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もう会えないと嘆き、それでも誰かと出会って
降り続く雨に濡れ、案じる足は彷徨って 前編
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【1】
静けさを保ち、清々と落ち着きながらも美しき景色を彩る銀世界。沈黙の中で広大に雪を降らせ行く地から離れる。
其処は雪は落ちず、さめざめとした雨が降り続く。悲しみを抱かせ、広げるようにしとしとと降雨が泥濘の地を包み込んでいた。
陽が遠くに沈み始めた時頃。蒼き髪を濡らし、雫を滴せる青年がその地を歩む。水を弾く素材で造られたコートをその身に纏い、道無き、泥濘で緩む大地を力強く踏み締めて進む。その彼の前に展開される寂しき沼地の光景。それを楽しむ事無く、険しき表情を浮かべて歩み続ける。
阻むように雨粒が降り注ぐ。緩やかでも小雨であっても視界は邪魔されてしまい、目に入る度に苛立ちが表情に現れる。だが、そんな事よりも胸に犇くのは焦燥感。探し続けている者の姿が見えない為、募り続けるそれに駆られて。
日を数えるほど探したとしても見付からない現実に、ひたすら歩んで視線を左右させ、怒りは蓄積されるのみ。その怒りは焦りで増幅し、足を若干取る地の泥濘に煽られる。顔は紅潮していないが、内では静かに怒り猛っていた。勿論、矛先は見付からない焦燥感を生ませ、胸の怒りを燻らせる、身勝手に行方を暗ました人物に対して。
「何処に行ってんだよ・・・手前ェは・・・心配、掛けさせやがって・・・」
文句が零れる。不満を零しながらもやはり不安を抱き、一瞬たりとも気を緩ませずに捜索する。
怒りを紛らわすように、時折深く長い息を雨間に吐き捨てる。白くならないそれは漂う間も無く降雨に掻き消える。息は震え、今すぐにでも叫びたい気分を抱えていよう。共に出る声は少々濁って。
降雨に滲む景色を睨む表情は時折切なさと不安を滲ませて。
その背後、接近する影が一つ。僅かに跳ねる水音、泥が落ちる音を鳴らす。それを呑み込む、ずるずると這いずるような音が雨音に紛れて接近していく。それは明らかに生命、長き体躯を有する生物が這い寄っていた。
恐怖を唆らせる音は止み、彼の死角でのっそりと体躯を持ち上げる。人の耳に届かぬ威嚇音を鳴らし、別れた舌先を震わせて巨大な口を開く。滑り気を纏ったその身は不気味さを前面に開け出して。
他の生物とは比べ物にならぬ長躯を有し、骨格と進展性のある皮からかなりの柔軟性を有する。縦に細い眼光を以って獲物を睨み、大きく切れ込んだ口は何もかもを飲み込めるほど開き、曲を描く二本の牙は鋭利に、驚異である液が垂れる。別れた末端を震わせる舌は自身の顔を舐められるほどに長く。
人の体躯、長さも径も遥かに超えた図体の表皮は、爬虫類と酷似する鱗に覆われる。艶やかな表面は降雨や泥を弾き、僅かな光沢は擬態の役割を持つ。
鋭き眼光からの睥睨は獲物を戦慄させ、身体の動きを麻痺させる。類似する生物の眼光とは比べものにもならないだろう。
そう、その生物は魔物であり、蛇と同様の姿をする。呼称はヒドラ、生半可な思いの者ならば負傷は必至と注意される存在として知られる。
死角から忍び寄ったその個体はやや小さめの体躯であり、まだ成体に至っていないと推察出来る。この魔物は成長過程で名称が変わり、成体はヤルクヒドラと言われて恐れられる。だが、幼くとも脅威には変わりなかった。
それもまだ存在に気付いていない様子の彼はただ周囲を見渡し、捜索の足を緩めない。
変わらず進む彼に音を潜めて接近、口を大きく開く。震わせる舌を抑えた直後、長躯を一瞬後方へ動かし、反発力を利用するように身体ごと突進した。大口でそのまま飲み込まんと。
「邪魔すんな、ゴラァッ!!」
牙が、口が覆い被さろうとした直前、感情任せの咆哮が響き渡った。同時に彼の身が旋回する。怒りの形相に変え、足を滑らし、振り返りながら踏み込み、背に携えた巨大な剣を抜く。抜きながら両手で握り、大きく振り上げていく。己の動きによる遠心力、剣の重みと腕力を合わせて力任せに振り抜いた。
宛ら、白球を振り抜く為のフルスイング。力任せに振り抜いた剣は途中で片手で握った彼を振るう。体勢が崩れて小さくよろめいた彼の視線は、見事に分断され、宙に刎ねられた長き頭部が舞っていた。
鮮血が僅かに散る。二つの切断面から零れたそれは小さな血の雨となり、周囲を汚す。それを気取らせる前に、頭部と頭を失った身体は動きのまま地面へ落ちた。頭部はそのまま泥に塗れ、脳を失った身体はそれでも暫くのた打ち回った。まだ生きている様に思わせ、ただの痙攣であった事を示すように静かになっていく。
身体が流れ出す血が周辺を汚す。赤く、黒く汚し、既にあった水溜まりと雨で少しずつ攪拌されていく。僅かに付着した返り血、剣に付着した血も雨で洗い流されていった。
激情のままに怒号した彼、早くにヒドラの存在に気付いており、一撃を以って屠ってみせた。急いでいる為、相手にしたくなかった。けれど、避けられない事に怒りが沸点を越え、行動に移った次第である。
あまりの怒りに勢い余った大剣は地面に放り出されるように振られ、泥水を飛び散らせて刺さる。途中で右腕を放し、集中した負荷に因って左手に痛みが走る。けれど、彼はそれを全く気に留めておらず、僅かに切らした息を整えていた。
依然、左腕の痛みを気に留めないまま、顔に付着した血を手の甲で拭う。その顔を、柔らかな雨が優しく撫でるように落ちていく。
乱雑に、大雑把に襲ってきた魔物の打ち倒した彼は溜息を吐き捨て、ゆっくりと虚空を見上げた。曇天は不変、雨は細やかなままに。濃く、厚い雲間も流動の様子も見られず。
「・・・心配を掛けさせんなよ。俺やユウさん、色んな奴等によ・・・なぁ、山崎。俺を馬鹿にしている奴が、んな事をしてんじゃねぇよ・・・」
降雨に薄れる静寂を心配する言葉が一瞬裂き、再び雨音に包まれる。慣れた雨の感触の中、大剣を地面から引き抜いて背に戻す。装着した感覚を背と利き手で確りと確認し、横たわるヒドラの死骸を一瞥しながらも置き去りにしていく。
倒した後にもう一度眺めた地面の灰色の地平、霞み、何処までも続く彼方に不安と焦燥感だけが募る。思いに駆られ、少し早くなった足取りで彼は、ガリードは歩き出す。
逸るその彼は少し記憶を遡っていた。山崎、友人が失踪した事実を知ったのはユウに呼び出されたから。
【2】
「山崎が、居なくなった?仕事の途中で?勝手に?・・・なんの冗談スか?」
多くの人が暮らすセントガルド城下町。其処で活動するギルドの内の一つ、人と人を繋ぐ架け橋の拠点。閑散とした室内の奥、円形の広場を抜けた先、リア専用と言える個室にて、怪訝な表情と疑問の台詞が投げ掛けられた。
「・・・冗談なら、良かったのだけど、残念な事にそう言う報告が来たの。突然居なくなって、行方を暗ましたと報告が、ね」
疑問を呈するガリードに対し、落胆の色が見せる女性、ユウが答えていた。目元に薄らとクマが浮かび、疲労の色もまた薄く顔に映す。手には数枚の手紙、件の報告である事は言うまでもない。
疑った処で責任者代行としての彼女が嘘を告げる意味がない。それでも、耳を疑い、告げられた事を簡単に信じる事など出来ずに表情は険しくなる。
「・・・それって、本当なんスか?」
「疑いたくなるのも、無理ないけど、本当よ」
再度確かめたとしても覆らない。断言に歯噛み、苛立ちを面に出す。
「・・・あいつが、仕事をほっぽり出して何処かに行く訳がねぇ!何かあったに決まってんだ!探してんスよね?あいつを、山崎を探してんスよね!?」
介する机に乗り出し、必死な思いで問い掛ける。その胸には不安しか宿っていなかった。
問いに彼女は険しい表情を浮かべる。もう一度報告を確認し、小さく首を振った。
「居なくなった報告と、それに対する責任を問い掛けてきた事を、恨み節も交えて送ってきただけで捜索している、それの増援を望むような内容は書かれていないわ」
「それって、捜索してねぇって事っスか!?見捨てる気なのかよ!?」
「しているかも知れないけど・・・」
歯切れが悪く、断言出来ない彼女。文面には捜索の文字すらない。不確定だからこそ、期待をさせるような事は言えない。それがガリードを焦りを生んだ。
「・・・じゃあ、俺が捜してくるっス!」
「ま、待って!」
そう叫ぶように言い残し、振り返って駆け出す。行動は、思いは強く、少し遅ければ引き留める事など出来なかっただろう。それでも、
「もう、あいつしか・・・あいつしか、前の世界の思い出を共有出来る奴が居ねぇんだよッ!止めても俺は行くっスから!!」
抑止の言葉を振り切って彼は飛び出していった。
慌しく、騒々しく扉が閉ざされ、その閉扉音の余韻の中、ユウは難しい表情で見送り、再び報告の手紙に目を通していた。
「・・・そう、ね。そうよね」
その言葉は何の同意か。その胸に燻るのは彼に対する意識、抱えてはならない感情。理解しても、納得していても、如何してもそれを思って止まず。
だが、胸中を焦がす感情は少しだけ紛れていた。誰しも想う人が居る。喪ったからと、妬むように考えるのは悪い思考だと再確認して。
それでも胸は燻る。思って止まない。零す溜息が、その音色が少しだけ彼女の心を沈める。ふわりと欠伸を零す余裕を作った所で、報告の手紙を傍に、途中であった作業を再開するのであった。
静かに振り続ける雨、濡らされた地面は泥濘、景色は湿気と物悲しげな雰囲気に包まれる。静かな景色は曇天の彼方で落ち行く陽に拠って薄らと赤く、光を益々に失って薄暗さは濃くなる。
次第に陰鬱とし始める景色へ、レイホースに跨ってガリードは訪れていた。慣れぬ乗馬故か、落馬したであろう傷や汚れを身に、真剣な面持ちで手綱を握る。
走らせる彼が向かう先は友人が赴き、行方を暗ました村。正確な場所を知らず、尋ねた大まかな情報を頼りにして手綱を振るっていた。その思い無くとも道標は在り、迷う事無く其処へと辿り着く。
到着し、レイホースを返却している内に夕暮れから夜に入ったと思われる時間帯となる。雨が続く為、外には篝火は置けず、室内から漏れる火の光だけが外を仄かに照らすのみ。左右が分かり難い中、彼が目指すのはまず、宿屋である。
友人を探す為に急いだ身だが夜間の捜索は効率が悪く、最悪自分が迷う恐れがある。そんな本末転倒を避ける為、今は時間を置く事が優先される。その思いで道行く人に尋ね、唯一の其処へと足を運んでいた。
馴染み深い木造りの室内、温かみのある色合いの内装は火が灯されていながらも少々薄暗く。出迎える受付には転寝をする男性が一人。
「スイマセン、良いっスか?」
その男性へ何の抵抗もなく声を掛けて起こす。目を覚まし、大欠伸を行って合わせるのは初見の者を無意識にも威圧する強面。歳に因る皺も相まって常時立腹しているかのよう。
「おう、如何した?」
「ちょっと、聞きたい事があるんスけどね?最近、俺と同じ歳ぐらいの奴来なかったっすか?赤い髪で、黒い剣を持っている奴」
普段の彼なら少々物怖じしただろう。だが、大した反応を見せないのは心配が上回っている為。
「おん?ああ、来たな。此処に泊まっていたが・・・何だ?お前、あいつの知り合いなのか?」
「そうっスね。あいつのダチっス」
「ほぉ~・・・そうかいそうかい、お前のような明るい奴が友人とはな」
少々訝しむ店主である男性。底抜けて明るい為、その発言が少々疑わしく感じていたのだろうか。
「まぁ、良い。んで、泊まるんだろ?」
「そうっスね。泊まる・・・の前に、あいつって金払ってたんスか?荷物とかあるなら預かるっスけど・・・」
ふと彼は思った。もしかすると宿泊費を払ってないのではないかと。なら、払う義務があるのじゃないかと、げんなりした思いを抱く。
「大丈夫だな。何日分の代金を事前に払っていたし、荷物も放置していないしな。何なら、同じ部屋に泊まるか?」
「いや、別ので」
「そうか、そりゃそうか。じゃあ・・・」
即答に、愉快に笑った店主は傍らの小さな鍵棚から一つ取り出し、ガリードに手渡していた。
受け取った彼は直ぐにも対応する部屋へ向かい、明日の為に早々に睡眠に移る。ちなみに同じ部屋を断ったのは単なる気紛れ。
翌日、目覚めたガリードは勝手に台所を占拠し、食材を勝手に拝借し、店主に振る舞っていた。始めは文句を言われたが、料理の美味しさにお咎めなしとなっていた。
その後に彼は意気揚々と足を運ぶ。その場所は人と人を繋ぐ架け橋の支所である。
「すいません、山崎の事、知っている人居ないっスか?」
既に在った建物を再利用した其処は元は民家であったのだろう、職場にするには少々手狭であり、職員が居れば息苦しく感じる。資料を納める棚、書き物する為の机と椅子を置いただけでも間の通過が難しい程に。
その室内に続く正面扉を開けたと同時に彼は尋ね掛けていた。居る、居ない関係なく、無礼極まりない来訪挨拶である。
「何だ?お前、藪から棒に」
失礼な彼を出迎えるのは一人の男性。知らない他者を排斥するような厳しき目付きの彼は唯一居合わせた者。山積みの書類を片付けている時に慌しくガリードが入ってきた、こう言った流れである。
「俺は人と人を繋ぐ架け橋に所属しているガリードっス!んで、山崎は知らないっスか?」
「・・・ああ、お前、あいつの知り合いか?」
「はい、ダチっス。知っているんスか?」
「知るか。此処に来て仕事を任せてたら、突然居なくなった以外にな」
事情をある程度察してくれた事を喜び、畳み掛けるように尋ねるのだが冷たくあしらわれてしまう。
ガリードの表情は明るい微笑みから不満を抱いた顔となり、疑うように少し睨む。
「・・・何で、探しに行かねぇんスか?」
此処に足を運んだ理由、友人を探しているか否かを聞きたかったのだ。
「ああ?勝手に居なくなった奴を何で探さなきゃならないんだ。面倒ばっかり作るだけ作って、何処かに居なくなった奴を」
「・・・薄情じゃないんスか?それ」
「何だと?」
「同じ仲間っスよね?・・・確かに、あれはあいつは悪くねぇとは言えねぇけど、それでもあいつは真剣にレインさんを引き戻そうとしてそうしたんだ!あいつは死なせねぇようにしてたんだよ!!なのに、それを知らねぇで、分かってやらねぇで否定するのかよ!!そんな事で誰かを見捨てるような集団なのかよ、人と人を繋ぐ架け橋はッ!!」
ガリードの剣幕に少し怯む男性。友を想う一身を前に少し呆気に取られたのか。直ぐにも気を取り戻して口が開かれる。
「・・・好き勝手言ってくれるがな、探しに行く人手が足りていないんだ」
「人手?」
「ああ、人手は最小限だ。他にもやる事があるからな、村の修繕が第一だ。魔物に対する警備は交代する為の人数しか割り当てられていない。あいつが来て漸く余裕が出来ていた所だったんだ。なのに、捜索をする為に人手を割けば、その分、穴が出来ちまう。普段は魔物なんて来ないが、その時に限ってきたらどうする?防ぎ切れないは無くとも、事前に防げる被害が出るかも知れないんだ。だから、割く事なんで、出来ないんだよ」
その説明にガリードは黙り込む。苦手意識、或いは敵視していたとしても同じ職場の人間。探したいと言う思いはあっても、人を守る為の人員を割くような真似は出来ない。もしかすれば、あの報告には補充を示唆する文章も書かれていたのかも知れない。
「・・・俺だって嫌に決まってる。あいつはレインさんを喪わせた原因だ、それは譲れねぇ。それからも陰鬱とした様子で邪魔にしか感じなかった。それでも、死んで欲しいなんて思っていねぇよ!そんな事、誰が思うか!」
最初に向けられた疑いとしての回答であろう。感情を露わにし、少し詰め寄って断言させられた事でガリードは口を噤む。疑った事を悔やみ、謝罪の言葉の代わりに小さく頭を下げた。
部屋を一瞥した彼は他に誰も居ない事を確認する。他の者からも行先を聞きたかったのだがと残念そうに視線を落とし、振り返っていく。
「・・・お前、探しに行くのか?」
真実は如何であれ、大まかの事情を知ったガリードは振り返って支所を立ち去ろうとする。その様子を見て、察した男性は直ぐにも尋ねる。
「そう、っスね。友なんで」
「・・・どれぐらいの期間、居る積もりなのか知らないが、逐一戻って来い。顔見知り程度でも、次々と居なくなられたら、夢見が悪くなる」
決して彼は疎んでいない。恨みを感じてもそうして欲しいなど思っていない。抵抗はあろうと、やはり、居なくなっては欲しくないのだ。
「・・・分かりました」
本心を受けてガリードは小さく返事をする。少しでも案じてくれている事に嬉しさを感じ、表情を少しだけ和らげて支所を後にしていった。
【3】
そして今、居なくなった友人の心境を思い、少しでも慰められなかった事を悔やむガリードは雨地での歩みを緩めない。音は無く、幾多の波紋が広がり続ける、気が滅入りそうな光景。切なき色合いを前に、迷いと不安が滲んだ表情で進み続けて。
耳に届かないような雨音は重なり、肌を濡らす感触と共に彼に添う。ただ、寂しいだけの光景の中、ふと彼は足を止めた。止めても変わらず降雨はその面を濡らす。蓄積した雨は恰も涙を流しているかのよう。
足を止めたのはやはり、傷心した友人を慰められなかった後悔。友人と自負しながら辛い時に傍に居てやらなかった事への負い目。出会ってからの時間は短くとも親友でありたいと思い、それでもその役目を果たせなかった後悔に。
悔いは身体を重くする。それでも歩みは続く、重々しくとも。その足音はまるで胸を抉り、気持ちを駆り立てるように響いた。
「なぁ・・・何処に居んだよ。生きているよな?お前まで居なくなっちまったら、俺は・・・」
不安が口から漏れ出す。それは雨間に響き、雨音に消える事無く彼の耳に留まり続けていた。
景色が感情を増長させるのだろう、彼の脳裏には望まない結末が薄々と過ぎる。それを振り払うように視線を左右させる。その折り、気付く。
「・・・あれ、は?」
物耽り、景色と相応の面が少し和らぐ。それは前方の何かに気付き、それに気が削がれた為に。
雨で霞んだ中、視界に掠めた為に見間違いかと思われた。立ち止まって目を凝らせば、細やかな降雨の向こう、自然物とではない何かの群れを視認した。動かない事から建物や建造物のような何かであると思われた。
「・・・家?何かの建物か?」
発見すると気になるもの。歩み寄っていくと少しずつ正体が見え、そうだと少しづつ認識していく。
別の発見で先程までの思いは薄れ、自然と建物群へと意識は集中する。先の暗い思いは消え去っていた。
近付けば近付くほどに朧な輪郭は正され、細部まで鮮明に映り込む。やがて、それらは確かに建物であると認識した。
多くそれは民家と思しく、やや貧相なものばかり。建物間は疎らに、外見に統一性も無く建てられて余所余所しい雰囲気。一寸した集落か何かと推察しよう。けれど、何故存在しているのか、彼は知る由もない。
「やっぱ、村、か?何でこんな所に在るんだ?」
疑問を呟きながらも接近する足は止めない。興味は多少はあろうか。それよりも、其処に居るかも知れないと言う淡い期待が大きく。そんな期待を少しでも湧けば、自然と足は速度を上げていった。
期待を胸に、泥濘を進み行けば数分とその集落と思しき空間に到着する。近付く事に際して見渡せる其処はやはり寂れた印象が否めなかった。
情緒を乱す寂しい降雨、暗く澱んだ雨天と泥濘が覆う暗い土色に囲まれたその場所は陰鬱とした空気に包まれる。腐食しているのではないのかと思わせる建物ばかりが点在し、今にも崩れそうな様子に不安を感じずには居られない。
ほぼ全ての建物が補修され、痛々しい姿を晒す。補修箇所も雨に因る腐食が進み、心配、或いは嘆きたくもなる景色が作り上げられていた。
他に畑や畜産等の痕跡はなく、井戸から荷車のような物さえも見当たらない寂れ切った集落へガリードは踏み入る。少し期待が薄れた面で視線を左右させながら進む。
歩けば水溜まりを踏む音、立てられた雨音が木霊するように響いて消える。それほどに静かで、人気はおろか生物の息遣いさえも感じられない。当然、人の痕跡も無く、顔の不安の色は濃くなる。
此処には居ない、そんな否定的な考えが過ぎった。だが、それを脳内で否定する。少しの可能性があるならと、浮かぶ不安と共に降り注ぐ雨粒を振り払って足を動かした。
「居るかも知れねぇしな・・・」
それでも零れる不安の言葉を耳に、自身に一番近い建物から確認し始める。その最初、隔てる扉のノブに触れる。雨に濡れたそれは気温よりも冷たく冷え切っているように感じられた。
どの建物に足を運ぼうと人が居ない其処は静かで暗く沈む。雨が浸透して室内が水浸し、或いは何処かに穴が開いて外気に晒されていたり、冷えたかび臭さが仄かに感じたりと、思いは否定されるばかりであった。
また、新しい部屋を確認する度にガリードは警戒した。何かが、魔物が潜んでいる恐れもある為に。結局、それは徒労、思い過ごしに過ぎなかった。魔物はおろか人の痕跡も見付からなかった。
踏み入った建物内を隈なく探し続けた。一部屋一部屋、見逃しを許さないように丹念に探す。けれど、発見には至らず、時間だけが悪戯に過ぎていった。
もう既に傾いていた陽。終える頃には周囲は暗がりに落ち込み、探す彼の足は緩やかに失速した。
何も変わらぬまま時間は過ぎ、ガリードは周囲の薄暗さに気付く。元々暗い環境、光が失われるのも早い。もう既に集落を形作る建物達の輪郭が見え難くなるほど。
尚も探そうとする思いがあっても、粗方の建物を探し終えた彼はその足を止める。成果はなく、外へと捜索に踏み出そうとも迷う事は必至。肩を落とし、溜息を吐いて諦めるしかなかった。
骨折り損の草臥れ儲け、そう考えながら彼は野宿、この集落で夜を明かす事を選択する。そうなった時、思い浮かべたのはとある一軒家。其処に向けて足を運ぶ。
彼が其処を選んだのは捜索途中で暖炉を見付けたから。機能自体は確かめていないものの、もし焚けるのならば濡れた身を暖められるから。
加えて、建物自体がある程度の姿が保たれ、暖炉が設置された部屋の天井も無事であった。その為、雨風は凌げ、食事や睡眠もまともに出来る環境が残っていた。後は魔物に対する警戒を強めれば事足りる。なので、向かうのは当然であろう。
それでも、其処もまた劣化が激しく、玄関である扉の前には塞いでいた残骸が霧散する。入室に苦労させられたそれに躓きつつ、再度額をぶつけて悶えながら室内へ踏み入っていく。吹き晒した部屋を過ぎ、具合の悪い兆番の扉を引き開いた。
目的の部屋は隣同様に暗く、進み辛いもの。数時間前の記憶を頼りに、転倒しないように慎重に歩く。際に響く音は耳の奥に張り付くようで、恐怖を抱いた彼は柄を握って警戒しながら朧な輪郭を辿る。
「で、次の部屋、だった・・・ん?」
壁伝いに移動する彼は目に映った異変に眉を顰める。夜間、普通では有り得ぬもの、光を見付けた為に。それは扉の隙間、下部から正体不明の光が漏れていたのだ。その色は赤、考えられるに火の光。
一瞬巡ったのは魔物の存在。しかし、火を扱うとは到底思えなかった。少なくとも、彼の知識にはそんな個体は居ない。
警戒心を多少薄め、忍び歩きでその扉へ近付く。ゆっくりと扉を引けば、金属の小さな摩擦音を響く。一瞬どきりとしつつも開き、中の様子を確認した。
居間であろう、やや広き空間が存在する。家具であった残骸が散乱する。少しかび臭い空間、照らし出すのは暖炉、焚かれた火である。ある程度予測していたガリードだが、改めて困惑する。
「やっぱり火、だな。でも、付いてなかった筈だけどなぁ?」
部屋を暖めるそれに疑問を向ける。暗い空間では全幅の信頼を置けるそれを訝しみながらも、彼の足は暖炉へ進む。人もまた明かりに引き寄せられる性質があるのか。
それを灯したのは誰か、或いは何か。不思議がりつつも傍らに座り込む彼。単純と言うべきか、いや考えなさすぎると言えよう。警戒を解き、火で炙られた暖炉に手を翳し、雨で濡れた身体も暖めようとする。だが、火力は弱く、満足には至らず。
ならばと武器を傍に置き、周囲を見渡せば直ぐにも手段を発見する。
「お、薪。これを入れねぇとな」
誰かの好意、習慣としてあったであろう複数の薪をそのまま焚火へ投入する。湿気ているかも知れないと言う考えも無く、気分に合わせた量を入れる。誰かの所有物と言う考えも無く入れる手際は実に素早く。
丁度火に納まったそれは少しずつ火に包まれ、あっと言う間に糧とされて燃え盛った。力を宿して揺らめく様はまさしく生物。その火力に炙られ、少々怯んだ彼だが、それよりも暖を優先した。
「ほああああぁぁぁぁ・・・」
身を寄せば、じわじわと熱気が伝わる。到達したそれはとても心地良く感じ取れる。瞬間に口からだらしない声を漏らす。顔や手から熱せられ、濡れてやや冷えた身体も暖められて小さく身震いを起こすほど。
警戒も無く身を暖め、濡れた衣服を乾かせなくとも十分に休息した彼は思い出したかのように立ち上がった。身に纏う雨具を足元に乱暴に過ぎ捨てる。晒すのは普段から着込む防具。それすらも外し、火元に置く。
そうして、薄着となったガリード。シャツにも浸透し、袖には少し水が滴る。そうなれば身に張り付き、その感触が好まないのか裾を掴んで仰ぎ、気分を和らげて。
身軽となった彼は更に温もりを求めて暖炉に近寄って再び座る。直ぐに腰に装着するウェストバッグを取り外し、中身を探り出す。その最中であった。
「・・・!」
ワクワクとしていた表情が一気に険しく鋭くされる。陽気な思いから一変、戦闘時の真剣なものとなった。それは不審な音を捉えた為に。
反応したガリードは即座に剣を拾って立ち上がる。身の程の剣、その刀身を肩に乗せながら両手で握り、音が聞こえた方向へ凝視する。
すっかりと浸み込んだ習慣は元学生にとっては悲しくなるであろうか。学生生活が程遠く、もうあの頃には戻れないと知らしめるように。その事を、本人は気付けず。
光が届かない暗闇を睨み、音を潜めてゆっくりと歩む。その後方には壁が、別の部屋に続く扉が存在した。
静けさを保ち、清々と落ち着きながらも美しき景色を彩る銀世界。沈黙の中で広大に雪を降らせ行く地から離れる。
其処は雪は落ちず、さめざめとした雨が降り続く。悲しみを抱かせ、広げるようにしとしとと降雨が泥濘の地を包み込んでいた。
陽が遠くに沈み始めた時頃。蒼き髪を濡らし、雫を滴せる青年がその地を歩む。水を弾く素材で造られたコートをその身に纏い、道無き、泥濘で緩む大地を力強く踏み締めて進む。その彼の前に展開される寂しき沼地の光景。それを楽しむ事無く、険しき表情を浮かべて歩み続ける。
阻むように雨粒が降り注ぐ。緩やかでも小雨であっても視界は邪魔されてしまい、目に入る度に苛立ちが表情に現れる。だが、そんな事よりも胸に犇くのは焦燥感。探し続けている者の姿が見えない為、募り続けるそれに駆られて。
日を数えるほど探したとしても見付からない現実に、ひたすら歩んで視線を左右させ、怒りは蓄積されるのみ。その怒りは焦りで増幅し、足を若干取る地の泥濘に煽られる。顔は紅潮していないが、内では静かに怒り猛っていた。勿論、矛先は見付からない焦燥感を生ませ、胸の怒りを燻らせる、身勝手に行方を暗ました人物に対して。
「何処に行ってんだよ・・・手前ェは・・・心配、掛けさせやがって・・・」
文句が零れる。不満を零しながらもやはり不安を抱き、一瞬たりとも気を緩ませずに捜索する。
怒りを紛らわすように、時折深く長い息を雨間に吐き捨てる。白くならないそれは漂う間も無く降雨に掻き消える。息は震え、今すぐにでも叫びたい気分を抱えていよう。共に出る声は少々濁って。
降雨に滲む景色を睨む表情は時折切なさと不安を滲ませて。
その背後、接近する影が一つ。僅かに跳ねる水音、泥が落ちる音を鳴らす。それを呑み込む、ずるずると這いずるような音が雨音に紛れて接近していく。それは明らかに生命、長き体躯を有する生物が這い寄っていた。
恐怖を唆らせる音は止み、彼の死角でのっそりと体躯を持ち上げる。人の耳に届かぬ威嚇音を鳴らし、別れた舌先を震わせて巨大な口を開く。滑り気を纏ったその身は不気味さを前面に開け出して。
他の生物とは比べ物にならぬ長躯を有し、骨格と進展性のある皮からかなりの柔軟性を有する。縦に細い眼光を以って獲物を睨み、大きく切れ込んだ口は何もかもを飲み込めるほど開き、曲を描く二本の牙は鋭利に、驚異である液が垂れる。別れた末端を震わせる舌は自身の顔を舐められるほどに長く。
人の体躯、長さも径も遥かに超えた図体の表皮は、爬虫類と酷似する鱗に覆われる。艶やかな表面は降雨や泥を弾き、僅かな光沢は擬態の役割を持つ。
鋭き眼光からの睥睨は獲物を戦慄させ、身体の動きを麻痺させる。類似する生物の眼光とは比べものにもならないだろう。
そう、その生物は魔物であり、蛇と同様の姿をする。呼称はヒドラ、生半可な思いの者ならば負傷は必至と注意される存在として知られる。
死角から忍び寄ったその個体はやや小さめの体躯であり、まだ成体に至っていないと推察出来る。この魔物は成長過程で名称が変わり、成体はヤルクヒドラと言われて恐れられる。だが、幼くとも脅威には変わりなかった。
それもまだ存在に気付いていない様子の彼はただ周囲を見渡し、捜索の足を緩めない。
変わらず進む彼に音を潜めて接近、口を大きく開く。震わせる舌を抑えた直後、長躯を一瞬後方へ動かし、反発力を利用するように身体ごと突進した。大口でそのまま飲み込まんと。
「邪魔すんな、ゴラァッ!!」
牙が、口が覆い被さろうとした直前、感情任せの咆哮が響き渡った。同時に彼の身が旋回する。怒りの形相に変え、足を滑らし、振り返りながら踏み込み、背に携えた巨大な剣を抜く。抜きながら両手で握り、大きく振り上げていく。己の動きによる遠心力、剣の重みと腕力を合わせて力任せに振り抜いた。
宛ら、白球を振り抜く為のフルスイング。力任せに振り抜いた剣は途中で片手で握った彼を振るう。体勢が崩れて小さくよろめいた彼の視線は、見事に分断され、宙に刎ねられた長き頭部が舞っていた。
鮮血が僅かに散る。二つの切断面から零れたそれは小さな血の雨となり、周囲を汚す。それを気取らせる前に、頭部と頭を失った身体は動きのまま地面へ落ちた。頭部はそのまま泥に塗れ、脳を失った身体はそれでも暫くのた打ち回った。まだ生きている様に思わせ、ただの痙攣であった事を示すように静かになっていく。
身体が流れ出す血が周辺を汚す。赤く、黒く汚し、既にあった水溜まりと雨で少しずつ攪拌されていく。僅かに付着した返り血、剣に付着した血も雨で洗い流されていった。
激情のままに怒号した彼、早くにヒドラの存在に気付いており、一撃を以って屠ってみせた。急いでいる為、相手にしたくなかった。けれど、避けられない事に怒りが沸点を越え、行動に移った次第である。
あまりの怒りに勢い余った大剣は地面に放り出されるように振られ、泥水を飛び散らせて刺さる。途中で右腕を放し、集中した負荷に因って左手に痛みが走る。けれど、彼はそれを全く気に留めておらず、僅かに切らした息を整えていた。
依然、左腕の痛みを気に留めないまま、顔に付着した血を手の甲で拭う。その顔を、柔らかな雨が優しく撫でるように落ちていく。
乱雑に、大雑把に襲ってきた魔物の打ち倒した彼は溜息を吐き捨て、ゆっくりと虚空を見上げた。曇天は不変、雨は細やかなままに。濃く、厚い雲間も流動の様子も見られず。
「・・・心配を掛けさせんなよ。俺やユウさん、色んな奴等によ・・・なぁ、山崎。俺を馬鹿にしている奴が、んな事をしてんじゃねぇよ・・・」
降雨に薄れる静寂を心配する言葉が一瞬裂き、再び雨音に包まれる。慣れた雨の感触の中、大剣を地面から引き抜いて背に戻す。装着した感覚を背と利き手で確りと確認し、横たわるヒドラの死骸を一瞥しながらも置き去りにしていく。
倒した後にもう一度眺めた地面の灰色の地平、霞み、何処までも続く彼方に不安と焦燥感だけが募る。思いに駆られ、少し早くなった足取りで彼は、ガリードは歩き出す。
逸るその彼は少し記憶を遡っていた。山崎、友人が失踪した事実を知ったのはユウに呼び出されたから。
【2】
「山崎が、居なくなった?仕事の途中で?勝手に?・・・なんの冗談スか?」
多くの人が暮らすセントガルド城下町。其処で活動するギルドの内の一つ、人と人を繋ぐ架け橋の拠点。閑散とした室内の奥、円形の広場を抜けた先、リア専用と言える個室にて、怪訝な表情と疑問の台詞が投げ掛けられた。
「・・・冗談なら、良かったのだけど、残念な事にそう言う報告が来たの。突然居なくなって、行方を暗ましたと報告が、ね」
疑問を呈するガリードに対し、落胆の色が見せる女性、ユウが答えていた。目元に薄らとクマが浮かび、疲労の色もまた薄く顔に映す。手には数枚の手紙、件の報告である事は言うまでもない。
疑った処で責任者代行としての彼女が嘘を告げる意味がない。それでも、耳を疑い、告げられた事を簡単に信じる事など出来ずに表情は険しくなる。
「・・・それって、本当なんスか?」
「疑いたくなるのも、無理ないけど、本当よ」
再度確かめたとしても覆らない。断言に歯噛み、苛立ちを面に出す。
「・・・あいつが、仕事をほっぽり出して何処かに行く訳がねぇ!何かあったに決まってんだ!探してんスよね?あいつを、山崎を探してんスよね!?」
介する机に乗り出し、必死な思いで問い掛ける。その胸には不安しか宿っていなかった。
問いに彼女は険しい表情を浮かべる。もう一度報告を確認し、小さく首を振った。
「居なくなった報告と、それに対する責任を問い掛けてきた事を、恨み節も交えて送ってきただけで捜索している、それの増援を望むような内容は書かれていないわ」
「それって、捜索してねぇって事っスか!?見捨てる気なのかよ!?」
「しているかも知れないけど・・・」
歯切れが悪く、断言出来ない彼女。文面には捜索の文字すらない。不確定だからこそ、期待をさせるような事は言えない。それがガリードを焦りを生んだ。
「・・・じゃあ、俺が捜してくるっス!」
「ま、待って!」
そう叫ぶように言い残し、振り返って駆け出す。行動は、思いは強く、少し遅ければ引き留める事など出来なかっただろう。それでも、
「もう、あいつしか・・・あいつしか、前の世界の思い出を共有出来る奴が居ねぇんだよッ!止めても俺は行くっスから!!」
抑止の言葉を振り切って彼は飛び出していった。
慌しく、騒々しく扉が閉ざされ、その閉扉音の余韻の中、ユウは難しい表情で見送り、再び報告の手紙に目を通していた。
「・・・そう、ね。そうよね」
その言葉は何の同意か。その胸に燻るのは彼に対する意識、抱えてはならない感情。理解しても、納得していても、如何してもそれを思って止まず。
だが、胸中を焦がす感情は少しだけ紛れていた。誰しも想う人が居る。喪ったからと、妬むように考えるのは悪い思考だと再確認して。
それでも胸は燻る。思って止まない。零す溜息が、その音色が少しだけ彼女の心を沈める。ふわりと欠伸を零す余裕を作った所で、報告の手紙を傍に、途中であった作業を再開するのであった。
静かに振り続ける雨、濡らされた地面は泥濘、景色は湿気と物悲しげな雰囲気に包まれる。静かな景色は曇天の彼方で落ち行く陽に拠って薄らと赤く、光を益々に失って薄暗さは濃くなる。
次第に陰鬱とし始める景色へ、レイホースに跨ってガリードは訪れていた。慣れぬ乗馬故か、落馬したであろう傷や汚れを身に、真剣な面持ちで手綱を握る。
走らせる彼が向かう先は友人が赴き、行方を暗ました村。正確な場所を知らず、尋ねた大まかな情報を頼りにして手綱を振るっていた。その思い無くとも道標は在り、迷う事無く其処へと辿り着く。
到着し、レイホースを返却している内に夕暮れから夜に入ったと思われる時間帯となる。雨が続く為、外には篝火は置けず、室内から漏れる火の光だけが外を仄かに照らすのみ。左右が分かり難い中、彼が目指すのはまず、宿屋である。
友人を探す為に急いだ身だが夜間の捜索は効率が悪く、最悪自分が迷う恐れがある。そんな本末転倒を避ける為、今は時間を置く事が優先される。その思いで道行く人に尋ね、唯一の其処へと足を運んでいた。
馴染み深い木造りの室内、温かみのある色合いの内装は火が灯されていながらも少々薄暗く。出迎える受付には転寝をする男性が一人。
「スイマセン、良いっスか?」
その男性へ何の抵抗もなく声を掛けて起こす。目を覚まし、大欠伸を行って合わせるのは初見の者を無意識にも威圧する強面。歳に因る皺も相まって常時立腹しているかのよう。
「おう、如何した?」
「ちょっと、聞きたい事があるんスけどね?最近、俺と同じ歳ぐらいの奴来なかったっすか?赤い髪で、黒い剣を持っている奴」
普段の彼なら少々物怖じしただろう。だが、大した反応を見せないのは心配が上回っている為。
「おん?ああ、来たな。此処に泊まっていたが・・・何だ?お前、あいつの知り合いなのか?」
「そうっスね。あいつのダチっス」
「ほぉ~・・・そうかいそうかい、お前のような明るい奴が友人とはな」
少々訝しむ店主である男性。底抜けて明るい為、その発言が少々疑わしく感じていたのだろうか。
「まぁ、良い。んで、泊まるんだろ?」
「そうっスね。泊まる・・・の前に、あいつって金払ってたんスか?荷物とかあるなら預かるっスけど・・・」
ふと彼は思った。もしかすると宿泊費を払ってないのではないかと。なら、払う義務があるのじゃないかと、げんなりした思いを抱く。
「大丈夫だな。何日分の代金を事前に払っていたし、荷物も放置していないしな。何なら、同じ部屋に泊まるか?」
「いや、別ので」
「そうか、そりゃそうか。じゃあ・・・」
即答に、愉快に笑った店主は傍らの小さな鍵棚から一つ取り出し、ガリードに手渡していた。
受け取った彼は直ぐにも対応する部屋へ向かい、明日の為に早々に睡眠に移る。ちなみに同じ部屋を断ったのは単なる気紛れ。
翌日、目覚めたガリードは勝手に台所を占拠し、食材を勝手に拝借し、店主に振る舞っていた。始めは文句を言われたが、料理の美味しさにお咎めなしとなっていた。
その後に彼は意気揚々と足を運ぶ。その場所は人と人を繋ぐ架け橋の支所である。
「すいません、山崎の事、知っている人居ないっスか?」
既に在った建物を再利用した其処は元は民家であったのだろう、職場にするには少々手狭であり、職員が居れば息苦しく感じる。資料を納める棚、書き物する為の机と椅子を置いただけでも間の通過が難しい程に。
その室内に続く正面扉を開けたと同時に彼は尋ね掛けていた。居る、居ない関係なく、無礼極まりない来訪挨拶である。
「何だ?お前、藪から棒に」
失礼な彼を出迎えるのは一人の男性。知らない他者を排斥するような厳しき目付きの彼は唯一居合わせた者。山積みの書類を片付けている時に慌しくガリードが入ってきた、こう言った流れである。
「俺は人と人を繋ぐ架け橋に所属しているガリードっス!んで、山崎は知らないっスか?」
「・・・ああ、お前、あいつの知り合いか?」
「はい、ダチっス。知っているんスか?」
「知るか。此処に来て仕事を任せてたら、突然居なくなった以外にな」
事情をある程度察してくれた事を喜び、畳み掛けるように尋ねるのだが冷たくあしらわれてしまう。
ガリードの表情は明るい微笑みから不満を抱いた顔となり、疑うように少し睨む。
「・・・何で、探しに行かねぇんスか?」
此処に足を運んだ理由、友人を探しているか否かを聞きたかったのだ。
「ああ?勝手に居なくなった奴を何で探さなきゃならないんだ。面倒ばっかり作るだけ作って、何処かに居なくなった奴を」
「・・・薄情じゃないんスか?それ」
「何だと?」
「同じ仲間っスよね?・・・確かに、あれはあいつは悪くねぇとは言えねぇけど、それでもあいつは真剣にレインさんを引き戻そうとしてそうしたんだ!あいつは死なせねぇようにしてたんだよ!!なのに、それを知らねぇで、分かってやらねぇで否定するのかよ!!そんな事で誰かを見捨てるような集団なのかよ、人と人を繋ぐ架け橋はッ!!」
ガリードの剣幕に少し怯む男性。友を想う一身を前に少し呆気に取られたのか。直ぐにも気を取り戻して口が開かれる。
「・・・好き勝手言ってくれるがな、探しに行く人手が足りていないんだ」
「人手?」
「ああ、人手は最小限だ。他にもやる事があるからな、村の修繕が第一だ。魔物に対する警備は交代する為の人数しか割り当てられていない。あいつが来て漸く余裕が出来ていた所だったんだ。なのに、捜索をする為に人手を割けば、その分、穴が出来ちまう。普段は魔物なんて来ないが、その時に限ってきたらどうする?防ぎ切れないは無くとも、事前に防げる被害が出るかも知れないんだ。だから、割く事なんで、出来ないんだよ」
その説明にガリードは黙り込む。苦手意識、或いは敵視していたとしても同じ職場の人間。探したいと言う思いはあっても、人を守る為の人員を割くような真似は出来ない。もしかすれば、あの報告には補充を示唆する文章も書かれていたのかも知れない。
「・・・俺だって嫌に決まってる。あいつはレインさんを喪わせた原因だ、それは譲れねぇ。それからも陰鬱とした様子で邪魔にしか感じなかった。それでも、死んで欲しいなんて思っていねぇよ!そんな事、誰が思うか!」
最初に向けられた疑いとしての回答であろう。感情を露わにし、少し詰め寄って断言させられた事でガリードは口を噤む。疑った事を悔やみ、謝罪の言葉の代わりに小さく頭を下げた。
部屋を一瞥した彼は他に誰も居ない事を確認する。他の者からも行先を聞きたかったのだがと残念そうに視線を落とし、振り返っていく。
「・・・お前、探しに行くのか?」
真実は如何であれ、大まかの事情を知ったガリードは振り返って支所を立ち去ろうとする。その様子を見て、察した男性は直ぐにも尋ねる。
「そう、っスね。友なんで」
「・・・どれぐらいの期間、居る積もりなのか知らないが、逐一戻って来い。顔見知り程度でも、次々と居なくなられたら、夢見が悪くなる」
決して彼は疎んでいない。恨みを感じてもそうして欲しいなど思っていない。抵抗はあろうと、やはり、居なくなっては欲しくないのだ。
「・・・分かりました」
本心を受けてガリードは小さく返事をする。少しでも案じてくれている事に嬉しさを感じ、表情を少しだけ和らげて支所を後にしていった。
【3】
そして今、居なくなった友人の心境を思い、少しでも慰められなかった事を悔やむガリードは雨地での歩みを緩めない。音は無く、幾多の波紋が広がり続ける、気が滅入りそうな光景。切なき色合いを前に、迷いと不安が滲んだ表情で進み続けて。
耳に届かないような雨音は重なり、肌を濡らす感触と共に彼に添う。ただ、寂しいだけの光景の中、ふと彼は足を止めた。止めても変わらず降雨はその面を濡らす。蓄積した雨は恰も涙を流しているかのよう。
足を止めたのはやはり、傷心した友人を慰められなかった後悔。友人と自負しながら辛い時に傍に居てやらなかった事への負い目。出会ってからの時間は短くとも親友でありたいと思い、それでもその役目を果たせなかった後悔に。
悔いは身体を重くする。それでも歩みは続く、重々しくとも。その足音はまるで胸を抉り、気持ちを駆り立てるように響いた。
「なぁ・・・何処に居んだよ。生きているよな?お前まで居なくなっちまったら、俺は・・・」
不安が口から漏れ出す。それは雨間に響き、雨音に消える事無く彼の耳に留まり続けていた。
景色が感情を増長させるのだろう、彼の脳裏には望まない結末が薄々と過ぎる。それを振り払うように視線を左右させる。その折り、気付く。
「・・・あれ、は?」
物耽り、景色と相応の面が少し和らぐ。それは前方の何かに気付き、それに気が削がれた為に。
雨で霞んだ中、視界に掠めた為に見間違いかと思われた。立ち止まって目を凝らせば、細やかな降雨の向こう、自然物とではない何かの群れを視認した。動かない事から建物や建造物のような何かであると思われた。
「・・・家?何かの建物か?」
発見すると気になるもの。歩み寄っていくと少しずつ正体が見え、そうだと少しづつ認識していく。
別の発見で先程までの思いは薄れ、自然と建物群へと意識は集中する。先の暗い思いは消え去っていた。
近付けば近付くほどに朧な輪郭は正され、細部まで鮮明に映り込む。やがて、それらは確かに建物であると認識した。
多くそれは民家と思しく、やや貧相なものばかり。建物間は疎らに、外見に統一性も無く建てられて余所余所しい雰囲気。一寸した集落か何かと推察しよう。けれど、何故存在しているのか、彼は知る由もない。
「やっぱ、村、か?何でこんな所に在るんだ?」
疑問を呟きながらも接近する足は止めない。興味は多少はあろうか。それよりも、其処に居るかも知れないと言う淡い期待が大きく。そんな期待を少しでも湧けば、自然と足は速度を上げていった。
期待を胸に、泥濘を進み行けば数分とその集落と思しき空間に到着する。近付く事に際して見渡せる其処はやはり寂れた印象が否めなかった。
情緒を乱す寂しい降雨、暗く澱んだ雨天と泥濘が覆う暗い土色に囲まれたその場所は陰鬱とした空気に包まれる。腐食しているのではないのかと思わせる建物ばかりが点在し、今にも崩れそうな様子に不安を感じずには居られない。
ほぼ全ての建物が補修され、痛々しい姿を晒す。補修箇所も雨に因る腐食が進み、心配、或いは嘆きたくもなる景色が作り上げられていた。
他に畑や畜産等の痕跡はなく、井戸から荷車のような物さえも見当たらない寂れ切った集落へガリードは踏み入る。少し期待が薄れた面で視線を左右させながら進む。
歩けば水溜まりを踏む音、立てられた雨音が木霊するように響いて消える。それほどに静かで、人気はおろか生物の息遣いさえも感じられない。当然、人の痕跡も無く、顔の不安の色は濃くなる。
此処には居ない、そんな否定的な考えが過ぎった。だが、それを脳内で否定する。少しの可能性があるならと、浮かぶ不安と共に降り注ぐ雨粒を振り払って足を動かした。
「居るかも知れねぇしな・・・」
それでも零れる不安の言葉を耳に、自身に一番近い建物から確認し始める。その最初、隔てる扉のノブに触れる。雨に濡れたそれは気温よりも冷たく冷え切っているように感じられた。
どの建物に足を運ぼうと人が居ない其処は静かで暗く沈む。雨が浸透して室内が水浸し、或いは何処かに穴が開いて外気に晒されていたり、冷えたかび臭さが仄かに感じたりと、思いは否定されるばかりであった。
また、新しい部屋を確認する度にガリードは警戒した。何かが、魔物が潜んでいる恐れもある為に。結局、それは徒労、思い過ごしに過ぎなかった。魔物はおろか人の痕跡も見付からなかった。
踏み入った建物内を隈なく探し続けた。一部屋一部屋、見逃しを許さないように丹念に探す。けれど、発見には至らず、時間だけが悪戯に過ぎていった。
もう既に傾いていた陽。終える頃には周囲は暗がりに落ち込み、探す彼の足は緩やかに失速した。
何も変わらぬまま時間は過ぎ、ガリードは周囲の薄暗さに気付く。元々暗い環境、光が失われるのも早い。もう既に集落を形作る建物達の輪郭が見え難くなるほど。
尚も探そうとする思いがあっても、粗方の建物を探し終えた彼はその足を止める。成果はなく、外へと捜索に踏み出そうとも迷う事は必至。肩を落とし、溜息を吐いて諦めるしかなかった。
骨折り損の草臥れ儲け、そう考えながら彼は野宿、この集落で夜を明かす事を選択する。そうなった時、思い浮かべたのはとある一軒家。其処に向けて足を運ぶ。
彼が其処を選んだのは捜索途中で暖炉を見付けたから。機能自体は確かめていないものの、もし焚けるのならば濡れた身を暖められるから。
加えて、建物自体がある程度の姿が保たれ、暖炉が設置された部屋の天井も無事であった。その為、雨風は凌げ、食事や睡眠もまともに出来る環境が残っていた。後は魔物に対する警戒を強めれば事足りる。なので、向かうのは当然であろう。
それでも、其処もまた劣化が激しく、玄関である扉の前には塞いでいた残骸が霧散する。入室に苦労させられたそれに躓きつつ、再度額をぶつけて悶えながら室内へ踏み入っていく。吹き晒した部屋を過ぎ、具合の悪い兆番の扉を引き開いた。
目的の部屋は隣同様に暗く、進み辛いもの。数時間前の記憶を頼りに、転倒しないように慎重に歩く。際に響く音は耳の奥に張り付くようで、恐怖を抱いた彼は柄を握って警戒しながら朧な輪郭を辿る。
「で、次の部屋、だった・・・ん?」
壁伝いに移動する彼は目に映った異変に眉を顰める。夜間、普通では有り得ぬもの、光を見付けた為に。それは扉の隙間、下部から正体不明の光が漏れていたのだ。その色は赤、考えられるに火の光。
一瞬巡ったのは魔物の存在。しかし、火を扱うとは到底思えなかった。少なくとも、彼の知識にはそんな個体は居ない。
警戒心を多少薄め、忍び歩きでその扉へ近付く。ゆっくりと扉を引けば、金属の小さな摩擦音を響く。一瞬どきりとしつつも開き、中の様子を確認した。
居間であろう、やや広き空間が存在する。家具であった残骸が散乱する。少しかび臭い空間、照らし出すのは暖炉、焚かれた火である。ある程度予測していたガリードだが、改めて困惑する。
「やっぱり火、だな。でも、付いてなかった筈だけどなぁ?」
部屋を暖めるそれに疑問を向ける。暗い空間では全幅の信頼を置けるそれを訝しみながらも、彼の足は暖炉へ進む。人もまた明かりに引き寄せられる性質があるのか。
それを灯したのは誰か、或いは何か。不思議がりつつも傍らに座り込む彼。単純と言うべきか、いや考えなさすぎると言えよう。警戒を解き、火で炙られた暖炉に手を翳し、雨で濡れた身体も暖めようとする。だが、火力は弱く、満足には至らず。
ならばと武器を傍に置き、周囲を見渡せば直ぐにも手段を発見する。
「お、薪。これを入れねぇとな」
誰かの好意、習慣としてあったであろう複数の薪をそのまま焚火へ投入する。湿気ているかも知れないと言う考えも無く、気分に合わせた量を入れる。誰かの所有物と言う考えも無く入れる手際は実に素早く。
丁度火に納まったそれは少しずつ火に包まれ、あっと言う間に糧とされて燃え盛った。力を宿して揺らめく様はまさしく生物。その火力に炙られ、少々怯んだ彼だが、それよりも暖を優先した。
「ほああああぁぁぁぁ・・・」
身を寄せば、じわじわと熱気が伝わる。到達したそれはとても心地良く感じ取れる。瞬間に口からだらしない声を漏らす。顔や手から熱せられ、濡れてやや冷えた身体も暖められて小さく身震いを起こすほど。
警戒も無く身を暖め、濡れた衣服を乾かせなくとも十分に休息した彼は思い出したかのように立ち上がった。身に纏う雨具を足元に乱暴に過ぎ捨てる。晒すのは普段から着込む防具。それすらも外し、火元に置く。
そうして、薄着となったガリード。シャツにも浸透し、袖には少し水が滴る。そうなれば身に張り付き、その感触が好まないのか裾を掴んで仰ぎ、気分を和らげて。
身軽となった彼は更に温もりを求めて暖炉に近寄って再び座る。直ぐに腰に装着するウェストバッグを取り外し、中身を探り出す。その最中であった。
「・・・!」
ワクワクとしていた表情が一気に険しく鋭くされる。陽気な思いから一変、戦闘時の真剣なものとなった。それは不審な音を捉えた為に。
反応したガリードは即座に剣を拾って立ち上がる。身の程の剣、その刀身を肩に乗せながら両手で握り、音が聞こえた方向へ凝視する。
すっかりと浸み込んだ習慣は元学生にとっては悲しくなるであろうか。学生生活が程遠く、もうあの頃には戻れないと知らしめるように。その事を、本人は気付けず。
光が届かない暗闇を睨み、音を潜めてゆっくりと歩む。その後方には壁が、別の部屋に続く扉が存在した。
0
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