって、エスメラルダを人間に改造し始めて、お兄ちゃんが怒って、もうどうしようもないから、責任を取って、エスメラルダを嫁にしたいって、今一番大切にしてるの」
 琥珀が緑小鬼を可愛がって困ってる、と聞いていたのに、翡翠の話が本当なら、どう考えても悪いのは、シュバルツだ。父親たちの話を真に受けるな、裏を取れ、と言うのもわかる。私もいけないのはわかっているけれど、あまりの結果に頭がくらくらした。


「お母様が知らなくちゃいけないのは、それだけじゃないの。エスメラルダを連れ帰ってきた後、お兄ちゃんは誘拐されて、2週間くらい行方不明になったの。
 お兄ちゃん自体は、誘拐された家で楽しく過ごしてたみたいなんだけど、そこの家族とすごい仲良しで、そっちの方が本当の家族みたいだった。
 お兄ちゃんは、新しい家族が大好きだって、自分が変わったんじゃなくて、家族の態度が違うだけなんだって言って、楽しそうに歌ったり、踊ったり、楽器弾いたりしてたの。毎日詰め込まれてる勉強なんかより、信じられないくらいの覚えの良さだった。笑顔で、魔法なしの3回宙返りとかするんだよ。おかしいよね?
 すごいショックだった。私も、あんなお兄ちゃんにしてあげたかった。あんなに追い詰められてたお兄ちゃんを、たった2週間で復活させたんだよ。勝てないよ」
 誘拐。今まで、これっぽっちも知らなかった。家出に家出に誘拐。私が3ヶ月ちょっと留守にしている間に、琥珀は何日家を留守にしていたのだろうか。まったく知らないって、ひどすぎる。それでも親か。琥珀は、まだ4歳なのに。
 本人が異常に賢くて、魔法の所為でそこそこ強くて、魔法で死なないようにしてあって、優しいいい子だからと、ちょっとアグラをかきすぎだ。
 これは、琥珀はまったく悪くない。琥珀の行動がおかしいことを含めて、全面的に親の責任だ。ごめんね、じゃねーし。バカか。

「翡翠、琥珀を見守ってくれてて、ありがとう。おかげで、翡翠も琥珀も何も悪くないって、わかったよ。どうしたらいいかは思いついていないけど、後は私が頑張るから、時間をもらってもいいかな」
「うん」
 何故か、琥珀の子守りに利用されている翡翠も、まだ4歳なのだ。この子も守ってあげなければならない存在なのだ。
 今にも泣きそうな顔をしている翡翠を膝に座らせ、抱き寄せた。黒曜とは、まったく違う重みに驚いた。私は、いつ以来、琥珀を抱っこしていなかったろう。ある程度大きくなったら、抱っこは旦那任せで、いない時は自力で歩かせていた。拒否されてから、抱っこしたいと思うなんて。


 どうしようかと、頭を巡らせている間に、子どもたちは楽しそうにおしゃべりに興じていた。小さな女の子たちが、はしゃいでおしゃべりする姿は、とても癒された。
「エスメラルダは、本当に琥珀くんに好かれてると思うの。琥珀くんの好みの女性像そのまんまって聞いたんだけど、好みが何か知っている?」
「あ、翡翠も聞きたい。お兄ちゃん、最近、冷たいし」
「こ、はく様? すきな女性、料理上手。あと、口を開かない」
「料理だけして黙ってろ、ってこと? 何それ、ひど! エスメラルダ、本当にお兄ちゃんでいいの? 嫌じゃない?」
「こはく様、大すき。がんばる」
「ええ、私も頑張るわ! とりあえず料理ね。今度、教えてくれない?」
「それか! お兄ちゃんは、それがいいのか。もう、はいいいえすら言わずに、微笑んでうなずいてろって、亭主関白すぎない?」
「でも、確かに、エスメラルダが可愛い説に、とっても納得したわ。緑小鬼をエスメラルダとかスフェーンとか名付けるセンスに疑問を感じていたけれど、エスメラルダは可愛いわ」
「エスメラルダは、半分人間だけど、スフェーンは完全に緑小鬼だからね。抱きついて『君は美しい』とか言うんだよ。怖くない?」
「顔しか見てない娼館の客より、いいじゃない。容姿より中身で勝負させてくれるんでしょ?」
「違うと思う。緑小鬼の顔が好きなんだよ」
「それは、リスクが高いわね」
 興じる姿は可愛らしかったが、話す内容にまた不安をかき立てられた。
 女の子たちに、人気なうちの子すごい! だけど、趣味をこじらせているのは、きっと私たちの所為だ。お嫁さんは、できたら人類の枠に収まっていて欲しかったのだけど、今の私は、口を挟める立場ではない。


 琥珀には、手紙を書いてみようと思う。何度でも読み返して粗探しができる手紙は、ハードルが高い。だけど、なんとか仕上げてみよう。まずは伝えたいことを箇条書きにしてみることからだ。
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