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知らない地、異なる世界
それは辛く、それでも歩く
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【1】
遠く微かに枝葉が揺れる、耳障りの良く、心を和ませる音が流れる。何処からともなく、いや周辺を包み込むように微かに鳴り続けて。
其処は、豊富な緑が氾濫するほどに繁殖し、猛々しい木々が乱立する地帯である。俗に、森林地帯と呼ばれる、名称通り場所。
そのおよそ中央位置に村が存在する。豊かな緑と共存し、同化するようにひっそりと佇む村、フェリス。通称、恵みの村と呼ばれる、農業に長閑に力を入れる村である。
木造建築が多数、作物を育てる為の田畑が大部分を占める其処で、枝葉の囁きが景色を彩る。日常と化したそれは時に人に安らぎを、そして眠りの中に居る者に更なる安眠を齎すだろう。数名を除いて。
起床の際に生じた疲労感を背負い、小さく切れる呼吸を抑えつつ山崎は早々に支度を終える。命じられた課題を行う為の心構えも終え、部屋の扉を開いた直後であった。
「あ・・・もう行くの?」
部屋から出た処で女主人と出くわした。思わず接触しそうになり、踏み止まった山崎は少々焦って。対する彼女は全く動じていない。多くのものに対して興味を示さず。
「おはよう。ああ、新藤は台所だな?それと・・・服はちゃんと着ろ」
かなり眠そうな彼女を注意し、横を通り過ぎて台所へと向かっていく。その彼女は白のシャツだけと言う、かなり露出し、だらけた姿であった。なのに、注意一つだけと言うのは、彼も慣れてしまった証と言えた。
部屋を出て、曲がり角を曲がり、正面玄関を通り過ぎて居間に着く。其処から続く部屋を覗けば、今まさに楽しそうに調理する新藤の姿が映った。
「おはよう、今日も悪いな」
「おお、おはよう。これが条件だし、俺は楽しいしな。気にすんな」
軽く遣り取りし、丁度完成した料理が食卓に並べられる。それを手伝っている内に女主人が到着した。
食事を始める挨拶なく、無言のまま彼女が食し始める。それ事を機に、朝食は始められていた。
時間が流れるのは実に速いもの、彼等がフェリスに着いてから一瞬間が経とうとしていた。その間、彼等は劇的な変化を概ね順応しつつあった。
最初は戸惑いがあった。変化した環境、日常、常識。己が事さえも。それでも、戦闘を重ねている内に、日々を消費していくうちに。
時間は人々の迷いなど視界にも入れず、無慈悲に過ぎ去っていく。それに抗うように、受け入れていくしかないのだろう。今の彼等のように。
その二人の傍にフーの姿は無かった。それは二日前の事である。
陽射しが射し込む森の中、二人の戦闘風景を観察していた彼。丁度、戦闘を終え、一息が吐かれた時であった。
『もう、二人だけにしても充分だわな。じゃー、俺も用事があるから、頑張れよ』
そう言い残してさっさと何処かへと立ち去っていったのだ。責任放棄とも取れる姿に憤った山崎だが、これも与えられた仕事の一環と割り切り、能天気な新藤と共に戦闘に明け暮れていた。
肝心の戦闘、魔物ローウスとの戦闘は恙無く行われていた。今となっては苦戦も無く、何の問題も無く斃せる様になっていた。そうでなかったならば、フーも立ち去る事はしないだろう。
とは言え、最初の内は結構苦戦していたのも事実。命を奪った負い目、良心の呵責に因って如何しても動きは鈍かった。そう言った思考と、スムーズに動いて魔物を斃す身体の差異が生じ、悪戦苦闘して。
それでも数を重ねる毎に、戦いに、武器を振るい、命を奪う事に、その野蛮な事に慣れていった。或いは順応していったと言うのだろう。身体が思い出す感覚、それに近く。
だが、それよりも、平気なっていく自身に二人は嫌悪感を抱く。それすらも、日を追う毎に薄れていった。
また、戦いのぎこちなさは、身体に知らぬ経験が蓄積されている事の証であった。戦闘の記憶が断片的に過ぎる為、それは確実に。それすらも数をこなすうちに改善し、新たな傷や、残る痛みから遠ざかりつつある事から、疑問は薄れていった。
それどころか、自身の変化を把握する事に精一杯だったのかも知れない。改めて確認した自らは、筋骨は以前の自分と遥かに強化されており、戦闘を前提とした身体付きである事を知る。身体能力、頑強さなどがおよそ二倍ほどに向上され、そうでないと生きていられない世界なのだと実感していた為に。
それら驚きは直ぐにも薄れ、記憶の彼方に追い遣るように、二人はまた村の外へと駆り出していく。
鬱蒼とする森林地帯には鳥の囀りが聞こえる。朝を告げる為のそれは楽しげに。しかし、不気味に響き渡る鳴き声がそれを呑み込む。
朝が訪れた森林であろうと、陽の光は僅かに射し込むだけで見渡し辛い。最奥の一片すらも見せず、様々な植物が入り組む空間は不気味でしかない。唯一、整地された道の頭上だけが開けているが、それでも暗闇は広がり続ける。
生暖かい風が吹く。何処からか吹き込むそれは生命が吹き込まれたかのよう。感じる者それぞれだが、場の雰囲気で、恐怖と言う感情に因って感覚は歪もうか。本来は涼やかに、彩る草花を優しく撫で、枝葉を揺らす程度であったとしても。
「・・・さて、行くぞ」
「だな」
すっかり慣れた二人。一切物怖じせず、人の介入を一切感じられなく映る場所を突き進んでいく。
進むにつれ、内部が空想的に映り出す。頭上を敷き詰める枝葉は陽に因って透け、その明暗が星空に劣らぬ美しさとなる。僅かに零れ入る陽の筋は地面に到達する前に消えており、それは広範囲に幾多にも。それは、不穏な世界が次第に晴れていくように。
駆け抜けていく風は僅かに肌寒く、枝葉の潺が緊張を和らげるように響く。鳴き声が治まればそれは際立ち、自身の居場所を知らせるように足音が響く。朝の早い、この時間だけが一時的に別の場所に様変わりをしたかのようであった。
「しっかし、アレだな。この不思議に満ち溢れた世界に来てから、もう一週間以上経っちまったのかぁ・・・」
感慨深げに新藤が呟く。遠くを見つめつつ、周囲の警戒を劣らぬその面は寂しそうに。そして、もどかしさが介在して。
「・・・そうだな」
相槌を打つ山崎も同様の面となり、声量を落とす。彼は思い返す。平和で心地良くとも、寂しかったあの日常。それがあの異変に巻き込まれ、記憶が少しずつ薄れつつあった。最早、あの日常が夢の出来事であったかのように。
悲しげに会話する彼等、絶えず森の中を歩き続ける。周囲に立ち並ぶ木々、傍らの茂みや植物を横目にしつつ、警戒を怠らず。
「すっかり、慣れちまったよ、この世界にさ。有り得るか?まるでゲームの世界だぜ?一回ぐらいは想像した事はあるけどよ、いざなっちまったら、冗談じゃねぇよな!魔物とか、勘弁してくれ」
順応したと語る彼は不満を口にする。例え、想像を膨らませたとして、現実となってしまえばその過酷さに嫌気が差そう。命の危険が伴えば、否定したい、逃げ出したい思いも理解出来る。
「ああ、俺も思う。いっその事、夢だったらってな。だったら、覚めて、終わるだけの話だからな」
「夢か・・・俺も思った。だったら凄ぇ、嬉しけどさ。覚めたら、また、勉強三昧、部活三昧で、それはそれで大変だと思うけどな」
仮定の話が交わされる。互いが同調し、慰め合うような会話は虚しさを伴う。歩を進める程に、辛さが込み上げる。
「・・・ああ、これが俺の夢だったらなぁ・・・だったら、誰かが俺を起こして終わり、なんだけどなぁ・・・お前か・・・母さんが、なぁ・・・」
横顔は、今にも泣きそうなほどに。心残り、憂う事は家族の安否、その一点であろう。
彼の横顔を見た山崎はぐっと噛み締める。その辛さ、苦しさと似た経験した彼であっても、易々と返答は出来なかった。
「・・・だったら、俺が今直ぐ起こしてやろうか?そうだな。お前の顔を、原型を留めなくなるまで殴れば、この悪夢も、終わるかも知れないな」
それは元気付ける、気を紛らわせる積もりの冗談であった。剣を小さく構えた事もまた、その意思は全くない。
その思い遣りが伝わったのか、付き合ったのか、新藤は小さく笑いを零す。
「・・・ハハ。止めろって、物騒な奴だな、お前は。殴るとしても、普通は拳だろ?」
「お前ぐらいになったら、それじゃ足りないと思ってな」
「全く、お前は・・・」
笑いが零れた事に因り、互いに気が紛れる。鬱々とした思いは少しだけ晴れる。
「不思議と言えば、さ」
「なんだ?」
「俺達が此処に来た時、その剣が有ったんだよな?」
視界に入った、白い鞘に納められた剣を見つめて一言。
「そうだな。お前は、何故か刀身が砕けた剣を持っていたな」
今は鍛冶屋ガストールに預けており、今は比べて頼りなさ気な直剣が新藤の腰に。
「不思議だよな。俺達が来た時に持ってたって事は、こう・・・運命って言うのか、因縁って言うのか?感じるよな」
「そうか?衣服や姿も変わったんだ。理屈は分からないが、一律で変化に合わされた形になった・・・そんな所だろ?」
深くは考えていなかった為、程々に推察して返すが新藤は顔を歪める。
「俺に聞くなって、分からねぇんだからさ」
確かに考えたとしても詮無い話。
「仮によ、あの剣とそれ交換してくれって言ったらするか?」
「如何言う流れだ、それは」
唐突の話に多少戸惑う山崎。
「だってよ、その剣は使い易いんだろ?異様な軽さだって言ってたし、興味は出るだろ、そりゃあ」
「お前の持っている剣が標準の重さだと思うがな」
「で、如何だ?」
顔を顰めていた山崎だが、剣を見つめて真剣に悩み始める。足を止めてしまう程に集中し、一つの答えが導き出される。
「いや、駄目だな」
真面目な返答を受け、怪訝な表情を浮かべる新藤だが妙に納得した様子を示す。
「愛着でも湧いたのか?まぁ、良いけどよ」
そう、最後は興味を無くしていい加減に話は区切られた。
暫く歩き続けた彼等だが、目的の存在と出会えず、無駄に時間を消費するだけに終わる。
「けど、まぁ・・・お前がそうやって気に入る物とかが溢れる世界に着ちまったんだよなぁ、俺達」
「だな」
しみじみと思う。受け入れたくなくとも、受け入れるしかなく。
「・・・俺達の他に、生きてる奴、居るよな?・・・母さんも、生きてる、よな?」
「・・・分からない。それを確かめる為に、レインやフー、俺達より来た人間が頑張っているんだろ」
不安の思いを受け、それを少しでも紛らわせようとして。けれど、そう易々と治まる事も無く。
「そうかも知れないけど、俺は・・・」
反論するように、気持ちが溢れそうになった矢先であった。遮ろうと、動かそうとした唇はある出来事に止められてしまった。
それは、音。茂みが衝撃で揺れ動いた為に発生した。音源は二人の前方、木々との間隔を埋めるように生えた大きな茂みの方向から。それは不自然なほどに今も尚揺れ、明らかに何かが居る事を示す。
事態の急変に前に、二人は抱えた感情を抑え、対処すべく武器を引き抜いた。
【2】
接近して来たであろう存在に対し、二人は至極冷静に心を定める。それは、この約一週間で培い、馴染んだ理の一つ。
前方の警戒を深め、顔を険しくさせる二人の視界。映る大きな茂みから生物が一体、躍り出した。
荒く、手入れの概念の無き体毛は荒れ狂い、その気性を表そう。爪や牙はその随所に示すだろう。双眸は常に飢えに囚われ、牙を剥き出す口から漏れ出す涎が証拠である。やや細き四肢で立ち、構えて警戒する姿は飽きたと言っても誰も咎めないであろう。
その生物の名称は、ローウス。魔物と言えば、この獣を想像するほどに馴染み深い存在である。その獣が二人の前に姿を現したのだ。数は、一体。
「来たな」
たった一体のローウスを見て、静かに息を吐く新藤。拍子抜けする事無く、ふざける事無く、気持ちを定めて対面する。
「・・・ああ、気を抜くなよ」
「分かってる」
簡単に互いを士気を高めて、訪れたローウスを睨む。簡単に行動に移す事はしなかった。ただ一体だけが襲って来る筈がない、そう判断して警戒し。
心を鎮め、様子見を行う二人の視界には変化が見られた。姿を現した一体の他に、茂みや木々の陰から一体、また一体とゆっくりと姿を現す。そうして、総数七体が集結した。慎重な二人を前に、状況が変化しない事に痺れを切らしたとでも言うのだろうか。
ぞろぞろと姿を現す光景に、新藤は小さく鼻で笑う。もう、慣れてしまった光景であったのだ。隣では嫌気を含ませた溜息が漏れて。
「嫌になるよな、群れって言うのは」
「手間が省ける、と考えるしかないな」
度重なる戦闘を経験し、互いに嫌気を覗かせるのはそれぞれの思いがあっての事。大部分が飽き、その他は薄れつつある抵抗感。
静かに戦意が満ちていく。面に、その場にそぐわぬ思いは消え、眼前の魔物を狩る意思を定める。
所作はそれぞれでも殺気は五感で感ずるのだろう、ローウスの群れは一挙に戦闘態勢を取り、牙を剥き出した。
状態を屈め、見上げて唸る。鼻頭周辺に皺を寄せて牙を剥く面は怒りそのもの。地を抉るほど爪を立て、力を篭める後足は僅かに肥大して。
ローウスのお馴染みの態勢であり、見慣れた二人だが、総数七体が一斉に移れば少々圧巻しようか。だが、慣れも相まって二人は怖気付く事はなく。
地を蹴り出し、無作為に接近する先頭に位置していた獣。その先兵と言える数体が一途に山崎を目指す。彼の方が近く、鈍器と思しき武器を所有する事で優先されたのだろう。また、返り討ちに遭う同胞が居ようとも僅かな隙を衝けば勝てると踏んでの多勢か。
残りは様子見の為、動じず。この選択は誤りとは言えないが、経験値のある二人に対しての少数は得策とは言えないだろう。一斉に掛かっていれば、或いは。
飢えを満たさんと駆け抜ける数体、正確には二体に対し、二人は冷静を保って待機する。各々の動きの届く位置まで、所持する武器の射程距離に届くまで。
四肢で軽快に駆け抜ける速度は人と比べ物にはならない。しかし、その方向、正面から接近する以上、何の脅威にはならない。
やがて、構え待つ山崎の付近まで接近すると、踏み止まって後ろ足で蹴って跳躍、飛び掛からんとした。
その目も当てられないような無計画な攻撃を前に、山崎は無心で腕を振り上げ、半歩踏み出すと同時に振り下ろした。容赦の無い一撃は、空を叩く音を纏い、鈍き接触音を響かせた。
同時に破砕音が紛れた直後、先陣を切った獣の片割れは地面に叩き付けられた。激しく跳ね返った後、力無く地面に崩れる。その姿は痛ましく、額を打たれ、過負荷となった首は有らぬ方向へと折れ曲がっていた。
息の途絶えた獣を下に、顔を僅かに顰める山崎。彼の手には、仕留めた際の感触が残されて。
行動を終えた彼の前に飛び上がる一つの影。首に喰い付かんと続いていたもう一体が牙と爪を尖らせていた。その意欲は、鋭き剣筋によって斬り捨てられてしまう。
飛び掛かった無防備な灰色の腹部に向け、銀の軌道を叩き込んだのは新藤。その一体の動向を見逃さず、同様に距離を詰めて薙ぎ払ったのだ。それは正確な援護であり、失敗は無く。
攻撃を防がれ、腹部を斬られた獣は地に叩き付けられる。痛みに苦しみもがくのだが、少しづつ広がる血溜まりの中、ゆっくりと静かになっていった。
彼等の動きは、素人目で見たとしても到底一週間程度剣に触れた者のそれではなかった。命を絶つ、その躊躇いの無さもまた。慣れ、順応してきた事も挙げられよう。それでも、最近まで普通の高校生とは言えぬ有り様であった。
「次だな!」
「ああ、気を抜くなよ」
声を出し、自身を鼓舞するような声に釘を刺し、相槌は力んで返される。
短い遣り取りに反応するように、同胞を打たれた怒りを震わせるように吼え立つ。そして、一斉に駆け出される。
犬種特有の足の速さを前に、息を吐いて再度構えゆく新藤。その彼に対し、牙を剥き出しにして獣は接近する。
ただ実直に、距離を詰める獣達を見つめながら彼の構えは定まる。正面に対し、身体の向きを斜に定め、軸足を若干前に。両手で握り込んだ剣を背負い込むように大きく振り被る。力を溜める様子が見て取れる姿勢で制止した。
両腕に、肩、腰、両足に力を溜め、歯を食い縛る彼の身体は唐突に動く。射程距離に踏み込んだ獣を前に、力を爆発させるように。
宙に浮き、戦意を漲らせる獣の顔面に一筋の軌跡が過ぎ去った。力の限り振られた剣は目に留まらせず、反射する光だけを残さない。終えた彼はしゃがみ込んで制止し、息を大きく吐き捨てた。
宙で分断され、血と臓器が舞う中、彼は続け様に動く。雨の如き血を振り払うように、或いは避けるように身体を起こし、後続に臨む。
休憩を与えまいと追撃を掛けようとする獣。両顎を開き、飛び掛からんとした直前の姿勢。其処に水平に薙ぎ払う一撃が叩き込まれた。研ぎ澄まされた刀身が身を分断し、治まらぬ力の作用で死体は地面に滑っていった。
早々に二体を仕留め、息を吐き捨てた新藤に、仇と言わんばかり三体目が牙を剥く。同胞の死体に隠れ、死角を衝かんとして。だが、その行為は無意味に終わる。
奇襲を掛けんとするその身は、打撲する音と共に大きく撓る。下方から打ち上げるが如き逆袈裟が叩き込まれたのだ。素早い移動と体重移動を駆使し、隙だらけの腹部に白の鞘に納められた剣が減り込む。山崎が静観し続ける筈もなく。
打たれた一体は付近に生えた樹木に激突し、地面に崩れ落ちる。血反吐を吐き、弱々しく苦しみもがく姿に先が途絶えた事を察して。
「さっきから、集中して狩ろうとしているな」
「だな。でも、もう意味ねぇな」
同胞を葬られ、残り二体となったローウスは憤怒を顔に宿して唸る。その心情を察し、警戒を緩められない二人は眉を落とす。
最早、全てが覆らないと、如何にもならないと残りの二体は駆け出す。同時期に、土を蹴り出した。
群れを為す魔物であっても思考は完全に一致する事は無い。タイミングが同じに見えてもズレが生じ、だからこそ連撃に繋がって危険度が増す。同時に好機にも成り得る。その例が、先の山崎と新藤の連携である。
そうでなくとも、ローウスには悪癖があった。攻撃の際、敵の近くで急停止してしまう癖である。跳ぶにしても、そのまま突撃するにしても、必ず後ろ足で蹴る為に若干速度を落とす。それを見極め、対処すれば撃退はそう難しくなく。
それを示すように、二人は二体のローウスが行動に移る際の癖を見極め、転ずる直前に隙として衝き、仕留めていた。
素早く急所を捉えて圧し折り、膂力に任せた一撃は地面に叩き付けられるほどに。ほぼ同時期に、二体の獣の命は奪い去られていた。
戦闘を終えた二人の周囲は血で溢れていた。ローウスの死体から流れる血は極小の川を作ってしまう程に。
繰り返す呼吸音が小さく木霊する。森の深部に消えゆき、誰の耳にも届かず。二人分のそれは、疲労を吐露するものではない。心苦しさを誤魔化す溜息に似て。
命が失われた凄惨なその場にて、呼吸を繰り返す二人は戦闘が終えた事を理解して緊張を解く。嫌に重苦しい静寂に包まれ、胸が空く思いには浸れず、静かに表情を落としていた。
その原因は、これまで魔物と戦い、その中で散々に抱いた感覚。例え、魔物であっても、生物を殺める事に呵責を感じる。見慣れた姿の生物の命を奪う、当然に。だが、それは眉を顰める程度の嫌悪として、それを咎める衝動が弱い事を気に掛けていたのだ。
生きる以上、避けられない事。回数を重ねる事も含めて、その感覚は薄れつつあった、罪悪感すらも。その変化に気付いても、如何にもならない事も理解し、ただただ息を吐くしかなかった。
【3】
戦闘、若しくは狩猟を終え、僅かな空白を挟んだ二人はとある作業に取り掛かっていた。それはローウスの死体を持ち運ぶ為の手間である。
分断してしまった個体には近付かず、首の折れた一体や腹部に痛々しい打撲痕が残る一体の血を拭う。そして、持ち運ぶ為に、ウェストバッグから縄を取り出して前足を縛る。取り外せるように縛った後に肩に担ぐ。
一人ずつ、ローウスを背負うのだが、力の失われた身は重く。実際よりもずっとズシリと重く感じるのは、罪の意識が含まれる事は間違いなく。
彼等が死体を持ち帰ろうとするのは理由がある。至極単純、金になるから。多くの魔物はあらゆる方面の資材となる。その一つを上げるならば、食材。
その情報を教えたのは、五日前に別れたフーである。
「ああ、そうそう。渡してなかったわな。ほいよ」
十分だと判断し、仕事に勤しもうと別れる寸前の事。ふと、何かを思い出した彼がウェストバッグを探り、取り出した何かを乱雑に投げて寄越したのだ。
「っと!おい、何かは知らないが、投げるな!」
いい加減な彼に叱り付けるのだが、本人は全く気になどしていない。
「それはお前等の滞在費なんだわ、一週間のな。お前達は仕事として此処に滞在するんだ、当然、出るわな」
そう語る通り、一週間を滞在出来るであろう金額の硬貨が詰められる。量に比例する事を、受け取った山崎の手に掛かった重さが物語る。
一応の事、その中身を確認する。煌く銀が多くとも金も混じり、その金額が想像出来、顔が顰められた。また、隣に立つ新藤が覗き込み、小さく驚いていた。
「こんなに、渡しても大丈夫なのか?」
「言っとくけど、こいつも経費だからな?事前に帳面に金額を記入して管理してんだわ。だから、なるべく節約しろよ?返却する時に如何こう遣り繰りしたとかを聞かれるからな。ま、良くある事だわな。経費の使い道を聞いて、その者の能力を問うって奴は」
「・・・なら、これで全てを賄っていたら駄目、って事になるな」
「そうなるわな」
それで自己管理等を問うと言うのなら、無暗に消費する事は当然、駄目。前の世界ほど、厳重に管理していない事は想像出来る。だからこそ、判断基準となるのだろう。
「でも、俺達、エルドを稼ぐ方法、知らないっスよ?何となくは想像出来るっスけど・・・」
「まぁ・・・持っている物を売る、給料として貰う・・・ぐらいか?」
知識として、思い付く事を口にする。それは否定されず、共通している事を知る。
「それと酒場とかで依頼を聞き、それをこなして報酬として貰う、ってのもあるんだわ」
「それって、あれっスか?ゲームとかで良くある?」
「そうそう。そんでもって、やる事はラファーとあんまり変わんねーわな。でも、手軽に仕事を受けられて、報酬は丸ごと得られる。その代わり、金額は少なめ、っ言ー感じなんだわ」
「他にはないのか?」
ある程度の知識を得て、把握した山崎が更に問い掛ける。
「まー、そうだな。持ってる物を売る、給料として貰う・・・の他は、そーだな。誰かに貰うとか、拾うとかしかねーんじゃーねーの?心が荒んでるから、盗むとかの邪法しか思い付かねーよ」
小さく自虐して笑いを零す彼。その発言を受け、山崎は静かに心を沈めていた。
「ああ、それとだ」
笑いが治まった直後、何かを思い出したフー。相当重要な事なのだろう、苦笑する面は申し訳なさそうに。
「悪ー、魔物を狩る方法があったんだわ。それぞれに価値が有るからよ」
「そうなんスか?」
「おお、あいつ等の皮とかは服になったり、剥製にして飾ったりよ。物好きは武器の装飾にしたりするんだわ。硬い奴もあるから、何かの道具にしたり、家の一部にしたりよ。それに、さっきのローウスは食べられるんだぜ?んでもって、中々歯応えあって美味ーんだわ」
二人にとって驚愕の事実を知らされ、思わず言葉を失ってしまう。だが、よくよく考えると、動物や家畜の皮を衣服等に活用したり、食用として使用する事は常識であり、然して可笑しい事ではなかった。
「だから、ローウスを狩って売って稼ぐのも良いわな。そしたら、作物とかの被害は減って住民には感謝されるし、懐は潤うし、一石二鳥だわな」
営利目的で命を奪う事に抵抗感を抱き、山崎は表情を歪めていた。
「まー、そんな所だ。じゃー、頑張れよ。何となくやってりゃー、何とかなるわな」
かなり大雑把に言い残し、恰も崖上に取り残すように彼は立ち去ろうとする。
その後ろ姿を眺める二人。これから一週間の事を思案し、計画を定めつつ強く葛藤する山崎と、漠然とこれからの予定を思い耽り、小さく期待と膨らみつつある不安を抱く新藤。
矢先、フーが再び立ち止まって振り返った。
「あー、ちなみにローウス一体が大体三~四百エルドぐらいだな。で、一日の生活費が大体、五~六百エルド、ぐらいだ。じゃ、頑張れよー」
雑に言い残した彼は今度こそ立ち去る。村から離れ、そのまま森の中へと消えていった。
フーの後姿を見送った後、二人はゆっくりと見合い、渡された巾着袋を眺める。
「まぁ、何とかなるんじゃねぇの?」
「簡単に言うな」
楽観的な考えを前に溜息が吐かれる。これから、如何遣り繰りしていこうか、そう思案するだけで、鬱々とした溜息は口から漏れていた。
それから一週間が経過するのは、瞬く間であった。あれよあれよと時間は過ぎ、二人は何とか乗り切ってみせていた。前述の通り、逞しい事に、今の生活にほぼ順応しつつあったのだ。
戦利品の重さを肩で感じる二人の足は真っ直ぐフェリスに向かう。到着する頃はまだ昼には遠いものの、支度をするには丁度良い時間帯だろうか。
「今日で一週間目だ。戻ったら、支度をしないとな」
「ああ~、もうそんなになんのか。早ぇな。もう、出て行かなきゃなんねぇのか」
愛着が湧き、名残惜しいのか、かなり残念そうに呟く。
「仕方ないだろ、そう言う指示で居たんだからな」
「分かってる、言っただけだって」
厳しい指摘に反論する彼だがその面は先と変わらず、真っ直ぐに村に向かう間、心情に変化は訪れる事は無かった。
些細な遣り取りをしつつ、フェリスに戻ってきた二人はその足でとある店へと直行する。其処は、その村に唯一存在する飲食店である。その裏口をノックすれば、間も無く店員が顔を出した。
姿を現した店員は若く、二人を見つめて直ぐにも理解していた。ローウスを売りに来たと。実物を担いでいる為、誰でも気付こうか。
直ぐにも商売は開始され、終えられる。手際良く済まされ、ものの数分程度で終了した。頻繁に行われる遣り取りである事は言うまでもなく。そして、店側も、新鮮な食材が手に入る事は願ったり叶ったりと言う事であろう。
飲食店で用事を済ませ、漸く家路に着く。正確には借りた宿に戻るだけだが、気分の上ではそうと言って過言でなく。
「けど、やっぱり、行かなきゃなんねぇのか」
引き摺るように残念な思いを吐く。余程、此処が気に入ったのだろうか。
「もう二度と来れない訳でもないだろ、諦めろ」
「そう、だよなぁ・・・」
幾ら言い含めたとしても踏ん切りの付かない彼。切ない表情で周囲を見渡す姿に、やれやれと溜息が零された。
そんな遣り取りしている内に、目的の宿の付近にまで近付く。他の建物より大きい為、見失う事は無い。一直線に進んでいると、普段では存在しない何かに気付く。
「何かあるな?」
「ああ?何があるって?」
気付いた山崎の言葉に反応した新藤が覗き込む。宿の前には普段見られない馬車が停められており、その前にはレイホースが悠然と立っていた。
来客があったのかと思った矢先の事、馬車の物陰から誰かが現れる。それは少々見慣れた人物であった。
【4】
「フーさん、来てたんスね!」
宿の前に停められた馬車に気付き、駆けて近付いた新藤が声を上げる。
そう、其処に居たのはフーであった。大雑把に別れた彼が、一週間目の今日、再び此処に訪れていた。
「おう、ちょっと予定より早く済んだから、来たんだわ」
予定通りに戻ってきており、元気そうな表情を見せる。その傍には見慣れぬ青年が二人。同い年であろう男女は察するに同僚であり、先輩であろう。
「フー、この二人が新しい同僚か」
「元気そうな二人ね、好感が持てるわ」
「おう、二人は居なかったもんな。新藤に、山崎だ」
明るい様子で二人に紹介する。名指しされ、二人は違った様子で答える。
「サーサラーよ。信頼関係を築けると良いわね」
「オリオットだ。別に覚えなくても良いぜ」
かなり大柄な体格で強面の男性と、実年齢よりも幼く感じる身長の上、華奢な身体付きの女性と言う、対照的な男女の先輩が会釈する。
「山崎、達也だ。宜しく頼む」
「新藤晃っス!宜しくお願いしますね、先輩!」
同じように対照的な様子の二人が返答する。新藤の元気の良い挨拶が好印象を与えていた。
「あれ?レインさんは一緒じゃないんスか?」
フーと出会い、彼との去り際の事を思い出した新藤が彼を探しながら疑問を投げ掛ける。確かに、彼は頼りになり、居れば先ずは安心するだろう。
「途中まで一緒に居たんだけどな、元々別の件で一緒に居ただけで、此処に着いてから直ぐに別れたんだわ。だから、居ねーんだわ。迎えに来たがってたんだけどな、本人は」
「別件で来ていたのなら仕方ないな」
「代わりに、あれを渡すように頼まれてんだわ。新藤、お前には」
「渡す?俺にっスか?」
唐突に会話に上げられ、全く心当たりの無い彼は首を傾げる。
その会話の隣でサーサラーと名乗った女性が馬車へと移動し、何かを取り出そうと四苦八苦し始める。それに慌ててオリオットが駆け寄り、代わりに持ち上げて取り出していく。
「これについても本人が渡したがってたんだけどな、都合悪く依頼が入っちまってな、仕方ねーわな」
「ほら、気を付けて持てよ」
同情し、笑みを含ませた説明がされる傍、震える腕で持たれた何かが新藤に差し出される。灰色の粗い布に包まれ、細い紐で縛られて中身は見えない。だが、人の肩幅に比肩する幅が見え、除く柄であろう棒は人の腕程に太く。それに、新藤は既視感を抱く。
無意識に受け取った彼の両手にそれの重量が掛かる。ズシリと重みが掛かり、思わず落としそうになりながらも確りと受け取って。
受け取った事を確認し、オリオットは布と荒縄を取り払った。露わにされた本命を前に、新藤は何故か懐かしみ、そして喜ぶ表情を滲ませた。
それは一見、黒く長い塊であった。白で縁取られ、鉄材か何か。或いは鉄の塊とも見えた。だが、それは刀身である。厚く太き刀身は何をも粉砕し、両断するに相応しく、刃は砕かられる事を拒むかのように光り輝く。注視すれば剣、大剣である事は確かだが、恰も鉄の板に棒を取り付けただけの物体に映るだろう。それほどに、あまりにも荒々しく、巨大過ぎたのだ。
所持が困難な巨大な剣を手にした彼はゆっくりと掲げる。両手ではあるが、それを持ち上げられる新藤の腕力もまた、相当なものである事を指す。
その事実に気付かない彼は奇妙な感覚に囚われていた。それは、漸く、失われた部分が満たされたような満足感。やっと、戻ってきたと言う喜びに満たされて。
「気を付けて使えよ。もし折っちまったら、ガストールさんに半殺しにされちまうわな」
その声が耳に届いても反応に遅れてしまう程に、充実した感覚に包まれていた。
「え?・・・ああ、大丈夫っス。俺、物大事にするの得意っスから!」
その時、山崎は不機嫌な表情で口を閉ざしていた。散々に物を壊し、その後始末に追われた事を思い出し、心中では怒りを滾らせて。
多少重々しく持ちつつも新藤は振るう。初めて手にする巨大な得物に対する期待と、間合いや重量に対する不安で動きは不安定に。それでも巨大な剣の扱いに慣れ、重さに対する体裁きを把握すれば、大胆にして豪快、一騎当千に値する戦いを出来るかも知れない。それに関しては、本人の頑張りであろうか。
「これ、重いっスね・・・」
数回程試しに振るった彼は苦しそうに地面に降ろして息を切らす。人が所有するに苦慮する太く重い大剣、それを一朝一夕で扱いを熟得する事など天才でも無理であろう。
「お前が元々持っていた奴を修復したんだろうが。もう少しは根性を出せ」
付属していた、背負う為の分厚く頑丈なホルダーを渡しつつ、山崎は厳しい台詞を吐き掛ける。客観的に見たら、早々にへばった姿に見えた為であろう。若しくは、彼を焚き付けようとしてか。
「そう言っても、振るえてたぞ。もうちょっと筋力付けたら、充分戦闘で活躍出来ると思うわな」
「そうね、将来に期待出来そうね」
「これは負けていられないな。もっと自分を鍛えていかないと」
それでも周囲からの評価は上々。将来性を鑑みての世辞か、それとも期待を込めた賞賛か。
「・・・それよりも、中に入らないか?外で立ち話も疲れないか?」
立ち話もそこそこに、到着して直ぐであろう三人に対してそう促す。
「確かに、もう直ぐ飯の時間だし、作るっスよ?」
それに付属するように新藤も促した。
「それもそうだな、じゃ、頼むわな」
「ええ、お願いしますね。美味しい料理を頼みます」
「美味いものを頼むぞ!」
まだ昼に早くとも、小腹が空き始めた時頃。三人は新藤の料理に興味を示し、乗り気となって宿に向けて歩き出す。
向かう際、馬車を曳かせる為のレイホースの世話を挟み、宿に向かう皆の足は軽く。
【5】
宿に入った一同は居間と台所が繋がった部屋で介していた。女主人を交えて席に座り、料理を心待ちにするように会話する。
会話の内容は仕事についてである。この一週間の間で行ったローウスとの戦闘。要点だけを伝え、その際のアドバイスを受けていた。レインやオリオットからの助言は為になるものばかりだが、何故か知っている事が多く、山崎は違和感を感じるしかなかった。
その隣で、サーサラーと女主人が話していた。その折りの彼女、何時でも眠たげで気怠そうな面が僅かばかり感情が宿り、少しだけ明るかった。
また、台所では新藤が上機嫌に調理を行っている。様々な調理器具を巧みに扱い、人数分をただ一人で作り上げていく。感心する腕前である事は間違いなかった。
空腹を誘うような香りが漂い始め、徐々に期待が膨らみつつあった中、とある話を進めていた山崎がふと思い出す。ウェストバッグを探り、とあるものを取り出した。
「フー、これを返す」
「何を返すって?ああ、これか」
手渡したのは一週間前に投げ渡された巾着袋である。その時と変わらぬ音を立て、重みも差分を感じられず。
「どれどれ・・・お?思ったより残ってんな。まさか、ずっと狩り続けてた訳じゃーねーだろうな?」
中身を確認し、想像を超えていたのだろう、多少いやらしい表情で問い掛ける。
「確かに狩りはしていたが、それだけじゃない。色々と工面しただけだ」
「そうそう。俺が、爺ちゃん婆ちゃんの手伝いして、野菜とか分けて貰ったんスよ。これが思ったより、重労働だったんスけど、遣り甲斐あったっスね!皆に感謝されましたし。それで飯作ったりしてたんスよ!」
丁度、料理が仕上がり、それの一部を両手に持った新藤が話に割り込む。皆の前に配膳するそれは、手順を簡潔に済ませているものの食欲を充分にそそる出来であった。立ち込める香りから、その美味しさは想像するに易く。
「おお、美味そうだな。お前、料理人でも目指してたのか?」
「そうじゃないっスよ。ただ、作んのが好きなだけっス!」
次々に配膳される料理は人を満足させる出来であり、その場に居る皆を喜ばせる。この時だけ女主人は心成しか上機嫌であり、表情も和らいでいた。
「お!美味ぇ!」
「ええ、美味しい!お店で出せそうね!」
「こりゃー美味ーな!また、頼むわな!」
「良いっスよ!」
早速口に運んだ一同は賞賛する。皆に褒められ、上機嫌な彼は満面の笑みで了承した。世辞が如何かは分からぬそれに反射的に答えたのだが、真に受けられたとしても彼は作るだろう。
「・・・で、こいつはそう言う事は一切やんなかったっスよ」
途端に気分を盛り下げた新藤が僅かに睨みながら口にする。それに皆の少々冷めた視線が注がれ、本人は顔を顰めた。
「・・・その代わりに、宿の家事の大半をしただろうが。部屋の掃除、食器洗いに、風呂も薪割りから全部」
反論する山崎だが、住民の手伝いをしなかった事に僅かな罪悪感を抱いていた。それは、人に関わりを持ちたくないと言う、思いの為に。それを指摘されたと、無意識に表情を暗くさせて。
会話もそこそこに、舌鼓を打てる料理に皆は集中する。皆が好評を伝え、料理人はとても満足そうに、そして自慢げに己が料理を平らげていた。何故か、自身の料理を食す時は礼儀正しくなる。恐らくは己が料理と向き合って自己研鑽している為か。
ともあれ、美味な料理を進める手は早くなると言うもの。半時間も掛からぬうちに、皆は配膳された料理を平らげていた。終えた直後の表情は実に満足して。
だが、終わった直後、異様な変化があった。唐突に、フーが溜息を吐いたのだ。満腹に因る達成感のそれでなく、心を定めようとする深く長く重く。それに、皆の視線を集めた。新藤だけは食器を片していて気付かず。
「・・・お前達に、言わなきゃならねー事がある。特に、新藤、お前にだ」
食器を片す音が聞こえる中、切り出された彼の声は鮮明に響き渡った。声色を落としていたにも関わらず。迫真に迫る面、陽気を一切排除した声は他の音を寄せ付けなかった故か。その為、次の工程に移る事を許さず、皆の手を止めさせた。
呼ばれた二人は瞬時に気持ちを定め、面を険しくさせて向き合っていく。腰掛けたソファが軋ませたと同時に、誰かが目を伏せた。
「お前達の報告があってから、探索を開始して、新しい地帯を発見した。直ちに調査を開始した結果・・・」
最も険しい面で語る彼を、新藤は食い入るように耳を傾ける。上体も近付け、心中は逸り続けて。
「人が居たと言う痕跡は有っても、生存を裏付けるような痕跡は無かった・・・誰にも、遭遇しなかった、そうだ」
告げられ、新藤の瞳が大きく見開かれた。息を飲み、その言動を虚言と疑うように見続ける。だが、直ぐにもそれは無いと理解し、口から力が抜け落ちていった。
「・・・まだ、途中経過だが、生存者が居る可能性は極端に低い。これだけは、お前等に先に知らせたかった」
希望はまだ残されている。そう言いたげでも、慰めにもなっていなかった。
歯痒き思いを抱き、表情を複雑に歪める山崎が咄嗟に友を見る。表面上では落胆しているものの、取り乱すほどの混乱は見られない。しかし、絶望に落とされ、思考が上手く定まらない様子が見て取れる。現実に直下し切れない様子もまた。
二人を見て、フーを含めた三人は沈黙して視線を逸らす。予想通り、想像に行き着いたと胸を苦しめる。分かっていながらも告げたのは、彼が、新藤が望んだからだ。知る義務ではなく、知らなければならないから。
苦しいだけの時間が流れる。会話を遮断した中、些細な動きすらも身を削るような感覚に囚われて。
その沈黙を破ったのは、新藤であった。ゆっくりと立ち、フーを見て、表情を和らげた。苦笑、引き攣ったそれは明らかに強がりでしかなかった。
「やっぱり、そうだったんスね」
受け止める、現実に向き合う事を示す言葉に力は無く。
「分かってた、っス。俺達だって、死にかけた。だったら、って。それが分かっただけでも・・・満足、してますから」
それは心配する彼等を気遣っての言葉だろう。気に病んで欲しくないと、それ以上同情されたくないと。
「・・・ちょっと、外、行って来る」
呟きを残すと重き足取りで立ち去っていく。ギシギシと床を軋ませて部屋を後にし、扉の開扉と閉扉の音が響く。それは心中を表すかのように、耳にした者にこびり付かせた。
「・・・出発は、明日だ。仕事上がりで直ぐにこっちに来たからな」
「そう、ね。休息は大事ね」
「・・・確かにな。休まなければ、明日に差し支える」
出立は明日。それは明らかに彼を気遣い、二人もそれに同調していた。それは賛成であり、山崎は断らずに頷く。
「・・・分かった。そうさせてくれ。あいつにも、後で伝えておく」
了承した後、台所へと向かう。水を満たした桶には食器が重ねて浸けられる。その一つに伸ばした手が最初に感じたのは、冷たさであった。
知りたくない事実を伝えられたとしても、時の流れは遅くなどならない。その事を誰かが恨む暇もなく、夜は訪れていた。
フェリスに構えられた宿の中では、泊まる者が各々の用事を済ませる。料理を済ませた後は、早めに就寝する、書類の確認、武器の手入れ、就寝を望んで身体を解したりと様々に。その内に、人々は眠りに就く。
喧騒に包まれず、静かなまま訪れた夜は穏やかに流れる。風の音は優しく、微かに小川が流れる水音が響く。人々を包むような時間として、フェリスの村はある。
それは宿屋でも例外ではない。静けさに包まれ、誰もが破ろうとせず。
薄暗闇に落ち込んだ宿屋の裏手、小さく歩む音が鳴らされる。出歩くのは山崎。裏口から外に出た彼は少しだけ歩き、宿から少し離れた空間で足を止めていた。
彼の前には、薄暗闇の中で、巨大な何かを一心に振るう影が映る。それは言うまでもなく人であり、この時に山崎が訪れる者は言うまでも無かった。
激しく息を切らし、激しく疲労している事は即座に理解出来る。恐らくは、今にも倒れそうなほどに、長時間、ただひたすらに素振りを繰り返した筈だ。それでもなお、彼は止める事はしなかった。まるで、止まる事を拒むように。
彼を、新藤晃の様子を見に来た山崎は言葉を掛ける事はしなかった。ただ、静かに見つめていた。止める事を憚り、同じような思いを抱いて。
やがて、彼の腕の動きが治まる。ゆっくりと腕を降ろし、重々しい音を奏で、激しく切らす息を整えていく。顔は、山崎が立つ方向に向いているだろう。夜に隠れ、どのような面をしているのかは分からず。
「なぁ、トレイド・・・和也」
新藤の方から話し掛ける。消えそうな声で発する。相当、思い詰めている。葛藤は発散する事も出来ず、その身に燻り続けて。
「・・・如何した、晃」
無意識に挟まれた二つ目の名に触れずに応答する山崎もまた、心中は乱れていた。
「・・・今から、俺は・・・ガリードだ。ガリード、って名乗る。もう・・・それで生きる」
宣言したその言葉は風に消えそうなほどに小さく、弱々しいものであった。深く傷心した事は言うまでも無かった。
「・・・良いのか?」
「ああ、良い・・・俺は、それで良い。もう、良いんだ・・・」
悲愴な面持ちを浮かべてただ虚空を見上げる新藤は、己がものではない名前を受け入れていた。それは享受ではなく、諦観。もう二度と戻れないと、帰りたいと思った居場所が無くなったと見定めて、捨て去る事に踏み切った悲しき決意であった。決別、でもあった。
「そうか・・・分かった」
山崎もまた、前に踏み出す、前を見据える意味ではなく、諦めの一種で受け入れていた。だが、同じような心境であれ、何も言う権利はなく、その意思もなかった。慰めは惨めにさせるだけ、誤魔化しなど意味を為さないと分かっていたから。
静かに山崎は立ち去る。暗闇に紛れる彼を置いて、室内へ消えていった。
それからも巨大な刀身は唸りを上げていた。それは雄々しきそれでなく、怒りのそれでなく。涙し、耐え難い悲愴を表すように。
振るい始めてから、どれ程時間が流れたのだろうか。その足元には幾多の水滴が落ちていた。その多くが汗ではない。
尚も振るう。身体が悲鳴を上げたとしても、鞭打つように、忘れんとするように。それでも押し寄せる現実を前に、悲嘆に暮れ、その場に崩れ落ちてしまう。嗚咽する姿が、闇夜に一つ。
その姿を見るまでもなく、何処かで歯噛みする者が一人。同様の悲しみを顔に刻み、己が無力さを嘆くように拳を握り締めて項垂れていた。
夜は更け、それでも彼等に朝は来る。
遠く微かに枝葉が揺れる、耳障りの良く、心を和ませる音が流れる。何処からともなく、いや周辺を包み込むように微かに鳴り続けて。
其処は、豊富な緑が氾濫するほどに繁殖し、猛々しい木々が乱立する地帯である。俗に、森林地帯と呼ばれる、名称通り場所。
そのおよそ中央位置に村が存在する。豊かな緑と共存し、同化するようにひっそりと佇む村、フェリス。通称、恵みの村と呼ばれる、農業に長閑に力を入れる村である。
木造建築が多数、作物を育てる為の田畑が大部分を占める其処で、枝葉の囁きが景色を彩る。日常と化したそれは時に人に安らぎを、そして眠りの中に居る者に更なる安眠を齎すだろう。数名を除いて。
起床の際に生じた疲労感を背負い、小さく切れる呼吸を抑えつつ山崎は早々に支度を終える。命じられた課題を行う為の心構えも終え、部屋の扉を開いた直後であった。
「あ・・・もう行くの?」
部屋から出た処で女主人と出くわした。思わず接触しそうになり、踏み止まった山崎は少々焦って。対する彼女は全く動じていない。多くのものに対して興味を示さず。
「おはよう。ああ、新藤は台所だな?それと・・・服はちゃんと着ろ」
かなり眠そうな彼女を注意し、横を通り過ぎて台所へと向かっていく。その彼女は白のシャツだけと言う、かなり露出し、だらけた姿であった。なのに、注意一つだけと言うのは、彼も慣れてしまった証と言えた。
部屋を出て、曲がり角を曲がり、正面玄関を通り過ぎて居間に着く。其処から続く部屋を覗けば、今まさに楽しそうに調理する新藤の姿が映った。
「おはよう、今日も悪いな」
「おお、おはよう。これが条件だし、俺は楽しいしな。気にすんな」
軽く遣り取りし、丁度完成した料理が食卓に並べられる。それを手伝っている内に女主人が到着した。
食事を始める挨拶なく、無言のまま彼女が食し始める。それ事を機に、朝食は始められていた。
時間が流れるのは実に速いもの、彼等がフェリスに着いてから一瞬間が経とうとしていた。その間、彼等は劇的な変化を概ね順応しつつあった。
最初は戸惑いがあった。変化した環境、日常、常識。己が事さえも。それでも、戦闘を重ねている内に、日々を消費していくうちに。
時間は人々の迷いなど視界にも入れず、無慈悲に過ぎ去っていく。それに抗うように、受け入れていくしかないのだろう。今の彼等のように。
その二人の傍にフーの姿は無かった。それは二日前の事である。
陽射しが射し込む森の中、二人の戦闘風景を観察していた彼。丁度、戦闘を終え、一息が吐かれた時であった。
『もう、二人だけにしても充分だわな。じゃー、俺も用事があるから、頑張れよ』
そう言い残してさっさと何処かへと立ち去っていったのだ。責任放棄とも取れる姿に憤った山崎だが、これも与えられた仕事の一環と割り切り、能天気な新藤と共に戦闘に明け暮れていた。
肝心の戦闘、魔物ローウスとの戦闘は恙無く行われていた。今となっては苦戦も無く、何の問題も無く斃せる様になっていた。そうでなかったならば、フーも立ち去る事はしないだろう。
とは言え、最初の内は結構苦戦していたのも事実。命を奪った負い目、良心の呵責に因って如何しても動きは鈍かった。そう言った思考と、スムーズに動いて魔物を斃す身体の差異が生じ、悪戦苦闘して。
それでも数を重ねる毎に、戦いに、武器を振るい、命を奪う事に、その野蛮な事に慣れていった。或いは順応していったと言うのだろう。身体が思い出す感覚、それに近く。
だが、それよりも、平気なっていく自身に二人は嫌悪感を抱く。それすらも、日を追う毎に薄れていった。
また、戦いのぎこちなさは、身体に知らぬ経験が蓄積されている事の証であった。戦闘の記憶が断片的に過ぎる為、それは確実に。それすらも数をこなすうちに改善し、新たな傷や、残る痛みから遠ざかりつつある事から、疑問は薄れていった。
それどころか、自身の変化を把握する事に精一杯だったのかも知れない。改めて確認した自らは、筋骨は以前の自分と遥かに強化されており、戦闘を前提とした身体付きである事を知る。身体能力、頑強さなどがおよそ二倍ほどに向上され、そうでないと生きていられない世界なのだと実感していた為に。
それら驚きは直ぐにも薄れ、記憶の彼方に追い遣るように、二人はまた村の外へと駆り出していく。
鬱蒼とする森林地帯には鳥の囀りが聞こえる。朝を告げる為のそれは楽しげに。しかし、不気味に響き渡る鳴き声がそれを呑み込む。
朝が訪れた森林であろうと、陽の光は僅かに射し込むだけで見渡し辛い。最奥の一片すらも見せず、様々な植物が入り組む空間は不気味でしかない。唯一、整地された道の頭上だけが開けているが、それでも暗闇は広がり続ける。
生暖かい風が吹く。何処からか吹き込むそれは生命が吹き込まれたかのよう。感じる者それぞれだが、場の雰囲気で、恐怖と言う感情に因って感覚は歪もうか。本来は涼やかに、彩る草花を優しく撫で、枝葉を揺らす程度であったとしても。
「・・・さて、行くぞ」
「だな」
すっかり慣れた二人。一切物怖じせず、人の介入を一切感じられなく映る場所を突き進んでいく。
進むにつれ、内部が空想的に映り出す。頭上を敷き詰める枝葉は陽に因って透け、その明暗が星空に劣らぬ美しさとなる。僅かに零れ入る陽の筋は地面に到達する前に消えており、それは広範囲に幾多にも。それは、不穏な世界が次第に晴れていくように。
駆け抜けていく風は僅かに肌寒く、枝葉の潺が緊張を和らげるように響く。鳴き声が治まればそれは際立ち、自身の居場所を知らせるように足音が響く。朝の早い、この時間だけが一時的に別の場所に様変わりをしたかのようであった。
「しっかし、アレだな。この不思議に満ち溢れた世界に来てから、もう一週間以上経っちまったのかぁ・・・」
感慨深げに新藤が呟く。遠くを見つめつつ、周囲の警戒を劣らぬその面は寂しそうに。そして、もどかしさが介在して。
「・・・そうだな」
相槌を打つ山崎も同様の面となり、声量を落とす。彼は思い返す。平和で心地良くとも、寂しかったあの日常。それがあの異変に巻き込まれ、記憶が少しずつ薄れつつあった。最早、あの日常が夢の出来事であったかのように。
悲しげに会話する彼等、絶えず森の中を歩き続ける。周囲に立ち並ぶ木々、傍らの茂みや植物を横目にしつつ、警戒を怠らず。
「すっかり、慣れちまったよ、この世界にさ。有り得るか?まるでゲームの世界だぜ?一回ぐらいは想像した事はあるけどよ、いざなっちまったら、冗談じゃねぇよな!魔物とか、勘弁してくれ」
順応したと語る彼は不満を口にする。例え、想像を膨らませたとして、現実となってしまえばその過酷さに嫌気が差そう。命の危険が伴えば、否定したい、逃げ出したい思いも理解出来る。
「ああ、俺も思う。いっその事、夢だったらってな。だったら、覚めて、終わるだけの話だからな」
「夢か・・・俺も思った。だったら凄ぇ、嬉しけどさ。覚めたら、また、勉強三昧、部活三昧で、それはそれで大変だと思うけどな」
仮定の話が交わされる。互いが同調し、慰め合うような会話は虚しさを伴う。歩を進める程に、辛さが込み上げる。
「・・・ああ、これが俺の夢だったらなぁ・・・だったら、誰かが俺を起こして終わり、なんだけどなぁ・・・お前か・・・母さんが、なぁ・・・」
横顔は、今にも泣きそうなほどに。心残り、憂う事は家族の安否、その一点であろう。
彼の横顔を見た山崎はぐっと噛み締める。その辛さ、苦しさと似た経験した彼であっても、易々と返答は出来なかった。
「・・・だったら、俺が今直ぐ起こしてやろうか?そうだな。お前の顔を、原型を留めなくなるまで殴れば、この悪夢も、終わるかも知れないな」
それは元気付ける、気を紛らわせる積もりの冗談であった。剣を小さく構えた事もまた、その意思は全くない。
その思い遣りが伝わったのか、付き合ったのか、新藤は小さく笑いを零す。
「・・・ハハ。止めろって、物騒な奴だな、お前は。殴るとしても、普通は拳だろ?」
「お前ぐらいになったら、それじゃ足りないと思ってな」
「全く、お前は・・・」
笑いが零れた事に因り、互いに気が紛れる。鬱々とした思いは少しだけ晴れる。
「不思議と言えば、さ」
「なんだ?」
「俺達が此処に来た時、その剣が有ったんだよな?」
視界に入った、白い鞘に納められた剣を見つめて一言。
「そうだな。お前は、何故か刀身が砕けた剣を持っていたな」
今は鍛冶屋ガストールに預けており、今は比べて頼りなさ気な直剣が新藤の腰に。
「不思議だよな。俺達が来た時に持ってたって事は、こう・・・運命って言うのか、因縁って言うのか?感じるよな」
「そうか?衣服や姿も変わったんだ。理屈は分からないが、一律で変化に合わされた形になった・・・そんな所だろ?」
深くは考えていなかった為、程々に推察して返すが新藤は顔を歪める。
「俺に聞くなって、分からねぇんだからさ」
確かに考えたとしても詮無い話。
「仮によ、あの剣とそれ交換してくれって言ったらするか?」
「如何言う流れだ、それは」
唐突の話に多少戸惑う山崎。
「だってよ、その剣は使い易いんだろ?異様な軽さだって言ってたし、興味は出るだろ、そりゃあ」
「お前の持っている剣が標準の重さだと思うがな」
「で、如何だ?」
顔を顰めていた山崎だが、剣を見つめて真剣に悩み始める。足を止めてしまう程に集中し、一つの答えが導き出される。
「いや、駄目だな」
真面目な返答を受け、怪訝な表情を浮かべる新藤だが妙に納得した様子を示す。
「愛着でも湧いたのか?まぁ、良いけどよ」
そう、最後は興味を無くしていい加減に話は区切られた。
暫く歩き続けた彼等だが、目的の存在と出会えず、無駄に時間を消費するだけに終わる。
「けど、まぁ・・・お前がそうやって気に入る物とかが溢れる世界に着ちまったんだよなぁ、俺達」
「だな」
しみじみと思う。受け入れたくなくとも、受け入れるしかなく。
「・・・俺達の他に、生きてる奴、居るよな?・・・母さんも、生きてる、よな?」
「・・・分からない。それを確かめる為に、レインやフー、俺達より来た人間が頑張っているんだろ」
不安の思いを受け、それを少しでも紛らわせようとして。けれど、そう易々と治まる事も無く。
「そうかも知れないけど、俺は・・・」
反論するように、気持ちが溢れそうになった矢先であった。遮ろうと、動かそうとした唇はある出来事に止められてしまった。
それは、音。茂みが衝撃で揺れ動いた為に発生した。音源は二人の前方、木々との間隔を埋めるように生えた大きな茂みの方向から。それは不自然なほどに今も尚揺れ、明らかに何かが居る事を示す。
事態の急変に前に、二人は抱えた感情を抑え、対処すべく武器を引き抜いた。
【2】
接近して来たであろう存在に対し、二人は至極冷静に心を定める。それは、この約一週間で培い、馴染んだ理の一つ。
前方の警戒を深め、顔を険しくさせる二人の視界。映る大きな茂みから生物が一体、躍り出した。
荒く、手入れの概念の無き体毛は荒れ狂い、その気性を表そう。爪や牙はその随所に示すだろう。双眸は常に飢えに囚われ、牙を剥き出す口から漏れ出す涎が証拠である。やや細き四肢で立ち、構えて警戒する姿は飽きたと言っても誰も咎めないであろう。
その生物の名称は、ローウス。魔物と言えば、この獣を想像するほどに馴染み深い存在である。その獣が二人の前に姿を現したのだ。数は、一体。
「来たな」
たった一体のローウスを見て、静かに息を吐く新藤。拍子抜けする事無く、ふざける事無く、気持ちを定めて対面する。
「・・・ああ、気を抜くなよ」
「分かってる」
簡単に互いを士気を高めて、訪れたローウスを睨む。簡単に行動に移す事はしなかった。ただ一体だけが襲って来る筈がない、そう判断して警戒し。
心を鎮め、様子見を行う二人の視界には変化が見られた。姿を現した一体の他に、茂みや木々の陰から一体、また一体とゆっくりと姿を現す。そうして、総数七体が集結した。慎重な二人を前に、状況が変化しない事に痺れを切らしたとでも言うのだろうか。
ぞろぞろと姿を現す光景に、新藤は小さく鼻で笑う。もう、慣れてしまった光景であったのだ。隣では嫌気を含ませた溜息が漏れて。
「嫌になるよな、群れって言うのは」
「手間が省ける、と考えるしかないな」
度重なる戦闘を経験し、互いに嫌気を覗かせるのはそれぞれの思いがあっての事。大部分が飽き、その他は薄れつつある抵抗感。
静かに戦意が満ちていく。面に、その場にそぐわぬ思いは消え、眼前の魔物を狩る意思を定める。
所作はそれぞれでも殺気は五感で感ずるのだろう、ローウスの群れは一挙に戦闘態勢を取り、牙を剥き出した。
状態を屈め、見上げて唸る。鼻頭周辺に皺を寄せて牙を剥く面は怒りそのもの。地を抉るほど爪を立て、力を篭める後足は僅かに肥大して。
ローウスのお馴染みの態勢であり、見慣れた二人だが、総数七体が一斉に移れば少々圧巻しようか。だが、慣れも相まって二人は怖気付く事はなく。
地を蹴り出し、無作為に接近する先頭に位置していた獣。その先兵と言える数体が一途に山崎を目指す。彼の方が近く、鈍器と思しき武器を所有する事で優先されたのだろう。また、返り討ちに遭う同胞が居ようとも僅かな隙を衝けば勝てると踏んでの多勢か。
残りは様子見の為、動じず。この選択は誤りとは言えないが、経験値のある二人に対しての少数は得策とは言えないだろう。一斉に掛かっていれば、或いは。
飢えを満たさんと駆け抜ける数体、正確には二体に対し、二人は冷静を保って待機する。各々の動きの届く位置まで、所持する武器の射程距離に届くまで。
四肢で軽快に駆け抜ける速度は人と比べ物にはならない。しかし、その方向、正面から接近する以上、何の脅威にはならない。
やがて、構え待つ山崎の付近まで接近すると、踏み止まって後ろ足で蹴って跳躍、飛び掛からんとした。
その目も当てられないような無計画な攻撃を前に、山崎は無心で腕を振り上げ、半歩踏み出すと同時に振り下ろした。容赦の無い一撃は、空を叩く音を纏い、鈍き接触音を響かせた。
同時に破砕音が紛れた直後、先陣を切った獣の片割れは地面に叩き付けられた。激しく跳ね返った後、力無く地面に崩れる。その姿は痛ましく、額を打たれ、過負荷となった首は有らぬ方向へと折れ曲がっていた。
息の途絶えた獣を下に、顔を僅かに顰める山崎。彼の手には、仕留めた際の感触が残されて。
行動を終えた彼の前に飛び上がる一つの影。首に喰い付かんと続いていたもう一体が牙と爪を尖らせていた。その意欲は、鋭き剣筋によって斬り捨てられてしまう。
飛び掛かった無防備な灰色の腹部に向け、銀の軌道を叩き込んだのは新藤。その一体の動向を見逃さず、同様に距離を詰めて薙ぎ払ったのだ。それは正確な援護であり、失敗は無く。
攻撃を防がれ、腹部を斬られた獣は地に叩き付けられる。痛みに苦しみもがくのだが、少しづつ広がる血溜まりの中、ゆっくりと静かになっていった。
彼等の動きは、素人目で見たとしても到底一週間程度剣に触れた者のそれではなかった。命を絶つ、その躊躇いの無さもまた。慣れ、順応してきた事も挙げられよう。それでも、最近まで普通の高校生とは言えぬ有り様であった。
「次だな!」
「ああ、気を抜くなよ」
声を出し、自身を鼓舞するような声に釘を刺し、相槌は力んで返される。
短い遣り取りに反応するように、同胞を打たれた怒りを震わせるように吼え立つ。そして、一斉に駆け出される。
犬種特有の足の速さを前に、息を吐いて再度構えゆく新藤。その彼に対し、牙を剥き出しにして獣は接近する。
ただ実直に、距離を詰める獣達を見つめながら彼の構えは定まる。正面に対し、身体の向きを斜に定め、軸足を若干前に。両手で握り込んだ剣を背負い込むように大きく振り被る。力を溜める様子が見て取れる姿勢で制止した。
両腕に、肩、腰、両足に力を溜め、歯を食い縛る彼の身体は唐突に動く。射程距離に踏み込んだ獣を前に、力を爆発させるように。
宙に浮き、戦意を漲らせる獣の顔面に一筋の軌跡が過ぎ去った。力の限り振られた剣は目に留まらせず、反射する光だけを残さない。終えた彼はしゃがみ込んで制止し、息を大きく吐き捨てた。
宙で分断され、血と臓器が舞う中、彼は続け様に動く。雨の如き血を振り払うように、或いは避けるように身体を起こし、後続に臨む。
休憩を与えまいと追撃を掛けようとする獣。両顎を開き、飛び掛からんとした直前の姿勢。其処に水平に薙ぎ払う一撃が叩き込まれた。研ぎ澄まされた刀身が身を分断し、治まらぬ力の作用で死体は地面に滑っていった。
早々に二体を仕留め、息を吐き捨てた新藤に、仇と言わんばかり三体目が牙を剥く。同胞の死体に隠れ、死角を衝かんとして。だが、その行為は無意味に終わる。
奇襲を掛けんとするその身は、打撲する音と共に大きく撓る。下方から打ち上げるが如き逆袈裟が叩き込まれたのだ。素早い移動と体重移動を駆使し、隙だらけの腹部に白の鞘に納められた剣が減り込む。山崎が静観し続ける筈もなく。
打たれた一体は付近に生えた樹木に激突し、地面に崩れ落ちる。血反吐を吐き、弱々しく苦しみもがく姿に先が途絶えた事を察して。
「さっきから、集中して狩ろうとしているな」
「だな。でも、もう意味ねぇな」
同胞を葬られ、残り二体となったローウスは憤怒を顔に宿して唸る。その心情を察し、警戒を緩められない二人は眉を落とす。
最早、全てが覆らないと、如何にもならないと残りの二体は駆け出す。同時期に、土を蹴り出した。
群れを為す魔物であっても思考は完全に一致する事は無い。タイミングが同じに見えてもズレが生じ、だからこそ連撃に繋がって危険度が増す。同時に好機にも成り得る。その例が、先の山崎と新藤の連携である。
そうでなくとも、ローウスには悪癖があった。攻撃の際、敵の近くで急停止してしまう癖である。跳ぶにしても、そのまま突撃するにしても、必ず後ろ足で蹴る為に若干速度を落とす。それを見極め、対処すれば撃退はそう難しくなく。
それを示すように、二人は二体のローウスが行動に移る際の癖を見極め、転ずる直前に隙として衝き、仕留めていた。
素早く急所を捉えて圧し折り、膂力に任せた一撃は地面に叩き付けられるほどに。ほぼ同時期に、二体の獣の命は奪い去られていた。
戦闘を終えた二人の周囲は血で溢れていた。ローウスの死体から流れる血は極小の川を作ってしまう程に。
繰り返す呼吸音が小さく木霊する。森の深部に消えゆき、誰の耳にも届かず。二人分のそれは、疲労を吐露するものではない。心苦しさを誤魔化す溜息に似て。
命が失われた凄惨なその場にて、呼吸を繰り返す二人は戦闘が終えた事を理解して緊張を解く。嫌に重苦しい静寂に包まれ、胸が空く思いには浸れず、静かに表情を落としていた。
その原因は、これまで魔物と戦い、その中で散々に抱いた感覚。例え、魔物であっても、生物を殺める事に呵責を感じる。見慣れた姿の生物の命を奪う、当然に。だが、それは眉を顰める程度の嫌悪として、それを咎める衝動が弱い事を気に掛けていたのだ。
生きる以上、避けられない事。回数を重ねる事も含めて、その感覚は薄れつつあった、罪悪感すらも。その変化に気付いても、如何にもならない事も理解し、ただただ息を吐くしかなかった。
【3】
戦闘、若しくは狩猟を終え、僅かな空白を挟んだ二人はとある作業に取り掛かっていた。それはローウスの死体を持ち運ぶ為の手間である。
分断してしまった個体には近付かず、首の折れた一体や腹部に痛々しい打撲痕が残る一体の血を拭う。そして、持ち運ぶ為に、ウェストバッグから縄を取り出して前足を縛る。取り外せるように縛った後に肩に担ぐ。
一人ずつ、ローウスを背負うのだが、力の失われた身は重く。実際よりもずっとズシリと重く感じるのは、罪の意識が含まれる事は間違いなく。
彼等が死体を持ち帰ろうとするのは理由がある。至極単純、金になるから。多くの魔物はあらゆる方面の資材となる。その一つを上げるならば、食材。
その情報を教えたのは、五日前に別れたフーである。
「ああ、そうそう。渡してなかったわな。ほいよ」
十分だと判断し、仕事に勤しもうと別れる寸前の事。ふと、何かを思い出した彼がウェストバッグを探り、取り出した何かを乱雑に投げて寄越したのだ。
「っと!おい、何かは知らないが、投げるな!」
いい加減な彼に叱り付けるのだが、本人は全く気になどしていない。
「それはお前等の滞在費なんだわ、一週間のな。お前達は仕事として此処に滞在するんだ、当然、出るわな」
そう語る通り、一週間を滞在出来るであろう金額の硬貨が詰められる。量に比例する事を、受け取った山崎の手に掛かった重さが物語る。
一応の事、その中身を確認する。煌く銀が多くとも金も混じり、その金額が想像出来、顔が顰められた。また、隣に立つ新藤が覗き込み、小さく驚いていた。
「こんなに、渡しても大丈夫なのか?」
「言っとくけど、こいつも経費だからな?事前に帳面に金額を記入して管理してんだわ。だから、なるべく節約しろよ?返却する時に如何こう遣り繰りしたとかを聞かれるからな。ま、良くある事だわな。経費の使い道を聞いて、その者の能力を問うって奴は」
「・・・なら、これで全てを賄っていたら駄目、って事になるな」
「そうなるわな」
それで自己管理等を問うと言うのなら、無暗に消費する事は当然、駄目。前の世界ほど、厳重に管理していない事は想像出来る。だからこそ、判断基準となるのだろう。
「でも、俺達、エルドを稼ぐ方法、知らないっスよ?何となくは想像出来るっスけど・・・」
「まぁ・・・持っている物を売る、給料として貰う・・・ぐらいか?」
知識として、思い付く事を口にする。それは否定されず、共通している事を知る。
「それと酒場とかで依頼を聞き、それをこなして報酬として貰う、ってのもあるんだわ」
「それって、あれっスか?ゲームとかで良くある?」
「そうそう。そんでもって、やる事はラファーとあんまり変わんねーわな。でも、手軽に仕事を受けられて、報酬は丸ごと得られる。その代わり、金額は少なめ、っ言ー感じなんだわ」
「他にはないのか?」
ある程度の知識を得て、把握した山崎が更に問い掛ける。
「まー、そうだな。持ってる物を売る、給料として貰う・・・の他は、そーだな。誰かに貰うとか、拾うとかしかねーんじゃーねーの?心が荒んでるから、盗むとかの邪法しか思い付かねーよ」
小さく自虐して笑いを零す彼。その発言を受け、山崎は静かに心を沈めていた。
「ああ、それとだ」
笑いが治まった直後、何かを思い出したフー。相当重要な事なのだろう、苦笑する面は申し訳なさそうに。
「悪ー、魔物を狩る方法があったんだわ。それぞれに価値が有るからよ」
「そうなんスか?」
「おお、あいつ等の皮とかは服になったり、剥製にして飾ったりよ。物好きは武器の装飾にしたりするんだわ。硬い奴もあるから、何かの道具にしたり、家の一部にしたりよ。それに、さっきのローウスは食べられるんだぜ?んでもって、中々歯応えあって美味ーんだわ」
二人にとって驚愕の事実を知らされ、思わず言葉を失ってしまう。だが、よくよく考えると、動物や家畜の皮を衣服等に活用したり、食用として使用する事は常識であり、然して可笑しい事ではなかった。
「だから、ローウスを狩って売って稼ぐのも良いわな。そしたら、作物とかの被害は減って住民には感謝されるし、懐は潤うし、一石二鳥だわな」
営利目的で命を奪う事に抵抗感を抱き、山崎は表情を歪めていた。
「まー、そんな所だ。じゃー、頑張れよ。何となくやってりゃー、何とかなるわな」
かなり大雑把に言い残し、恰も崖上に取り残すように彼は立ち去ろうとする。
その後ろ姿を眺める二人。これから一週間の事を思案し、計画を定めつつ強く葛藤する山崎と、漠然とこれからの予定を思い耽り、小さく期待と膨らみつつある不安を抱く新藤。
矢先、フーが再び立ち止まって振り返った。
「あー、ちなみにローウス一体が大体三~四百エルドぐらいだな。で、一日の生活費が大体、五~六百エルド、ぐらいだ。じゃ、頑張れよー」
雑に言い残した彼は今度こそ立ち去る。村から離れ、そのまま森の中へと消えていった。
フーの後姿を見送った後、二人はゆっくりと見合い、渡された巾着袋を眺める。
「まぁ、何とかなるんじゃねぇの?」
「簡単に言うな」
楽観的な考えを前に溜息が吐かれる。これから、如何遣り繰りしていこうか、そう思案するだけで、鬱々とした溜息は口から漏れていた。
それから一週間が経過するのは、瞬く間であった。あれよあれよと時間は過ぎ、二人は何とか乗り切ってみせていた。前述の通り、逞しい事に、今の生活にほぼ順応しつつあったのだ。
戦利品の重さを肩で感じる二人の足は真っ直ぐフェリスに向かう。到着する頃はまだ昼には遠いものの、支度をするには丁度良い時間帯だろうか。
「今日で一週間目だ。戻ったら、支度をしないとな」
「ああ~、もうそんなになんのか。早ぇな。もう、出て行かなきゃなんねぇのか」
愛着が湧き、名残惜しいのか、かなり残念そうに呟く。
「仕方ないだろ、そう言う指示で居たんだからな」
「分かってる、言っただけだって」
厳しい指摘に反論する彼だがその面は先と変わらず、真っ直ぐに村に向かう間、心情に変化は訪れる事は無かった。
些細な遣り取りをしつつ、フェリスに戻ってきた二人はその足でとある店へと直行する。其処は、その村に唯一存在する飲食店である。その裏口をノックすれば、間も無く店員が顔を出した。
姿を現した店員は若く、二人を見つめて直ぐにも理解していた。ローウスを売りに来たと。実物を担いでいる為、誰でも気付こうか。
直ぐにも商売は開始され、終えられる。手際良く済まされ、ものの数分程度で終了した。頻繁に行われる遣り取りである事は言うまでもなく。そして、店側も、新鮮な食材が手に入る事は願ったり叶ったりと言う事であろう。
飲食店で用事を済ませ、漸く家路に着く。正確には借りた宿に戻るだけだが、気分の上ではそうと言って過言でなく。
「けど、やっぱり、行かなきゃなんねぇのか」
引き摺るように残念な思いを吐く。余程、此処が気に入ったのだろうか。
「もう二度と来れない訳でもないだろ、諦めろ」
「そう、だよなぁ・・・」
幾ら言い含めたとしても踏ん切りの付かない彼。切ない表情で周囲を見渡す姿に、やれやれと溜息が零された。
そんな遣り取りしている内に、目的の宿の付近にまで近付く。他の建物より大きい為、見失う事は無い。一直線に進んでいると、普段では存在しない何かに気付く。
「何かあるな?」
「ああ?何があるって?」
気付いた山崎の言葉に反応した新藤が覗き込む。宿の前には普段見られない馬車が停められており、その前にはレイホースが悠然と立っていた。
来客があったのかと思った矢先の事、馬車の物陰から誰かが現れる。それは少々見慣れた人物であった。
【4】
「フーさん、来てたんスね!」
宿の前に停められた馬車に気付き、駆けて近付いた新藤が声を上げる。
そう、其処に居たのはフーであった。大雑把に別れた彼が、一週間目の今日、再び此処に訪れていた。
「おう、ちょっと予定より早く済んだから、来たんだわ」
予定通りに戻ってきており、元気そうな表情を見せる。その傍には見慣れぬ青年が二人。同い年であろう男女は察するに同僚であり、先輩であろう。
「フー、この二人が新しい同僚か」
「元気そうな二人ね、好感が持てるわ」
「おう、二人は居なかったもんな。新藤に、山崎だ」
明るい様子で二人に紹介する。名指しされ、二人は違った様子で答える。
「サーサラーよ。信頼関係を築けると良いわね」
「オリオットだ。別に覚えなくても良いぜ」
かなり大柄な体格で強面の男性と、実年齢よりも幼く感じる身長の上、華奢な身体付きの女性と言う、対照的な男女の先輩が会釈する。
「山崎、達也だ。宜しく頼む」
「新藤晃っス!宜しくお願いしますね、先輩!」
同じように対照的な様子の二人が返答する。新藤の元気の良い挨拶が好印象を与えていた。
「あれ?レインさんは一緒じゃないんスか?」
フーと出会い、彼との去り際の事を思い出した新藤が彼を探しながら疑問を投げ掛ける。確かに、彼は頼りになり、居れば先ずは安心するだろう。
「途中まで一緒に居たんだけどな、元々別の件で一緒に居ただけで、此処に着いてから直ぐに別れたんだわ。だから、居ねーんだわ。迎えに来たがってたんだけどな、本人は」
「別件で来ていたのなら仕方ないな」
「代わりに、あれを渡すように頼まれてんだわ。新藤、お前には」
「渡す?俺にっスか?」
唐突に会話に上げられ、全く心当たりの無い彼は首を傾げる。
その会話の隣でサーサラーと名乗った女性が馬車へと移動し、何かを取り出そうと四苦八苦し始める。それに慌ててオリオットが駆け寄り、代わりに持ち上げて取り出していく。
「これについても本人が渡したがってたんだけどな、都合悪く依頼が入っちまってな、仕方ねーわな」
「ほら、気を付けて持てよ」
同情し、笑みを含ませた説明がされる傍、震える腕で持たれた何かが新藤に差し出される。灰色の粗い布に包まれ、細い紐で縛られて中身は見えない。だが、人の肩幅に比肩する幅が見え、除く柄であろう棒は人の腕程に太く。それに、新藤は既視感を抱く。
無意識に受け取った彼の両手にそれの重量が掛かる。ズシリと重みが掛かり、思わず落としそうになりながらも確りと受け取って。
受け取った事を確認し、オリオットは布と荒縄を取り払った。露わにされた本命を前に、新藤は何故か懐かしみ、そして喜ぶ表情を滲ませた。
それは一見、黒く長い塊であった。白で縁取られ、鉄材か何か。或いは鉄の塊とも見えた。だが、それは刀身である。厚く太き刀身は何をも粉砕し、両断するに相応しく、刃は砕かられる事を拒むかのように光り輝く。注視すれば剣、大剣である事は確かだが、恰も鉄の板に棒を取り付けただけの物体に映るだろう。それほどに、あまりにも荒々しく、巨大過ぎたのだ。
所持が困難な巨大な剣を手にした彼はゆっくりと掲げる。両手ではあるが、それを持ち上げられる新藤の腕力もまた、相当なものである事を指す。
その事実に気付かない彼は奇妙な感覚に囚われていた。それは、漸く、失われた部分が満たされたような満足感。やっと、戻ってきたと言う喜びに満たされて。
「気を付けて使えよ。もし折っちまったら、ガストールさんに半殺しにされちまうわな」
その声が耳に届いても反応に遅れてしまう程に、充実した感覚に包まれていた。
「え?・・・ああ、大丈夫っス。俺、物大事にするの得意っスから!」
その時、山崎は不機嫌な表情で口を閉ざしていた。散々に物を壊し、その後始末に追われた事を思い出し、心中では怒りを滾らせて。
多少重々しく持ちつつも新藤は振るう。初めて手にする巨大な得物に対する期待と、間合いや重量に対する不安で動きは不安定に。それでも巨大な剣の扱いに慣れ、重さに対する体裁きを把握すれば、大胆にして豪快、一騎当千に値する戦いを出来るかも知れない。それに関しては、本人の頑張りであろうか。
「これ、重いっスね・・・」
数回程試しに振るった彼は苦しそうに地面に降ろして息を切らす。人が所有するに苦慮する太く重い大剣、それを一朝一夕で扱いを熟得する事など天才でも無理であろう。
「お前が元々持っていた奴を修復したんだろうが。もう少しは根性を出せ」
付属していた、背負う為の分厚く頑丈なホルダーを渡しつつ、山崎は厳しい台詞を吐き掛ける。客観的に見たら、早々にへばった姿に見えた為であろう。若しくは、彼を焚き付けようとしてか。
「そう言っても、振るえてたぞ。もうちょっと筋力付けたら、充分戦闘で活躍出来ると思うわな」
「そうね、将来に期待出来そうね」
「これは負けていられないな。もっと自分を鍛えていかないと」
それでも周囲からの評価は上々。将来性を鑑みての世辞か、それとも期待を込めた賞賛か。
「・・・それよりも、中に入らないか?外で立ち話も疲れないか?」
立ち話もそこそこに、到着して直ぐであろう三人に対してそう促す。
「確かに、もう直ぐ飯の時間だし、作るっスよ?」
それに付属するように新藤も促した。
「それもそうだな、じゃ、頼むわな」
「ええ、お願いしますね。美味しい料理を頼みます」
「美味いものを頼むぞ!」
まだ昼に早くとも、小腹が空き始めた時頃。三人は新藤の料理に興味を示し、乗り気となって宿に向けて歩き出す。
向かう際、馬車を曳かせる為のレイホースの世話を挟み、宿に向かう皆の足は軽く。
【5】
宿に入った一同は居間と台所が繋がった部屋で介していた。女主人を交えて席に座り、料理を心待ちにするように会話する。
会話の内容は仕事についてである。この一週間の間で行ったローウスとの戦闘。要点だけを伝え、その際のアドバイスを受けていた。レインやオリオットからの助言は為になるものばかりだが、何故か知っている事が多く、山崎は違和感を感じるしかなかった。
その隣で、サーサラーと女主人が話していた。その折りの彼女、何時でも眠たげで気怠そうな面が僅かばかり感情が宿り、少しだけ明るかった。
また、台所では新藤が上機嫌に調理を行っている。様々な調理器具を巧みに扱い、人数分をただ一人で作り上げていく。感心する腕前である事は間違いなかった。
空腹を誘うような香りが漂い始め、徐々に期待が膨らみつつあった中、とある話を進めていた山崎がふと思い出す。ウェストバッグを探り、とあるものを取り出した。
「フー、これを返す」
「何を返すって?ああ、これか」
手渡したのは一週間前に投げ渡された巾着袋である。その時と変わらぬ音を立て、重みも差分を感じられず。
「どれどれ・・・お?思ったより残ってんな。まさか、ずっと狩り続けてた訳じゃーねーだろうな?」
中身を確認し、想像を超えていたのだろう、多少いやらしい表情で問い掛ける。
「確かに狩りはしていたが、それだけじゃない。色々と工面しただけだ」
「そうそう。俺が、爺ちゃん婆ちゃんの手伝いして、野菜とか分けて貰ったんスよ。これが思ったより、重労働だったんスけど、遣り甲斐あったっスね!皆に感謝されましたし。それで飯作ったりしてたんスよ!」
丁度、料理が仕上がり、それの一部を両手に持った新藤が話に割り込む。皆の前に配膳するそれは、手順を簡潔に済ませているものの食欲を充分にそそる出来であった。立ち込める香りから、その美味しさは想像するに易く。
「おお、美味そうだな。お前、料理人でも目指してたのか?」
「そうじゃないっスよ。ただ、作んのが好きなだけっス!」
次々に配膳される料理は人を満足させる出来であり、その場に居る皆を喜ばせる。この時だけ女主人は心成しか上機嫌であり、表情も和らいでいた。
「お!美味ぇ!」
「ええ、美味しい!お店で出せそうね!」
「こりゃー美味ーな!また、頼むわな!」
「良いっスよ!」
早速口に運んだ一同は賞賛する。皆に褒められ、上機嫌な彼は満面の笑みで了承した。世辞が如何かは分からぬそれに反射的に答えたのだが、真に受けられたとしても彼は作るだろう。
「・・・で、こいつはそう言う事は一切やんなかったっスよ」
途端に気分を盛り下げた新藤が僅かに睨みながら口にする。それに皆の少々冷めた視線が注がれ、本人は顔を顰めた。
「・・・その代わりに、宿の家事の大半をしただろうが。部屋の掃除、食器洗いに、風呂も薪割りから全部」
反論する山崎だが、住民の手伝いをしなかった事に僅かな罪悪感を抱いていた。それは、人に関わりを持ちたくないと言う、思いの為に。それを指摘されたと、無意識に表情を暗くさせて。
会話もそこそこに、舌鼓を打てる料理に皆は集中する。皆が好評を伝え、料理人はとても満足そうに、そして自慢げに己が料理を平らげていた。何故か、自身の料理を食す時は礼儀正しくなる。恐らくは己が料理と向き合って自己研鑽している為か。
ともあれ、美味な料理を進める手は早くなると言うもの。半時間も掛からぬうちに、皆は配膳された料理を平らげていた。終えた直後の表情は実に満足して。
だが、終わった直後、異様な変化があった。唐突に、フーが溜息を吐いたのだ。満腹に因る達成感のそれでなく、心を定めようとする深く長く重く。それに、皆の視線を集めた。新藤だけは食器を片していて気付かず。
「・・・お前達に、言わなきゃならねー事がある。特に、新藤、お前にだ」
食器を片す音が聞こえる中、切り出された彼の声は鮮明に響き渡った。声色を落としていたにも関わらず。迫真に迫る面、陽気を一切排除した声は他の音を寄せ付けなかった故か。その為、次の工程に移る事を許さず、皆の手を止めさせた。
呼ばれた二人は瞬時に気持ちを定め、面を険しくさせて向き合っていく。腰掛けたソファが軋ませたと同時に、誰かが目を伏せた。
「お前達の報告があってから、探索を開始して、新しい地帯を発見した。直ちに調査を開始した結果・・・」
最も険しい面で語る彼を、新藤は食い入るように耳を傾ける。上体も近付け、心中は逸り続けて。
「人が居たと言う痕跡は有っても、生存を裏付けるような痕跡は無かった・・・誰にも、遭遇しなかった、そうだ」
告げられ、新藤の瞳が大きく見開かれた。息を飲み、その言動を虚言と疑うように見続ける。だが、直ぐにもそれは無いと理解し、口から力が抜け落ちていった。
「・・・まだ、途中経過だが、生存者が居る可能性は極端に低い。これだけは、お前等に先に知らせたかった」
希望はまだ残されている。そう言いたげでも、慰めにもなっていなかった。
歯痒き思いを抱き、表情を複雑に歪める山崎が咄嗟に友を見る。表面上では落胆しているものの、取り乱すほどの混乱は見られない。しかし、絶望に落とされ、思考が上手く定まらない様子が見て取れる。現実に直下し切れない様子もまた。
二人を見て、フーを含めた三人は沈黙して視線を逸らす。予想通り、想像に行き着いたと胸を苦しめる。分かっていながらも告げたのは、彼が、新藤が望んだからだ。知る義務ではなく、知らなければならないから。
苦しいだけの時間が流れる。会話を遮断した中、些細な動きすらも身を削るような感覚に囚われて。
その沈黙を破ったのは、新藤であった。ゆっくりと立ち、フーを見て、表情を和らげた。苦笑、引き攣ったそれは明らかに強がりでしかなかった。
「やっぱり、そうだったんスね」
受け止める、現実に向き合う事を示す言葉に力は無く。
「分かってた、っス。俺達だって、死にかけた。だったら、って。それが分かっただけでも・・・満足、してますから」
それは心配する彼等を気遣っての言葉だろう。気に病んで欲しくないと、それ以上同情されたくないと。
「・・・ちょっと、外、行って来る」
呟きを残すと重き足取りで立ち去っていく。ギシギシと床を軋ませて部屋を後にし、扉の開扉と閉扉の音が響く。それは心中を表すかのように、耳にした者にこびり付かせた。
「・・・出発は、明日だ。仕事上がりで直ぐにこっちに来たからな」
「そう、ね。休息は大事ね」
「・・・確かにな。休まなければ、明日に差し支える」
出立は明日。それは明らかに彼を気遣い、二人もそれに同調していた。それは賛成であり、山崎は断らずに頷く。
「・・・分かった。そうさせてくれ。あいつにも、後で伝えておく」
了承した後、台所へと向かう。水を満たした桶には食器が重ねて浸けられる。その一つに伸ばした手が最初に感じたのは、冷たさであった。
知りたくない事実を伝えられたとしても、時の流れは遅くなどならない。その事を誰かが恨む暇もなく、夜は訪れていた。
フェリスに構えられた宿の中では、泊まる者が各々の用事を済ませる。料理を済ませた後は、早めに就寝する、書類の確認、武器の手入れ、就寝を望んで身体を解したりと様々に。その内に、人々は眠りに就く。
喧騒に包まれず、静かなまま訪れた夜は穏やかに流れる。風の音は優しく、微かに小川が流れる水音が響く。人々を包むような時間として、フェリスの村はある。
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「なぁ、トレイド・・・和也」
新藤の方から話し掛ける。消えそうな声で発する。相当、思い詰めている。葛藤は発散する事も出来ず、その身に燻り続けて。
「・・・如何した、晃」
無意識に挟まれた二つ目の名に触れずに応答する山崎もまた、心中は乱れていた。
「・・・今から、俺は・・・ガリードだ。ガリード、って名乗る。もう・・・それで生きる」
宣言したその言葉は風に消えそうなほどに小さく、弱々しいものであった。深く傷心した事は言うまでも無かった。
「・・・良いのか?」
「ああ、良い・・・俺は、それで良い。もう、良いんだ・・・」
悲愴な面持ちを浮かべてただ虚空を見上げる新藤は、己がものではない名前を受け入れていた。それは享受ではなく、諦観。もう二度と戻れないと、帰りたいと思った居場所が無くなったと見定めて、捨て去る事に踏み切った悲しき決意であった。決別、でもあった。
「そうか・・・分かった」
山崎もまた、前に踏み出す、前を見据える意味ではなく、諦めの一種で受け入れていた。だが、同じような心境であれ、何も言う権利はなく、その意思もなかった。慰めは惨めにさせるだけ、誤魔化しなど意味を為さないと分かっていたから。
静かに山崎は立ち去る。暗闇に紛れる彼を置いて、室内へ消えていった。
それからも巨大な刀身は唸りを上げていた。それは雄々しきそれでなく、怒りのそれでなく。涙し、耐え難い悲愴を表すように。
振るい始めてから、どれ程時間が流れたのだろうか。その足元には幾多の水滴が落ちていた。その多くが汗ではない。
尚も振るう。身体が悲鳴を上げたとしても、鞭打つように、忘れんとするように。それでも押し寄せる現実を前に、悲嘆に暮れ、その場に崩れ落ちてしまう。嗚咽する姿が、闇夜に一つ。
その姿を見るまでもなく、何処かで歯噛みする者が一人。同様の悲しみを顔に刻み、己が無力さを嘆くように拳を握り締めて項垂れていた。
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病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
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大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました
髙橋ルイ
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「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」
気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。
しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。
「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。
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出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。
雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。
これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。
裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか――
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※表紙のイラストはAIによるイメージです
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