僕は本当に幸せでした〜刹那の向こう 君と過ごした日々〜

エル

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大学生編

30


ーside 桐生玲人ー


慶太が出て行って。

雨が降り出して。

どんどん激しくなって。


すぐに戻ってくるのだと思っていた。

あいつには他に行くところなどないから。

帰るところなどないから。

なのに、一時間経っても。

二時間経っても何時間経っても。


玄関の扉が開く事はなかった。


不安。

恐怖。

動揺。


どれも当てはまるようで当てはまりはしない。


日付が変わっても慶太は戻らない。

こんな事今までになかった。

俺が早く帰ろうが遅く帰ろうが慶太は家にいて。

「玲人、お帰りなさい。」
「ご飯出来てるよ、玲人。」

いつもの言葉。いつもの風景。

それが今日はない。


慶太のスマホをリビングで見つけたことからあいつに直接連絡なんて取れない。

思いつくのは、敦くらいなものだった。


深夜一時。

迷惑なんか顧みず敦の携帯を鳴らす。


プルルル…プルルル…プルルル…。

ちょうど七回目のコールで繋がった。


「……もしもし」

「敦、俺」

「あ?…俺って…誰?」


ディスプレーを見ずに電話を取ったのだろう。

明らかにイラついている。


「玲人…だけど」

「は…玲人?何、こんな時間に。え、今何時?」

「一時過ぎ…」


反応からして慶太がそこにいないということが分かった。

じゃあ一体どこに?

他に行くあてなんかあるはずないのに。


慶太。どこだよ。


「悪ぃ、敦。もういいわ」

「おい!ちょちょ…ちょっと待て!」

「いや、もういいから」

「慶太か?…慶太になんかあったのか?」


さっきまでの寝ぼけた声なんかとは違う。

心配と静かな怒りを含んだ声。


「……帰って…来ねぇんだ」

「帰ってこないって…なんで?」

「……」

「玲人!」

「俺…。何やってんだよな。出ていったきり。…敦、慶太が帰ってこないんだよ」

「…ばかやろう、いつまで続けるんだよ!いい加減…どうにかしろよ」

「分かってんだよ!分かってるけど…分からねぇんだよ…」

「玲人…お前、情けないこと言うなよ。…今からお前んち俺行くから」

「いや…いい。…来ないでくれるか?もう少し待つわ」

「…慶太帰ってきたら連絡しろ。何時でもいいから」

「……あぁ」

「玲人」

「あ?」

「失ってからじゃさ、遅いぞ」

「………ごめん、切る」


敦の言った事に答えず俺は電話を切った。

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