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知らない地、異なる世界
其処に見掛ける命、戦う理由 前編
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【1】
この世界の生活基準にもなるセントガルド城下町での生活、ギルドに所属する故の仕事に適応しつつ、数日が経過した。
山崎とガリードはそろそろ見習いの域から脱するように、レインやユウから言い渡される仕事をこなしていた。自身が所属する人と人を繋ぐ架け橋に訪れる仕事の一部とは言え、ほぼほぼ雑用程度の住民からの頼み事の域。詰まり、まだ半人前と言った所だろう。
請け負う内容から察しよう、当日に届く迷子の捜索願い、老人の買い物の代替、住居の修繕や荷物運送の手伝いなど、重要度が低く感じるものばかりであった。そう言った仕事が回される点は便利屋程度にしか見られていないのか。それとも、とても気軽に頼めるほどに慕われていると言えるのか。
日々を仕事に赴く山崎はこれも人助けかと納得してこなし、ガリードは時に張り切り、時に文句を呟きながらも達成感を感じていた。
その間、記憶喪失のシャオは暇を持て余す事をしなかった。まだ新人であり、戦闘が苦手であろう彼は魔物との戦闘耐性には駆り出されず。だが、山崎やガリードの手伝いを行いつつ、天の加護と導きに出向いて手伝いを行っていたのだ。
そうしている内に日々はあっと言う間に過ぎ去った。そんなある日の事であった。
何気ない、朝の日が迎えられる。多少の人の往来がある通り、清々しき笑顔が疎らなその通りの傍、人と人を繋ぐ架け橋の施設は静けさに包まれる。相も変わらず、或いは代わり映えもしないと言うように。
その人気の感じられない施設の正面口の広場、正面口布巾の壁に隣接されたテーブルに数人が腰掛ける。若い男性が二人、山崎とガリードである。様子として、概ね好調であろうか。
連日の仕事に一旦の間が開けられ、暇を得た二人は解放されたと言わんばかりに表情が明るく。それほど心身を消耗する仕事を与えられた訳ではなくとも、時間を貰えると言う事は自然と顔が綻ぶものか。
ただ、まだこの世界での生活に慣れ切れていない二人、順応に時間を費やそうにもそれでは味気ないと言うように漠然と座る。一つ二つと会話を挟み、計画を立てようとするのだがあまり思い浮かばず。
元々、趣味を模索するほど好奇心旺盛な性格ではない山崎はそれほど危機感を抱かず。だが、退屈を抱く事に嫌悪感と焦りを抱くガリードは必死に思考を巡らせていた。しかし、考え付くのは鍛錬か、天の加護と導きに遊びに行くかぐらい。その選択肢の無さに、彼は机に突っ伏していた。
その二人は近付く足音に気付く。連なるそれは二つであり、似たような音だが僅かな音の強弱、履く靴の素材の違いから一人の正体が推測された。そして、それは連日聞いた為、誰のものか何気なく行き届く。
「やぁ、おはよう。朝早くに此処で如何したの?」
「おはようございます、山崎さん、ガリードさん」
近付く二人はレインとシャオである。爽やかな笑顔と人の心を解す微笑みを浮かべて挨拶を行ってきた。二人が並べば、万人も心を開かせるであろう魅力が感じられた。
「おはようっス、レインさん。シャオもおはよう」
「おはよう・・・別に、これと言ってやる事がないから、考えている途中だな」
返す二人、能天気な明るさを見せ付けて挨拶を返し、もう一人はやれやれと溜息を零していた。暇を持て余している二人を前にし、レインは苦笑を浮かべた。
「そうなんだ。それじゃあ、ちょっと頼まれても良いかな?」
折角の自身の時間を無駄にしかねない二人に尋ね掛けるレイン。それを受け、二人は複雑な表情を浮かべた。恐らくは仕事関係だろうと考え、折角の時間が潰れてしまうと。だが、暇を潰せる良い機会と認識して。
「何をすれば良いんスか?」
飛び付くように内容を尋ねるガリード。役に立ちたい気持ちが上回ったのだろう。その反応に彼は笑顔を浮かべて本題に入っていく。山崎は口を挟まなかったが請け負う積もりで耳を傾けていた。
「今日、シャオとフェリスに向かう約束をしたんだけどね、急に用事が出来ちゃって行けなくなったんだ。それで、替わりに連れて行ってもらう人を探していたんだ。悪いけど、頼んでも良い?」
それは、彼にも魔物と戦わせる積もりなのだろうか。或いは、彼に対する情報集めの一環であろうか。その両方も有り得、山崎とガリードは拒否の反応は見せなかった。
「分っかりました!んじゃ、早速・・・!」
即座に引き受けようとした彼を、山崎が強引に顔を押し退けて阻止する。阻まれた事に怒りを示すが、当人は見向きもしない。
「行くのは構わないが、シャオの情報の伝手があったから行くのか?」
先ずは事情を知る為に尋ねる。それにレインは首を横に振った。
「それは無かったんだ。事前にフェリスに居る仲間や知り合いに連絡を取ったんだけど、芳しくてね。もう一回行ってみて、見て回ったらもしかしたら思い出すかも、って思ったんだ。訪ね回るのも手かなって。それと、問題ないと思うけど、いざと言う時の為の、魔物との戦闘時における反応や耐性を見ておきたいって思ってね」
「そうか、なら良い。もう出発するので良いのか?」
「うん、それは大丈夫。もう準備は済ませているから」
「はい、宜しくお願いします」
事情を把握し、納得した山崎は礼儀正しいシャオと笑みを浮かべるレインに向けて了承の意を示す。隣で意気込むガリードの姿が見えた。
「それじゃあ、シャオを宜しく頼むね。くれぐれも怪我はしないように、無理はしないようにね。フェリスでの滞在の為の経費は多めに渡しておくね」
優しく釘を刺しながら小さな巾着袋を取り出して差し出す。受け取った重みから十にも満たないだろう。
「ああ、分かった。心配かも知れないが、出来る限り期待に添えられるようにする」
「頑張るっスよ!だから任せて下さい!」
普段通りの様子で承諾する山崎と意気揚々として快諾するガリードを眺め、微笑みを崩さないシャオを確認してレインは安心を抱いていた。一定の信頼がある事を確信して。だが、不安はやはりあった。
戦闘力の有無はまだ分からないものの、非戦闘員を連れて行くにはまだ経験が浅いと懸念が過ぎっていた。戦えない人物を守りながらの戦闘は至難を極める。戦闘員が二人居る為、一人は護衛、もう一人が魔物との戦闘を引き受けたと成れば幾分と負担は減ろうか。それでも、心配はあろう。
「それじゃあ、早めに準備をしないとな」
受けたならば行動は疾く行うものと言うように二人に呼び掛ける。応じるガリードは誠心誠意と言う心構えでやる気に満ち、シャオは楽しげに笑みを浮かべて。
「馬車とレイホースとかの手配はしているんだ、フーに任せてね。だから、もうそろそろ着いていると思うよ」
「そうか、ありがとう」
「ありがとうっス!」
レイホースは長距離移動には重宝され、馬車は荷物の牽引や誰かの運搬には無くてはならないと言っても過言では無い。それの手配をしてくれる心遣いに感謝は自然に示された。
「それじゃあ、僕は行くよ。くれぐれも気を付けてね」
急ぎの用事なのだろう、先程までニコニコと落ち着いていたレインは急に慌しくなり、言葉を走らせて早足で立ち去っていった。
「何をするのか知らないが、そっちも気を付けろよ」
「行ってらっしゃ~い」
馴れ馴れしい二人の声に送られてレインは外へ飛び出していった。その直後、入れ違いになって先程話に上がったフーが施設に踏み入ってきた。
かなり長い、色褪せた焦げ茶色のロングコートで身を包み込んだ彼。その姿は今から雨天の場所に赴く為と思われる。その背、コートの内から武器の柄が覗く。
「なぁ?今、レインさんっぽい人が走っていったが、気の所為か?」
踏み入って直ぐ、振り返った彼は直ぐに見付けた三人に尋ね掛けた。
「ああ、さっきのがレインだな。用事があるようだったが、何か言われていたのか?」
「やっぱりか。いやな?レインさんに用事を頼まれていたんだわ、幾つかな」
「その中に馬車とレイホースの手配があったんスか?」
「そうだな。そうか、お前等がシャオ?を連れて行くっ言ー訳か。なら、渡す物はちゃんと渡さねーとなんねーわな」
事情を知っている事に納得した彼は近寄りながらコートの内部、腰元を探る。寄ったと同時に取り出したのは数枚の書類、それは山崎に手渡された。
「上が馬車の借用書、その下がレイホースを借りた証明書になってんだわ。レインさんの名で借りてるから、くれぐれも気を引き締めて置けよ?もし、失くしたり、でかい傷でもつけたら賠償しねーといけねーわな。んで、レインさんに迷惑を掛けちまうからよ」
書類を突き出しながら念が押される。信用はしているだろうが、万が一がある為に言い聞かせていた。
「分かった、くれぐれも気を付ける。恩人の顔は、上司の顔に泥を塗るような真似はしたくないからな」
「分かったっス!」
先輩からの注意を真摯に受け止め、不安を抱く彼を安心させようと同意する。その思いが伝わったのか、フーは一息吐いて表情を和らげる。
「なら、もう行くわな。こう見えてかなり忙しいからよ、貧乏暇なし、ってなもんだわ」
「気ぃ付けてくださいねー!」
渡し終えた彼はひらひらと利き手を振りながら施設を後にしていく。その背にガリードの元気な声が送られていた。
絶えず閑寂な施設の正面口の傍、見合った三人の心は直ぐにも統一される。
「それじゃあ、俺達も行くか。用意もしてくれているしな」
「だな」
「宜しくお願いします」
山崎の指示に二人は同意し、連なって外に向けて歩き出す。外に出て正面には馬車、レイホースが待ち構えており、気合十分と言った様子であった。それに応じるように乗り込み、目的に向けて出発していった。
【2】
セントガルド城下町を出発し、時間が経過した。公道を進み、巨大な門を潜れば草原広がる場所へと繰り出す。
迎える、万里に渡って敷き詰められた丈の低き芝生状の草。緩やかな起伏に沿って何処までも続き、恰も永遠を思わせて広がる。彼方には山々が清々と並び、澄み切った空が全ての景色を彩っていた。
其処は多種多様の思想を抱かせよう。初めて目の当たりにすればその美景に足を止めて見惚れてしまい、移動した経験を有する者にしてみれば苦行を抱く空間であろうか。
爽やかな風が香る地を、レイホースを原動力とした馬車に三人は身を任せる。寛ぎ、或いは周囲の光景に気を紛らわせながら目的地を目指す。レイホースを急がせる事無く、緩やかに歩かせ、他愛のない世間話等で時間を潰していた。
時折、周辺に広がる光景を眺めながら進み、ふと空腹を覚える。正確な時間は測れないものの、頂上に差し掛かる太陽と自身の調子から正午時であろうか。思った以上に退屈だったと思いつつ、あっという間だったと山崎は振り返りながら昼食の準備に取り掛かっていた。
馬車を停車させ、馬具を外させたレイホースを連れて少々離れた場所で三人は昼食を摂る。セントガルドから出る際に購入した軽食を囲み、レイホースにも食事を与えながら。その際にもガリードの武勇伝のような馬鹿話が行われていた。
昼食が済み、再び歩き出されても彼は話を続けていた。シャオが熱心に聞き手を務めた事が原因だろう。話は次へ次へと行われる。実に下らない内容ばかりだったが、運転を務める山崎にも幾分か気が紛れる要因にもなっていた。
そうする中で時間は瞬く間に過ぎ、夜が訪れていた。周辺は暗闇に包み込まれ、野宿する事を余儀なくされた三人は手早く準備を行い、草原地帯の何処かに火を灯していた。
草原の地を包み込む夜の闇の僅か一片、砂粒程度であろう光が赤く雄々しく引き裂いた。ゆらゆらと揺らめき、木を弾け、揺さぶる音を響かせて。
焚火が灯された位置から遥か遠方、凝視しても見えない位置に闇に融かされた木々の集団が待ち構える。言わずと知れた森林地帯、彼等が向かうフェリスが存在する地帯である。夜間の内に其処に挑まないのは魔物による危険が倍増する事、草原地帯なら存在しない為、安心して休める為である。
行路で大活躍するレイホースは足を曲げ、地面に身体を預けて寝静まる。その姿を確認し、前に向き直した山崎の視界にはガリードとシャオが映る。二人の表情は和らいで。
彼等の手元には簡素な料理が置かれる。それもまた、途中で購入した物であり、三角の形が特徴、表面には秘伝のタレが塗られ、その後にこんがりと焼かれている。穀物の手料理の一つである。手軽であり、懐かしい味ゆえか食する手は早かった。
「しっかし、あれだよなぁ?」
指に付いた軽食の粒を舐め取りながら息を吐くガリードが話題を振る。その視線はシャオに向かれ、応じた彼も笑みを浮かべる。
「はい、何でしょうか?」
「記憶が無ぇのって、不安にならねぇのか?自分が誰なのかが全然分からねぇ、知らねぇってのは、さ。俺だったら不安になっちまうと思うんだよなぁ」
一口で料理を食べ、咀嚼しながら語る彼は素朴な疑問、些細な不安は無いのかと尋ね掛けた。その様子は軽く、単なる世間話の如く。
辛いの是非は結局当人次第。他者から見てそう見えなくとも、当人が大丈夫と語っていても、他人は心配して止まない。シャオのように、全く平気に見える者であれば更に募ろうか。
「いえ?如何して不安になるのでしょうか?」
キョトンとした表情で彼は尋ね返す。その顔に不安の色は全く見えず、その質問に心底不思議そうにしていた。そうする意味が分からないと言うように。
「如何してって、聞き返すなよ。言ってんだろ?誰かが自分の事を知っているのに自分は知らねぇ、そして思い出せないってのはさぁ?」
質問し返され、少々困ったガリードは苦しそうに理由を話す。それにシャオは一瞬考える素振りを見せるものの、直ぐにも笑顔を浮かべられた。
「忘れたのでしたらそれは仕方ないですし、思い出せないのは気にしていません。知らないなら、知っていけば良いのですから。それに、僕を知っている人が目の前に、ガリードさんや山崎さんと言った皆さんが居ますから、不安にならないです」
「・・・お、おお、そうか。まぁ、お前が大丈夫って言うんなら、もう言わねぇよ」
芯の強さと頼っている事を笑顔で断言され、それ以上の質問は防がれてしまう。支えになっている事が嬉しくと同時に、恥ずかしい為に。密かに山崎も顔を綻ばせていた。
焚火の燃える音色が響く中、三人の間に流れる空気は柔らかくなった。和やかになった空気だが、山崎の溜息によって引き締められる。
「シャオ、明日の朝、森林地帯に入るだろう。そのまま中央付近に在る村、フェリスに向かう。道中は魔物と遭遇する確率が高い。俺達が対処をするが・・・如何する?ガリードから剣を借りて戦ってみるか?」
「それは・・・」
戦いと言う選択肢に彼は躊躇いを見せる。戦う事を恐れているような表情でもあり、そこから戦闘に向かない性格である事を察する。
それは行動でも示され、提案に反応したガリードが腰に提げる剣を差し出すのだが、片手を突き出して拒否していたのだ。護身用でも所持したくないと言う意思を感じられ、命を奪いたくないと言う意思表示でもあった。
「・・・分かった。いざとなれば自分だけでも逃げるように心構えていてくれ。極力そうさせないように心掛けるが、万が一もある。頭の隅にでも覚えてくれ」
「ま!そうさせねぇようにするから安心しろ!俺達を信用してくれよな!」
「・・・はい、分かりました」
真剣な注意の後、その空気を崩すほどの陽気で暢気な台詞が掛けられる。頼り甲斐を見せるように肩を叩くガリード。
それらを受けたシャオは了承の言葉を口にするが、その節の表情は珍しく暗いものであった。不快感、或いは何かに対する不満か。何であれ、初めての顕著な異なる感情を見逃さなかった山崎だが、それに付いて追及する事はしなかった。
多少心境が読めたものの、有り触れて当たり前な思考ゆえ、問い詰めても仕方ないと考えていたのだ。同時に、それを思う彼の優しさに心配を抱く。けれど、それを問答するには時間も遅くなってきたと、考えは途絶されていた。
「・・・そろそろ、明日に向けて寝るぞ。寝不足で動きが鈍くなるのは冗談では済ませられないからな」
大きな欠伸を浮かべて目元を拭うガリードと不安か迷いか分からぬ表情のシャオを眺めながら促す。
「だな、明日に向けてじっくり休まねぇとな」
グッと伸び、とても眠たそうな表情をしたガリードはそのまま横になる。
「分かりました、お休みなさい」
礼儀正しく挨拶を行ったシャオはゆっくりとした速度で身体を地面に預ける。その姿から戸惑いが感じられて。
ガリードは兎も角、シャオからは拒否する姿勢は見せなかった。一先ず、異存はあっても明日に臨む意思があると見て間違いはなかった。
「・・・」
シャオの反応に明日の杞憂を抱きつつ、山崎も同じように横になる。
焚火の音色、赤い明暗が瞼の奥に僅かながらにも感じ取る。それが不安を渦巻かせ、薄れ行く意識の中で何処までも響いていた。
翌日、不変を思わせる快晴を迎えた三人は軽い朝食を腹に収め、万全の準備を済ませて森林地帯の直前で立っていた。
レイホースが嘶き、まるで早く出発しろと促すかのよう。急かされる三人はその隣、下車して森林地帯を目前にする。所持品を確かめ、レイホースや馬車の調子を確認し、頼み綱の武器も入念に確かめて。その様子は万全である、ただ一人を除いて。
「魔物と戦うのは、怖いのか?それとも、抵抗があるのか?」
昨夜同様、表情が優れないシャオに向けて訝しみながら山崎が問う。それに彼は躊躇いを見せながら、苦しそうに訳を語った。
「・・・はい、命を奪う事になったらと、思うと・・・」
正直に語られる。誰かの助けになりたいと言う者の、命を思う発言に山崎は小さく唸る。思った通りだと表情を険しくし、同時に魔物でさえも気遣う優しさに呆れも感じて。
話し始めて直ぐに車輪が音を鳴らして動き始めた。レイホースが歩き出した為である。それは山崎の手が促した為。それは意図的な操作であった。歩きながらでも済ませられると言うやや強引な考えと、立ち止まったままでは埒が明かないと言う考えが過ぎった為に。
レイホースが歩き出した為、ガリードとシャオも続いて歩き出す。文句を口にする事無く、怪しく佇む森の中へ、爽やかな風が吸い込まれる内部へと。
「まぁ、そうだよな。後味は悪くなっちまうし、面倒だしよ。俺だって遭遇したくねぇよ。って、あれ?グレディルだっけか?あの時は手伝ってくれたよな?」
同意するガリードだが、同調する理由が異なる事は全く気付いていない。また、同意する彼は暢気なもので、シャオの悩みを掴みかねていた。
「あの時は・・・皆さんの命の危険があり、已む無かったからです。流石に私も、死にたくは、ありませんから。でも、今回は違います。無理に命を奪う事はしなくても良いと思います」
命を奪う行為に彼は嫌悪感を抱く。あのグレディルの一件でも抵抗感があったと、今更ながら語る。その上で今回、もしもの時を考えて彼は憂いていた。
その告白を受け、ガリードは困った表情を浮かべて山崎を見やる。その山崎は顔を険しくさせて小さく浅い溜息を吐いた。やや辟易とした、その溜息から感情が見え隠れする。
「・・・俺も、好き好んでしている訳じゃない。だが、襲われたなら如何すれば良い?降り掛かる火の粉は払う、とは言いたくないが生きる為だ。逃げられないなら、逃げないのなら・・・奪うしか、ないだろう」
「・・・そうなるよな」
彼等とて、好きで命を奪っている訳ではない。生きる為には斃し、仕事の為に狩猟する事がある。総じて、生きる為であり、悪戯に命を奪った事はなく、それを願った事も無かった。
「それでも、何か方法が・・・」
「あるなら、そうしたい。だが、それを知らないから、そうするしかないんだ」
思い悩むレインの意見を、バッサリと切り捨てるように断言する山崎。生きる為に何でも策を講じる訳ではないが、弁える、切り捨てなければならない事もあると言いたげに発する。それにシャオは苦しく黙り込んでしまう。
「命は掛け替えのないもの、それは分かっている、十分に。だが、鵜呑みにして自分の身を危険に曝せないし、襲われる仲間の命も大事だ。だから、絶対に奪わない事は出来ない。正当防衛か、必要以上に奪ない事しか、俺には出来ない」
シャオが悩む気持ちも理解する。一つでも多くの命を救う道を模索する、それは決して間違いではない。だが、その理想が全て実現される訳ではない。何かを求める時、何かを捨てなければならない。その合理性を理解しろと言いたげに、山崎は語った。
無意識に三人は立ち止まった。レイホースもまた歩みを止め、鼻を鳴らしている。会話に少々熱が入った為である。
「でも・・・私は・・・」
シャオも山崎の気持ちも理解はしているだろう。だが、それでも魔物の命を心配する気持ちは消えない。反論しようとして思い浮かばずに。それは優しいとも言え、優柔不断とも言えて。
「俺は、山崎の気持ちも分かるし、シャオの気持ちも分かる。命は大切だ、そりゃあ小っちゃい頃から言われてきたし、そう思う。でも、襲われたらやらなきゃなんねぇし、襲われてんの見たら助けんのも普通だろ?どっちも取るってのは、難しいと思うぜ?」
ガリードが二人の間に入って仲裁する。思いのまま語った言葉が二人の胸に刺さる。どちらを得ようとするのは難しい、だから今回の話になると言うように。
「俺には如何して良いのか分からねぇけどよ、今は話し合ってる場合じゃねぇよな?こんな所で立ち止まっていると、大迷惑な魔物に集られちまうかも知れねぇし、行こうぜ?」
仲裁する彼は冷静になるように諭す。その言葉に二人は場の状況、森林地帯に居る事を再確認して気を静めていた。溜息が小さく響き渡る。
「その、通りだな。フェリスに向かわないと・・・」
決着は着いていないものの、論争出来る場所ではない。それを顧みて、手綱を引っ張って再び歩き出そうとする。そう思い立った直後であった。彼等の表情は険しくなる。瞬時に戦意がその顔に宿った。
「・・・来ちまったな」
嫌そうな顔で呟いたガリード。彼の懸念は即座に的中してしまい、彼等の前に魔物が現れた。異質の臭い、獲物と判断して嗅ぎ付けてきたのだろう、群れを為すのはローウス。鼻を動かしながら、唸り声を牙の隙間から零して歩む。警戒しながらも、戦意と食欲を漲らせている。
包囲されていない事を視認した山崎とガリードは静かに武器を抜く。戦闘は避けられないと察知し、返り討ちにする為に各々も戦意を漲らせる。
二人の姿に、シャオは小さく声を漏らす。言葉を噤んだ彼、伝えようとしたのは引き留める内容だろう。前に立ち塞がる行動も自粛していた。
「・・・気分悪いだろうが、我慢してくれ」
「そーだな。危ねぇし、下がっててくれよ、シャオ」
ローウスの群れを前にして二人の面は真剣そのもの。一糸の油断なく、立ち塞がる群れを睨んで。
「極力、命は・・・」
「逃げるなら、追わない。それぐらいしか出来ない」
シャオの懇願も虚しく、二人の気持ちは揺るがぬまま挑まんとしていた。
「ッ!」
直後、何かに気付いた山崎は踏み止まり、急速旋回する。突如の行動にガリードは戸惑いを示す。
「如何・・・」
「前を頼む!」
「応よ!!」
喝を入れられ、奮起したガリードは迷いを振り捨てて大剣を唸らせていく。その咆哮を背に、旋回した山崎の視界には、棒立ちのシャオと物陰から飛び出す複数の影が映っていた。
「シャオ、伏せろ!!」
「えっ?」
怒号の注意喚起で漸く彼も気付いていた。木陰から、茂みの影からローウスが飛び出している事を。
「ぐッ!」
先程までの警戒の中で伏兵を二人は感じ取れなかった。ならば新手、別の群れだろうか。どちらにせよ、間一髪で気付いた山崎が駆け付け、シャオへの強襲を阻止する。横へ薙ぎ払う一撃で、顔を両断して一体を仕留めていた。だが、対処し切れなかった。
咄嗟に後背へシャオを強引に引っ張り込み、大口を開けて襲い掛かる数体から庇う。続けて行った防御は間に合わず、肩に両顎が噛み付かれ、腹部には爪が突き立てられ、太腿も喰い付かれてしまう。重なる激痛に呻きが零される。
「や、山崎さん!」
獲物を狩る為の猛攻が降り注がれる様を、見ているしかないシャオが叫ぶ。
「・・・ぐっ、ガァッ!!」
身体の数ヶ所に走り抜ける激痛を振り切り、吼えると同時に全身に力を篭めて纏わり付くローウスを引き剥がす。強引に振り解く同時に、無防備となったローウスへ一撃を繰り出した。
素早い踏み込みと同時に斬り上げて急所を強打。鈍い骨折音を響かせ、血反吐が散らされる中、白鞘に付着していない血液を振り払うように別方向へ振るう。
迅速な重心移動を完了させ、強烈な一撃は体勢を戻そうとしたもう一体の頭部に叩き込まれる。眼球が飛び出すほどの威力は頭蓋を容易く砕き、地面へ強引に叩き付けた。
「・・・ふぅ」
痛みに顔を歪める山崎が一息を吐く。別の群れは直ぐにも返り討ちにし、事は済んだと緊張を解く。
「危ねぇ事すんな、お前は」
軽口を叩きながら山崎の肩を叩くのはガリード。その背後には死屍累々としたローウスの死体が転がされる。彼の実力も着実に積まれつつある事が窺えた。
それらを後景に、嫌がるレイホースの声が鳴らされた。視界を向ければ、死体に嫌がる姿を確認する。だが、その姿に負傷の一つもない、無傷である。
状況は変わらない事を理解し、一息吐く山崎は温もりを感じた。気付けば、仄かな光を放つ薄い膜に包まれており、幾多の水泡のような光も映る。彼の傍にはシャオが膝を曲げ、苦しい表情で念じていた。
「すみません、山崎さん。私を庇って怪我をさせてしまって・・・」
申し訳なさに謝罪の言葉を口にし、懸命に幾つの負傷を治そうと集中する。包む淡い光はその傷を少しずつ消し、痛みを癒していく。
「お前の言いたい事も分かる。だがな、全てが理想論で片付く訳がないんだ。誰かが血を流し、苦しんでいる事で、誰かが笑っていられる事もあるんだ。誰だって、手を汚したくないに決まっている。それでも、しなければならない時がある」
「命を、奪う事も?」
丁度、傷を癒し終え、包んでいた光は瞬きを失う。鮮明となる山崎の表情は悲痛に、悲しみに拉がれた面で面を下げていた。
「・・・ああ、魔物の命よりも自分、自分の命よりも大切な誰かの命を優先する・・・するしか、ない時もあるんだ」
「・・・はい」
清濁併せ呑む、ではないものの、目を瞑る、我慢しなければならない事もある。それを切に言い聞かせ、受けたシャオは静かに返答していた。
「さ~て、また来られても面倒だし、先を急ぐか」
シャオが考えを改めたかどうかはさて置き、長居は禁物と言うように、二度ある事は三度あるからとガリードが急かす。
「そうだな」
促され、その判断に同意した山崎の言葉を切欠に再出発される。遠くに避難していたレイホースを引き寄せ、フェリスに向けて歩き出していった。
先へ急ぐ二人、山崎とガリードの背を、レイホースの手綱を握って進む背中を眺めるシャオは難しい表情を続けていた。途中、足を止めて振り返っていた。
彼の眼前に広がる残酷な光景に胸を痛めて眉を顰める。手を合わせ、小さく黙祷を行っていた。悼むその胸に思いは犇めき続け、尽きぬまま、答えが出ないまま、二人の後を追っていった。
【3】
多少の戦闘を経た三人は馬車に追従したり、乗り込んだりして休みながら森林の中を突き進んでいった。
車輪の軋みによる異音は小さく、されど森林の彼方まで響き、レイホースの鼻を鳴らした音も時折追跡して。
切に鳴らされた足音は軽やかに、追走する会話は楽し気に弾まれる。それは話題を振るう者の性格に拠るだろう、そう能天気で陽気な者ならば。
実際は微妙な空気が流れていた。山崎とシャオが言い争ってから時間がそれほど経過していないのだ、無理もなく。それでも話を展開するのは気まずさを払拭する為、二人の仲を持たせようとしての事であった。
彼の努力のお陰であろう、息が詰まるような苦しさに見舞われる事無く、行路は順調に進まれた。三人の視界に目的地が入り込むほどに。
静かに佇む木造の建物は疎らに建ち、大部分は農業の為の畑が耕される。低い茶色の柵に囲まれたその地には長閑に小川が横断する。その新鮮な水は畑で育てられる作物を瑞々しく、美味しそうに育む。何処かの建物では家畜が飼育され、その鳴き声が響いていた。
其処はフェリス、恵みの村と言う別称を持ち、それに準じた長閑な村が川と緑の潺に寄り添うように存在していた。
「よっし!着いた!!久し振りのフェリスに到着だ!!」
誰よりも早く気持ちを、歓喜を示したのはガリード。続いて長い溜息を吐いて運転席から降りる山崎、冷静に見えて安堵を見せる。シャオは調子が戻り、ニコニコと知らぬ地に期待を浮かべている様子。
「此処が恵みの村の渾名がある、フェリスと言う村だ。農業を営む場所で長閑で過ごし易い場所だな。前にも来た事はあるが、それ以前に来た覚えはあるか?」
早速山崎が問い掛けるのだが、当人は笑顔を崩さぬまま首を横に振るう。
「すみません、覚えはありません。あの時に来て、長閑で良い人達が沢山居る、とても良い場所と言う記憶はありますが」
笑みのまま否定した彼だが、好みに合う場所だったのか、綻ばせる表情は実に穏やかに嬉しそうに。
「そうか、それは残念だな。いや、中を見て回れば分かるか?」
「だな、見て回ったら思い出すかも知れねぇし、誰かに聞いたら分かるかも知れねぇしな」
少々焦ったと反省する山崎にガリードは同調し、先に村の中へと入っていく。その背に続いて山崎もレイホースを率い、最後尾にシャオが続いていった。
恵みの村は長閑な日常が広がっていた。時折、魔物が侵入するであろう其処でも、普段は時間の流れが遅くなってしまったかのように穏やかであった。
備えられた道を行くは村人、それも老人ばかり。穏やかな表情を浮かべてゆっくりと歩む。処に農具を扱う姿も確認出来た。
動体の少ない光景を眺めながら歩き出せば自ずと畑を横切る事となる。豊潤に育てられた果実が並び、頭上が降り注ぐ陽を浴びて輝かしく鈴生る。僅かに漂う香りが、視覚含めて美味を訴え掛けるよう。
進み行けば、村を横断する小川の河川敷に着く。天端に植えられた樹木は風に揺れ、青々とした葉を茂らせる。さわさわと揺れ、涼やかに。
木々に囲まれた村の上空は薄い青色が広がる。快晴を際立たせる小さな白雲が流れる其処に変哲もなく。ただただ、枝葉の音色を響かせる日常が不変である事を知った。
手綱を引き、レイホースを連れて進む山崎はふと立ち止まる。当然、馬車は緩やかに停車し、傍で歩む二人も立ち止まる。怪訝に思う視線が注がれる中、山崎は周辺を見渡す。その動きに同調し、シャオもまた周囲を見渡して表情を和らげていた。
改めて眺め、抱く感想は長閑さによる安心感。魔物が生息する地帯にあり、稀に魔物が入り込むにも関わらず、外の喧騒と隔絶されたかのような安らげる空間となっている。時間の流れを忘れ、何時までも居たくなる安らぎを感じられる。余生を田舎で過ごしたい、その気分を充分に理解出来る空気が流れていた。
「如何した?急に周りを見てよ、何かあったのか?」
景色を眺めて思い耽る彼にガリードが心配の声を掛ける。別段、調子が悪くはなさそうだと確認しながら。
「いや、少し周囲に見惚れていただけだ」
「ああ~、確かに良い場所だよな、ここは。んでも、立ち止まってても仕方ねぇだろ?」
「分かっている、一先ず、あの宿屋に行くか」
「だな、あそこが安くつくもんな」
二人は行き先を統一させ、其処に向けて再度歩き出させる。その二人の後を追うシャオは実ににこやかにしていた。
「なんか、直ぐに戻って着ちまったなぁ」
村の中心からやや離れた場所、巨大な旅館風の宿屋の敷地内、正面の広い空間に馬車とレイホースを停める山崎を後方に、少々感慨深げに呟きながら見上げるガリード。その頭には此処を立ち去った時を思い出して。
「まぁ、離れているとは言え、一日の距離で来れるからな」
馬具を外し、その場所に座り込むレイホースの首筋を撫でながら答える。
「此処って、この間訪れた宿屋ですよね?」
「そうだな、少々面倒だが、懇意にしてくれているからな。特にガリードの料理を求められているが、その分、安く済むからな」
「美味そうに食ってくれるからな、冥利に尽きる?だっけか?まぁ、嬉しいし、一石二鳥だな!」
満足気な表情のガリードを先頭に、一行は宿屋に向かっていく。
「もしかして、この間、掃除や料理を作っていたのはその為だったのですか?」
「その通りだ。此処に滞在する間、シャオも出来る範囲で手伝ってくれたら有り難い」
「分かりました!」
役に立てる、又は役に立つと言う意欲を掻き立てて彼は元気の良い返事を行う。その会話の中でガリードが正面扉に手を掛ける。
「それと、こないだは遭遇しなかったが・・・」
「何かあるのですか?」
苦い表情で言い淀まれ、怪訝に思わない筈がない。それを問うた時、扉が開かれた。
「驚く光景に出会っちまうかもな。初めて来た時なんて・・・がっ!?」
同様の表情を浮かべるガリードが説明した矢先であった。前を見た彼は絶句した後、その場に卒倒してしまった。あまりにも突然の出来事にシャオは驚き戸惑う。山崎は前方を見て、額を抑えて呆れを示した。
「ど、如何なさったのですか!?」
直ぐにもシャオが状態を確認、顔を真っ赤にして鼻血を垂らす様子を前にして直ぐに治療を始める。
「その阿呆については大丈夫だ、免疫が薄れていただけだ。単なる興奮だ」
「で、でも、鼻血が・・・」
溜息交じりの説明に納得の出来ないシャオは心配そうに見上げる。その傍、哀れなガリードが光に包まれて直されていく。
ガリードが即答した原因は正面に立っていた。部屋を移る為の廊下が直ぐ正面に設計される。其処へ、一人の女性が歩いていたのだ。此処を経営する気怠く、ズボラを第一印象に与える女店主である。その彼女が眠たそうな表情で足を止め、三人を眺めていた。
「・・・如何したの?そんな所で。何か、用なの?・・・ああ、泊まる積もりか」
疑念に自己解決する彼女は寝起きなのか、眠気は勿論、長髪をボサボサのままでだらしない。それ以前に、彼を卒倒させる原因はその身にある。全裸であったのだ、一糸纏わず。
老若の関係なく、女性が裸体を平然と晒す。例え、客、異性を前にしても一切隠す素振りも見せない彼女に羞恥心は無く。興味がない、無関心ゆえの反応であった。
「・・・とりあえず、服を着たら如何だ?それと、また数日ぐらい泊まらせて貰いたいんだが」
呆れた山崎は冷静に指示する。前半の文に彼女は反応を見せなかったが、後半の頼みには頭が回転して納得した表情を浮かべた。
「別に構わない。また、色々としてくれるなら」
そう言い残すと、彼女はフラフラと廊下を渡っていく。入浴しに行ったか、或いは眠りに行ったのか。つくづくにマイペースな人物であった。
彼女の足音が聞こえなくなった所で、漸く時間が流れ出したかのように大きな溜息が吐き捨てられた。
「・・・まぁ、また遭遇するかも知れないが、それは頭に入れてくれたら有り難い」
呆れを強く宿した彼はガリードの腕を肩に回して起き上がらせる。まだ逆上せたまま、顔は赤く。
「・・・分かりました。裸に居たら風邪を引いてしまいますから、次から注意します」
シャオの観点はまた別の所で、彼女の体調を気遣っているよう。その分だと、ガリード同様に困る事は無いだろう。少々感性がずれている事を指摘せず、一先ずは部屋へとガリードを引き摺って向かっていった。
【4】
「ほら、出来たぜ!」
自慢の一品だと言いたげに、食卓に四つの大皿が置かれた。その皿の上には穀物を主とした料理が湯気を立たせて固められていた。
熱を吹くような高音で炒られた穀物は小麦色に輝き、野菜と香辛料の色を際立たせる。噛み締めと食べやすく刻まれた肉が鏤められ、様々な香りが混ざって食欲を誘う。それを一気に書き込めばどれほどに熱いだろうか。それに耐え、味わえば飽きず次を望む味に出会えるだろう。それは、彼の得意料理の一つであった。
その料理を最初に手を付け、頬張ったのは女主人。先程までの眠たそうな表情は感情乏しくとも明るいものへと変わって。その彼女はかなり砕けてだらしない服装、上下ともスエットのような格好だがちゃんと衣で身を包んで
居間と台所が一体化した部屋、その食卓を介して山崎とシャオも椅子に掛けて食事を摂る。彼等もガリードの食事に舌鼓を売っていた。
あれから気付いたガリードを交え、改めて宿泊したい意向を示すと、彼女は前回同様の要求をした。予想通りのそれに二人は了承し、シャオも手伝うとの意思を示した。それに、彼女は僅かばかり嬉しそうにした。そして、早速料理を要求され、それに答えていた次第であった。
食事も早々に済まされ、料理人ガリードがやや遅れて食事を摂る姿を後ろに、山崎は台所に向かって食器の山と対面していた。今回の料理で使われた食器を含め、およそ一週間以上の成果に溜息を零さずには居られず。それでも、やらない訳にも行かず、渋々と食器洗いに勤しみ始めた。
「今回の滞在は調査の為なんだ」
「調査?」
洗う片手間に本題に入るのだが、彼女はかなり興味なさげ。
「其処のシャオを知っているか?」
単刀直入な質問に流石の彼女も顔を顰める。僅かな反応だが疑問を色濃く映して。
「この間会ったから変な質問になっているが、シャオは記憶喪失していて自分の事すらも分からないんだ。この間発見された湿地地帯で発見されたんだが、それ以外の手掛かりが無いんだ。だから、このフェリスで聞いて回ろうかと思っているんだ。その手始めに聞いたんだ」
追加説明を施すのだが、彼女は難しい顔でシャオを睨み付ける。集中している様子に見え、その空間に介した山崎とガリードは淡く期待を持つ。
「・・・やっぱり、君は、何処か・・・女の子っぽいね」
そう、無関心さを多少緩めた彼女が呟く。その的外れな言動は二人の手を止めた。
「今はそんな・・・」
「そうか?女の子っぽいか?」
話を戻そうとする言葉を、ガリードが重ねるように疑問を呈した。確かに、美形であろう。中性的と言えばそう見えるだろう。女性ならではの感性なのかも知れない。だが、それが今注視する点ではない。
「だから・・・」
「私は、知らない」
きっぱりと吐き捨てられ、追及の言葉が堰き止められる。彼女の調子に、山崎の顔は少々険しくされて。
「なら、仕方ねぇな。皆に聞いて回るしかなさそうだな、山崎」
「・・・そうだな」
ガリードの気楽な声に助けられるように、息を吐く山崎は気持ちの昂りを抑えていた。
「・・・御飯ありがとう。次は・・・」
「風呂掃除だろ?分かってる」
空になった食器を渡しつつ、笑顔を見せ付ける彼は任された仕事に向かう。彼等の姿を見て、そわそわとするシャオ。彼には仕事を任されておらず、手持ち無沙汰に落ち着かず。
「ん?あっ、じゃあ、シャオに風呂掃除を任せて良いか?俺は薪を割ってくるからよ」
「分かりました!」
助け舟を出され、表情を明るくしたシャオは直ぐに浴室へ向かっていく。その後ろ姿を見て、女主人は一つ物耽り、その後に続いていった。
一連の行動に僅かに気に留めた山崎とガリードだが、食器洗いを続行し、薪割りの為に裏口の開扉音を響かせていた。
古風な浴槽を構えた浴室に着いたシャオは早速掃除せんと奮起して掃除道具を並べる。外から、薪を割る勢いと軽快な音が聞こえてくる中、彼はまず浴槽から取り掛かっていた。
真面目に熱心に掃除する姿を、追い駆けてきた女主人が入り口付近に立ってぼんやりと眺める。それは監視や指示の為にではなく、別の考えで眺めていた。
「ねぇ」
「はい、何ですか?」
作業の最中、彼女は呼び掛ける。その声に反応し、振り返ったシャオは笑顔に受け答えた。
「如何して、そんな、悲しい顔をしているの?」
唐突な質問にシャオは小さく動揺した。思いもしなかった質問を受け、途端に笑顔に影が差す。それは、数時間前、森の中での一件が原因である事は言うまでもない。表面上では変わらなくとも、内心ではずっと迷いが燻っていたのだ。それを的確に指摘した彼女は実は洞察力が高いのか、偶々気付いたのか。
「・・・その、山崎さんを怒らせて、迷惑を掛けてしまったのです。私の考えが至らなかった為に。だから、ずっと考えて、次に如何動けば良いのか考えているのですが、分からなくて・・・」
「ふ~ん」
手を止め、胸に巣食う迷いを語る。山崎の考えも彼の考えも、絶対に正しく、絶対に間違っている確証など無い。それぞれの考えがある。だが、状況によって左右する為、だからこそ迷う。折衷案を探そうにも、自身の考えの正しさを捨て切れず、そう簡単に変えられるものではないのだ。
その迷いを聞いた所で女主人は良い道を示す事はしない、出来る訳でもない。ただ、迷いを尋ね、聞いただけに過ぎない。それは深い考えがあった訳でもない、気になって尋ねただけであった。
表面化した迷いにシャオの顔から明るさは消えてしまう。そのまま作業を続けるのだが、どうしても動きは鈍って。
「そう、気にする事でもねぇんじゃねぇのか?」
不意に、ガリードの声がした。何時しか薪を割る音は止んでおり、外から見えぬよう設計された窓を見ればガリードが付近に立っていた。斧を片手に明るい表情で。
「そりゃよ、命は大事だってのは分かる。俺も死にたかねぇし、あっちだって死にたかねぇだろうよ。生きてんだもん、当たり前だろ。それを心配するのは正しいと思うぜ、俺は」
「ですよね?だから・・・」
「んでも、山崎の言葉も分かる。生きる為にやらなきゃならねぇ時だってある。前の世界でも、俺達は豚とか鳥の肉を食ってた。でも、それは他の誰かが、殺した後だ。忘れがち、だけどさ」
双方の意見の肯定に、シャオは黙り込んでしまう。理解出来るからこそ、それを否定するには難しい。益々迷いは募る。その気持ちを察するように、一息吐いたガリードが続け様に告げた。
「だから、俺達は、他の動物の命の上で生きてるって事を忘れねぇようにしたら良いんじゃねぇのか?その上で、気を付ける事は気を付けたら良いんじゃねぇの?なるべく、命を粗末にしねぇようにとか、誰かの迷惑をしねぇように方法を考えるとかさ」
それは言わば有り触れた答えであった。しかし、同時に重要な事でもあろう。それを改めて聞かされ、俯いていたシャオはゆっくりと面を上げる。少しずつ明るみが差して。
ガリードからしてみれば、考えたままそのまま伝えただけであろう。単純な思考が口にそのまま出ると言う事は、それが彼の考えに繋がると言う事。何も考えていないとも言えるが。
「ま!その辺は工夫次第だと思うけどな。何かの道具で追っ払うとか、仕方ねぇ時は供養するとかさ、じゃねぇと・・・良く分からなくなっちまった。兎に角、俺は気にしなくても良いと思うぜ?それか、迷うくらいなら、バシバシ意見するとか良いかもな。言い争ってたら、良い案が浮かぶかも知れねぇしさ!」
彼としては励ます積もりだったのだろう。だが、浅慮故、次が定まらず、いい加減な助言を残して立ち去ってしまった。
曖昧なまま話は切られ、再び薪を割る音が響く。外の音を耳にしたシャオは、一つの考えが定まったのだろう。ゆっくりと手を合わせて目を瞑った。僅かな迷走の後、再び掃除を行っていた。
一部始終を眺めていた女主人は小さく口辺を緩めた後、静かに立ち去っていった。
掃除に勤しむシャオの表情に迷いは見られない。まだ残っていたとしても、光明を得たかのようであった。
それから、気分が幾らか晴れたシャオと共に聞き取りに出向くのだが、何一つ、成果を得られる事は無かった。時間だけが無駄に過ぎ、再び宿屋に戻った彼等は話し合った。
フェリスでの聞き取りは終了し、沼地地帯での調査を待つ次第。ならば、セントガルドで深く聞き取る事が懸命であろう、それが最良だと決まっていた。そう、翌日、セントガルドに戻る事を余儀なくされていた。
この世界の生活基準にもなるセントガルド城下町での生活、ギルドに所属する故の仕事に適応しつつ、数日が経過した。
山崎とガリードはそろそろ見習いの域から脱するように、レインやユウから言い渡される仕事をこなしていた。自身が所属する人と人を繋ぐ架け橋に訪れる仕事の一部とは言え、ほぼほぼ雑用程度の住民からの頼み事の域。詰まり、まだ半人前と言った所だろう。
請け負う内容から察しよう、当日に届く迷子の捜索願い、老人の買い物の代替、住居の修繕や荷物運送の手伝いなど、重要度が低く感じるものばかりであった。そう言った仕事が回される点は便利屋程度にしか見られていないのか。それとも、とても気軽に頼めるほどに慕われていると言えるのか。
日々を仕事に赴く山崎はこれも人助けかと納得してこなし、ガリードは時に張り切り、時に文句を呟きながらも達成感を感じていた。
その間、記憶喪失のシャオは暇を持て余す事をしなかった。まだ新人であり、戦闘が苦手であろう彼は魔物との戦闘耐性には駆り出されず。だが、山崎やガリードの手伝いを行いつつ、天の加護と導きに出向いて手伝いを行っていたのだ。
そうしている内に日々はあっと言う間に過ぎ去った。そんなある日の事であった。
何気ない、朝の日が迎えられる。多少の人の往来がある通り、清々しき笑顔が疎らなその通りの傍、人と人を繋ぐ架け橋の施設は静けさに包まれる。相も変わらず、或いは代わり映えもしないと言うように。
その人気の感じられない施設の正面口の広場、正面口布巾の壁に隣接されたテーブルに数人が腰掛ける。若い男性が二人、山崎とガリードである。様子として、概ね好調であろうか。
連日の仕事に一旦の間が開けられ、暇を得た二人は解放されたと言わんばかりに表情が明るく。それほど心身を消耗する仕事を与えられた訳ではなくとも、時間を貰えると言う事は自然と顔が綻ぶものか。
ただ、まだこの世界での生活に慣れ切れていない二人、順応に時間を費やそうにもそれでは味気ないと言うように漠然と座る。一つ二つと会話を挟み、計画を立てようとするのだがあまり思い浮かばず。
元々、趣味を模索するほど好奇心旺盛な性格ではない山崎はそれほど危機感を抱かず。だが、退屈を抱く事に嫌悪感と焦りを抱くガリードは必死に思考を巡らせていた。しかし、考え付くのは鍛錬か、天の加護と導きに遊びに行くかぐらい。その選択肢の無さに、彼は机に突っ伏していた。
その二人は近付く足音に気付く。連なるそれは二つであり、似たような音だが僅かな音の強弱、履く靴の素材の違いから一人の正体が推測された。そして、それは連日聞いた為、誰のものか何気なく行き届く。
「やぁ、おはよう。朝早くに此処で如何したの?」
「おはようございます、山崎さん、ガリードさん」
近付く二人はレインとシャオである。爽やかな笑顔と人の心を解す微笑みを浮かべて挨拶を行ってきた。二人が並べば、万人も心を開かせるであろう魅力が感じられた。
「おはようっス、レインさん。シャオもおはよう」
「おはよう・・・別に、これと言ってやる事がないから、考えている途中だな」
返す二人、能天気な明るさを見せ付けて挨拶を返し、もう一人はやれやれと溜息を零していた。暇を持て余している二人を前にし、レインは苦笑を浮かべた。
「そうなんだ。それじゃあ、ちょっと頼まれても良いかな?」
折角の自身の時間を無駄にしかねない二人に尋ね掛けるレイン。それを受け、二人は複雑な表情を浮かべた。恐らくは仕事関係だろうと考え、折角の時間が潰れてしまうと。だが、暇を潰せる良い機会と認識して。
「何をすれば良いんスか?」
飛び付くように内容を尋ねるガリード。役に立ちたい気持ちが上回ったのだろう。その反応に彼は笑顔を浮かべて本題に入っていく。山崎は口を挟まなかったが請け負う積もりで耳を傾けていた。
「今日、シャオとフェリスに向かう約束をしたんだけどね、急に用事が出来ちゃって行けなくなったんだ。それで、替わりに連れて行ってもらう人を探していたんだ。悪いけど、頼んでも良い?」
それは、彼にも魔物と戦わせる積もりなのだろうか。或いは、彼に対する情報集めの一環であろうか。その両方も有り得、山崎とガリードは拒否の反応は見せなかった。
「分っかりました!んじゃ、早速・・・!」
即座に引き受けようとした彼を、山崎が強引に顔を押し退けて阻止する。阻まれた事に怒りを示すが、当人は見向きもしない。
「行くのは構わないが、シャオの情報の伝手があったから行くのか?」
先ずは事情を知る為に尋ねる。それにレインは首を横に振った。
「それは無かったんだ。事前にフェリスに居る仲間や知り合いに連絡を取ったんだけど、芳しくてね。もう一回行ってみて、見て回ったらもしかしたら思い出すかも、って思ったんだ。訪ね回るのも手かなって。それと、問題ないと思うけど、いざと言う時の為の、魔物との戦闘時における反応や耐性を見ておきたいって思ってね」
「そうか、なら良い。もう出発するので良いのか?」
「うん、それは大丈夫。もう準備は済ませているから」
「はい、宜しくお願いします」
事情を把握し、納得した山崎は礼儀正しいシャオと笑みを浮かべるレインに向けて了承の意を示す。隣で意気込むガリードの姿が見えた。
「それじゃあ、シャオを宜しく頼むね。くれぐれも怪我はしないように、無理はしないようにね。フェリスでの滞在の為の経費は多めに渡しておくね」
優しく釘を刺しながら小さな巾着袋を取り出して差し出す。受け取った重みから十にも満たないだろう。
「ああ、分かった。心配かも知れないが、出来る限り期待に添えられるようにする」
「頑張るっスよ!だから任せて下さい!」
普段通りの様子で承諾する山崎と意気揚々として快諾するガリードを眺め、微笑みを崩さないシャオを確認してレインは安心を抱いていた。一定の信頼がある事を確信して。だが、不安はやはりあった。
戦闘力の有無はまだ分からないものの、非戦闘員を連れて行くにはまだ経験が浅いと懸念が過ぎっていた。戦えない人物を守りながらの戦闘は至難を極める。戦闘員が二人居る為、一人は護衛、もう一人が魔物との戦闘を引き受けたと成れば幾分と負担は減ろうか。それでも、心配はあろう。
「それじゃあ、早めに準備をしないとな」
受けたならば行動は疾く行うものと言うように二人に呼び掛ける。応じるガリードは誠心誠意と言う心構えでやる気に満ち、シャオは楽しげに笑みを浮かべて。
「馬車とレイホースとかの手配はしているんだ、フーに任せてね。だから、もうそろそろ着いていると思うよ」
「そうか、ありがとう」
「ありがとうっス!」
レイホースは長距離移動には重宝され、馬車は荷物の牽引や誰かの運搬には無くてはならないと言っても過言では無い。それの手配をしてくれる心遣いに感謝は自然に示された。
「それじゃあ、僕は行くよ。くれぐれも気を付けてね」
急ぎの用事なのだろう、先程までニコニコと落ち着いていたレインは急に慌しくなり、言葉を走らせて早足で立ち去っていった。
「何をするのか知らないが、そっちも気を付けろよ」
「行ってらっしゃ~い」
馴れ馴れしい二人の声に送られてレインは外へ飛び出していった。その直後、入れ違いになって先程話に上がったフーが施設に踏み入ってきた。
かなり長い、色褪せた焦げ茶色のロングコートで身を包み込んだ彼。その姿は今から雨天の場所に赴く為と思われる。その背、コートの内から武器の柄が覗く。
「なぁ?今、レインさんっぽい人が走っていったが、気の所為か?」
踏み入って直ぐ、振り返った彼は直ぐに見付けた三人に尋ね掛けた。
「ああ、さっきのがレインだな。用事があるようだったが、何か言われていたのか?」
「やっぱりか。いやな?レインさんに用事を頼まれていたんだわ、幾つかな」
「その中に馬車とレイホースの手配があったんスか?」
「そうだな。そうか、お前等がシャオ?を連れて行くっ言ー訳か。なら、渡す物はちゃんと渡さねーとなんねーわな」
事情を知っている事に納得した彼は近寄りながらコートの内部、腰元を探る。寄ったと同時に取り出したのは数枚の書類、それは山崎に手渡された。
「上が馬車の借用書、その下がレイホースを借りた証明書になってんだわ。レインさんの名で借りてるから、くれぐれも気を引き締めて置けよ?もし、失くしたり、でかい傷でもつけたら賠償しねーといけねーわな。んで、レインさんに迷惑を掛けちまうからよ」
書類を突き出しながら念が押される。信用はしているだろうが、万が一がある為に言い聞かせていた。
「分かった、くれぐれも気を付ける。恩人の顔は、上司の顔に泥を塗るような真似はしたくないからな」
「分かったっス!」
先輩からの注意を真摯に受け止め、不安を抱く彼を安心させようと同意する。その思いが伝わったのか、フーは一息吐いて表情を和らげる。
「なら、もう行くわな。こう見えてかなり忙しいからよ、貧乏暇なし、ってなもんだわ」
「気ぃ付けてくださいねー!」
渡し終えた彼はひらひらと利き手を振りながら施設を後にしていく。その背にガリードの元気な声が送られていた。
絶えず閑寂な施設の正面口の傍、見合った三人の心は直ぐにも統一される。
「それじゃあ、俺達も行くか。用意もしてくれているしな」
「だな」
「宜しくお願いします」
山崎の指示に二人は同意し、連なって外に向けて歩き出す。外に出て正面には馬車、レイホースが待ち構えており、気合十分と言った様子であった。それに応じるように乗り込み、目的に向けて出発していった。
【2】
セントガルド城下町を出発し、時間が経過した。公道を進み、巨大な門を潜れば草原広がる場所へと繰り出す。
迎える、万里に渡って敷き詰められた丈の低き芝生状の草。緩やかな起伏に沿って何処までも続き、恰も永遠を思わせて広がる。彼方には山々が清々と並び、澄み切った空が全ての景色を彩っていた。
其処は多種多様の思想を抱かせよう。初めて目の当たりにすればその美景に足を止めて見惚れてしまい、移動した経験を有する者にしてみれば苦行を抱く空間であろうか。
爽やかな風が香る地を、レイホースを原動力とした馬車に三人は身を任せる。寛ぎ、或いは周囲の光景に気を紛らわせながら目的地を目指す。レイホースを急がせる事無く、緩やかに歩かせ、他愛のない世間話等で時間を潰していた。
時折、周辺に広がる光景を眺めながら進み、ふと空腹を覚える。正確な時間は測れないものの、頂上に差し掛かる太陽と自身の調子から正午時であろうか。思った以上に退屈だったと思いつつ、あっという間だったと山崎は振り返りながら昼食の準備に取り掛かっていた。
馬車を停車させ、馬具を外させたレイホースを連れて少々離れた場所で三人は昼食を摂る。セントガルドから出る際に購入した軽食を囲み、レイホースにも食事を与えながら。その際にもガリードの武勇伝のような馬鹿話が行われていた。
昼食が済み、再び歩き出されても彼は話を続けていた。シャオが熱心に聞き手を務めた事が原因だろう。話は次へ次へと行われる。実に下らない内容ばかりだったが、運転を務める山崎にも幾分か気が紛れる要因にもなっていた。
そうする中で時間は瞬く間に過ぎ、夜が訪れていた。周辺は暗闇に包み込まれ、野宿する事を余儀なくされた三人は手早く準備を行い、草原地帯の何処かに火を灯していた。
草原の地を包み込む夜の闇の僅か一片、砂粒程度であろう光が赤く雄々しく引き裂いた。ゆらゆらと揺らめき、木を弾け、揺さぶる音を響かせて。
焚火が灯された位置から遥か遠方、凝視しても見えない位置に闇に融かされた木々の集団が待ち構える。言わずと知れた森林地帯、彼等が向かうフェリスが存在する地帯である。夜間の内に其処に挑まないのは魔物による危険が倍増する事、草原地帯なら存在しない為、安心して休める為である。
行路で大活躍するレイホースは足を曲げ、地面に身体を預けて寝静まる。その姿を確認し、前に向き直した山崎の視界にはガリードとシャオが映る。二人の表情は和らいで。
彼等の手元には簡素な料理が置かれる。それもまた、途中で購入した物であり、三角の形が特徴、表面には秘伝のタレが塗られ、その後にこんがりと焼かれている。穀物の手料理の一つである。手軽であり、懐かしい味ゆえか食する手は早かった。
「しっかし、あれだよなぁ?」
指に付いた軽食の粒を舐め取りながら息を吐くガリードが話題を振る。その視線はシャオに向かれ、応じた彼も笑みを浮かべる。
「はい、何でしょうか?」
「記憶が無ぇのって、不安にならねぇのか?自分が誰なのかが全然分からねぇ、知らねぇってのは、さ。俺だったら不安になっちまうと思うんだよなぁ」
一口で料理を食べ、咀嚼しながら語る彼は素朴な疑問、些細な不安は無いのかと尋ね掛けた。その様子は軽く、単なる世間話の如く。
辛いの是非は結局当人次第。他者から見てそう見えなくとも、当人が大丈夫と語っていても、他人は心配して止まない。シャオのように、全く平気に見える者であれば更に募ろうか。
「いえ?如何して不安になるのでしょうか?」
キョトンとした表情で彼は尋ね返す。その顔に不安の色は全く見えず、その質問に心底不思議そうにしていた。そうする意味が分からないと言うように。
「如何してって、聞き返すなよ。言ってんだろ?誰かが自分の事を知っているのに自分は知らねぇ、そして思い出せないってのはさぁ?」
質問し返され、少々困ったガリードは苦しそうに理由を話す。それにシャオは一瞬考える素振りを見せるものの、直ぐにも笑顔を浮かべられた。
「忘れたのでしたらそれは仕方ないですし、思い出せないのは気にしていません。知らないなら、知っていけば良いのですから。それに、僕を知っている人が目の前に、ガリードさんや山崎さんと言った皆さんが居ますから、不安にならないです」
「・・・お、おお、そうか。まぁ、お前が大丈夫って言うんなら、もう言わねぇよ」
芯の強さと頼っている事を笑顔で断言され、それ以上の質問は防がれてしまう。支えになっている事が嬉しくと同時に、恥ずかしい為に。密かに山崎も顔を綻ばせていた。
焚火の燃える音色が響く中、三人の間に流れる空気は柔らかくなった。和やかになった空気だが、山崎の溜息によって引き締められる。
「シャオ、明日の朝、森林地帯に入るだろう。そのまま中央付近に在る村、フェリスに向かう。道中は魔物と遭遇する確率が高い。俺達が対処をするが・・・如何する?ガリードから剣を借りて戦ってみるか?」
「それは・・・」
戦いと言う選択肢に彼は躊躇いを見せる。戦う事を恐れているような表情でもあり、そこから戦闘に向かない性格である事を察する。
それは行動でも示され、提案に反応したガリードが腰に提げる剣を差し出すのだが、片手を突き出して拒否していたのだ。護身用でも所持したくないと言う意思を感じられ、命を奪いたくないと言う意思表示でもあった。
「・・・分かった。いざとなれば自分だけでも逃げるように心構えていてくれ。極力そうさせないように心掛けるが、万が一もある。頭の隅にでも覚えてくれ」
「ま!そうさせねぇようにするから安心しろ!俺達を信用してくれよな!」
「・・・はい、分かりました」
真剣な注意の後、その空気を崩すほどの陽気で暢気な台詞が掛けられる。頼り甲斐を見せるように肩を叩くガリード。
それらを受けたシャオは了承の言葉を口にするが、その節の表情は珍しく暗いものであった。不快感、或いは何かに対する不満か。何であれ、初めての顕著な異なる感情を見逃さなかった山崎だが、それに付いて追及する事はしなかった。
多少心境が読めたものの、有り触れて当たり前な思考ゆえ、問い詰めても仕方ないと考えていたのだ。同時に、それを思う彼の優しさに心配を抱く。けれど、それを問答するには時間も遅くなってきたと、考えは途絶されていた。
「・・・そろそろ、明日に向けて寝るぞ。寝不足で動きが鈍くなるのは冗談では済ませられないからな」
大きな欠伸を浮かべて目元を拭うガリードと不安か迷いか分からぬ表情のシャオを眺めながら促す。
「だな、明日に向けてじっくり休まねぇとな」
グッと伸び、とても眠たそうな表情をしたガリードはそのまま横になる。
「分かりました、お休みなさい」
礼儀正しく挨拶を行ったシャオはゆっくりとした速度で身体を地面に預ける。その姿から戸惑いが感じられて。
ガリードは兎も角、シャオからは拒否する姿勢は見せなかった。一先ず、異存はあっても明日に臨む意思があると見て間違いはなかった。
「・・・」
シャオの反応に明日の杞憂を抱きつつ、山崎も同じように横になる。
焚火の音色、赤い明暗が瞼の奥に僅かながらにも感じ取る。それが不安を渦巻かせ、薄れ行く意識の中で何処までも響いていた。
翌日、不変を思わせる快晴を迎えた三人は軽い朝食を腹に収め、万全の準備を済ませて森林地帯の直前で立っていた。
レイホースが嘶き、まるで早く出発しろと促すかのよう。急かされる三人はその隣、下車して森林地帯を目前にする。所持品を確かめ、レイホースや馬車の調子を確認し、頼み綱の武器も入念に確かめて。その様子は万全である、ただ一人を除いて。
「魔物と戦うのは、怖いのか?それとも、抵抗があるのか?」
昨夜同様、表情が優れないシャオに向けて訝しみながら山崎が問う。それに彼は躊躇いを見せながら、苦しそうに訳を語った。
「・・・はい、命を奪う事になったらと、思うと・・・」
正直に語られる。誰かの助けになりたいと言う者の、命を思う発言に山崎は小さく唸る。思った通りだと表情を険しくし、同時に魔物でさえも気遣う優しさに呆れも感じて。
話し始めて直ぐに車輪が音を鳴らして動き始めた。レイホースが歩き出した為である。それは山崎の手が促した為。それは意図的な操作であった。歩きながらでも済ませられると言うやや強引な考えと、立ち止まったままでは埒が明かないと言う考えが過ぎった為に。
レイホースが歩き出した為、ガリードとシャオも続いて歩き出す。文句を口にする事無く、怪しく佇む森の中へ、爽やかな風が吸い込まれる内部へと。
「まぁ、そうだよな。後味は悪くなっちまうし、面倒だしよ。俺だって遭遇したくねぇよ。って、あれ?グレディルだっけか?あの時は手伝ってくれたよな?」
同意するガリードだが、同調する理由が異なる事は全く気付いていない。また、同意する彼は暢気なもので、シャオの悩みを掴みかねていた。
「あの時は・・・皆さんの命の危険があり、已む無かったからです。流石に私も、死にたくは、ありませんから。でも、今回は違います。無理に命を奪う事はしなくても良いと思います」
命を奪う行為に彼は嫌悪感を抱く。あのグレディルの一件でも抵抗感があったと、今更ながら語る。その上で今回、もしもの時を考えて彼は憂いていた。
その告白を受け、ガリードは困った表情を浮かべて山崎を見やる。その山崎は顔を険しくさせて小さく浅い溜息を吐いた。やや辟易とした、その溜息から感情が見え隠れする。
「・・・俺も、好き好んでしている訳じゃない。だが、襲われたなら如何すれば良い?降り掛かる火の粉は払う、とは言いたくないが生きる為だ。逃げられないなら、逃げないのなら・・・奪うしか、ないだろう」
「・・・そうなるよな」
彼等とて、好きで命を奪っている訳ではない。生きる為には斃し、仕事の為に狩猟する事がある。総じて、生きる為であり、悪戯に命を奪った事はなく、それを願った事も無かった。
「それでも、何か方法が・・・」
「あるなら、そうしたい。だが、それを知らないから、そうするしかないんだ」
思い悩むレインの意見を、バッサリと切り捨てるように断言する山崎。生きる為に何でも策を講じる訳ではないが、弁える、切り捨てなければならない事もあると言いたげに発する。それにシャオは苦しく黙り込んでしまう。
「命は掛け替えのないもの、それは分かっている、十分に。だが、鵜呑みにして自分の身を危険に曝せないし、襲われる仲間の命も大事だ。だから、絶対に奪わない事は出来ない。正当防衛か、必要以上に奪ない事しか、俺には出来ない」
シャオが悩む気持ちも理解する。一つでも多くの命を救う道を模索する、それは決して間違いではない。だが、その理想が全て実現される訳ではない。何かを求める時、何かを捨てなければならない。その合理性を理解しろと言いたげに、山崎は語った。
無意識に三人は立ち止まった。レイホースもまた歩みを止め、鼻を鳴らしている。会話に少々熱が入った為である。
「でも・・・私は・・・」
シャオも山崎の気持ちも理解はしているだろう。だが、それでも魔物の命を心配する気持ちは消えない。反論しようとして思い浮かばずに。それは優しいとも言え、優柔不断とも言えて。
「俺は、山崎の気持ちも分かるし、シャオの気持ちも分かる。命は大切だ、そりゃあ小っちゃい頃から言われてきたし、そう思う。でも、襲われたらやらなきゃなんねぇし、襲われてんの見たら助けんのも普通だろ?どっちも取るってのは、難しいと思うぜ?」
ガリードが二人の間に入って仲裁する。思いのまま語った言葉が二人の胸に刺さる。どちらを得ようとするのは難しい、だから今回の話になると言うように。
「俺には如何して良いのか分からねぇけどよ、今は話し合ってる場合じゃねぇよな?こんな所で立ち止まっていると、大迷惑な魔物に集られちまうかも知れねぇし、行こうぜ?」
仲裁する彼は冷静になるように諭す。その言葉に二人は場の状況、森林地帯に居る事を再確認して気を静めていた。溜息が小さく響き渡る。
「その、通りだな。フェリスに向かわないと・・・」
決着は着いていないものの、論争出来る場所ではない。それを顧みて、手綱を引っ張って再び歩き出そうとする。そう思い立った直後であった。彼等の表情は険しくなる。瞬時に戦意がその顔に宿った。
「・・・来ちまったな」
嫌そうな顔で呟いたガリード。彼の懸念は即座に的中してしまい、彼等の前に魔物が現れた。異質の臭い、獲物と判断して嗅ぎ付けてきたのだろう、群れを為すのはローウス。鼻を動かしながら、唸り声を牙の隙間から零して歩む。警戒しながらも、戦意と食欲を漲らせている。
包囲されていない事を視認した山崎とガリードは静かに武器を抜く。戦闘は避けられないと察知し、返り討ちにする為に各々も戦意を漲らせる。
二人の姿に、シャオは小さく声を漏らす。言葉を噤んだ彼、伝えようとしたのは引き留める内容だろう。前に立ち塞がる行動も自粛していた。
「・・・気分悪いだろうが、我慢してくれ」
「そーだな。危ねぇし、下がっててくれよ、シャオ」
ローウスの群れを前にして二人の面は真剣そのもの。一糸の油断なく、立ち塞がる群れを睨んで。
「極力、命は・・・」
「逃げるなら、追わない。それぐらいしか出来ない」
シャオの懇願も虚しく、二人の気持ちは揺るがぬまま挑まんとしていた。
「ッ!」
直後、何かに気付いた山崎は踏み止まり、急速旋回する。突如の行動にガリードは戸惑いを示す。
「如何・・・」
「前を頼む!」
「応よ!!」
喝を入れられ、奮起したガリードは迷いを振り捨てて大剣を唸らせていく。その咆哮を背に、旋回した山崎の視界には、棒立ちのシャオと物陰から飛び出す複数の影が映っていた。
「シャオ、伏せろ!!」
「えっ?」
怒号の注意喚起で漸く彼も気付いていた。木陰から、茂みの影からローウスが飛び出している事を。
「ぐッ!」
先程までの警戒の中で伏兵を二人は感じ取れなかった。ならば新手、別の群れだろうか。どちらにせよ、間一髪で気付いた山崎が駆け付け、シャオへの強襲を阻止する。横へ薙ぎ払う一撃で、顔を両断して一体を仕留めていた。だが、対処し切れなかった。
咄嗟に後背へシャオを強引に引っ張り込み、大口を開けて襲い掛かる数体から庇う。続けて行った防御は間に合わず、肩に両顎が噛み付かれ、腹部には爪が突き立てられ、太腿も喰い付かれてしまう。重なる激痛に呻きが零される。
「や、山崎さん!」
獲物を狩る為の猛攻が降り注がれる様を、見ているしかないシャオが叫ぶ。
「・・・ぐっ、ガァッ!!」
身体の数ヶ所に走り抜ける激痛を振り切り、吼えると同時に全身に力を篭めて纏わり付くローウスを引き剥がす。強引に振り解く同時に、無防備となったローウスへ一撃を繰り出した。
素早い踏み込みと同時に斬り上げて急所を強打。鈍い骨折音を響かせ、血反吐が散らされる中、白鞘に付着していない血液を振り払うように別方向へ振るう。
迅速な重心移動を完了させ、強烈な一撃は体勢を戻そうとしたもう一体の頭部に叩き込まれる。眼球が飛び出すほどの威力は頭蓋を容易く砕き、地面へ強引に叩き付けた。
「・・・ふぅ」
痛みに顔を歪める山崎が一息を吐く。別の群れは直ぐにも返り討ちにし、事は済んだと緊張を解く。
「危ねぇ事すんな、お前は」
軽口を叩きながら山崎の肩を叩くのはガリード。その背後には死屍累々としたローウスの死体が転がされる。彼の実力も着実に積まれつつある事が窺えた。
それらを後景に、嫌がるレイホースの声が鳴らされた。視界を向ければ、死体に嫌がる姿を確認する。だが、その姿に負傷の一つもない、無傷である。
状況は変わらない事を理解し、一息吐く山崎は温もりを感じた。気付けば、仄かな光を放つ薄い膜に包まれており、幾多の水泡のような光も映る。彼の傍にはシャオが膝を曲げ、苦しい表情で念じていた。
「すみません、山崎さん。私を庇って怪我をさせてしまって・・・」
申し訳なさに謝罪の言葉を口にし、懸命に幾つの負傷を治そうと集中する。包む淡い光はその傷を少しずつ消し、痛みを癒していく。
「お前の言いたい事も分かる。だがな、全てが理想論で片付く訳がないんだ。誰かが血を流し、苦しんでいる事で、誰かが笑っていられる事もあるんだ。誰だって、手を汚したくないに決まっている。それでも、しなければならない時がある」
「命を、奪う事も?」
丁度、傷を癒し終え、包んでいた光は瞬きを失う。鮮明となる山崎の表情は悲痛に、悲しみに拉がれた面で面を下げていた。
「・・・ああ、魔物の命よりも自分、自分の命よりも大切な誰かの命を優先する・・・するしか、ない時もあるんだ」
「・・・はい」
清濁併せ呑む、ではないものの、目を瞑る、我慢しなければならない事もある。それを切に言い聞かせ、受けたシャオは静かに返答していた。
「さ~て、また来られても面倒だし、先を急ぐか」
シャオが考えを改めたかどうかはさて置き、長居は禁物と言うように、二度ある事は三度あるからとガリードが急かす。
「そうだな」
促され、その判断に同意した山崎の言葉を切欠に再出発される。遠くに避難していたレイホースを引き寄せ、フェリスに向けて歩き出していった。
先へ急ぐ二人、山崎とガリードの背を、レイホースの手綱を握って進む背中を眺めるシャオは難しい表情を続けていた。途中、足を止めて振り返っていた。
彼の眼前に広がる残酷な光景に胸を痛めて眉を顰める。手を合わせ、小さく黙祷を行っていた。悼むその胸に思いは犇めき続け、尽きぬまま、答えが出ないまま、二人の後を追っていった。
【3】
多少の戦闘を経た三人は馬車に追従したり、乗り込んだりして休みながら森林の中を突き進んでいった。
車輪の軋みによる異音は小さく、されど森林の彼方まで響き、レイホースの鼻を鳴らした音も時折追跡して。
切に鳴らされた足音は軽やかに、追走する会話は楽し気に弾まれる。それは話題を振るう者の性格に拠るだろう、そう能天気で陽気な者ならば。
実際は微妙な空気が流れていた。山崎とシャオが言い争ってから時間がそれほど経過していないのだ、無理もなく。それでも話を展開するのは気まずさを払拭する為、二人の仲を持たせようとしての事であった。
彼の努力のお陰であろう、息が詰まるような苦しさに見舞われる事無く、行路は順調に進まれた。三人の視界に目的地が入り込むほどに。
静かに佇む木造の建物は疎らに建ち、大部分は農業の為の畑が耕される。低い茶色の柵に囲まれたその地には長閑に小川が横断する。その新鮮な水は畑で育てられる作物を瑞々しく、美味しそうに育む。何処かの建物では家畜が飼育され、その鳴き声が響いていた。
其処はフェリス、恵みの村と言う別称を持ち、それに準じた長閑な村が川と緑の潺に寄り添うように存在していた。
「よっし!着いた!!久し振りのフェリスに到着だ!!」
誰よりも早く気持ちを、歓喜を示したのはガリード。続いて長い溜息を吐いて運転席から降りる山崎、冷静に見えて安堵を見せる。シャオは調子が戻り、ニコニコと知らぬ地に期待を浮かべている様子。
「此処が恵みの村の渾名がある、フェリスと言う村だ。農業を営む場所で長閑で過ごし易い場所だな。前にも来た事はあるが、それ以前に来た覚えはあるか?」
早速山崎が問い掛けるのだが、当人は笑顔を崩さぬまま首を横に振るう。
「すみません、覚えはありません。あの時に来て、長閑で良い人達が沢山居る、とても良い場所と言う記憶はありますが」
笑みのまま否定した彼だが、好みに合う場所だったのか、綻ばせる表情は実に穏やかに嬉しそうに。
「そうか、それは残念だな。いや、中を見て回れば分かるか?」
「だな、見て回ったら思い出すかも知れねぇし、誰かに聞いたら分かるかも知れねぇしな」
少々焦ったと反省する山崎にガリードは同調し、先に村の中へと入っていく。その背に続いて山崎もレイホースを率い、最後尾にシャオが続いていった。
恵みの村は長閑な日常が広がっていた。時折、魔物が侵入するであろう其処でも、普段は時間の流れが遅くなってしまったかのように穏やかであった。
備えられた道を行くは村人、それも老人ばかり。穏やかな表情を浮かべてゆっくりと歩む。処に農具を扱う姿も確認出来た。
動体の少ない光景を眺めながら歩き出せば自ずと畑を横切る事となる。豊潤に育てられた果実が並び、頭上が降り注ぐ陽を浴びて輝かしく鈴生る。僅かに漂う香りが、視覚含めて美味を訴え掛けるよう。
進み行けば、村を横断する小川の河川敷に着く。天端に植えられた樹木は風に揺れ、青々とした葉を茂らせる。さわさわと揺れ、涼やかに。
木々に囲まれた村の上空は薄い青色が広がる。快晴を際立たせる小さな白雲が流れる其処に変哲もなく。ただただ、枝葉の音色を響かせる日常が不変である事を知った。
手綱を引き、レイホースを連れて進む山崎はふと立ち止まる。当然、馬車は緩やかに停車し、傍で歩む二人も立ち止まる。怪訝に思う視線が注がれる中、山崎は周辺を見渡す。その動きに同調し、シャオもまた周囲を見渡して表情を和らげていた。
改めて眺め、抱く感想は長閑さによる安心感。魔物が生息する地帯にあり、稀に魔物が入り込むにも関わらず、外の喧騒と隔絶されたかのような安らげる空間となっている。時間の流れを忘れ、何時までも居たくなる安らぎを感じられる。余生を田舎で過ごしたい、その気分を充分に理解出来る空気が流れていた。
「如何した?急に周りを見てよ、何かあったのか?」
景色を眺めて思い耽る彼にガリードが心配の声を掛ける。別段、調子が悪くはなさそうだと確認しながら。
「いや、少し周囲に見惚れていただけだ」
「ああ~、確かに良い場所だよな、ここは。んでも、立ち止まってても仕方ねぇだろ?」
「分かっている、一先ず、あの宿屋に行くか」
「だな、あそこが安くつくもんな」
二人は行き先を統一させ、其処に向けて再度歩き出させる。その二人の後を追うシャオは実ににこやかにしていた。
「なんか、直ぐに戻って着ちまったなぁ」
村の中心からやや離れた場所、巨大な旅館風の宿屋の敷地内、正面の広い空間に馬車とレイホースを停める山崎を後方に、少々感慨深げに呟きながら見上げるガリード。その頭には此処を立ち去った時を思い出して。
「まぁ、離れているとは言え、一日の距離で来れるからな」
馬具を外し、その場所に座り込むレイホースの首筋を撫でながら答える。
「此処って、この間訪れた宿屋ですよね?」
「そうだな、少々面倒だが、懇意にしてくれているからな。特にガリードの料理を求められているが、その分、安く済むからな」
「美味そうに食ってくれるからな、冥利に尽きる?だっけか?まぁ、嬉しいし、一石二鳥だな!」
満足気な表情のガリードを先頭に、一行は宿屋に向かっていく。
「もしかして、この間、掃除や料理を作っていたのはその為だったのですか?」
「その通りだ。此処に滞在する間、シャオも出来る範囲で手伝ってくれたら有り難い」
「分かりました!」
役に立てる、又は役に立つと言う意欲を掻き立てて彼は元気の良い返事を行う。その会話の中でガリードが正面扉に手を掛ける。
「それと、こないだは遭遇しなかったが・・・」
「何かあるのですか?」
苦い表情で言い淀まれ、怪訝に思わない筈がない。それを問うた時、扉が開かれた。
「驚く光景に出会っちまうかもな。初めて来た時なんて・・・がっ!?」
同様の表情を浮かべるガリードが説明した矢先であった。前を見た彼は絶句した後、その場に卒倒してしまった。あまりにも突然の出来事にシャオは驚き戸惑う。山崎は前方を見て、額を抑えて呆れを示した。
「ど、如何なさったのですか!?」
直ぐにもシャオが状態を確認、顔を真っ赤にして鼻血を垂らす様子を前にして直ぐに治療を始める。
「その阿呆については大丈夫だ、免疫が薄れていただけだ。単なる興奮だ」
「で、でも、鼻血が・・・」
溜息交じりの説明に納得の出来ないシャオは心配そうに見上げる。その傍、哀れなガリードが光に包まれて直されていく。
ガリードが即答した原因は正面に立っていた。部屋を移る為の廊下が直ぐ正面に設計される。其処へ、一人の女性が歩いていたのだ。此処を経営する気怠く、ズボラを第一印象に与える女店主である。その彼女が眠たそうな表情で足を止め、三人を眺めていた。
「・・・如何したの?そんな所で。何か、用なの?・・・ああ、泊まる積もりか」
疑念に自己解決する彼女は寝起きなのか、眠気は勿論、長髪をボサボサのままでだらしない。それ以前に、彼を卒倒させる原因はその身にある。全裸であったのだ、一糸纏わず。
老若の関係なく、女性が裸体を平然と晒す。例え、客、異性を前にしても一切隠す素振りも見せない彼女に羞恥心は無く。興味がない、無関心ゆえの反応であった。
「・・・とりあえず、服を着たら如何だ?それと、また数日ぐらい泊まらせて貰いたいんだが」
呆れた山崎は冷静に指示する。前半の文に彼女は反応を見せなかったが、後半の頼みには頭が回転して納得した表情を浮かべた。
「別に構わない。また、色々としてくれるなら」
そう言い残すと、彼女はフラフラと廊下を渡っていく。入浴しに行ったか、或いは眠りに行ったのか。つくづくにマイペースな人物であった。
彼女の足音が聞こえなくなった所で、漸く時間が流れ出したかのように大きな溜息が吐き捨てられた。
「・・・まぁ、また遭遇するかも知れないが、それは頭に入れてくれたら有り難い」
呆れを強く宿した彼はガリードの腕を肩に回して起き上がらせる。まだ逆上せたまま、顔は赤く。
「・・・分かりました。裸に居たら風邪を引いてしまいますから、次から注意します」
シャオの観点はまた別の所で、彼女の体調を気遣っているよう。その分だと、ガリード同様に困る事は無いだろう。少々感性がずれている事を指摘せず、一先ずは部屋へとガリードを引き摺って向かっていった。
【4】
「ほら、出来たぜ!」
自慢の一品だと言いたげに、食卓に四つの大皿が置かれた。その皿の上には穀物を主とした料理が湯気を立たせて固められていた。
熱を吹くような高音で炒られた穀物は小麦色に輝き、野菜と香辛料の色を際立たせる。噛み締めと食べやすく刻まれた肉が鏤められ、様々な香りが混ざって食欲を誘う。それを一気に書き込めばどれほどに熱いだろうか。それに耐え、味わえば飽きず次を望む味に出会えるだろう。それは、彼の得意料理の一つであった。
その料理を最初に手を付け、頬張ったのは女主人。先程までの眠たそうな表情は感情乏しくとも明るいものへと変わって。その彼女はかなり砕けてだらしない服装、上下ともスエットのような格好だがちゃんと衣で身を包んで
居間と台所が一体化した部屋、その食卓を介して山崎とシャオも椅子に掛けて食事を摂る。彼等もガリードの食事に舌鼓を売っていた。
あれから気付いたガリードを交え、改めて宿泊したい意向を示すと、彼女は前回同様の要求をした。予想通りのそれに二人は了承し、シャオも手伝うとの意思を示した。それに、彼女は僅かばかり嬉しそうにした。そして、早速料理を要求され、それに答えていた次第であった。
食事も早々に済まされ、料理人ガリードがやや遅れて食事を摂る姿を後ろに、山崎は台所に向かって食器の山と対面していた。今回の料理で使われた食器を含め、およそ一週間以上の成果に溜息を零さずには居られず。それでも、やらない訳にも行かず、渋々と食器洗いに勤しみ始めた。
「今回の滞在は調査の為なんだ」
「調査?」
洗う片手間に本題に入るのだが、彼女はかなり興味なさげ。
「其処のシャオを知っているか?」
単刀直入な質問に流石の彼女も顔を顰める。僅かな反応だが疑問を色濃く映して。
「この間会ったから変な質問になっているが、シャオは記憶喪失していて自分の事すらも分からないんだ。この間発見された湿地地帯で発見されたんだが、それ以外の手掛かりが無いんだ。だから、このフェリスで聞いて回ろうかと思っているんだ。その手始めに聞いたんだ」
追加説明を施すのだが、彼女は難しい顔でシャオを睨み付ける。集中している様子に見え、その空間に介した山崎とガリードは淡く期待を持つ。
「・・・やっぱり、君は、何処か・・・女の子っぽいね」
そう、無関心さを多少緩めた彼女が呟く。その的外れな言動は二人の手を止めた。
「今はそんな・・・」
「そうか?女の子っぽいか?」
話を戻そうとする言葉を、ガリードが重ねるように疑問を呈した。確かに、美形であろう。中性的と言えばそう見えるだろう。女性ならではの感性なのかも知れない。だが、それが今注視する点ではない。
「だから・・・」
「私は、知らない」
きっぱりと吐き捨てられ、追及の言葉が堰き止められる。彼女の調子に、山崎の顔は少々険しくされて。
「なら、仕方ねぇな。皆に聞いて回るしかなさそうだな、山崎」
「・・・そうだな」
ガリードの気楽な声に助けられるように、息を吐く山崎は気持ちの昂りを抑えていた。
「・・・御飯ありがとう。次は・・・」
「風呂掃除だろ?分かってる」
空になった食器を渡しつつ、笑顔を見せ付ける彼は任された仕事に向かう。彼等の姿を見て、そわそわとするシャオ。彼には仕事を任されておらず、手持ち無沙汰に落ち着かず。
「ん?あっ、じゃあ、シャオに風呂掃除を任せて良いか?俺は薪を割ってくるからよ」
「分かりました!」
助け舟を出され、表情を明るくしたシャオは直ぐに浴室へ向かっていく。その後ろ姿を見て、女主人は一つ物耽り、その後に続いていった。
一連の行動に僅かに気に留めた山崎とガリードだが、食器洗いを続行し、薪割りの為に裏口の開扉音を響かせていた。
古風な浴槽を構えた浴室に着いたシャオは早速掃除せんと奮起して掃除道具を並べる。外から、薪を割る勢いと軽快な音が聞こえてくる中、彼はまず浴槽から取り掛かっていた。
真面目に熱心に掃除する姿を、追い駆けてきた女主人が入り口付近に立ってぼんやりと眺める。それは監視や指示の為にではなく、別の考えで眺めていた。
「ねぇ」
「はい、何ですか?」
作業の最中、彼女は呼び掛ける。その声に反応し、振り返ったシャオは笑顔に受け答えた。
「如何して、そんな、悲しい顔をしているの?」
唐突な質問にシャオは小さく動揺した。思いもしなかった質問を受け、途端に笑顔に影が差す。それは、数時間前、森の中での一件が原因である事は言うまでもない。表面上では変わらなくとも、内心ではずっと迷いが燻っていたのだ。それを的確に指摘した彼女は実は洞察力が高いのか、偶々気付いたのか。
「・・・その、山崎さんを怒らせて、迷惑を掛けてしまったのです。私の考えが至らなかった為に。だから、ずっと考えて、次に如何動けば良いのか考えているのですが、分からなくて・・・」
「ふ~ん」
手を止め、胸に巣食う迷いを語る。山崎の考えも彼の考えも、絶対に正しく、絶対に間違っている確証など無い。それぞれの考えがある。だが、状況によって左右する為、だからこそ迷う。折衷案を探そうにも、自身の考えの正しさを捨て切れず、そう簡単に変えられるものではないのだ。
その迷いを聞いた所で女主人は良い道を示す事はしない、出来る訳でもない。ただ、迷いを尋ね、聞いただけに過ぎない。それは深い考えがあった訳でもない、気になって尋ねただけであった。
表面化した迷いにシャオの顔から明るさは消えてしまう。そのまま作業を続けるのだが、どうしても動きは鈍って。
「そう、気にする事でもねぇんじゃねぇのか?」
不意に、ガリードの声がした。何時しか薪を割る音は止んでおり、外から見えぬよう設計された窓を見ればガリードが付近に立っていた。斧を片手に明るい表情で。
「そりゃよ、命は大事だってのは分かる。俺も死にたかねぇし、あっちだって死にたかねぇだろうよ。生きてんだもん、当たり前だろ。それを心配するのは正しいと思うぜ、俺は」
「ですよね?だから・・・」
「んでも、山崎の言葉も分かる。生きる為にやらなきゃならねぇ時だってある。前の世界でも、俺達は豚とか鳥の肉を食ってた。でも、それは他の誰かが、殺した後だ。忘れがち、だけどさ」
双方の意見の肯定に、シャオは黙り込んでしまう。理解出来るからこそ、それを否定するには難しい。益々迷いは募る。その気持ちを察するように、一息吐いたガリードが続け様に告げた。
「だから、俺達は、他の動物の命の上で生きてるって事を忘れねぇようにしたら良いんじゃねぇのか?その上で、気を付ける事は気を付けたら良いんじゃねぇの?なるべく、命を粗末にしねぇようにとか、誰かの迷惑をしねぇように方法を考えるとかさ」
それは言わば有り触れた答えであった。しかし、同時に重要な事でもあろう。それを改めて聞かされ、俯いていたシャオはゆっくりと面を上げる。少しずつ明るみが差して。
ガリードからしてみれば、考えたままそのまま伝えただけであろう。単純な思考が口にそのまま出ると言う事は、それが彼の考えに繋がると言う事。何も考えていないとも言えるが。
「ま!その辺は工夫次第だと思うけどな。何かの道具で追っ払うとか、仕方ねぇ時は供養するとかさ、じゃねぇと・・・良く分からなくなっちまった。兎に角、俺は気にしなくても良いと思うぜ?それか、迷うくらいなら、バシバシ意見するとか良いかもな。言い争ってたら、良い案が浮かぶかも知れねぇしさ!」
彼としては励ます積もりだったのだろう。だが、浅慮故、次が定まらず、いい加減な助言を残して立ち去ってしまった。
曖昧なまま話は切られ、再び薪を割る音が響く。外の音を耳にしたシャオは、一つの考えが定まったのだろう。ゆっくりと手を合わせて目を瞑った。僅かな迷走の後、再び掃除を行っていた。
一部始終を眺めていた女主人は小さく口辺を緩めた後、静かに立ち去っていった。
掃除に勤しむシャオの表情に迷いは見られない。まだ残っていたとしても、光明を得たかのようであった。
それから、気分が幾らか晴れたシャオと共に聞き取りに出向くのだが、何一つ、成果を得られる事は無かった。時間だけが無駄に過ぎ、再び宿屋に戻った彼等は話し合った。
フェリスでの聞き取りは終了し、沼地地帯での調査を待つ次第。ならば、セントガルドで深く聞き取る事が懸命であろう、それが最良だと決まっていた。そう、翌日、セントガルドに戻る事を余儀なくされていた。
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