Accarezzevole

秋村

文字の大きさ
15 / 67
Ⅰ閉じ込められた箱庭

閉じ込められた箱庭・完

しおりを挟む
 一際大きく、鼓動が鳴った。

「私の下でのみ喘ぎ」

 瞬くことさえ許されない、圧倒的な迫力。

「私の声だけに耳を傾け」

 鷲掴まれたのは、まさに心の臓。

「私以外を、その目に映すな」

 恫喝にも似た台詞が奏人を包む。

 奏人は息をするのも忘れて、ソロを見ていた。

 容赦のない力で顎を掴まれる。目を見開いたまま強引に口づけられて、ぬるりとした舌先が奏人のものに絡んだ。粟立つ肌は嫌悪感とはほど遠く、もはや口づけられただけで下肢が疼く。

「ンぅ、……ぁ」

 多少身を捩って抗いはしても、ソロにはなんの抵抗にもならない。体を押し返そうにも、万が一を考えて強くも出られなかった。まさか爪を剥がない理由がここにありはしないかと、勘ぐってしまう。そのくらいには、動きを封じられていた。

 息を継ぐためにわずかばかりにソロが唇を離す。キスの合間に結ばれる、最後の台詞。

「お前が囚われている、そのすべてを。この私に、塗り変えろ」

 指先が温かい。今度は一体何事かと見れば、爪に薄い膜のようなものがかかっていた。

 何をしたのか視線で問うが、彼は答えない。代わりに指先へ唇を寄せた。慌てて手を引っ込めるが、指先に唇が触れた感触を受けて青ざめる。

 けれど、彼は無事だ。唇は無傷。爛れるどころか、血も滲んでいない。何をしたのかは知らないが、ソロのことだ。最初から人間の爪をどうにかする術を持っており、いつでも発動できたのだろう。

 なんたること。所詮はこの男の手のひら。口惜しい。なのに、安堵も深い。

 ぼんやり自身の爪を眺めていた奏人だったが、不意に熱を宛がわれてハッとする。

「心おきなく私のものとなれ、カナト」





 ◆ ◆ ◆





「ま、待っ……て、嫌、いやだっ……もぅ、ぁ、あぁ、やぁっ」

 汗ばむ髪をかきあげて、嫣然と腰を揺らすソロ。

 奥を穿たれる度、苦痛をも貪る勢いで快楽が一気に駆け抜ける。

(イク、い、く……また、ぁ、また……っ)

 暴かれてしまった奏人の性感帯に、ソロが術をかけていた。スライムのように蠢く赤い液体を中に入れられ、それがほんのわずかに盛り上がっている箇所に張り付いている。

 仮称赤いスライムはソロの意思で前立腺を吸い上げ、微弱な電流を流し、激しく蠕動しては奏人を翻弄し続ける。

 これより厄介なのが、二つの青い球体だった。

 一つは奏人の亀頭に装着され、もう一つはソロの顔近くでプカプカと浮いている。

「これ、やだよ、取って、取って……っ」

「愛いことだ。またイク、のか?」

 イク、ことがどういうことなのかを先ほど学んだソロが、目を細めて青い球体を傍に寄せた。と同時に赤いスライムが前立腺を吸い上げ、小刻みに振動し始める。それだけなら、まだ良かった。極めつけは、この男の律動だ。

「あぁぁッッ、ぁ、ぁ、ぁっ、だめ、だめ、ぁ、やら……イ、く……ッそれ、イ……く、ンンぅ……っ」

 息を継ぐことさえ許さぬ激しい抽挿。仰け反った喉をすり抜ける、甘ったるい嬌声。ぐちゅぐちゅとかき鳴らされる淫猥な水音。気持ちが良いなんて、生易しいものではない。打ち付けられる腰とその圧倒的な質量を保つ熱棒に、骨盤が抜けるのではないかとそんな錯覚さえ覚える。

「っ、ッ……ッッ」

 息を詰め、下腹部が締まり、奏人は何度目か知れない絶頂を迎えた。青い球体が淡く輝き、もう一方の青い球体から薄い白濁が滴り落ちてくる。それをソロが舌先で受け止め、美味そうに嚥下した。

「薄くなってきたな。量も減ったか。カナト、……カナト?」

 トロン、と蕩けきった表情からは愉悦だけが浮かび、閉じることを忘れた唇の端に透明な蜜が滴っていた。

 呼びかけてくるソロの声は遠い。傍で苦笑する声と、頬を撫でられる感触。全身赤い鬱血だらけの白い肌に、またソロが唇を落とす。ツン、と尖った突起を吸われ鼻先から甘い吐息がすり抜けた。なおも動こうとするソロに、奏人の中で何かが切れた。タガが外れてしまったのを、冷静な部分が理解をする。

「も……出、なぃ……。や、だ……、や……だって、ぅ……ん、ぁ、っ」

 はらはら、はらはら、溢れて流れる生温かい雫。子供のようにしゃくり上げて泣き始めた奏人を、ソロが興味深そうな顔をして見下ろしている。

 こんなことで独尊的な男がやめてくれるはずもないのに、限界だった。勝手に涙が溢れてくる。いっそのこと意識を手放してしまえれば、どんなにいいだろう。

 散々奏人の体と体液を堪能していた舌先が、今度は奏人の涙を舐め取り眉根を寄せた。指を軽く振って青い球体が消えたかと思えば、ジンジンと疼いていた中の違和感が消える。どうやら、赤と青のスライム両方が消えらしい。これに体が弛緩した。安堵を胸に、眠気が舞い降りてくる。

「コラ、眠るな。まだ付き合ってもらうぞ」

 弱弱しく首を横に振るが、ソロは問答無用で覆い被さってきた。

「あと一度だけだ。そう怯えるな」

 軽く揺さぶられて、否応なく下肢が甘く疼く。奏人の意思に反してソロのものを締め付け、抽挿されるたびに男の味を覚えた内壁がいやらしく蠕動した。

 まさか自分が誰かと肌を重ねる日が来ようとは、世の中何が起こるか本当に分からない。

 抱える持病と、重度のストレスで発症した右半身の無痛症。薬の副作用でパンパンだった顔も、こちらでは元に戻り発作もない。

 こんなことは、養い親が死んでからは初めてのことだ。

 ブレスというソロの力の結晶を服用している限り、体の異常は起こらない。幸か不幸か、奏人の命は迫っていた刻限をあやふやにした。

 ソロの律動はいつまでも容赦がなく、底がない。いい加減にして欲しくて胸元を叩いても、更にグッと深い位置まで挿入されてしまった。その位置で奥を穿たれて、甘い悲鳴が散る。本当にもう動かないで欲しいのに、動かれるとたまらなく感じた。

(あ、つい……腹ン、中……ぁ)

 しばらくして、ようやくソロが動きを止め奏人を腕に抱いたまま息を詰める。

 人間とは違うから吐精したわけではなさそうだが、それでも腹の奥で放出される何かがあった。引き抜かれると同時にそれが臀部に伝い流れる。

 一体なんであるかを確かめることは叶わぬまま、奏人は顎を掴まれ吸われ過ぎてもはや赤い唇を舐められた。

 終わったのなら離れて欲しい。そう思って分厚い胸板を押し返す。視界に入った薄いピンク色の指先。誰かを傷つける可能性がなくなって嬉しいが、武器がゼロになってしまったことは不安でもある。

 それでも後悔はない。奏人にとっては、これが正解だ。

 その時だった。まさに不意のこと。ソロの片目を覆うように巻かれた黒布の結び目が解け、奏人の上に落ちてきた。忌々しそうに舌を打ち、布を巻きなおそうとしたソロへ奏人は触れる。腕は怠くてたまらなかったが、なんとなくもったいない気がした。他意などない。何故隠すのかにも興味などない。ただただ、素直にその一心。

「……もったいない」

 それだけ。
 
 閉じられた左目。布から解き放たれた、正真正銘美しい顔。

 ウトウト、半分意識を睡魔に持っていかれながら、奏人はただ素直に伝えた。しかし、目の前の男が鼻で笑う。冷たい声。冷たい視線。閉じかけた双眸を、強く掴まれた顎に痛みを感じて開いた。

「な、何?」

「無知は罪だぞ。それを知っておけ」

 そう告げて開いた左目。奏人は何度か目を瞬いて、真っ直ぐにその瞳を見つめた。

「もしかして目、見えてないの? 包帯代わりだった?」

「……何?」

 何故かひどく驚いた様子で、ソロが眉をひそめる。逆に奏人には何をそんなに驚いているのかが、サッパリ分からない。

「お前、見えているのか……? 何が見える」

「何って、目だよ。青い目。右とはちょっと色が違うけど。オッドアイっていうのだよね。それが?」

「……本当に見えているのか、私の目が」

「は? 当たり前じゃん」

 そこに目があるのだから。何を言っているのだろう。

 ソロは少し考え込んだ様子で、押し黙ってしまった。奏人はすっかり目が覚めてしまい、胸元に落ちた黒布を取った。こんなもので目を隠さねばならない理由が、その青い瞳にあるとは思えない。

 詳しく訊く気もないので、いそいそとソロの下から逃れ広いベッドの端に体を寝かせた。逃げ出したいが、この屋敷に逃げる場所などありはしない。体も相当疲弊している。とりあえず先のことは明日考えることにして、今は眠ることにした。

 柔らかな布団に潜り込んで体を丸め、欠伸をかみ殺す。遠ざかった睡魔を呼び寄せて、今度こそ眠ろうとする。が、そんな奏人をソロが強引に抱き寄せた。

「……眠いんだけど」

「己を恨むんだな。……少し、痛むぞ」

「え?」

 うなじに触れるソロの唇。低い声が何かを囁き、熱が生まれる。何事かと振り返りそうになったが、ソロに押さえ込まれて顔が動かない。

「ッッ?」

 一瞬の、鋭い痛み。体が竦み、脂汗が滲んだ。心臓がドクドクと早鐘を打ち、呼吸が浅くなる。微かに聞こえたのは、細い鎖の音。シャラシャラと何かへ巻き付くイメージが湧き、奏人は自身の体を見た。だが何もない。何もないが、とても嫌な予感がする。ソロが拘束を解いたため、彼を振り返って尋ねた。

「……何、した?」
「今は知らなくていい」
「でも」
「眠いのだろう?」

 眠れ、と部屋の明かりを指先一つで落とし、奏人を包み込む。うなじにキスするソロは、もう布を巻こうとはしなかった。

 誰かに抱き締められて眠るなんて、物心ついてからは一度もなく、妙にドキドキした。

 髪に触れるソロの吐息。一体何をしたいのか分からない男の腕は、とても温かい。

 変な男だと思う。他者の命をアッサリ削るくせに、奏人の命を救ったりする。面白いかどうかが指針のようだが、何故周囲はああも忠誠心が深く強いのだろう。こんな傍若無人な男、奏人であったなら絶対に上司にしたくない。律界の価値観と人間界の価値観には、大きな隔たりがありそうだ。

 それにしても眠い。もう駄目だ。あのことは明日。今はそれでいい。

 大きな欠伸をして、本格的に眠る体勢を取る。何がそんなに楽しいのか、やたら髪を撫でてくるソロの手。それが案外悪くない。

 自身の胸中に疑問を感じながら、奏人はいとも簡単に意識を手放した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

運命の番ってそんなに溺愛するもんなのぉーーー

白井由紀
BL
【BL作品】(20時30分毎日投稿) 金持ち‪社長・溺愛&執着 α‬ × 貧乏・平凡&不細工だと思い込んでいる、美形Ω 幼い頃から運命の番に憧れてきたΩのゆき。自覚はしていないが小柄で美形。 ある日、ゆきは夜の街を歩いていたら、ヤンキーに絡まれてしまう。だが、偶然通りかかった運命の番、怜央が助ける。 発情期中の怜央の優しさと溺愛で恋に落ちてしまうが、自己肯定感の低いゆきには、例え、運命の番でも身分差が大きすぎると離れてしまう 離れたあと、ゆきも怜央もお互いを思う気持ちは止められない……。 すれ違っていく2人は結ばれることができるのか…… 思い込みが激しいΩとΩを自分に依存させたいα‬の溺愛、身分差ストーリー ★ハッピーエンド作品です ※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏 ※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m ※フィクション作品です ※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです

まおうさまは勇者が怖くて仕方がない

黒弧 追兎
BL
百年前に現れた魔王によって侵攻が行われたアルキドセ王国。 国土の半分を魔物の支配下とされてしまったアルキドセ王国の国王はやむなく、国土を分断した。 ------------- 百年後、魔王の座は孫へと譲られていた。 「あー、だる……座り心地悪すぎだろ、」 しかし、譲られた孫であるセーレに魔王の素質はなく、百年間城にも攻めに来ない勇者に驕りきっていた。 ------------- その日、魔王城に戦慄が走った。 勇者が魔王城まで攻め入ったのだ。 「ひ、ひっ……!、よ、よくきたなぁ、っゆうしゃ!」 血の滴る剣を持ち、近づく勇者に恐怖で震えるセーレに与えられたのは痛みではなく、獣の皮の温かな感触だった。 「っかわいい……俺のものにする、っ」 「ぁ、ぇひ!やだやだやだっ、ひ、ぃい……」 理解できない勇者の言葉は死に怯えるセーレを混乱させ、失神させた。 ___________________ 魔王に一目惚れで掻っ攫う溺愛勇者       × 言動が理解できない勇者が怖い卑屈な名ばかり魔王 愛をまっすぐ伝える勇者に怯える魔王のすれ違い、らぶらぶストーリー。

氷の檻に閉じ込められた月~兄上のすべては、私のもの~

春野ふぶき
BL
『兄上は私のものだ。魂も、肉体も。永遠に―—』 アーヴェント侯爵家の長男ライカは、妾腹として正妻に虐げられ続けてきた。 唯一の救いは、次期当主を目される異母弟カイエンの存在。 美しく聡明で、氷の騎士と呼ばれる彼だけは、常にライカの味方だった。 だが、その愛情は兄を守るものではなく、深く歪んだ執着だった。 母を排除し、兄を囲い込み、逃げれば鎖で捕らえる。 そしてついに、ライカの心身は限界に追い詰められていく。 ——カイエンが下す「最後の選択」とは。 ふたりが辿る結末は、幸福か、それとも狂気の果てか。

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

のろまの矜持 恋人に蔑ろにされすぎて逃げた男の子のお話

月夜の晩に
BL
イケメンエリートの恋人からは、雑な扱いばかり。良い加減嫌気がさして逃げた受けくん。ようやくやばいと青ざめた攻めくん。間に立ち塞がる恋のライバルたち。そんな男の子たちの嫉妬にまみれた4角関係物語です。

黒豹陛下の溺愛生活

月城雪華
BL
アレンは母であるアンナを弑した獣人を探すため、生まれ育ったスラム街から街に出ていた。 しかし唐突な大雨に見舞われ、加えて空腹で正常な判断ができない。 幸い街の近くまで来ていたため、明かりの着いた建物に入ると、安心したのか身体の力が抜けてしまう。 目覚めると不思議な目の色をした獣人がおり、すぐ後に長身でどこか威圧感のある獣人がやってきた。 その男はレオと言い、初めて街に来たアレンに優しく接してくれる。 街での滞在が長くなってきた頃、突然「俺の伴侶になってくれ」と言われ── 優しく(?)兄貴肌の黒豹×幸薄系オオカミが織り成す獣人BL、ここに開幕!

アイドルのマネージャーになったら

はぴたん
BL
大人気5人組アイドル"Noise" ひょんな事からそのマネージャーとして働く事になった冴島咲夜(さえじまさくや)。 Noiseのメンバー達がみんなで住む寮に一緒に住むことになり、一日中メンバーの誰かと共にする毎日。 必死にマネージャー業に専念し徐々にメンバーとの仲も深まってきたけど、、仲深まりすぎたかも!? メンバー5人、だけではなく様々な人を虜にしちゃう総愛され物語。

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

処理中です...