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第1章 ここでおきたこと
3.おにぎり
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全クラスのシアター観賞が終わり、もういちど館内を自由見学してから、お弁当の時間になった。
菜帆果に手を引っぱられて、ソラは外へ出る。
ギラギラした日ざしに、目を細める。顕彰会館の草地は、ツクツクミンミンジージースイーッチョと、バッタとセミでにぎやかだ。青空をバックにそびえる深緑色の王念岳さえ、暑苦しく見える。
「あーあ、日影はみーんな取られてる。どうしようかなあ。ソラのスタートダッシュが遅いからだよ、めずらしい。……ん? もしかして、ぐあいわるい?」
ソラは、あわてて首をふった。
「ごめん、そんなことないよ。ほら、思ってたより、ここの内容、重かったなあって。考えごとしてたらダッシュしそびれた」
「あー、うん。そうだよね……」
菜帆果も表情をくもらせる。
シアターで見た一揆の物語は、それは悲惨なものだった。
一揆を先導した人たちは、木の柱に縛りつけられ、槍で突かれる磔の刑に。その家族は首を斬ってさらされる、獄門の刑になった。
いちばんの指導者である加藤治助は、磔台の上で「われら農民は、人間らしく生きてはいけないのか!」と訴えつづけていた。
影絵になった治助が「人間らしく!」のさけびとともに槍で貫かれたとき、みんな、ヒッ、とのどをならした。
治助のさけびとともにソラの胸に焼きついたのは、『ゆう』という名の16歳の少女のことだ。
村々のあいだの連絡役をつとめたことで重罪人とされ、処刑されたのだ。
当時、女子どもが処刑されるというのは、めったにないことだったらしい。
けれど、展示資料には『刑場跡から発掘された大勢の遺骨のなかに一体だけ少女のものが発見されており、おゆうと考えられている』とあり、ソラは指先が冷たくなるのを感じた。
(あたしたちの住んでる、この場所で。ほんとうに、こんなことが)
『農民一揆』という言葉に胸がざわついたのは、悲惨なできごとを知る予感だったのかもしれない。
むずかしい言葉も多かったけれど、「よくわからない」ですませてはいけない歴史だ。
シアター観賞後は、子どもたちのあいだになんともいえない空気が流れていた。
笑って見ていた米俵も、笑えなくなった。
飢え死にが出たほどの飢饉のなかで、米俵いっぱいのお米が年貢として取りあげられていたのだ。
思いだして暗い顔をしたソラに、菜帆果は、きゅっと口のはしを上げてみせた。
「いまは、あたしたちのお弁当場所をさがさなきゃ」
ソラも、口のはしを上げてみる。すこし元気が出た気がした。
「そーだよね。いまは、お弁当が先!」
どこか涼しそうな場所は残っていないかキョロキョロしていると、「あの……」と声をかけられた。
ふりむくと、高橋さんだった。
「あの、天川さん、今井さん。お弁当、よかったら、あっちで食べない? 涼しいよ」
高橋さんは、広場のむこうがわの、こんもりと木が茂っている一角を指した。
ソラと菜帆果は、顔を見あわせる。
もの静かで本が好きな高橋さんは、ひとりでいることが多い子だ。体育が得意でおしゃべりなソラや菜帆果を、こんなふうにさそってくるなんて、めずらしいったらない。
「あ、ごめなさい、いやならいいの。ごめんね、ほんと」
あとずさりをはじめた高橋さんを、ソラはあわててひきとめた。
「いやなわけないじゃん、びっくりしちゃっただけ。ありがと、どこで食べるか迷ってたんだ。ね、菜帆果」
「えー? でも、いいのかな。敷地内から出るなって先生言ってたけど」
眉をそびやかした菜帆果に、高橋さんは消えいりそうに答える。
「あそこの神社、いちおう顕彰会館の一部、だよ」
「あ、そうなの? ていうか、神社なんだ。さっすが高橋さん、くわしいじゃん! いこいこ」
顔を上げた高橋さんの腕をとった菜帆果は、スキップで神社へむかう。
「あ、待ってよ!」
ソラは追いかけ、高橋さんの反対がわの腕をとった。
三人つながったスキップは、タイミングがずれておかしな動きになる。
ソラはふいに、笑いながら神社に向かうこの瞬間が、とても大切な時間に思えた。
木の立ちならぶ神社に入ると、ふっと空気が冷たくなる。
「ほんとだ、涼しい」
ソラと菜帆果はおどろく。
「反対がわは田んぼだから、涼しい風が入ってくるの。ほら、あそこがいいよ」
高橋さんが指したのは、神楽殿だった。年に何回かのお祭りで、神事の舞やら和楽器演奏やらをする、あずまやだ。
「じつは、わたしの家、近くなの。おじいちゃんがクーラー大っきらいで、家があっつくて……。ここで夏休みの宿題やってたんだ。蚊取り線香たいて」
神楽殿のすみっこから、蚊取り線香セットを取りだす。
「ほえー。高橋さんって、いがいにワイルド」
三人で神楽殿にあがりこみ、ナップザックをおろした。
「もうすぐ秋祭りがあるんだよ。天川さんも今井さんも、この神社のお祭りは来たことないでしょ」
小さな神社なのに、まいとし新聞でも取り上げられるくらい、昔から続くお祭りだ。けれど、ソラも菜帆果も来たことはない。ソラの家からは、学校を通りこして学区域の反対のはじっこだ。
「屋台も出て、御神事のあと、神楽舞とおなじ唄で、盆踊りもするんだよ。なーくなうまこーあんがとよー……って」
「あ、その唄、うちのほうの神社でもおんなじ。踊りもおなじかもね」
ソラは立ちあがって踊ってみせる。菜帆果は手を叩いてうたいはじめた。
「あ、そぉれ! なーくなうまこー あんがとよぉー」
高橋さんはくすりと笑い、声をあわせる。
「かけよー、かけよー、やみこえてー」
「ハゼの実わけてー、わらいましょ」
さいごの節が、棒読みでうしろから聞こえて、ギョっとする。三人がいっせいにふり返ると、境内にセイが立っていた。
「……セイ!」
ソラは、神楽殿の床をドン、と踏みならしてにらみつける。
「セイ、おどかさないでよ。しかもテンション低う。感じわるう!」
「そのえらそうな態度、いつまでもできると思うなよ」
ナップザックをさしだしたセイに、ソラは、「あ」となる。気まずそうに両手の指先をあわせてもじもじする。
「も、もうしわけ、ございません、おにいさま……」
首をかしげた高橋さんと菜帆果をよそに、セイはナップザックから水玉模様のお弁当袋を取りだした。
「えへへへ……」
ソラは照れわらいでごまかす。
「うっわー! ソラ、しんじらんない!」
「だろ。こういうときだけは、あっさりおにいさまとか言うんだ、こいつ」
「ちょっと! えらそうにこいつとか言わないでよ」
「わかった、この弁当は工藤たちと山分けするから、ソラはそこで踊ってればいいよ」
「ちょ! うー……。ゴメンナサイオニイサマ」
きゃらきゃらと菜帆果と高橋さんが笑った。
「ここ、涼しいね。蚊取り線香まであるなんてカンペキじゃん。おれもいい?」
セイも神楽殿に上がりこんだ。
「あの、あ、天川くん、さっきは、ありがとう」
目を上げたセイに、高橋さんはまっかになってつづける。
「さいしょのとき、天川くん……かばってくれたでしょ、たぶん。だから」
あとずさりながらお礼を言う高橋さんに、菜帆果は、あー、とわかったような顔でにやにやする。
セイはというと、とくに照れるわけでもない。
「んー、『おまえが答えろ!』っていうソラの圧がすごかったっていうか。高橋さんって、ソラと今井と、なかいいんだ?」
「いえ、その……そんなでも、ないかも、なんだけど……」
口ごもりながらプチトマトを口に入れた高橋さんに、菜帆果はしなだれかかる。
「ふふーん。そんなでもあるの! あたしと、ソラと高橋さん、すんごいなかよしなの」
ねー、とウインクする菜帆果に、ソラは目をしばたたかせた。
高橋さんは、ごまかすように話題をふる。
「天川さんも、天川くんも、すごくしんけんに展示を見てたね」
「そうそう! セイはともかく、ソラはどうかしちゃったんじゃないかって心配したわ」
「菜帆果……なんかあたしにひどくない?」
でも、しかたない。セイは、呪文の解読のときにみんなが期待するくらいだし、一年間のうちで必ずいちどは学級委員に選ばれるしっかりものだし、先生や学芸員さんの話も、ちゃんと聞く。そのうえ、運動神経もいいほうだ。
ソラはというと、運動はなんでも大得意な反面、おとなしく机に向かったり本を読んだりするのが苦手だ。
そんなソラが、きょうは展示物から目が離せなかった。
「ソラ、お昼のまえに手紙みたいな……古文書? すっごいまじめに見てたよね。なにが書いてあったの?」
ソラは、うっ、とつまる。書いてあったものは……。
わざと明るく言った。
「なまえが書いてあったから。あたしでも読める字があるかなーって、思って」
おどけて、ひとくち大おにぎりをパクンとほおばる。
とたん、胸にこみあげるものがあった。
おにぎり、おいしい。こんなにかんたんに、食べられちゃう……
「え、ちょっと、なになに、ソラ!」
「あ、天川さん、どうしたの」
ソラは、ボロボロ泣いていた。
「ソラが見てたのは、処刑された人たちのリストだった。ひどい飢饉で、なんにんも死んで、それを止めたかっただけの人たちのなまえ。なのに、おにぎりなんか食べてていいのかなって、思ったんだ」
かわりに説明したのはセイだった。
ソラは首をふる。
「や、やめてよ、セイ。そんな、そんなんじゃないってば」
「恥ずかしいことじゃないだろ。そんな、なんて言うな」
きっぱりと言ったセイに、菜帆果がうつむいた。
「……うん。そうだね。そういうの、なんで恥ずかしいって思っちゃうのかな。あたしも、ほんとは、おにぎりでちょっと泣きたくなったんだ」
ソラの背なかをさすった菜帆果も、目が赤い。
高橋さんがおずおずとティッシュをさしだした。
「ありがとう。一揆のこと、しんけんに考えてくれて」
「な、なーに。高橋さんったら、じぶんのことみたいな言いかた」
高橋さんは迷っているのか、すこし間をおいた。
「うちの家、一揆にかかわった人の子孫だから」
『……え?』
高橋さんの告白に、三人の声がかさなった。
菜帆果に手を引っぱられて、ソラは外へ出る。
ギラギラした日ざしに、目を細める。顕彰会館の草地は、ツクツクミンミンジージースイーッチョと、バッタとセミでにぎやかだ。青空をバックにそびえる深緑色の王念岳さえ、暑苦しく見える。
「あーあ、日影はみーんな取られてる。どうしようかなあ。ソラのスタートダッシュが遅いからだよ、めずらしい。……ん? もしかして、ぐあいわるい?」
ソラは、あわてて首をふった。
「ごめん、そんなことないよ。ほら、思ってたより、ここの内容、重かったなあって。考えごとしてたらダッシュしそびれた」
「あー、うん。そうだよね……」
菜帆果も表情をくもらせる。
シアターで見た一揆の物語は、それは悲惨なものだった。
一揆を先導した人たちは、木の柱に縛りつけられ、槍で突かれる磔の刑に。その家族は首を斬ってさらされる、獄門の刑になった。
いちばんの指導者である加藤治助は、磔台の上で「われら農民は、人間らしく生きてはいけないのか!」と訴えつづけていた。
影絵になった治助が「人間らしく!」のさけびとともに槍で貫かれたとき、みんな、ヒッ、とのどをならした。
治助のさけびとともにソラの胸に焼きついたのは、『ゆう』という名の16歳の少女のことだ。
村々のあいだの連絡役をつとめたことで重罪人とされ、処刑されたのだ。
当時、女子どもが処刑されるというのは、めったにないことだったらしい。
けれど、展示資料には『刑場跡から発掘された大勢の遺骨のなかに一体だけ少女のものが発見されており、おゆうと考えられている』とあり、ソラは指先が冷たくなるのを感じた。
(あたしたちの住んでる、この場所で。ほんとうに、こんなことが)
『農民一揆』という言葉に胸がざわついたのは、悲惨なできごとを知る予感だったのかもしれない。
むずかしい言葉も多かったけれど、「よくわからない」ですませてはいけない歴史だ。
シアター観賞後は、子どもたちのあいだになんともいえない空気が流れていた。
笑って見ていた米俵も、笑えなくなった。
飢え死にが出たほどの飢饉のなかで、米俵いっぱいのお米が年貢として取りあげられていたのだ。
思いだして暗い顔をしたソラに、菜帆果は、きゅっと口のはしを上げてみせた。
「いまは、あたしたちのお弁当場所をさがさなきゃ」
ソラも、口のはしを上げてみる。すこし元気が出た気がした。
「そーだよね。いまは、お弁当が先!」
どこか涼しそうな場所は残っていないかキョロキョロしていると、「あの……」と声をかけられた。
ふりむくと、高橋さんだった。
「あの、天川さん、今井さん。お弁当、よかったら、あっちで食べない? 涼しいよ」
高橋さんは、広場のむこうがわの、こんもりと木が茂っている一角を指した。
ソラと菜帆果は、顔を見あわせる。
もの静かで本が好きな高橋さんは、ひとりでいることが多い子だ。体育が得意でおしゃべりなソラや菜帆果を、こんなふうにさそってくるなんて、めずらしいったらない。
「あ、ごめなさい、いやならいいの。ごめんね、ほんと」
あとずさりをはじめた高橋さんを、ソラはあわててひきとめた。
「いやなわけないじゃん、びっくりしちゃっただけ。ありがと、どこで食べるか迷ってたんだ。ね、菜帆果」
「えー? でも、いいのかな。敷地内から出るなって先生言ってたけど」
眉をそびやかした菜帆果に、高橋さんは消えいりそうに答える。
「あそこの神社、いちおう顕彰会館の一部、だよ」
「あ、そうなの? ていうか、神社なんだ。さっすが高橋さん、くわしいじゃん! いこいこ」
顔を上げた高橋さんの腕をとった菜帆果は、スキップで神社へむかう。
「あ、待ってよ!」
ソラは追いかけ、高橋さんの反対がわの腕をとった。
三人つながったスキップは、タイミングがずれておかしな動きになる。
ソラはふいに、笑いながら神社に向かうこの瞬間が、とても大切な時間に思えた。
木の立ちならぶ神社に入ると、ふっと空気が冷たくなる。
「ほんとだ、涼しい」
ソラと菜帆果はおどろく。
「反対がわは田んぼだから、涼しい風が入ってくるの。ほら、あそこがいいよ」
高橋さんが指したのは、神楽殿だった。年に何回かのお祭りで、神事の舞やら和楽器演奏やらをする、あずまやだ。
「じつは、わたしの家、近くなの。おじいちゃんがクーラー大っきらいで、家があっつくて……。ここで夏休みの宿題やってたんだ。蚊取り線香たいて」
神楽殿のすみっこから、蚊取り線香セットを取りだす。
「ほえー。高橋さんって、いがいにワイルド」
三人で神楽殿にあがりこみ、ナップザックをおろした。
「もうすぐ秋祭りがあるんだよ。天川さんも今井さんも、この神社のお祭りは来たことないでしょ」
小さな神社なのに、まいとし新聞でも取り上げられるくらい、昔から続くお祭りだ。けれど、ソラも菜帆果も来たことはない。ソラの家からは、学校を通りこして学区域の反対のはじっこだ。
「屋台も出て、御神事のあと、神楽舞とおなじ唄で、盆踊りもするんだよ。なーくなうまこーあんがとよー……って」
「あ、その唄、うちのほうの神社でもおんなじ。踊りもおなじかもね」
ソラは立ちあがって踊ってみせる。菜帆果は手を叩いてうたいはじめた。
「あ、そぉれ! なーくなうまこー あんがとよぉー」
高橋さんはくすりと笑い、声をあわせる。
「かけよー、かけよー、やみこえてー」
「ハゼの実わけてー、わらいましょ」
さいごの節が、棒読みでうしろから聞こえて、ギョっとする。三人がいっせいにふり返ると、境内にセイが立っていた。
「……セイ!」
ソラは、神楽殿の床をドン、と踏みならしてにらみつける。
「セイ、おどかさないでよ。しかもテンション低う。感じわるう!」
「そのえらそうな態度、いつまでもできると思うなよ」
ナップザックをさしだしたセイに、ソラは、「あ」となる。気まずそうに両手の指先をあわせてもじもじする。
「も、もうしわけ、ございません、おにいさま……」
首をかしげた高橋さんと菜帆果をよそに、セイはナップザックから水玉模様のお弁当袋を取りだした。
「えへへへ……」
ソラは照れわらいでごまかす。
「うっわー! ソラ、しんじらんない!」
「だろ。こういうときだけは、あっさりおにいさまとか言うんだ、こいつ」
「ちょっと! えらそうにこいつとか言わないでよ」
「わかった、この弁当は工藤たちと山分けするから、ソラはそこで踊ってればいいよ」
「ちょ! うー……。ゴメンナサイオニイサマ」
きゃらきゃらと菜帆果と高橋さんが笑った。
「ここ、涼しいね。蚊取り線香まであるなんてカンペキじゃん。おれもいい?」
セイも神楽殿に上がりこんだ。
「あの、あ、天川くん、さっきは、ありがとう」
目を上げたセイに、高橋さんはまっかになってつづける。
「さいしょのとき、天川くん……かばってくれたでしょ、たぶん。だから」
あとずさりながらお礼を言う高橋さんに、菜帆果は、あー、とわかったような顔でにやにやする。
セイはというと、とくに照れるわけでもない。
「んー、『おまえが答えろ!』っていうソラの圧がすごかったっていうか。高橋さんって、ソラと今井と、なかいいんだ?」
「いえ、その……そんなでも、ないかも、なんだけど……」
口ごもりながらプチトマトを口に入れた高橋さんに、菜帆果はしなだれかかる。
「ふふーん。そんなでもあるの! あたしと、ソラと高橋さん、すんごいなかよしなの」
ねー、とウインクする菜帆果に、ソラは目をしばたたかせた。
高橋さんは、ごまかすように話題をふる。
「天川さんも、天川くんも、すごくしんけんに展示を見てたね」
「そうそう! セイはともかく、ソラはどうかしちゃったんじゃないかって心配したわ」
「菜帆果……なんかあたしにひどくない?」
でも、しかたない。セイは、呪文の解読のときにみんなが期待するくらいだし、一年間のうちで必ずいちどは学級委員に選ばれるしっかりものだし、先生や学芸員さんの話も、ちゃんと聞く。そのうえ、運動神経もいいほうだ。
ソラはというと、運動はなんでも大得意な反面、おとなしく机に向かったり本を読んだりするのが苦手だ。
そんなソラが、きょうは展示物から目が離せなかった。
「ソラ、お昼のまえに手紙みたいな……古文書? すっごいまじめに見てたよね。なにが書いてあったの?」
ソラは、うっ、とつまる。書いてあったものは……。
わざと明るく言った。
「なまえが書いてあったから。あたしでも読める字があるかなーって、思って」
おどけて、ひとくち大おにぎりをパクンとほおばる。
とたん、胸にこみあげるものがあった。
おにぎり、おいしい。こんなにかんたんに、食べられちゃう……
「え、ちょっと、なになに、ソラ!」
「あ、天川さん、どうしたの」
ソラは、ボロボロ泣いていた。
「ソラが見てたのは、処刑された人たちのリストだった。ひどい飢饉で、なんにんも死んで、それを止めたかっただけの人たちのなまえ。なのに、おにぎりなんか食べてていいのかなって、思ったんだ」
かわりに説明したのはセイだった。
ソラは首をふる。
「や、やめてよ、セイ。そんな、そんなんじゃないってば」
「恥ずかしいことじゃないだろ。そんな、なんて言うな」
きっぱりと言ったセイに、菜帆果がうつむいた。
「……うん。そうだね。そういうの、なんで恥ずかしいって思っちゃうのかな。あたしも、ほんとは、おにぎりでちょっと泣きたくなったんだ」
ソラの背なかをさすった菜帆果も、目が赤い。
高橋さんがおずおずとティッシュをさしだした。
「ありがとう。一揆のこと、しんけんに考えてくれて」
「な、なーに。高橋さんったら、じぶんのことみたいな言いかた」
高橋さんは迷っているのか、すこし間をおいた。
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