貴方の鳥籠に喜んで囚われる私の話

刹那

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第十六話─捕縛─

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 その後、凛翔さんは到着した救急車に乗せられて病院へ搬送された。私は、凛翔さんの傍を離れたがらなくて、隊員の人は、「そんなに心配なら、救急車まで付き添っていただいて構いませんから」と言ってくれた。その言葉にあまえ、私は病院までついて行った。

 凛翔さんはそのまま緊急手術を受けた。私は凛翔さんの手術が終わるまで、手術室前でずっとうずくまっていた。そこに足音が近づいてきて、私の目の前で止まる。顔を上げると、そこにはとても綺麗な顔をした壮年の男性がこちらを見下ろしていた。どことなく顔が凛翔さんに似ているような気がする。

「君が凛翔が執心しているお嬢さんか」

 私が惚けていると、低い大人の色気が漂う声が質問してきた。

「はい?」

 質問の意味がわからず、思わず聞き返してしまう。今は頭が働かないので、もっと直接的な言葉でないと理解出来ない。

「あぁ、これは失礼。君の名前は御嘉 雪麗さんで違いないかな?」

「はい。そうです」

 私が首を縦に振ると、男性はそうかと呟いて考え込んでしまう。それから暫くしないうちに、また質問してきた。

「辛いかもしれないが、凛翔が刺されたときの状況を、詳しく教えてくれないか」

 その言葉は疑問形だったけれど、拒絶を許さない迫力があった。

「わかりました」

 その時になると、もう全ての感覚が麻痺していて、何も感じなくなっていた。いや、感じたくなかった、という方が正しいだろうか。凛翔さんの手術が失敗するなんて、万が一にも考えたくなどなかったから。

「私が招いてしまったことなんです。凛翔さんを刺し殺そうとしたのは、有明 結弦。私の大学の友人です。
最近、私と凛翔さんが交流を持ち出して、.........ぇっと、私、凛翔さんに告白されて、その返事を保留していたんです。でも、私も凛翔さんが好きだって、思っていたんです.........。
結弦には凛翔さんとのことを相談していて、その途中でだんだんおかしくなっていったんです。私、気づいていたのに、それを無視したから。
本当に申し訳ありません。私がしっかりしていれば、こんなことにはなりませんでした」

 事情を話しながら、私は情けなさで死にたくなった。好きということを伝える初めての人が、凛翔さんじゃなくて、目の前の知りもしない男性だということも悲しくて。そして、申し訳なさでいっぱいで。途中からは涙を流しながら話していた。

「いや、いいんだ。これは凛翔の落ち度だ。そうか、凛翔は君のことを.........」

 男性は私を責めたりしなかった。そのことに少し安心する。

「その代わり、君に一つ頼みがある」

「はっ、はい。なんでしょうか?」

「凛翔が目覚めたら、その時は、君の気持ちを正直に伝えなさい」

 どきりとした。男性は私の葛藤を全て見透かしているかのように、強くこちらを見据えていた。

「でないと、恐ろしい思いをするのは君だ。そんなことになったとしても、私は凛翔を止めるつもりはない。凛翔が、それで責務をまっとうするのなら、私はなんでも構わないからね。ただの助言だと思ってきてほしい」

「...............わかりました。心に留めておきます」

 その助言が、どんな事態になることを想定しての警告か、私には十分すぎるほど分かった。











 それから、手術は無事成功。凛翔さんは個室になっている病室に入院することになった。あとから知ったことなのだが、ここは明堂院家の傘下の病院で、凛翔さんはかなり優遇されているらしかった。

 私は、時間が許す限り凛翔さんの傍について世話をした。凛翔さんが目覚めたとき、初めに見る顔が私でありたかった。

 ここで、結弦のその後について話そうと思う。明堂院家の跡取りを殺そうとした罪は、私が考えるよりずっと重かった。結弦は無期懲役という重い罰を受けた。だが、これは当たり前のことだ。明堂院家は今や日本全土に侵食している。明堂院家が破綻してしまえば、日本の一部が機能しなくなるとまで言われているのだ。その明堂院家を潰しかねないことをしてしまった結弦に、国や国民は優しくなかった。本当は終身刑を言い渡されるはずだったのだが、結弦には精神鑑定が必要とされ、減刑の末の無期懲役なのだという。

 結弦の友達であった私はショックを受けた。だが、私がどうこうできることでもないし、そもそもの原因は私なので、何も言えなかった。

 ただ、一つ言えることは、私は金輪際、結弦に会うことはないという事だけ。






 凛翔さんが目を覚ましたのは、手術から一週間が経った日のことだった。その日は、雲ひとつない青空で、私の心とは正反対だった。でも、講義がなく、私は凛翔さんに一日中ついていられる日でもあった。

 昼下がり、太陽が病室を明るく照らしていた。私は朝からいたので、その頃になると手持ち無沙汰になってしまい、持ってきた小説をベット横の一人がけソファで読んでいた。

「んっ.........」

 小さな呻き声が聞こえて、私は慌てて本を閉じ、凛翔さんに駆け寄った。

「凛翔さん? 凛翔さん!」

 私が呼びかけると、彼は長い睫毛まつげを震わせて瞳を開けた。

「せつ.....ら..................?」

「そうです、私です。あぁ、良かった.........!」

「ふふっ、幸せだなぁ。目覚めて一番に雪麗の顔が見られるなんて」

「もう.........! 何言ってるんですか!」

 凛翔さんが目覚めてくれた喜びから忘れかけていたが、私はあの男性の言葉を思い出した。私の気持ちを伝える。そう思って、凛翔さんを見つめると、凛翔さんも私を見つめていた。あぁ、彼は私の言葉を待ってる。そう思った。男性の言っていた通り、ここで告白しないと、後でどんな目に遭うかわかったものではないなと考えてしまう。

「凛翔さん、待たせてしまってごめんなさい。私が遅かったせいで、凛翔さんが危ない目にあってしまいました。ても、もう大丈夫です。私、絶対に貴方のそばを離れませんから。
凛翔さん。私は貴方のことが好きです。ほかのことが見えなくなるくらいに。貴方がいないと生きていけないくらいに。
凛翔さん。大好きです。愛しています。」

 私は羞恥で顔が真っ赤だったけれど、凛翔さんはこれまでにないくらいの笑みをうかべていた。

「お医者様を呼ばなくちゃですよね! ちょっと待っててくださいね」

 私はその視線に耐えかねて、逃げ道を作る。

「あっ、待って。その前にやらないといけないことがあるんだ」

「なんですか?」

「ちょっと近くに寄ってくれないかな」

「こうですか?」

 何をしないといけないんだろうか、と疑問に思っていたら、グイッとそのまま引き寄せられてしまった。




 その瞬間、触れ合うようなキスをされる。

「なっ、なっ.........!!」

 驚きで固まる私をさらに引き寄せて、その唇を耳元に寄せて凛翔さんは言った。




















─やっと、捕まえた。もう逃がさない─
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