GAMEなら何でもいいってわけじゃないよね  五十路のオッサンゲーマーは異世界で何かする

なかのしま

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051話:街道工事

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 雪はまだちらほら残っているが、温かな日差しが春の訪れを告げている。
 この世界では多くの国で採用されているという年始の休日。
 みどり村でもそれに倣って休日として全ての作業を止めて、各自が思い思いの時間を過ごした。
 久しぶりにゆっくり落ち着いて過ごす数日間。
 若干名は慌ただしく動き回り、その犠牲となった哀れな料理人がいたらしいが、それ以外は至って平穏な休日だった。
 休暇が終わると街道の整備も再開された。
 雪も溶け始めており、地面も見えだしている。
 新たに街道整備部隊としてオークの兵士やゴブリンなどが加わり、総勢15名での再開だ。
 最初ユーシンは、精神的に不安定なことがあるアオイのためにユーコも街道整備に巻き込むつもりでいた。
 が、冬の間アオイを孤立させないためにと始めた共同事業が思いもかけず順調に進んでしまい、ユーコはその準備を抜けられなくなってしまった。
 アオイとユーコで、共同で店を出そうとユーコがアオイに持ち掛けたのだ。
 もちろん本気で始めようと考えたわけじゃない。
 ただ、シン復活のための能力を持った仲間を探すにも街道が完成して流通が確保されてからの話になるだろうし、鍛冶小屋にこもりがちになるアオイを連れ出したい、何か集中させるものが欲しい、と考えてのことだったのだが、意外にもアオイが乗り気になり本格的に始動することになった。
 当然、学生でしかなかったアオイとユーコだけでは進展もなく、年始の休日にマスターという犠牲者を巻き込むことに成功、街道の開通と同時に開業するべく動き出してしまっていた。
 ユーコとアオイはこの世界に来る前からの親友だった。
 家庭に問題のあったユーコをアオイが外の世界へと引っ張っていた。
 冬の間、二人であれやこれやと話し合って、調べ物をしていると、あっという間に時間も過ぎていった。
 それまでで十分だった。
 街道整備が再開されればこの話も一時中断、あとは開通後に、という計画で、長期間にわたってアオイの気を引く予定だったのだ。
 当初からマスターを巻き込むつもりだったが、マスターは連日大忙しで、なかなか話を持ちかけるチャンスがない。
 もちろんそれもユーコの計算のうちだった。
 正月の連休がなければうまくいっていただろう。
 「今日ならマスターも休みだから大丈夫だよね。」
 言うが早いか、アオイが突然思い立ったようにマスターを訪問、事情を知るマスターも、アオイのためになるだろうと引き受けてしまったのだった。
 商売的なものを始めるならと軽い気持ちで行商にやって来たカブロに相談したのも良くなかった。
 店舗などの準備にも時間がかかるだろうに、妙にやる気を出してしまったカブロによって、あれよあれよという間に話が進み、街道整備が再開する頃には店舗の準備に追われることになってしまったのだ。
 かつて闇の底から救い出してくれたアオイのために、今度は私が助ける番だと考え抜いた行動だったのだが、結局ユーコとアオイが離れる切っ掛けになってしまった。
 思わぬ誤算が重なってしまったが、少なくとも街道整備が終わった後にも開店や運営など、アオイを関わらせることもできることだしと頭を切り替えることにした。
 整備中は専属コックとして同行するゴブリンのメチにアオイのフォローを託したユーコだった。

    **
 
 80Km地点に仮の宿泊所がつくられて、泊まり込みでの整備が進められている。
 移住者の大移動までには開通させたいと、ユーシンの新車種、パッカー車が資材の運搬に活躍している。
 軽トラでは積載量が250Kg程度だったので、大した量が運べなかった。
 そのため、資材が足りなくなるとアオイが同乗して村に、時には川まで足を延ばして、重い素材をアオイのインベントリーにめいっぱい詰め込み、荷台には軽い木材などを積んでの往復。
 時には日に十数回も往復せねばならず、そのたびにアオイの作業がストップしてしまう。
 ロスが大きく、作業に時間がかかっていたのだ。
 パッカー車の積載量は10トンだ。
 土砂10トンは体積にすると6立方メートル程度と、必要な資材の総量からすると大した量ではないのだが、フォームチェンジという裏技で1度に3回分、30トンまで運べることが判明し、資材運搬がかなりはかどっている。
 食事は現地に同行しているマスターの弟子、ゴブリンのメチが担当している。
 基本的な家庭料理レベルならマスターからお墨付きが出ている有望株だし、女子と言うことで作業時間以外のアオイをフォローしてもらっている。
 資材の仕入れや食材の補給のためにユーシンが帰って来る以外は現場に行ったっきりで、もう1か月以上になる。
 幸いなことに今のところ問題は起きていない。
 少しでも様子がおかしければユーコが飛んでいくことになっているが、どうやら杞憂に済みそうだった。
 仮の宿泊所には、石を掘っただけの浴槽に湯を入れて使う簡易的な風呂が、主にユーコの希望で取り付けられていた。
 男連中はシャワーで十分、何なら湯で濡らしたタオルで拭けばいいなんて言い出す始末だったので、ユーコが
 「アオイちゃんは女の子なのよぅ!なのぉ、あなた達みたいな、と一緒にしちゃだめぇ!」
 と、断固反対したのだった。
 まぁ、岩をくりぬいただけで給湯設備なんて無いから、沸かして適温にした湯を入れて入るしかない。
 非常に手間がかかるし沸き戻しもできないので長湯できないが、それでも湯につかれるというのは日本人にとっては大きい心の癒しになる。
 湯沸かしを担当するユーシンもクリフトも文句一つ言わない。
 それどころか、風呂の設置をゴリ押ししたユーコに感謝したいくらいだった。
 「やっぱ、風呂いいスよね。」
 まだ日が落ちると寒く、すぐに湯がぬるくなってしまうけれど疲れが取れる気がする。
 再開直前、アオイはだいぶ以前のような、本当の明るさを取り戻しては来ているように感じるほどに安定してきていたが、どこか、何かに没頭することで自分を保っているような、そんな危うさも感じていた。
 リラックスできる時間も必要だ、と言うユーコのゴリ押しだったが、アオイだけじゃなくユーシン達にも好影響を与えてくれた。
 それに、アオイの気持ちが少しでも安らぐなら大した手間でもない。
 一見いつも通りのアオイにしか見えないが、ふと気が付くとジッと、床を見たまま動かなかったり、ボーっと空を見たまま心ここにあらず、といった、彼女らしくない姿を見かけるのだ。
 どうしても不安になってしまう。
 アオイは、シンが死んだあの直前、自分がユーシンの持っていたポーションを使っていなければ、そもそも自分がユーシンに着いて行くと言わなければ、ユーシンが最後のポーションを使えとは言わず、そのポーションがあればシンの命をつなぎ留められたはずだ、と、そう思い込んで自分を追いつめていた。
 時間をかけて、そんなことは無い、アオイは何一つ悪く無いんだと言い聞かせてきたが、あの場面を目の当たりにした衝撃は、完全にトラウマになってしまっていた。
 シン復活の試みがなかなか進展しないこともあって、まだまだ予断を許さない、と周りは見ている。
 現状は、とにかく一人で何もしない時間を作らない。
 これしかなかった。 
 メチと同室で夜も一人にしないようにしているけれど、少しでも異変を感じたら即ユーコに来てもらうためユーシンが飛び出すことになる。
 作業中の方が安定しているから安心できる。
 本来ならもっと別の方法があるに違いないのだが、専門家がいるわけでもないみどり村で最善と思われる対応を続けてシンの復活を急ぐしかなかった。
 だからこそ、作業は続く。
 アオイがザックリと整地した後、建材の加工を行い、オークたちが設置、ゴブリンたちはその補佐にあたっている。
 クリフトは、水路を建設していた当時は生木をかじる、という行為に臆してしまって加工をはじめ、建築作業がほとんどができなかった。
 が、後に道具を使って、普通に加工できることが分かった。
 スキルの使い方が正しくイメージできず、ビーバーなのだから齧る、という固定観念にとらわれてしまっていただけだったわけだ。
 それは、クリフトの人としての生理的な問題だった。
 だが実は、ゲームでビーバーたちは直立して、ノコギリや斧、トンカチなど道具を持って加工している様子が、ドット絵で描かれていたのだ。
 浄水場建設中にライアーがそれを思い出し、普通に作業できるのでは?と言ったことで、試しに道具を使って普通に作業してみた。
 結果、驚くべき速度と正確さで作業ができたのだ。
 思い込みとは恐ろしいものである。
 同時にライアーのゲーム知識も恐ろしいものである。
 PC用の超マイナーなゲームも網羅していたとは。
 襲撃者のエロゲー男爵(ユーシン命名)も、ライアーがいなければ全滅確定だった。
 なぜライアーがエロゲ―の知識まで知っていたのか、は、どさくさに紛れて不問とされている。
 シンのことが無ければ、確実にアオイとユーコ、ひょっとするとマナからも詰問されていただろう。
 とにかく、再開後クリフトは設計のみならず、率先して作業にも参加するようになっていた。
 浄水場に処理場、それらをつなぐパイプラインに村の中の水道網は、シンが作っていたアパートの中以外すべてクリフトの手によるものだ。
 街道整備でも、設計や測量といった基礎的なこと以外に、歩行者が宿泊地に入るための歩道橋から、トイレや休憩用のベンチ、歩道と車道を分ける手すりなどといった作業、特に木工作業のほとんどが彼の手による。
 アオイは、アースクラフトをやっていただけあってクラフトそのものは好きだった。
 作業にどっぷりとのめり込んでいた。
 街道の休工中も、鍜治場に籠ってついに、これぞ刀、と言うものを作り出せたが、それでも作業をやめなかった。
 そのアオイを心配してユーコが共同事業を立ち上げたわけだ。
 街道整備再開後はかつてない速度で進行し、あと1か月ほどで完成しそうなところまで来ている。
 
 村への移住が完了すると、みどり村のランクが4になる。
 それを想定して区画が仕切られ、道路やインフラ設備が完成している。
 そこまで計画したのは、ランク5へはかなり時間がかかることが想定されるからだ。
 現在村の範囲外になっている場所にはグレートベアやデモンエイプの毛皮や干し肉を使った仮の魔物除けを設置してある。
 入居用の住宅なども、カブロの話どおりなら8割程度は受け入れできそうだ。
 が、増えそうな気配もあるのである程度はテント生活してもらうことになるだろう。
 食料問題もある。
 物資はだいぶ持ち込まれるようだけれど、現地の食材なので魔素たっぷりのエグみ増し増しな物だ。
 つまり、覚悟して食べなければならない食材ばかりが持ち込まれるだろう。
 となると、やはりマスターの店に殺到することが予測される。
 魔素抜き食材を購入しようとする者も少なくないだろう。
 移住直後しばらくはキャパオーバーが確実、トラブルに発展しかねない。
 そこで、当面は魔素抜き食材はマスターの食堂だけで使い、価格はけっこう高めに設定して、たまに食べる贅沢なお食事、という位置づけにすることにしたが、それだけで抑えられるとも限らない。
 マスターの負担を減らすため、干し肉などの増産を進めている。
 魔素抜きの時間を半分程度にしたものを量産し、先行して準備を進める飲食店に卸すことで分散させようという目論見だ。
 もちろんエグみは残るが、それでもカブロに下ろしていた食材並み、一般的な庶民では一生口にする事のできなかったレベルにはなる。
 朝昼はゴブリンたちが調理に当たる。
 メニューを固定して特訓し、マスターに認められた精鋭だ。
 魔素抜き食材を利用するから味もお墨付き、ゴブリンが調理していると言うことに拒絶感を感じるなら来なければいいし、逆にゴブリンの調理なのにこんなにうまい、となれば関係性の強化にも一役買ってくれるだろう。
 マスターは夜だけ、新たに入った弟子たちと調理場に入る。
 なんせマスターには、ユーコとアオイの難題に挑戦中な上、酒の開発という重要任務もあるのだ、少しでも負担を減らさなければならいない。
 ミードの魔素抜きは十分作れているが、いつまでもそればかりでは村中メタボだらけになってしまう。
 だって、蜂蜜酒だもの。
 魔素抜きミードはとにかく消費が激しい。
 この世界に元々あったミードは、ご多分に漏れずエグみがあるので、アルコールでそれを忘れようといった飲み方をする。
 エグみが無いとはいえ飲み方はそうそう変えられないから、グイグイいく。
 ハンターたちを見ていると、美味い分余計に進んでいるような気すらする。
 若干お腹が気になりだしているオッサンもチラホラ・・・。
 いや、これは酒のせいだけじゃないな、エグみの無い食事と酒があいまったことで、明らかに過剰摂取になっている。
 食事は価格を上げることなどですこしづつ改善するとして、やはり酒だ。
 ミード酒はアルコール度数が低いから、もっと強くて美味い酒を作って飲み方の改善もしていかなければ。
 シンが作ったラサの実の果実酒もどきはまだ作れる量が少ない。
 なんせ、生のラサの実は流通していないので、自分たちで確保するしかないからだ。
 いずれはビールにウイスキー、日本酒なども欲しいが夢のまた夢、というのが現状だ。
 だからこそ、村の周辺でたくさん採れる実などを使って実験しているが、芳しくはない。
 食材についても高級肥料チートで豊富になったら市場を作って他の店にも魔素抜き食材を開放していく事になるが、まだまだ足りないものだらけだ。
 将来的には一般人も気軽に買えるようにしたいが、みどり村の機能で買えるもの以外は種ガチャで入手するしかない。
 ある程度は収穫せずに種を取らなければならないので、十分に確保するにはまだ時間がかかりそうだし、人手も足りない。
 移住者側の準備もだいぶ進んでいるようで、街道の完成に合わせて一斉に出発すると連絡があった。
 先行して入村した人たちを含めて180人程になる。
 総人口は200人を優に超えるので、予定通り入居と同時にランク4の条件を満たす。
 移住者だけで200人を超えるのではないかとの予想は、ゴブリンやオークが共に暮らす村という点がブレーキになってくれたようで、良い意味でハズレてくれた。
 正直な話、全員が移住したとすると300人を超える希望者がいたのだ。
 村での普段のやり取りから、カブロが機転を利かせていたようで奴隷の連れ込みも禁止していた。
 この世界で奴隷の扱いは、である。
 奴隷に権利は無く、主には服従、反抗すれば殺されて当たり前。
 向こうの世界でも、かつて当たり前のように行われていた悪辣非道な所業だが、かつての向こうのように、今この世界ではそれが当たり前、常識なのだ。
 ラノベやアニメに慣れた者ほど、それらで描かれる奴隷という存在とのギャップに衝撃は強く、忌避感も強かった。
 かといって、この世界を変えられる力も影響力もまだ無い以上、無力感だけが募ってしまう。
 商人や、すこし裕福な市民、ハンターなども奴隷を使う者はいたし、移住の際も連れてくる気でいた者も少なくなかった。
 (なにやらシンさんが動いていたみたいだけど、その結果がカブロの行動につながったのかな。)
 カブロがそれに先手をうっていたと知った時、ソンチョーは自然にそう思った。
 奴隷を上辺だけ開放したことにして連れ込もうとする者まで出て、カブロが悪戦苦闘していたのだが、それは後に泥酔した本人がソンチョー相手に愚痴るまで秘められた武勇伝だった。
 泥酔して言っちゃうのがカブロらしいとはソンチョー談。
 そして、いよいよ移住が始まる。
 そこにいるべき者が欠けたまま。
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