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Ⅰ閉じ込められた箱庭
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「では、せめて爪を」
そう言ってフォルテが懐から取り出したのは、ナイフだった。それは彼らが人間界と呼ぶ奏人たちの世界のそれと酷似していた。それで爪を剥ぐのかと諦めに近い境地に足をかけた時、震えそうなほどの鋭い悪寒がした。
ソロだ。奏人に分かったくらいだ。フォルテに分からないはずがない。蒼白したフォルテの顔に、口が勝手に動いた。
「なんか滑るもん!」
咄嗟に口から出た台詞は、不本意ながら己の首を絞めるものでしかない。
高校入学後にクラスメイトら悪ノリして、面白半分に無理矢理見せてきた男同士のAV動画。ウンザリする中、彼らは笑いながら男同士がどうやるのか要らぬ知識を教示してくれた。男子校ならではの冗談だ。まさかこんな場面でそれが役立つとは思わなかった。
何にせよ、自分のせいで誰かが消されるよりはマシだ。
奏人は大きく、息を吐く。こんなに重いため息をついたのは、久しぶりな気がする。
「……起きる」
覚悟を決めて、ソロに告げた。するとソロは足から両手を放し、フォルテにも手を放すよう命令する。体を起こしてソロと改めて向き直り、羞恥心と悲壮感を滲ませつつ腹を括った。
フォルテを見る。忌々しげな視線が真っ直ぐにこちらを射抜いてきて、奏人は内心小さく苦笑した。逆の立場だったら、自分もこういう顔をしていたのだろうか。浮かび上がった疑問の答えを見つけることはしないが、これは己のエゴだと理解してソロに言った。
フォルテを下がらせてほしい、と。
案の定、殺意を湧かせてフォルテが睨んでくる。けれど、どんなに憎まれようと奏人は目の前で誰かが傷つくのを見たくない。人が死ぬのを目の当たりにするなど、以ての外だ。
「ソロ様、万が一この人間が爪を使うような事態になった時、この体を使ってお守りすることができません。どうか、代わりに死する栄誉をわたくしからお奪いにならないでください」
必死な形相で言い募るフォルテに、彼らにとってソロがどういう存在なのか垣間見た気がした。ソロのためになることが、彼らの存在意義なのだろう。こういう生き方もあるのかと、奏人は睫毛を伏せた。だが、それはそれ。繰り返すようにして、これは己のエゴなのだと言い聞かせる。
「ソロ、これ剥いで」
彼は、こんなところで命を散らす必要はない。もっと他の、何か大切な時にでも取っておくべきだ。両手をソロに差し出す。
「心配は、コレだろ? 剥いでいいよ」
本心だった。別に痛いのが好きなわけではない。自己犠牲の精神なんてどうでもいい。可能だから、言った。
「貴様……」
信じられないといった表情で、フォルテが奏人を見る。苛立ちを滲ませたため息をついたのは、後ろのソロだ。
「カナト、お前は本当に自分をないがしろにするのが好きだな。自己犠牲とは少し違う毛色なのか。私には一つも理解ができない」
「理解なんてしなくていい。簡単なことだ。命の重さは、平等じゃないんだから」
奏人の台詞に、ソロがほんの僅かに目を瞠る。何をそんなに驚くのか。
特にこの世界において。今、この時において。己の命の価値など、ないに等しい。
楽しめなければ、飽きれば、アッサリと消される。まさしく、玩具と同等だ。飽きて捨てたところで捨てた側には何の罪悪感もない。むしろそうすることが当たり前であるから、罪悪感を抱く方がおかしい。
だがフォルテは違う。彼にはこの世界に立場がある。文字通り、立つ場所だ。奏人にはそれがない。ソロに掴まれていなければ、簡単に千尋ヶ底へ真っ逆さまだ。
ソロが仕草一つでフォルテを下がらせる。有無を言わせぬ迫力に、フォルテは辛そうにしながらも大浴場から去って行った。
「っ?」
グッ、と。ソロの利き手が、いきなり奏人の額を鷲掴む。己の頭の周りに見たこともない文字のような紋様が輪になって浮かび上がり、ゆっくり回転し始めた。何をされるのかと体を強張らせる中、ソロの手が一瞬青く発光する。眩しくて目を閉じると、急に体から力が抜けた。
「……なるほど」
眩暈にも似た感覚の中、ソロの手が離れる。ふらつく体を彼に抱き留められ、そっと横たえられた。
一体何をしたのか。尋ねたいけれど、それを口にする力がない。
体に、全くと言っていいほど力が入らなかった。ぐったりする奏人を、ソロが無表情で見下ろしてくる。何もかもを見透かすような、空色。何故だか、それを怖いと思った。嫌な目だと、心底思った。
「親は死んだか。オジサンとやらは、お前に随分優しかったようだ」
「ッ」
顔色を変える。瞠若したたままソロを見れば、今し方、彼に何をされたのかが分かった気がした。俄かには信じられないが、奏人は彼らの持つ不思議な力を何度も目にしている。おそらく、彼は見たのだ。奏人の頭の中を。その過去を。心は読めないと言っていたくせに、頭の中の記憶は読めるらしい。
悪態の一つでもついてやりたい気分だったが、息をするのも億劫なほど体が重い。そのせいか、段々どうでもよくなってきた。暴かれたところで面白味のないものだ。取り繕うような相手でもない。勝手に盗み見られたのは悔しいが、奏人に反抗する力はない。
ソロが奏人の膝に両手をかける。先程と同じような体勢を取らされ、このまま犯されるんだなと諦めにも似た心地で息を吐いた。聞こえてきたのは、水音。見ると、お湯が大きくうねりながら小さな球体となって宙に浮いている。
それが開かれた双丘の間に触れ、何をされるのか素早く察した。怖い。逃げたい。力が入らない。どうにもならない。
生温かいものが抵抗をものともせずに滑り込んでくる。液体が相手だ。どうやったところで、防ぎようがない。
ジュブジュブと淫猥な音を大きくかき鳴らしてお湯が直腸を蹂躙する。奏人は堪えきれずに、顔を背けた。
予想したような痛みは、ない。ないが、お湯は意志を持った生き物のように蠢き、強い嫌悪感をかき立てられた。圧迫感を伴ったそれは、単純に気持ちが悪かった。
「痛いか?」
「……気持ち、わる」
一つ首を横に振って、奏人は素直な言葉を口にする。脂汗が滲む頃、お湯は襞をすり抜けて体内から流れていった。気持ち悪さから解放され安堵したのも束の間、再びお湯が球体となってこちらに運ばれてくる。まだ続くのかときつく眉を顰めて、先程とは色が違うのに気が付いた。透明なはずのお湯が、何故か薄紅色をしている。
「な、に……それ」
嫌な予感しかしなくて、上擦った声で尋ねた。
「お前には、少し強いかもしれないな」
頬を撫でる長い手指。優しげな微笑が一層恐怖心を煽る。嫌だと首を振ってみたところで無駄だ。双丘の間へと、薄紅色の液体は滑り込んできた。押し割るようにして中へ入ってくるそれは、狭い直腸内を押し広げるようにして動き回る。
「……っ?」
途端、中のものが熱を帯びたように熱く感じられ、息を詰めた。かき鳴らす音にも変化があった。先程までとは違い、粘着質のそれへと変わっている。クチュクチュと淫靡な音が奏人の鼓膜を震わせ、羞恥心を大きく揺さぶられた。
何故だろう。どんどん、どんどん体が熱くなる。逆に、あれほど強かった嫌悪感は徐々に薄れていった。吐く息にも熱が籠り始め、ドロリ、薄紅色の液体が臀部を伝って流れ出た。上下する薄い胸板。ぼやけた視界の中でも、ソロだけはやけにクリアに見える。
「っ……ちょ、何、やだって!」
両膝が肩につくほど深く折られ、露わになった襞に口づけられた。薄紅色の液体の残滓を舐め取るように舌を這わせ、遠慮もなく襞を割り舌先が入ってくる。
これには大きく慌てる奏人であったが、だからと言って何かができるわけでもない。しっかりと体は固定されていて、全身を羞恥に染め上げるだけだ。
いくらお湯で中まで洗い流したとはいえ、そこはそういうことをしていい場所ではない。奏人は止めて欲しくてソロに訴え続けるが、舌の根元まで捻じ込まれて尖らせた舌先に内壁を突かれてしまう。
(っ)
小さく、奏人の内腿が震えた。ソロが何かを確認するように舌を抜き、長い指を一本挿入する。今度は違和感があるだけで、痛みはなかった。薄紅色の液体が効いているのか、何の抵抗もなく指が入ってくる。
(……なんか、変だ)
言い様のない違和感は確かにあるのに、ズクズクとした疼きのようなものが指の触れる部分から広がり下肢に集中していく。次第に呼吸が荒くなり、奏人は困惑の表情を浮かべてソロを見た。
「効いてきたか? さすがに粘膜は吸収が早いな」
「何、した……?」
「お湯に媚薬を混ぜただけだ。どうせ私しかいない。すぐに訳も分からなくなるから、存分に堪能するといい」
「ふ、ざけん、な……っ」
「何を怒る? お前も苦痛よりは快楽の方がいいだろう?」
「ち、が……爪、っ」
理性を失えば、いつ爪で引っ掻くか分からない。何をしてくれたのだと、奏人が息も絶え絶えにソロを睨みつける。爪で傷つけぬようにと両手を握り締めるが、これでどこまで防げるかは疑問だ。
喉をすり抜ける息が、ひどく熱い。
どこもかしも敏感に、感覚が研ぎ澄まされているような気分だ。事実、そうなっているのだろう。滲む汗が肌に纏わりついて、伝い流れる雫にすら下肢が反応し始めている。入っているソロの指を、無意識に内壁が締め付けた。腰が揺れそうになって、歯を食いしばってそれを耐えた。
「本当に、面白い」
何の起伏もない台詞が奏人へ届く前に、中の指を折り曲げられる。
「ヒっ、ぁあ……っ」
達したばかりの屹立が即座に芯を持ち、それをソロに咥えられる。思わず仰け反って、喘いだ。
ビリビリとした感覚が腰を中心に全身に広がり、しゃぶる音と中をかき回す音とが大きくなるにつれて、奏人の嬌声も甘い悲鳴のような音色に変化してゆく。
(何、これ……な、に……っ)
体験したことのない快感に、困惑が右往左往していた。明確な答えなど見つからぬまま新たな快感を植え付けられて、処理が追いつかない。ただただ、気持ちが良いということだけしか、奏人には分からなかった。
「この、少し盛り上がった部分が」
「あぁぁっ」
「悦いのか」
探るような指先は、しかし的確に奏人の快楽をついて弄ぶ。
指の腹で強く押し込まれる、浅い箇所にある性感帯。白い喉を反らして喘ぐ奏人に、ソロは目を細めながらコリコリと前立腺を愛撫し続けた。音もなく、潤んだ鈴口から白濁がわずかばかりに散る。
「カナト、勝手に出すな。出す時は私に言え」
「わ、か……な、ン……っ」
正直、今イったのかどうなのかも奏人には分からない。涙声でかぶりを振って訴えれば、ソロが仕方なさそうに臍の窪みを満たす白濁を啜り上げた。
「あ、ぁっ……ぁ、んっ」
同時に中を指で突き上げられて、鈴口からまた蜜が垂れ流れる。ソロはそれを竿の部分から上へと舌を使って舐め取り、濡れる亀頭へ紅い唇を開いた。
「ヒ、ぁ……ぅ、ぁ、……やぁっ」
いつの間にか指は二本に増やされ、奏人は痛みの一つも覚えぬままそれを受け入れる。それどころか、まるでソロの口腔内へ自ら捩じ込むようにして腰を振り、柔らかな粘膜に亀頭が触れると目の前がチカチカするくらいに感じた。圧倒的な快楽の前では、理性などいかに脆弱か。そう教え込まれるようで、ひどく恐ろしい。
怖いのに、その恐怖心すら甘く蕩けさせられる心地だった。
「ふ、ぁ……あ、ぅ……ンン」
美味そうに奏人のものをしゃぶるソロは、早く出せとばかりに根元から吸い上げる。若い牡は絶技の前に為す術なく、翻弄されるがまま、あっけなく吐精を許した。残滓すら舐め啜ろうとするソロに内壁がきつく締まり、奏人は余韻に浸る暇もなく三本目の指を挿入される。
弾力のある襞はソロの長い指を三本咥え込んだまま蠕動し、奥へ奥へと誘う仕草を繰り返した。立て続けにイカされ、肩で息をしながら奏人は汗を拭う。不意に走ったのは、痛み。重い利き腕を動かした途端、背に顔を歪めるほどの痛みが走った。どうしたものかと眉根を寄せる。
ザラザラとした石造りの上に、そのまま寝かされているのだ。背中が傷ついて当然である。だからといって、それを訴えたところで何になろう。擦れて赤くなっているのか、血が滲んでいるのか。今すぐうつ伏せになりたいが、自身の体が言うことをきかない。起き上がるどころか、汗を拭うのでやっとだ。
右側に痛みはない奏人が、左側から激痛が込み上げてくる。終わる頃には目も当てられぬほど背中は大惨事だろう。
(……ま、いいか)
そう言ってフォルテが懐から取り出したのは、ナイフだった。それは彼らが人間界と呼ぶ奏人たちの世界のそれと酷似していた。それで爪を剥ぐのかと諦めに近い境地に足をかけた時、震えそうなほどの鋭い悪寒がした。
ソロだ。奏人に分かったくらいだ。フォルテに分からないはずがない。蒼白したフォルテの顔に、口が勝手に動いた。
「なんか滑るもん!」
咄嗟に口から出た台詞は、不本意ながら己の首を絞めるものでしかない。
高校入学後にクラスメイトら悪ノリして、面白半分に無理矢理見せてきた男同士のAV動画。ウンザリする中、彼らは笑いながら男同士がどうやるのか要らぬ知識を教示してくれた。男子校ならではの冗談だ。まさかこんな場面でそれが役立つとは思わなかった。
何にせよ、自分のせいで誰かが消されるよりはマシだ。
奏人は大きく、息を吐く。こんなに重いため息をついたのは、久しぶりな気がする。
「……起きる」
覚悟を決めて、ソロに告げた。するとソロは足から両手を放し、フォルテにも手を放すよう命令する。体を起こしてソロと改めて向き直り、羞恥心と悲壮感を滲ませつつ腹を括った。
フォルテを見る。忌々しげな視線が真っ直ぐにこちらを射抜いてきて、奏人は内心小さく苦笑した。逆の立場だったら、自分もこういう顔をしていたのだろうか。浮かび上がった疑問の答えを見つけることはしないが、これは己のエゴだと理解してソロに言った。
フォルテを下がらせてほしい、と。
案の定、殺意を湧かせてフォルテが睨んでくる。けれど、どんなに憎まれようと奏人は目の前で誰かが傷つくのを見たくない。人が死ぬのを目の当たりにするなど、以ての外だ。
「ソロ様、万が一この人間が爪を使うような事態になった時、この体を使ってお守りすることができません。どうか、代わりに死する栄誉をわたくしからお奪いにならないでください」
必死な形相で言い募るフォルテに、彼らにとってソロがどういう存在なのか垣間見た気がした。ソロのためになることが、彼らの存在意義なのだろう。こういう生き方もあるのかと、奏人は睫毛を伏せた。だが、それはそれ。繰り返すようにして、これは己のエゴなのだと言い聞かせる。
「ソロ、これ剥いで」
彼は、こんなところで命を散らす必要はない。もっと他の、何か大切な時にでも取っておくべきだ。両手をソロに差し出す。
「心配は、コレだろ? 剥いでいいよ」
本心だった。別に痛いのが好きなわけではない。自己犠牲の精神なんてどうでもいい。可能だから、言った。
「貴様……」
信じられないといった表情で、フォルテが奏人を見る。苛立ちを滲ませたため息をついたのは、後ろのソロだ。
「カナト、お前は本当に自分をないがしろにするのが好きだな。自己犠牲とは少し違う毛色なのか。私には一つも理解ができない」
「理解なんてしなくていい。簡単なことだ。命の重さは、平等じゃないんだから」
奏人の台詞に、ソロがほんの僅かに目を瞠る。何をそんなに驚くのか。
特にこの世界において。今、この時において。己の命の価値など、ないに等しい。
楽しめなければ、飽きれば、アッサリと消される。まさしく、玩具と同等だ。飽きて捨てたところで捨てた側には何の罪悪感もない。むしろそうすることが当たり前であるから、罪悪感を抱く方がおかしい。
だがフォルテは違う。彼にはこの世界に立場がある。文字通り、立つ場所だ。奏人にはそれがない。ソロに掴まれていなければ、簡単に千尋ヶ底へ真っ逆さまだ。
ソロが仕草一つでフォルテを下がらせる。有無を言わせぬ迫力に、フォルテは辛そうにしながらも大浴場から去って行った。
「っ?」
グッ、と。ソロの利き手が、いきなり奏人の額を鷲掴む。己の頭の周りに見たこともない文字のような紋様が輪になって浮かび上がり、ゆっくり回転し始めた。何をされるのかと体を強張らせる中、ソロの手が一瞬青く発光する。眩しくて目を閉じると、急に体から力が抜けた。
「……なるほど」
眩暈にも似た感覚の中、ソロの手が離れる。ふらつく体を彼に抱き留められ、そっと横たえられた。
一体何をしたのか。尋ねたいけれど、それを口にする力がない。
体に、全くと言っていいほど力が入らなかった。ぐったりする奏人を、ソロが無表情で見下ろしてくる。何もかもを見透かすような、空色。何故だか、それを怖いと思った。嫌な目だと、心底思った。
「親は死んだか。オジサンとやらは、お前に随分優しかったようだ」
「ッ」
顔色を変える。瞠若したたままソロを見れば、今し方、彼に何をされたのかが分かった気がした。俄かには信じられないが、奏人は彼らの持つ不思議な力を何度も目にしている。おそらく、彼は見たのだ。奏人の頭の中を。その過去を。心は読めないと言っていたくせに、頭の中の記憶は読めるらしい。
悪態の一つでもついてやりたい気分だったが、息をするのも億劫なほど体が重い。そのせいか、段々どうでもよくなってきた。暴かれたところで面白味のないものだ。取り繕うような相手でもない。勝手に盗み見られたのは悔しいが、奏人に反抗する力はない。
ソロが奏人の膝に両手をかける。先程と同じような体勢を取らされ、このまま犯されるんだなと諦めにも似た心地で息を吐いた。聞こえてきたのは、水音。見ると、お湯が大きくうねりながら小さな球体となって宙に浮いている。
それが開かれた双丘の間に触れ、何をされるのか素早く察した。怖い。逃げたい。力が入らない。どうにもならない。
生温かいものが抵抗をものともせずに滑り込んでくる。液体が相手だ。どうやったところで、防ぎようがない。
ジュブジュブと淫猥な音を大きくかき鳴らしてお湯が直腸を蹂躙する。奏人は堪えきれずに、顔を背けた。
予想したような痛みは、ない。ないが、お湯は意志を持った生き物のように蠢き、強い嫌悪感をかき立てられた。圧迫感を伴ったそれは、単純に気持ちが悪かった。
「痛いか?」
「……気持ち、わる」
一つ首を横に振って、奏人は素直な言葉を口にする。脂汗が滲む頃、お湯は襞をすり抜けて体内から流れていった。気持ち悪さから解放され安堵したのも束の間、再びお湯が球体となってこちらに運ばれてくる。まだ続くのかときつく眉を顰めて、先程とは色が違うのに気が付いた。透明なはずのお湯が、何故か薄紅色をしている。
「な、に……それ」
嫌な予感しかしなくて、上擦った声で尋ねた。
「お前には、少し強いかもしれないな」
頬を撫でる長い手指。優しげな微笑が一層恐怖心を煽る。嫌だと首を振ってみたところで無駄だ。双丘の間へと、薄紅色の液体は滑り込んできた。押し割るようにして中へ入ってくるそれは、狭い直腸内を押し広げるようにして動き回る。
「……っ?」
途端、中のものが熱を帯びたように熱く感じられ、息を詰めた。かき鳴らす音にも変化があった。先程までとは違い、粘着質のそれへと変わっている。クチュクチュと淫靡な音が奏人の鼓膜を震わせ、羞恥心を大きく揺さぶられた。
何故だろう。どんどん、どんどん体が熱くなる。逆に、あれほど強かった嫌悪感は徐々に薄れていった。吐く息にも熱が籠り始め、ドロリ、薄紅色の液体が臀部を伝って流れ出た。上下する薄い胸板。ぼやけた視界の中でも、ソロだけはやけにクリアに見える。
「っ……ちょ、何、やだって!」
両膝が肩につくほど深く折られ、露わになった襞に口づけられた。薄紅色の液体の残滓を舐め取るように舌を這わせ、遠慮もなく襞を割り舌先が入ってくる。
これには大きく慌てる奏人であったが、だからと言って何かができるわけでもない。しっかりと体は固定されていて、全身を羞恥に染め上げるだけだ。
いくらお湯で中まで洗い流したとはいえ、そこはそういうことをしていい場所ではない。奏人は止めて欲しくてソロに訴え続けるが、舌の根元まで捻じ込まれて尖らせた舌先に内壁を突かれてしまう。
(っ)
小さく、奏人の内腿が震えた。ソロが何かを確認するように舌を抜き、長い指を一本挿入する。今度は違和感があるだけで、痛みはなかった。薄紅色の液体が効いているのか、何の抵抗もなく指が入ってくる。
(……なんか、変だ)
言い様のない違和感は確かにあるのに、ズクズクとした疼きのようなものが指の触れる部分から広がり下肢に集中していく。次第に呼吸が荒くなり、奏人は困惑の表情を浮かべてソロを見た。
「効いてきたか? さすがに粘膜は吸収が早いな」
「何、した……?」
「お湯に媚薬を混ぜただけだ。どうせ私しかいない。すぐに訳も分からなくなるから、存分に堪能するといい」
「ふ、ざけん、な……っ」
「何を怒る? お前も苦痛よりは快楽の方がいいだろう?」
「ち、が……爪、っ」
理性を失えば、いつ爪で引っ掻くか分からない。何をしてくれたのだと、奏人が息も絶え絶えにソロを睨みつける。爪で傷つけぬようにと両手を握り締めるが、これでどこまで防げるかは疑問だ。
喉をすり抜ける息が、ひどく熱い。
どこもかしも敏感に、感覚が研ぎ澄まされているような気分だ。事実、そうなっているのだろう。滲む汗が肌に纏わりついて、伝い流れる雫にすら下肢が反応し始めている。入っているソロの指を、無意識に内壁が締め付けた。腰が揺れそうになって、歯を食いしばってそれを耐えた。
「本当に、面白い」
何の起伏もない台詞が奏人へ届く前に、中の指を折り曲げられる。
「ヒっ、ぁあ……っ」
達したばかりの屹立が即座に芯を持ち、それをソロに咥えられる。思わず仰け反って、喘いだ。
ビリビリとした感覚が腰を中心に全身に広がり、しゃぶる音と中をかき回す音とが大きくなるにつれて、奏人の嬌声も甘い悲鳴のような音色に変化してゆく。
(何、これ……な、に……っ)
体験したことのない快感に、困惑が右往左往していた。明確な答えなど見つからぬまま新たな快感を植え付けられて、処理が追いつかない。ただただ、気持ちが良いということだけしか、奏人には分からなかった。
「この、少し盛り上がった部分が」
「あぁぁっ」
「悦いのか」
探るような指先は、しかし的確に奏人の快楽をついて弄ぶ。
指の腹で強く押し込まれる、浅い箇所にある性感帯。白い喉を反らして喘ぐ奏人に、ソロは目を細めながらコリコリと前立腺を愛撫し続けた。音もなく、潤んだ鈴口から白濁がわずかばかりに散る。
「カナト、勝手に出すな。出す時は私に言え」
「わ、か……な、ン……っ」
正直、今イったのかどうなのかも奏人には分からない。涙声でかぶりを振って訴えれば、ソロが仕方なさそうに臍の窪みを満たす白濁を啜り上げた。
「あ、ぁっ……ぁ、んっ」
同時に中を指で突き上げられて、鈴口からまた蜜が垂れ流れる。ソロはそれを竿の部分から上へと舌を使って舐め取り、濡れる亀頭へ紅い唇を開いた。
「ヒ、ぁ……ぅ、ぁ、……やぁっ」
いつの間にか指は二本に増やされ、奏人は痛みの一つも覚えぬままそれを受け入れる。それどころか、まるでソロの口腔内へ自ら捩じ込むようにして腰を振り、柔らかな粘膜に亀頭が触れると目の前がチカチカするくらいに感じた。圧倒的な快楽の前では、理性などいかに脆弱か。そう教え込まれるようで、ひどく恐ろしい。
怖いのに、その恐怖心すら甘く蕩けさせられる心地だった。
「ふ、ぁ……あ、ぅ……ンン」
美味そうに奏人のものをしゃぶるソロは、早く出せとばかりに根元から吸い上げる。若い牡は絶技の前に為す術なく、翻弄されるがまま、あっけなく吐精を許した。残滓すら舐め啜ろうとするソロに内壁がきつく締まり、奏人は余韻に浸る暇もなく三本目の指を挿入される。
弾力のある襞はソロの長い指を三本咥え込んだまま蠕動し、奥へ奥へと誘う仕草を繰り返した。立て続けにイカされ、肩で息をしながら奏人は汗を拭う。不意に走ったのは、痛み。重い利き腕を動かした途端、背に顔を歪めるほどの痛みが走った。どうしたものかと眉根を寄せる。
ザラザラとした石造りの上に、そのまま寝かされているのだ。背中が傷ついて当然である。だからといって、それを訴えたところで何になろう。擦れて赤くなっているのか、血が滲んでいるのか。今すぐうつ伏せになりたいが、自身の体が言うことをきかない。起き上がるどころか、汗を拭うのでやっとだ。
右側に痛みはない奏人が、左側から激痛が込み上げてくる。終わる頃には目も当てられぬほど背中は大惨事だろう。
(……ま、いいか)
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〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
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