時駆け! 星空ふたごは歴史をかえてみせます

涼・麦穂

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第1章 ここでおきたこと

1.星空ふたご

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 天川家あまかわけあさは早い。……いつもは。

「ちょっと、セイ! きる時間がちがう日は、ちゃんと目覚めざましセットしなおしてって言ってるじゃん!」

 ソラは、レモン色のブラウスのボタンをかけながらダイニングにかけこんだ。

「してるよ。ソラが気づかないだけだろ」

 セイは、涼しいかおでロールパンのさいごのひとかけらを口にほうりこむ。
きょうは校外学習日こうがいがくしゅうびだ。お弁当を持って学校の校庭に7時32分に集合だというのに、ソラはみごとにすごした。マウンテンバイクの早朝自主練習そうちょうじしゅれんしゅうを休みにしたせいだ。

「起きなかったら、声かけてってよ、イジワル」
「かけたよ。でも起きないし」
「起きるまでかけて!」
「むりだよ。しつこくすると、おまえパンチしてくるじゃん」
「おまえっていうのやめて! セイのくせに」
「あんたたち、朝からうるさい!」

 お母さんのかみなりが落ちて、「うるさいのはソラだけだよ」とセイがぼやく。

「いいから、はやくごはん食べなさい。もうソラ、かみねはねよ。ちゃんとかわかして寝たの? セイも、しっかり起こしてあげなさいよ。お兄ちゃんなんだから」

 セイは盛大せいだいなためいきをつき、ソラは目をつりあげる。

「セイを」
「つごうよく」

『お兄ちゃんって言わないでよ!』

 お兄ちゃんって言わないでよ、が、みごとにかさなる。
 ふたりは、むっとかおを見あわせて、お母さんがアハハ、と笑った。お母さんは、ふたりをあやってピッタリにさせるのがうまい。

「ほらほら、はやく食べなさい。おくれちゃうよ。登校時刻とうこうじこくはやいんでしょ」
「はーい、食べます!」
「ごちそうさまでした」

 セイは流し台へ食器しょっきをもっていって、きちんと水につける。それを横目よこめに、ソラはいそいでゆで玉子ペーストをロールパンにはさんだ。

「いってきます」
「はいはーい。お弁当と水筒すいとう玄関げんかんに置いたからわすれないでね」

 セイとお母さんの会話に、ソラはあせる。

「ちょっと、ズルい、おいてかないでよ」

 言いながらも、ソラはロールパンを残したりはしない。朝ごはんをしっかりおなかに入れて、おおいそぎで髪をゆわわえた。

「いってきまーす!」

 玄関には、お弁当も水筒もなかった。

(サンキュー、セイ)

 ソラは、おやつとタオルだけの軽いナップザックを背おって、玄関を飛びだした。バイクで登校できればらくなのに、と玄関よこの赤いマウンテンバイクをちらりと見る。

 日ざしとセミの声がいたいくらいの、カラカラに晴れた朝だった。


 
 天川星あまかわせいと天川そらは、ふたごの兄妹きょうだいだ。
 セイとソラで星空ほしぞらだから、ふたりあわせて「あまがわ」なんてばれることもある。二卵生双生児にらんせいそうせいじなのに、ふたりはそっくりだ。

「セーイ! 待ってよー」

 お弁当がひっくりかえる心配しんぱいのないソラは、全力疾走ぜんりょくしっそうで追いかける。ふくらんだナップザックと、ふたりぶんの水筒をりょうかたからクロスがけにしたセイに、すぐに追いついた。

「ゆっくり歩いてただろ」
「わかってるよお」

 しらん顔でそのまま歩きだしたら、セイが顔をしかめた。

「……水筒は持てよ。重いんだから」
「気づかれたか」

 ソラは舌を出して水筒を受けとった。

「あー、きょうもあつくなりそう」

 青い空には、すじぐもがすこし。沿道えんどうの田んぼのいねは、黄色くなってきたが重そうだ。風がふくたびにサラサラと音をたててゆれる。

 田んぼがひろがる平地へいちのむこうには、日本で一、二をあらう高さをほこる山脈さんみゃくよこたわる。なかでも頭ひとつ飛びでて見えるのが、王念岳おうねんだけ。町のシンボルだ。

「トンボがいっぱいだあ。王念岳もきれい。いいよねー、この景色けしき。あたし大好き」

「ソラって、ホント地元じもと好きだよな。きょうの校外学習、ソラにぴったりじゃん」

「もう、嫌味いやみか! 今年ほど気が重い行きさきはないのに」

 ソラがくちびるをきだしたとき、T字路てぃーじろから|今井いまい菜帆果なほかが出てきた。

「ソラ、おっはよ! セイもおはよー」

 菜帆果がくわわり、にぎやかになる。

「きょうの郷土資料館きょうどしりょうかん、つまんなそうだよねー。おかげで寝坊ねぼうしそうだった」
「菜帆果も? そうなんだよー。つまんなさそうでさあ」
「ソラと今井って、ルイトモだよな」
優等生ゆうとうせいぶって。だからセイってばはら立つ!」
「ほらほら星空、ケンカしないの」

 わやわやしながら歩いていたら、あっというまに学校についてしまった。

「あ、見て。ホルンちゃんがいる」

 校庭こうていで、地域ちいきのゆるキャラであるホルンちゃんの着ぐるみが、低学年ていがくねんの子どもたちにかこまれていた。

 ホルンちゃんは、丸いお顔にぱっちりお目め、ナスみたいな色かたちの帽子ぼうし草色くさいろのワンピース姿すがたという二頭身にとうしんのキャラだ。
 茶色の小さなポシェットには、地元をあいする心がつまっているらしい。王念岳のお花畑からやってきた妖精ようせい、という設定せっていがついている。

 王念岳は『日本のマッターホルン』と呼ばれているので、なまえはホルンちゃん。

 つきそいのおねえさんの声が、マイクでひびく。お姉さんは、ホルンちゃんの心の声を聞いて通訳つうやくしてくれる相棒あいぼうなのだ。

「みんな、おはよう! きょうは、動物園どうぶつえんだったり、資料館しりょうかんだったり、この町のことを、たーくさん見て、聞いて、感じてくる日だね。ホルンちゃんは、みんなが元気にお出かけしていくところを、お見おくりにきたんだよ。みんなが、もっともっと、この町を知って、好きになってくれたらうれしいな。さあ、集合しゅうごうして、きちんとならんでくださーい。校長こうちょう先生のおはなしが、はじまるよー」 

 ハーイ! という元気すぎる声が校庭に響きわたり、王念岳からも「ハーイ」がやまびこで返ってきた。

 高い青い空と、みんなの声を返してくれる王念岳と、吹きぬけていく風と。

 このおだやかな風景ふうけいがどれだけたいせつなものなのか、ソラもセイも、まだちゃんとわかっていなかった。
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