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黒い月が白くなるまで #16
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第十六話 ― 微熱の朝 ―
カーテンの隙間から、朝の光が差し込んでいた。
静かに、でも確かに、夜は終わりを告げていた。
優が目を覚ましたとき、仁はまだ部屋にいた。
ソファの背にもたれ、腕を組んだまま、まるで一晩中眠らなかったように静かに目を閉じている。
「……寝てないの?」
優の声に、仁がゆっくりと目を開けた。
「……起こしたか?」
「ううん。……あなたがいるって、ちょっと不思議な感じだった」
優は寝起きの髪を手ぐしで整えながら、キッチンへ向かう。
仁は黙ったまま、その背中を見ていた。
「コーヒー淹れるけど、飲む?」
「……ああ」
そう答えた仁の声には、ほんのわずかに夜の名残があった。
昨夜、すべてを吐き出したわけじゃない。けれど、それでも彼はここにいる。
それが、今のすべてだった。
優は静かにドリップを準備しながら、ふと思い出す。
――「俺、お前に手出したら終わりな気がしてる」
あのときの仁の声は、まるで自分の殻を割る寸前のもののようだった。
コーヒーの香りが部屋に広がる。
その温かさが、昨夜の冷えた空気をやわらかく溶かしていくようだった。
カップを差し出すと、仁は少しだけ口元を緩めて受け取った。
「……なんか、お前の部屋って落ち着くな」
「そりゃあ、あなたが無言で座ってても追い出さない人、私くらいでしょ」
「たしかに」
笑い合うでもなく、ただ自然とこぼれるような応答。
それが、少し心地よかった。
優はテーブルに座り、カップを両手で包んだまま仁に視線を向ける。
「ねえ、今日……どこか行くの?」
「いや、別に」
「だったら、私と……どこか行く?」
仁は一瞬、眉を寄せた。
「どこへ?」
「……昼間のあなたを、知りたいから」
その言葉に、仁は目を伏せた。
戸惑いと、少しの照れ、そして……なにより逃げ場のなさが滲んでいた。
「……変なこと言うな」
「変じゃないよ。あなたのいろんな表情、もっと知りたいの」
仁は小さく息を吐いた。
そしてカップを口に運びながら、ぽつりと答える。
「……じゃあ、つきあうよ。今日だけな」
優は、にっこりと微笑んだ。
その笑顔は、朝の光よりも優しく仁の胸に差し込んだ。
仁の瞳が、それにそっと揺れた。
知らないうちに、彼の中の氷が、音を立てて溶け始めていた。
その朝は、まるで微熱のようだった。
触れ合わなくても伝わるものが、確かにそこにあった。
カーテンの隙間から、朝の光が差し込んでいた。
静かに、でも確かに、夜は終わりを告げていた。
優が目を覚ましたとき、仁はまだ部屋にいた。
ソファの背にもたれ、腕を組んだまま、まるで一晩中眠らなかったように静かに目を閉じている。
「……寝てないの?」
優の声に、仁がゆっくりと目を開けた。
「……起こしたか?」
「ううん。……あなたがいるって、ちょっと不思議な感じだった」
優は寝起きの髪を手ぐしで整えながら、キッチンへ向かう。
仁は黙ったまま、その背中を見ていた。
「コーヒー淹れるけど、飲む?」
「……ああ」
そう答えた仁の声には、ほんのわずかに夜の名残があった。
昨夜、すべてを吐き出したわけじゃない。けれど、それでも彼はここにいる。
それが、今のすべてだった。
優は静かにドリップを準備しながら、ふと思い出す。
――「俺、お前に手出したら終わりな気がしてる」
あのときの仁の声は、まるで自分の殻を割る寸前のもののようだった。
コーヒーの香りが部屋に広がる。
その温かさが、昨夜の冷えた空気をやわらかく溶かしていくようだった。
カップを差し出すと、仁は少しだけ口元を緩めて受け取った。
「……なんか、お前の部屋って落ち着くな」
「そりゃあ、あなたが無言で座ってても追い出さない人、私くらいでしょ」
「たしかに」
笑い合うでもなく、ただ自然とこぼれるような応答。
それが、少し心地よかった。
優はテーブルに座り、カップを両手で包んだまま仁に視線を向ける。
「ねえ、今日……どこか行くの?」
「いや、別に」
「だったら、私と……どこか行く?」
仁は一瞬、眉を寄せた。
「どこへ?」
「……昼間のあなたを、知りたいから」
その言葉に、仁は目を伏せた。
戸惑いと、少しの照れ、そして……なにより逃げ場のなさが滲んでいた。
「……変なこと言うな」
「変じゃないよ。あなたのいろんな表情、もっと知りたいの」
仁は小さく息を吐いた。
そしてカップを口に運びながら、ぽつりと答える。
「……じゃあ、つきあうよ。今日だけな」
優は、にっこりと微笑んだ。
その笑顔は、朝の光よりも優しく仁の胸に差し込んだ。
仁の瞳が、それにそっと揺れた。
知らないうちに、彼の中の氷が、音を立てて溶け始めていた。
その朝は、まるで微熱のようだった。
触れ合わなくても伝わるものが、確かにそこにあった。
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