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第1章 ここでおきたこと
4.きせき
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「16歳で処刑されちゃった、おゆうって女の子がいたでしょ。高橋ゆう。うちは、高橋ゆうの子孫なんだって」
おどろく3人に、高橋さんははっとする。
「あ、あの、ごめんなさい、ひ、引くよね、こんな話。わすれて!」
「そんなことない!」
ソラは、思わず高橋さんの手をつかんだ。
高橋さんの手の温かさに、また泣けてくる。
350年まえ、おゆうや加藤治助の命はうばわれてしまった。けれど、『命のしっぽ』のようなものが、目のまえの高橋さんにつながっていた。
「引かないし、わすれないよ! すごいことだよ。すごいこと……だよお……」
高橋さんは新しいティッシュをさしだし、ソラはぐしゃぐしゃと涙をふいた。
「ありがとね、天川さん。ご先祖さまが命がけで戦った記憶を、後世までちゃんと伝えていくことが高橋家のつとめだって、うちではずっと言い聞かされてきたから」
でもさ、とセイがすこしえんりょがちに口を出した。
「おゆうって、まだ子どもだったんだろ。なのに、子孫なんて……」
「バカセイ!」
ソラはセイの後頭部をはたく。
高橋さんがあわてた。
「い、いいの、うちに残ってる家系図と言い伝えではそうなってるってだけで……。園原伊織っていう侍が助けてくれたことになってるの」
あ、と菜帆果が人差し指を立てた。
「その侍って、伝説紹介モニターにあった人でしょ! 処刑をやめさせる手紙を届けようとして走った人」
モニターに収められていた伝説のひとつに、『伊織の赦免状』というのがあった。
園原伊織は、一揆の指導者やその家族たちの処刑をとりやめるよう松林藩のお殿さまに訴えて、罪を許す『赦免状』を発給してもらう。それを届けようと馬を走らせたけれど、刑場まであとすこしというところで馬の足が折れ、まにあわなかった、というものだ。
菜帆果の口調が熱っぽくなる。
「わたし、思ったんだけど。そのイオリさんがとちゅうでたおれて、しかも気絶したりしなきゃ、だれも処刑されずにすんだよね」
ソラも身を乗りだす。
「あたしも思った! なんでそこでたおれるかなあって」
「でしょでしょ。わたしのイオリ像は、かんぺきに情けない侍、だよ。でも、高橋さんのご先祖さまを助けてくれたんなら、ちょっとはアがる」
これをきっかけにして、園原伊織談議がはじまった。
みんなで話すと、ひとりでは思いつかないような疑問がたくさん出てくる。
赦免状そのものが作り話じゃないか、と言ったのはセイだ。ほんとうは出されなかったのに、出したことにして、お殿さまの印象を良くしようとしただけだと。資料がないからこそ、伝説モニターに収められるような『伝説』どまりになっている。
けれど、園原伊織にあてた、農民たちからの感謝状が残っているらしい。
「けっきょくまにあわなかったのに、感謝状送るの?」
「わたしたちのためにご尽力、感謝いたします。失敗したけど。……ってやつかもよ」
しかし、処刑の日で刑場のすぐ近くだというなら、大勢の人の行き来があったはずだ。なのに、早馬でかけてきた侍がたおれても、だれもそれを助けないというのは、へんじゃないだろうか。
ソラは、もう! と腕をふりまわす。
「こうなったら、タイムスリップして、イオリさんを助けたーい! だって、それだけで、だれも死なずにすむんだもん」
菜帆果も手を挙げた。
「賛成! それ、きっとだれでも思うよ」
「わたしも、ずっとそう思ってた。イオリさんを助けられたらって」
セイもうなずく。
「みんな、こんなこと、おこってほしくなかった、て思ってるはずだよ」
そのとき、顕彰会館のほうから、先生の吹く集合の笛が聞こえてきた。
「やだ、もうそんな時間⁉」
みんなあわてて立とうとしたときだった。
ひゅっ、と神楽殿に風が吹きこむ。
え? と思ったとたん風が巻き、バスケットボール大の光の玉があらわれた。
ソラは足元をからませながらあとずさる。
「はっ? なにこれ、なに、なに! ねえ菜帆……カッ!?」
菜帆果を見てぎょっとした。笑顔のまま一時停止のように静止している。そのむこうにいる高橋さんも、腰を浮かせて止まっていた。
セイがさけんだ。
「ソ、ソラ! だいじょうぶか!? 動いてるよな。これ、のせいか!?」
「あたしは、へいき、だけど。なにこれ」
笑顔で中腰のまま、ぴくりとも動かない菜帆果と高橋さんに、あらためてゾッとしたときだった。
――願いの力が、満ちました。これで、350年まえの悲劇を止められます。
この、声!
目のまえの光の玉がしゃべっている。きょう、なんどか耳をかすめたのとおなじ、ふしぎな声。
――わたしは、王念岳から、ずっとこの地を見守ってきた霊顕です。悲しみをへらしたい、命を救いたい……そう願う心を力として集めてきました。
そしていま、時の扉を開き、過去へ飛ぶだけの力がたまったのです。
光の玉がもやもやとくずれると、ずんぐりむっくりなシルエットをつくった。
――時の扉を通して、350年まえへ行くことができます。そして350年まえの悲劇を止めることができるのです。それができるのは、あなたがただけ。
今夜、お部屋にうかがいます。くわしいことは、そのときに……
光のシルエットが、空気ちゅうにとけて消えた。
「「なに、いまの……」」
「なにって、集合の笛だよ? 天川さんも天川くんも、きゅうにどうしたの」
はっとして見あげると、高橋さんが、首をかしげて立っていた。
「「いや、いま、ここに、へんな光が……」」
ソラとセイが同時に神楽殿の中央を指さすと、菜帆果が笑いだした。
「ちょっとお、ふたりそろって尻もちついて、ハモりながらへんなこと言わないでよ」
わけがわからず、ソラもセイも目を皿のようにして辺りを見まわす。まったくおなじようすのふたりに、菜帆果と高橋さんは心配そうな顔になる。
「ふたごって、ぐあいがわるいのもシンクロしちゃうこと、あるんだっけ? きょう、暑いし、きゅうに立ちあがったから? だいじょうぶ?」
「……そう、かもな。立ちくらみがシンクロしたかも。ごめんソラ。だぶん、おれだ」
セイはゆっくり立ちあがる。
口を開きかけたソラに、セイは菜帆果と高橋さんから見えないように「シッ」と人差し指をくちびるにあてた。
「天川くん、よく立ちくらみするの?」
「セイは4年のときバイクやめちゃったから、運動不足なんじゃない? あたしをまきこまないでよね」
ソラはいきおいよく立ちあがり、はやく行かなきゃ、と軽くジャンプしてみせた。
神社から芝生の広場へ出たとたん、強い日ざしとむわっとした草いきれにつつまれる。
「あっつーい!」
はしゃぐ菜帆果を先頭に、集合場所へと走る。
ちらりと目配せしあったソラとセイは、おたがいの目を見て確信した。
いまのは、夢じゃない。
おどろく3人に、高橋さんははっとする。
「あ、あの、ごめんなさい、ひ、引くよね、こんな話。わすれて!」
「そんなことない!」
ソラは、思わず高橋さんの手をつかんだ。
高橋さんの手の温かさに、また泣けてくる。
350年まえ、おゆうや加藤治助の命はうばわれてしまった。けれど、『命のしっぽ』のようなものが、目のまえの高橋さんにつながっていた。
「引かないし、わすれないよ! すごいことだよ。すごいこと……だよお……」
高橋さんは新しいティッシュをさしだし、ソラはぐしゃぐしゃと涙をふいた。
「ありがとね、天川さん。ご先祖さまが命がけで戦った記憶を、後世までちゃんと伝えていくことが高橋家のつとめだって、うちではずっと言い聞かされてきたから」
でもさ、とセイがすこしえんりょがちに口を出した。
「おゆうって、まだ子どもだったんだろ。なのに、子孫なんて……」
「バカセイ!」
ソラはセイの後頭部をはたく。
高橋さんがあわてた。
「い、いいの、うちに残ってる家系図と言い伝えではそうなってるってだけで……。園原伊織っていう侍が助けてくれたことになってるの」
あ、と菜帆果が人差し指を立てた。
「その侍って、伝説紹介モニターにあった人でしょ! 処刑をやめさせる手紙を届けようとして走った人」
モニターに収められていた伝説のひとつに、『伊織の赦免状』というのがあった。
園原伊織は、一揆の指導者やその家族たちの処刑をとりやめるよう松林藩のお殿さまに訴えて、罪を許す『赦免状』を発給してもらう。それを届けようと馬を走らせたけれど、刑場まであとすこしというところで馬の足が折れ、まにあわなかった、というものだ。
菜帆果の口調が熱っぽくなる。
「わたし、思ったんだけど。そのイオリさんがとちゅうでたおれて、しかも気絶したりしなきゃ、だれも処刑されずにすんだよね」
ソラも身を乗りだす。
「あたしも思った! なんでそこでたおれるかなあって」
「でしょでしょ。わたしのイオリ像は、かんぺきに情けない侍、だよ。でも、高橋さんのご先祖さまを助けてくれたんなら、ちょっとはアがる」
これをきっかけにして、園原伊織談議がはじまった。
みんなで話すと、ひとりでは思いつかないような疑問がたくさん出てくる。
赦免状そのものが作り話じゃないか、と言ったのはセイだ。ほんとうは出されなかったのに、出したことにして、お殿さまの印象を良くしようとしただけだと。資料がないからこそ、伝説モニターに収められるような『伝説』どまりになっている。
けれど、園原伊織にあてた、農民たちからの感謝状が残っているらしい。
「けっきょくまにあわなかったのに、感謝状送るの?」
「わたしたちのためにご尽力、感謝いたします。失敗したけど。……ってやつかもよ」
しかし、処刑の日で刑場のすぐ近くだというなら、大勢の人の行き来があったはずだ。なのに、早馬でかけてきた侍がたおれても、だれもそれを助けないというのは、へんじゃないだろうか。
ソラは、もう! と腕をふりまわす。
「こうなったら、タイムスリップして、イオリさんを助けたーい! だって、それだけで、だれも死なずにすむんだもん」
菜帆果も手を挙げた。
「賛成! それ、きっとだれでも思うよ」
「わたしも、ずっとそう思ってた。イオリさんを助けられたらって」
セイもうなずく。
「みんな、こんなこと、おこってほしくなかった、て思ってるはずだよ」
そのとき、顕彰会館のほうから、先生の吹く集合の笛が聞こえてきた。
「やだ、もうそんな時間⁉」
みんなあわてて立とうとしたときだった。
ひゅっ、と神楽殿に風が吹きこむ。
え? と思ったとたん風が巻き、バスケットボール大の光の玉があらわれた。
ソラは足元をからませながらあとずさる。
「はっ? なにこれ、なに、なに! ねえ菜帆……カッ!?」
菜帆果を見てぎょっとした。笑顔のまま一時停止のように静止している。そのむこうにいる高橋さんも、腰を浮かせて止まっていた。
セイがさけんだ。
「ソ、ソラ! だいじょうぶか!? 動いてるよな。これ、のせいか!?」
「あたしは、へいき、だけど。なにこれ」
笑顔で中腰のまま、ぴくりとも動かない菜帆果と高橋さんに、あらためてゾッとしたときだった。
――願いの力が、満ちました。これで、350年まえの悲劇を止められます。
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目のまえの光の玉がしゃべっている。きょう、なんどか耳をかすめたのとおなじ、ふしぎな声。
――わたしは、王念岳から、ずっとこの地を見守ってきた霊顕です。悲しみをへらしたい、命を救いたい……そう願う心を力として集めてきました。
そしていま、時の扉を開き、過去へ飛ぶだけの力がたまったのです。
光の玉がもやもやとくずれると、ずんぐりむっくりなシルエットをつくった。
――時の扉を通して、350年まえへ行くことができます。そして350年まえの悲劇を止めることができるのです。それができるのは、あなたがただけ。
今夜、お部屋にうかがいます。くわしいことは、そのときに……
光のシルエットが、空気ちゅうにとけて消えた。
「「なに、いまの……」」
「なにって、集合の笛だよ? 天川さんも天川くんも、きゅうにどうしたの」
はっとして見あげると、高橋さんが、首をかしげて立っていた。
「「いや、いま、ここに、へんな光が……」」
ソラとセイが同時に神楽殿の中央を指さすと、菜帆果が笑いだした。
「ちょっとお、ふたりそろって尻もちついて、ハモりながらへんなこと言わないでよ」
わけがわからず、ソラもセイも目を皿のようにして辺りを見まわす。まったくおなじようすのふたりに、菜帆果と高橋さんは心配そうな顔になる。
「ふたごって、ぐあいがわるいのもシンクロしちゃうこと、あるんだっけ? きょう、暑いし、きゅうに立ちあがったから? だいじょうぶ?」
「……そう、かもな。立ちくらみがシンクロしたかも。ごめんソラ。だぶん、おれだ」
セイはゆっくり立ちあがる。
口を開きかけたソラに、セイは菜帆果と高橋さんから見えないように「シッ」と人差し指をくちびるにあてた。
「天川くん、よく立ちくらみするの?」
「セイは4年のときバイクやめちゃったから、運動不足なんじゃない? あたしをまきこまないでよね」
ソラはいきおいよく立ちあがり、はやく行かなきゃ、と軽くジャンプしてみせた。
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