時駆け! 星空ふたごは歴史をかえてみせます

涼・麦穂

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第2章 運命をかえる!

1.ゆるキャラの神さま

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 ソラとセイは、ふたりでひと部屋だ。
 とはいえ、お父さんがつくった特別製とくべつせい二段ベッドのおかげで、ソラ部屋とセイ部屋にちゃんと分かれている。
 ベッドの上段じょうだんは右手がわに、下段げだんは左手がわに仕切り板がついていて、部屋のまんなかにベッドを置くと、部屋がふたつになるしくみだ。
 でもちょっとせまいうえに音がつつぬけけなので、はやくほんもののひとり部屋がほしい。

 しかしきょうばかりは、ふたりとも『ひと部屋だけどふた部屋』に感謝かんしゃしている。

――今夜こんや、お部屋にうかがいます。 

 神楽殿かぐらでんで、光る玉が残した言葉だ。
 校外学習が終わって家に帰ってきてからも、ふたりは光の玉のことを口にしなかった。けれど、そわそわしていることは、おたがいにわかっていた。

 はやめにベッドに入ったものの、ソラは寝がえりをうちつづけた。
 電灯でんとうを消すまでは光の玉のことで頭がいっぱいだったけれど、暗くなると、シアターで見た物語が思いだされてきた。

 飢饉ききん重税じゅうぜいにあえぐ農民たち、つかまったおゆうの名をさけぶ人々、磔台はりつけだいの上の治助じすけをつらぬくやり穂先ほさき――

 たまらなくなって、ソラは下段にいるセイに声をかけた。

「……そっち行っていい?」
「いいよ」

 セイもねむれなかったのだろう。ごそごそと起きあがる気配けはいがした。
 ソラはセイ部屋にまわるとベッドのはしにこしかける。

「あたし、この町であんなにひどいことがあったなんて、ぜんぜん知らなかった。どうして、あんなにたくさんの人が処刑しょけいされなきゃいけなかったの。家族まで、なんて」

 加藤かとう治助は、一揆いっきをおこせば首謀者しゅぼうしゃが処刑されることを、知っていたはずだ。それでもなお、苦しんでいる人々のために先頭に立つことを選んだ。

「そんな立派りっぱな人を、ほんとうに処刑しちゃうなんて、ありえない。おゆうちゃんだってかわいそうだよ。あたし、あと3年生きただけで、死にたくない」

 かぞえ16歳でころされてしまったおゆう。
 ソラたちとおなじ満年齢まんねんれいになおせば、14歳か15歳になる。中学校を卒業して、高校生になる歳だ。
 中三なんて、ソラにはものすごくおとなに見える。
 けれど、本物のおとなにまじって命がけの仕事をして、おなじだけの責任を取らされるほどおとなとも思えない。

「……イオリさんの伝説が本当のことで、しかもまにあってれば、よかったのに」

 そうすれば、治助も、おゆうも、だれひとり死なずにすんだ。

「おれも、そう思ってる。必死ひっしでかけてきたって、まにあわなきゃ意味ない」

 どうして、あとすこしのところでたおれてしまったんだろう。
 どうして、たおれた園原伊織そのはらいおりを助ける人がいなかったんだろう。
 その結果、「亡くなった人々の勇気と犠牲ぎせい精神せいしんを忘れずにいましょう」なんて、バカみたいじゃないか。

「……もしも、あの光が、だけど」
「うん」

 ふたり同時に見た、あの光を信じるならば。
 光の玉は言った。350年まえに行けると、悲劇ひげきを止められると。

「「あのときに行って、イオリさんを助けて、処刑を止めてみせる!」」

 ふっと風を感じた。窓もドアもしまった部屋のなかで。

(……きた! 夢じゃ、ない!)

 あの光る玉が、ふたりのまえにあらわれた。つづいて頭のなかに声がひびく。

――よく、決意けついしてくれました。

 光は、もやもやとくずれて、ずんぐりむっくりのシルエットをつくる。こんどは、そのまま消えずにはっきりしたかたちになった。
 そこに現れたのは。

「「ホ、ホルンちゃん!?」」

 ナス型帽子にぱっちりお目めのゆるキャラ。
 姿がはっきりしたら、声も、耳で聞こえるふつうの声になった。

「はあ~! やはり、かたちを得るのはいいものですねえ。神社でも申しあげましたとおり、わたしは王念岳おうねんだけ宿やど霊顕れいげん。ずっと昔からはるか未来まで、この地を見まもるモノです」

 ソラもセイも、口を半開はんびらきにしてかたまった。

「おや、どうしましたか? この姿がお気にめしませんか?」
 ホルンちゃんは首をかしげる。

「「いや、いやいやいやいや、なんで、ホルンちゃんが……」」

「ですから、わたしは王念岳の……えーと、山に宿る精霊せいれいとか、神さまのようなものです」

「「かみさま……」」

 たしかに、ホルンちゃんは「王念岳のお花畑からやってきた妖精ようせい」だ。妖精よりも神さまのほうがえらいとは思うけれど、存在的そんざいてきにはにたようなものかもしれない。

「あらゆるものに神が宿るという『八百万やおよろずの神』という考えは便利ですね。説明がかんたんですみます」

 ホルンちゃんは満足まんぞくげにうなずいている。ソラはなっとくしてしまいそうになったけれど、セイがつっこんだ。

「神さまでもなんでもいいけど……なんでゆるキャラの姿なんだ」

「王念岳に宿る精霊というと、ちかごろこの姿をイメージしている人間がおおいからです。こんな雪だるま型ははじめてですが、わるくありませんね。七福神しちふくじんの方々などは、昔からずうっと、ゆるキャラにも負けないお姿でおまつりされているではないですか」
 そう言って、パチリとウインクしてみせた。

「さて、話しを進めましょう。こうしてかたちを得たおかげで、わたしも記憶きおくがはっきりしてきました。うんうん。350年まえのわたしのもとへ、未来のわたしから送られてきた子どもの顔は、あなたです。うん? こちらかも……」

 ホルンちゃんはふたごの顔を見くらべ、「どっちだったかしら……まあいいか」とかってにうなずいた。

「あなたがたは、『たいむすりっぷ』して350年まえの悲劇を救う、運命うんめいの子どもたちです。どうか、処刑を止めるために、力をかしてください」

 このセリフ! とソラのむね高鳴たかなる。
 ファンタジーが好きな人なら、言われてみたいトップ・スリーに入るであろうこの言葉が、いま……!

「あ、思ったとおり、この言いかたでつうじたようですね。いまの時代、空想物語くうそうものがたりがあふれているおかげで説明が楽で助かります」

「……ゆめ現実感げんじつかんのジェットコースターみたいな神さまだな……」
 水をさされたソラの気分を、セイが的確てきかくに表現してくれた。「それはともかく」と、セイは神さまホルンちゃんをまっすぐに見る。

「350年まえの悲劇を救えるって、言ったよね? それができるなら、これが夢でも現実でも、神さまでも着ぐるみでも、なんでもいい」

 ゆるキャラの登場で調子ちょうしがくるってしまったけれど、かんじんなのはそこだ。
 治助を、おゆうを、この土地の人々を、死なせたくない。

「失礼しました。わたしも、ひさびさに姿を固定こていできて浮かれてしまったようです。まじめにお話ししましょう。この地の真実しんじつの歴史を、かえないために」

 真実の歴史を『かえない』ため……?
 ふたりは、顔を見あわせた。

「この地に伝わっている農民一揆のうみんいっき結末けつまつは、真実ではありません。処刑されたとして記録きろくされた人々。じつは、だれひとり、死んではいないのです」

「「え!?」」

 どういうことだろうか。

 はやる気もちをおさえて、ふたりはホルンちゃんの話しに耳をかたむけた。
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