母は何処? 父はだぁれ?

穂村満月

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38.赤子男に絡まれる

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 気持ち悪い兄さんは、余計なことを言ったのだが、赤子男は喜んだ。
「ガキ相手に可哀想だが、僕は大変頭がいい。識字レベルも計算も、先生に褒められてるんだ!」
「それは、素晴らしいですね。私には敵いそうもありません! キリンジくんも、びっくりしています」
 よし! 褒めどころが見つかった。この人は、賢いので売ってる人だ。すごい賢い。びっくりした。褒め殺すから、帰ってくれ。
「何言ってるの、お兄ちゃん。識字レベルとか言ってる時点で、敵じゃないじゃん。うちの村の公用語は、日本語だよ? それなのに、今普通に標準語喋ってるし。お兄ちゃんは、こないだ語学検定3つ受かったんでしょ? 計算だって、きっと四則演算ができるレベルで自慢してんだよ。そんなん翡翠だってわかるし、話にならないよ」
 何故だ。どうして私の努力を水泡に帰すんだ。翡翠は、私の味方じゃないのか。そんなに赤子男と会話を楽しみたいのか。
「四則演算?」
「足し算、引き算、かけ算、割り算だよ。知らないの? うちの村では、そんなん6歳前に全員できるようになるから。お兄ちゃんなんて、村の3強だよ? 神龍、村長、お兄ちゃんだから。その辺の大人が束になったって勉強じゃ勝てないのが、お兄ちゃんだよ。教師だって、勝てないんだから」
「琥珀くんは、すごいんだねぇ」
 翡翠もお兄さんも、私の敵だというのが、わかった。

「勉強だけの頭でっかちか! それなら、剣だ! 弓だ! 僕は、身体を動かすのも得意だぞ!」
 そうか! 他にも特技があったか。でかした!
「それは、敵いそうにないですね。私は4歳ですし!」
「琥珀くんは、見るからに黒髪の魔法使いだろう? 剣なんて持ってきても、魔法で吹き飛ばされるんじゃないかな」
「お兄ちゃん、剣も使えるよ。ちょっと前に、剣で飛竜倒してたし」
「飛竜を? それは、すごいね」
「冒険者なら、ソロでSランク相当だって、しぶちょーの伯父さんが言ってたよ」
 お前たちは、どこまで私の邪魔をするのか! いい加減にしろ。だが、飛竜は魔法で倒していたことは、ダサいから秘密だ。

「うぅっ、げ、芸術はどうだ! 私は、ダンスも得意だぞ!」
 妙な自信を持っているだけあって、なかなか多芸なようだ。素晴らしい。
「それは、敵いそうにありません。なんといっても、私は、昨日習い始めたところですから!」
 今度こそ、やっと本心から負けたと認めよう!
「後方伸身宙返り2回ひねり後方屈身宙返りができるとか言ってた人が、何言ってるの? 昨日だって、結局、1回見ただけで、課題ダンスを先生より上手に踊ってたじゃん」
「それは、一緒に踊ってみたいね」
「誰が男と踊るものか」
「お兄ちゃん、暗黒面が漏れてるよ」

「翡翠、お兄さん、お二人にお話があります。この小さお兄さんは、こんなに頑張って主張してらっしゃるのですよ。何故、否定ばかりするのですか? 褒めてあげましょうよ。素晴らしいことじゃないですか」
 そもそも、うちの村の基準がおかしいのだ。神を超えろとか言う、私向け水準がおかしいのだ。これだけ堂々と主張できるのだ。彼の努力は、並々ならぬものがあるのだろう。寝てる間まで勉強漬けにされている私には、わかる! 彼は、努力の人だ!
「だって、お兄ちゃんの方がすごいし。この人なら、翡翠でも勝てそうだし」
「多分、同じ年になっても、琥珀くんは可愛いままだと思うから」
 全然、私の思いは伝わらなかった。なんだ、こいつら仲良しか。

「なんで、そんなに小さいくせに、そんなんできるんだよ。嘘だ。絶対に嘘だ!」
 ああ、もう面倒臭い。赤子男が、ちっとも引いてくれない。翡翠たちの所為だ。
「私は、生まれ落ちたその日から、ずっと勉強漬けでした。語学に慣れ親しむ様、日替わりで我が家の公用語が変わりましたし、ずっと外国語の歌を聞かされて育ったそうです。長じてからも、習得課目が増えただけで、環境は変わりません。食事中も入浴中も睡眠中も、勉強から逃げさせてはもらえません。嫌でも覚えてしまうのですよ」
「寝てる間なんて、どうやって勉強するんだよ。適当なことを言ってるんじゃねぇよ!」
「ずっと変な歌を聞かされ続けるのです。不思議と覚えているのですよ」
 私も絶対覚えないと主張しているのだけどね。
「剣は、父に教わりました。父は、元Sランク冒険者ですから、先生には不自由しません。ここ最近は、日に数回死ぬくらいのめり込んでいるので、多少は使えるようになったと思います。
 最近の先生は、緑小鬼だけれども。駆除されると困るから、言わない。
「ダンスは、誘拐先の手習で覚えました。拒否権はありませんし、覚えるしかなかったのです。楽器も習いました」
「、、、、、お前、苦労してるんだな。一緒に踊ってくれないか?」
 なんでだよ。お前、男だろ。私も男だぞ? 女形は得意芸だが、今日は絶対にやらないからな。孫自慢に女装はいらない。絶対だ。
「私は、ベンガラくんと翡翠とキリンジくん以外と踊る予定は御座いません」
「じゃあ、楽器だ。楽器って、何弾くんだ?」
 芸は披露しない予定だったのに。弾いたら満足して、どこかへ行ってくれるなら構わないが。いっそ完膚なきまでに叩きのめしたら、いいのだろうか。
「翡翠、何か楽器を持ってるか?」
「お兄ちゃんと言えば、フィドルでしょ。リコーダーとか吹き出したら、怒るから」
 どういう基準かわからないが、翡翠は亜空間からフィドルを出してくれた。一緒に弾くと言って買ってもらったくせに、まったく弾かない翡翠用の楽器だ。
「借りるぞ」
「弾くなら、楽師を止めてこよう。少し待っててくれるかな?」
 部屋の隅の方に、茶会BGM用の楽器部隊がいる。大して弾く気はないので、そのままでいいかと思ったのに、お兄さんは止めに行ってしまった。本当にいらないお兄さんだ。
 音が止まれば、注目度が上がってしまう。真面目に弾かないといけなくなるだろう。ワンフレーズだけ弾けばいいか、という予定が崩された。
 仕方がないから、BGMが止まった時点で、即演奏を始めた。お兄さんの着席なんて無視だ。戻って来なくていい。
 スペイン交響曲を弾いた。今一番、黒曜ウケがいい曲だ。誰も知らない曲を弾くのが、ハードルが低くて良い。俺、それ2歳の時弾けたし! とか言われることもないだろう。
 一曲弾き終わったら、楽器を翡翠に返した。楽師の仕事を奪う気はない。私は、演奏家になるつもりがないのだ。人前で弾く必要もない。
「お前、すごいんだな」
 赤子男は、泣いていた。なんでだ。どんな心境の変化だ。気が済んだなら、もうどこかへ行ってくれよ。
「さっきも名乗ったから知っていると思うが、僕の名前は、ブライスだ。是非、友人になってくれ」
「全力で、お断り致します」
 お前の名など、初めて聞いた。もう忘れてしまいたい。
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