時駆け! 星空ふたごは歴史をかえてみせます

涼・麦穂

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第1章 ここでおきたこと

2.ナントカ会館

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 校外学習こうがいがくしゅうで六年生が行くのは、郷土資料館きょうどしりょうかんだ。ソラもセイも、入るのは初めてだった。
 現代的げんだいてきなデザインの建物で、前庭まえにわの道にはタイルアートで稲穂いなほえがかれてる。
 ソラは、黄土色おうどいろのタイルの上だけをえらんで歩いた。 

(――もうすこしなの。もうすこしで……)

「ひゃっ!」
 耳元みみもとで、へんな声がした。

「どうしたの?」

 まえを歩いていた高橋たかはしさんがふりかえる。
 ソラはきょろきょろと見まわしたけれど、いつものようにクラスメイトがいるだけだ。

「ううん、耳のとこでへんな声……音? 虫かなあ」

 ソラは耳たぶをはたいた。

 館内かんないに入ると、学芸員がくげいいんのお兄さんが待っていた。六年生全員ぜんいん、ちょっときゅうくつぎみに一階のホールに体育座たいいくずわりりをする。

「ことしの校外学習はつまんなそうだなって顔がならんでるね。残念ざんねんながら、ぼくから『ここは楽しいよ!』とは言ってあげられません。ごめんね」

 小さな笑いがおこる。このお兄さんならすこしは楽しくなりそう、という空気になった。

「さて、まずは呪文じゅもん紹介しょうかいしましょう。これを見てください。読める人、いるかな?」
 お兄さんが、プラカードをかかげた。

 【王念岳東山麓地域における農民一揆顕彰会館】

 みんなの頭の上にはてなマークがかび、二組でソラのまえに座っている高橋さんと、学級委員で三組男子の先頭にいるセイに視線しせんが集まった。
 おまえなら読めるだろ、という視線に、ひっこみじあんな高橋さんの背なかが、かわいそうなくらいちぢこまる。

(セイ! はやく!)

 セイが一瞬いっしゅんソラをふりかえり、すっと立ち上がった。
 高橋さんのかたの力がぬける。

「おうねんだけひがしやま、……じゃない、さんれいちいきにおける、のうみんいっき……、ナントカかいかん」

 ナントカかいかん、でみんなが笑って、セイは舌を出した。

「いやいや、ありがとう。うん、呪文解読者かいどくしゃとしては、かなり優秀ゆうしゅうだよ。
一揆いっき』は社会科で習ったばかりかな。じつはこの呪文、この資料館の正式名称せいしきめいしょうです。

王念岳東山麓地域おうねんだけひがしさんれいちいきにおける農民一揆顕彰会館のうみんいっきけんしょうかいかん

 と読みます。王念岳おうねんだけの東側の山すその地域ちいき、つまり、この辺り全体のことだね。
江戸時代えどじだい松林藩まつばやしはんおさめていました。ここでおこった農民一揆のうみんいっき顕彰けんしょう……広く知ってもらうために展示てんじしたり表彰ひょうしょうしたりする場所、という意味です」

 農民一揆、百姓ひゃくしょう一揆、というのはちょうど社会の授業じゅぎょうで習ったばかりだ。
 農民が、大勢おおぜい騒動そうどうをおこすこと。
 おもに、重い年貢ねんぐにがまんできなくなって、やめてくれとうったえる。たいていは、すきくわぼうっきれを手にしていたので、テレビでたまに見る日本のデモよりも暴力的ぼうりょくてきでたいへんだったようだ。

 農民一揆。

 ソラはこの言葉に、むねがざわつくような、いやなかんじをおぼえる。
 社会の教科書で出てきたときには、そうなんだ、くらいにしか思わなかったというのに。

「江戸時代初期しょき、いまからだいたい、350年くらいまえのことです。このあたり一帯で、とても大きな農民一揆がありました。そのとき、なにがおこったのか、どうなったのか。この地にらすわたしたちが、忘れてはいけないことです。きょうは、それをみなさんに知ってもらいたいと思います。では、ひとクラスごとに、シアターで物語を見ていきましょう」

 一組から順にシアター室に入り、のこりは順番がくるまで自由に資料しりょうを見てまわることになった。
 ソラがどこから見ようかとうろうろしていたら、菜帆果なほかうでを組んできた。

「ソーラ! なんかおもしろそうなもの、ある?」
「わかんない。さいしょから説明聞こうかなあって思ったけど……」

 資料の閲覧順えつらんじゅんに見ている子もなんにんかいて、学芸員のお兄さんが案内していた。そのなかに、セイも入っている。
 セイとおなじことをすると、やたらと「さっすがふたご」「なかよし星空」とからかわれる。低学年ていがくねんのうちはなにも思わなかったけれど、さいきんはちょっといやだ。

「わかりやすそうなのから見ようよ。アレとか」
 菜帆果は、山づみの米俵こめだわらを指した。

「これ、よく時代げきとかで見るやつだ」

 米俵の横には、玄米げんまいを入れた大小のマスが、ピラミッド型に積まれていた。

「えーと、米俵一個が、一俵いっぴょう。おっきいマスが一斗いっと、小さいマスが一升いっしょうだって」

 小さいほうの一升マスでも、かなりの大きさだ。
 菜帆果がプッとふきだした。

「うちんちのとなり、中二と高一の兄弟がいるんだ。ママ、ごはんくたびに『お隣はまいにち朝晩一升ずつ炊くんだって』って笑うの。あのマス満杯まんぱいのお米って、すごいよね?」

 天川あまかわ家で夕飯に炊くお米は計量けいりょうカップで3杯、つまり3ごうだ。
 説明板には、『一升は十合です』と書いてあるから……。

「計量カップ10杯が、1回分……? それって、炊飯器すいはんき爆発ばくはつしそうじゃん。うわー、菜帆果のお隣、食べすぎ!」 

 思わず声が大きくなり、先生のするどい視線が背なかに刺さる。

 ふたりはせきばらいをして、モニターのついた装置そうちのまえへ移動した。
一揆いっきにまつわる伝説の紹介しょうかい』と書かれた装置は、タイトル横のボタンを押すと、その伝説を映像えいぞうつきで流してくれる。

「一升は、十合でチュウ~」

 菜帆果が、ネズミキャラの声まねをしながらボタンを押したので、ソラは「ブハッ」ともらす。
 けれど、先生の視線がふたたび背なかに刺さるよりまえに、ふたりの顔がひきつった。

 無念むねん死罪しざい覚悟かくご、家族との縁切えんぎり、処刑中止しょけいちゅうし命令めいれい届かず――

 モニターからは、暗い不吉ふきつな言葉ばかりが流れてきたからだ。

 さいごには、だまってボタンを押すだけになった。

「なにこれ。みんなでお城に直談判じかだんぱんに行って、成功したんじゃないの……?」

 年貢の取りたてがきびしすぎて一揆をおこしたということは、ソラも菜帆果もわかっていた。でも、この『伝説モニター』からわかるのは、年貢が下がってめでたしめたし……なんてハッピーエンドではない。

「つぎは二組、集まれー」

 先生の声が響いた。シアター観賞かんしょうの順番だ。
 菜帆果がソラのそでを引っぱる。

「ちょっと、あれ……」
「え?」

 シアター室からぞろぞろと出てくる一組のようすがおかしい。
 泣きながら出てくる女子や、半ベソをかくそうとしている男子もいる。

「ほらほら、ビビるなよ。だいじなことだからな。ちゃんと見ろよ。入るぞー」
 先生が二組を整列せいれつさせたときだった。

(――もうすこし。もうすこしで、とびらが開けられるの……)

「きゃっ」
 またしてもへんな声が聞こえて、ソラは耳をはたく。

「天川、どうかしたか?」
「あ、虫です!」

 あわてて手をふった。
 ふと気になって目をやると、セイもしきりに耳をさわっている。

 暗いシアター室に入る瞬間しゅんかん、ソラはちょっとだけ足がすくんだ。
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