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052話:問題発覚
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「ソンチョー。」
移住者受け入れの準備で忙しい中、スロークが神妙な顔でソンチョー宅を訪れた。
こんなスロークは見たことが無い。
ソンチョーにも緊張感が走った。
「今まで気にも留めなかったんだが・・・自分たちは、勝手に村を作って移住者も受け入れちゃってるけど・・・よかったんだよな?」
あ・・・
ソンチョーはその問いに即答できなかった。
ゲームのシステムのまま村づくりをして来ていたけれど、この世界のことを何も考えていなかった。
「だいじょうぶ・・・じゃ、ないかなぁ・・・カブロさんとかも当たり前のように移住者の取りまとめしてるし・・・。」
言葉と裏腹にソンチョーの目は泳ぎまくっている。
すっかり失念していた。
ここって、どこかの国の、どこかの領地なんじゃないのか?
今更である。
「て、手続きとか・・・イルノカナ。」
イントネーションまでおかしくなってきた。
これはいかん。
ある意味デモンエイプ襲撃より大問題かもしれない。
「どうしよう・・・。」
引きつった表情のソンチョー。
見る間に顔色が悪くなっていく気がする。
「とりあえず、確認だけはした方がいいよね?」
誰に聞いたらいいのか見当もつかないが。
「ああ、すぐに発つ、カブロさんでいいよな?」
「良いと思う。」
というか、カブロ以外に相談できる相手がいないことにも気がついた。
ソンチョーは大きなため息を付くと、天井を見上げて最悪の事態を思い頭を悩ませる。
一方スロークは、カブロと話し合うために村を飛び出していった。
翌日帰ってきたスローク、休憩無しでとんぼ返りしてきたのだろう、疲労の影が見える。
「で、どうだった?」
部屋に入ってきたスロークの元へ駆け寄るソンチョー。
「カブロも経験が無くて分からないらしい。」
絶望的な一言が帰ってきた。
「詳しく調べてみるとのことだけど、この森についてはどこの領地でもないはずだと言っていた。」
「それって、王の直轄領とかってことでもなくて?」
ソンチョーが知る知識(シンいわく”常識”さん)では、普通は貴族の領地以外は基本的に王が直接治める、直轄領とかって扱いのはずだ。
だとすると、王の領地で勝手にやっているなんてことに・・・。
「元々はカルケール伯爵とコリント伯爵で分け合っていたらしいけど、とても管理しきれないと返上したらしい。
領地持ちの貴族にとってはとんでもなく恥ずかしい行為らしいけどな、ここで何か起こった時や、ここから外に被害が出たときに問われる責任や賠償に比べたら、ということで同時期に返上されたそうだ。
ただ、王もそれは困ると押し付け合いが始まって、結局は王すらも領権を放棄して、現状は誰も領権を保有していない空白地帯ってことになっているみたいだ。
東の端が一部隣国に接しているそうなんだが、そこからも一切口出しして来たことは無いはずだってことだ。
現状は一応サンザ王国の一部ってことだが、間違いなくここは誰のものでもない状態みたいだ。」
あ~、なるほど~。
なるほどじゃない!
これって、下手したら村があるんだからって、今後領権とやらを押し付けられる流れでは?
村周辺だけならまだしも、森全体とか言われたらスタンピード一発で処刑されたりしないよね?これ。
あぁ、こんな時シンさんがいてくれたら。
あの人、意外と悪知恵働くから頼りになるのに。
「明日にでもまたサンサテに向かうよ。
カブロさんが詳しく調べてくれているはずだし、自分も調べてみようと思う。」
頼もしいよスロークさん。
村を出ることのできない自分を歯がゆくも思いながらこの先を託すしかなかった。
「それともう一つ、サンサテでこんなものが配られていたんだ。」
と言って、スロークは一面に色鮮やかな文字や絵の描かれた紙を差し出した。
印刷技術も無く、紙が高級品のこの世界でチラシとは。
「興行かなにかのチラシ?って・・・え?」
チラシに書かれた興行日は今日から13日後に開幕とある。
しかし、重要なのはそこじゃない。
新たな問題の可能性だ。
早急に対策を考えなければならなくなった。
**
サンサテに向かうスロークが途中で街道整備組に声をかけ、緊急にソンチョー宅で話し合いが行われることになった。
スロークはそのままサンサテに向かったので、ソンチョー、ユーシン、ユーキ、マスター、クリフト、アオイ、ユーコ、マナ、ライアーの9人が閉店後の食堂に揃った。
「まだ試作品だけど、夜食代わりに。」
と言ってマスターが出してきたお楽しみは、見た目お好み焼き(大阪風)。
「あっま!」
早速がっついたユーシンが驚きの声を上げた。
「ふしぎぃ~。甘いフワッとしたお好み焼き?」
「有りね、これ。」
「おいし・・・」
女性陣には好評のようだ。
「パンケーキのつもりで作ったんだけど、セパ豆ってうまく膨らまないんだよね、でもまぁ、これはこれで有りかなって。」
そう言われると、確かに味は昔食べたホットケーキに似ている気もする。
ただ、食感と見た目は具の無いお好み焼きだからギャップが・・・。
「パンケーキもお好み焼きも知らないもんね、この世界の人たちって。もうちょっと見た目が良くなればいけるかも。」
甘味と言えばフルーツと蜂蜜しか無かったので、女性陣からの評価は上々なようだ。
緊急招集された緊張感が甘いもので和らいだ。
わざわざ未完成品のスイーツ?をマスターが出した理由は、ソンチョーの依頼があったからだ。
話の前にみんなの緊張を解しておきたかった。
これからちょっと重い話になりそうだったから。
まずは、気づいちゃったけど村、勝手に作っちゃってよかったの?問題から。
一通り話してみんなの様子を見る。
「いいんじゃないんスか?誰も支配して無いんスよね?ココ。」
「そうそう、文句言ってきたら受けて立てばいいし。」
能天気なユーシンと物騒なライアー。
「いや、そう言うわけにもいかんでしょ、実際軍となんて戦えるわけないし。」
「そうね、漫画みたいに一撃で山を吹き飛ばしたりできるわけじゃないんだから、何万人もいる軍と戦うなんて現実的じゃないでしょ。」
「馬鹿が二人もいると面倒なんだから。」
現実的なクリフト、マナ、アオイの3人。
「いやいや、この時代の戦争って、まともな情報網なんて無いんだから伝令役始末すればすぐボロボロになるって。」
「ゲームじゃないって言ってるの、伝令役って言ったって、どうやって探してどうやってたどりつくの。」
「まぁまぁ、一応スロークさんが調べに行ってくれてるから、この件はそれ頭にだけ入れて置いてくれればいいんだ、どうするかはスロークさん待ちってことで。」
険悪になりかけたライアーとマナをなだめるソンチョーに、マズいと察して厨房へ向かったマスター。
程なくパンケーキもどきの追加がやって来た。
「まぁ、最悪のケースは想定して準備だけはしておいた方が良いだろうけどね。」
と、物騒な発言をしたユーキがすこし意外だった。
「平和が一番ん~。」
マイペースなユーコ。
まとまらない。
とにかくこの件は頭にだけ入れておいてくれと伝えると、緊急招集の本題に入った。
「サンサテでこんなものが配られているらしいんだ。」
ソンチョーはテーブルに例のチラシを置いた。
のぞき込んだ一同の表情が変わる。
「・・・マジ?この絵って、同じ・・・だよね。」
興行演目の一つ、見世物小屋の紹介に描かれた絵が、全員にそれを感じさせた。
「他にもいたのか・・・」
天を仰ぐユーシン。
「アオイちゃんが二人いるぅ。」
「な、こんなんじゃないでしょ?もっとましだったでしょ?」
と言うやり取りにこらえきれず噴き出したユーシン。
すかさず肘を打ち込むアオイ。
暫しの中断・・・。
「自ら望んで、なんてことは無いよな、見世物になんて。」
自分達もそうだったのかも、とでも思っているのか、眉間に深い皺を刻んだマスターがチラシをにらむ。
「助けなきゃ。」
ぽつりとつぶやいたアオイ。
「助けるっても、どうやって?」
その後、一晩かけて話し合っても結論は出なかった。
が、確かめなければならないことは決められた。
まず、
本当にワタリビトなのか。
そして、
自ら望んでのことなのか。
この2つは最初に確認する必要がある。
もしワタリビトで、不当に見世物にされていることが確認できたら当然救出するべきだ。
が、その方法は・・・まだ結論が出ていない。
興行まではまだ10日もある。
「街道整備も大詰めに入っている、とにかく今は街道を完成させた方がいいだろうね。」
「そっスね、ターボかけりゃ、興行とやらが始まるまでに余裕で道だけはできるだろうし。」
クリフトの発案にユーシンも賛同した。
「オヤカタ達には悪いけど、道だけ完成させ次第後始末はまかせて、その足でサンサテへ向かおう。
スロークさんを手伝って情報を集めて、興行団にも接触してみなきゃ。」
「でも、いざ戦闘となったらクリフトさんは危険じゃないです?」
「いや、確かにそうだけど、僕だって何か役に立てるさ。」
「そっスよ、クリフトさんのバイクテクなら、向こうで何かあった時の伝令役任せられるし。」
「でんれ・・・いや、重要なことだよな、うん。」
と言った話し合いで、まずは街道整備組のユーシンとアオイ、クリフトに先行しているスロークの4人で調査をしてもらい、その結果次第では増援を送る、当然戦闘も視野に入れることになる。
ゲームの性質上戦闘能力が無いクリフトは、調査の結果によってはバイクでの連絡役として戻ってくることになる。
マナとユーコ、ユーキとライアーは村で待機、増援要請が入り次第バイクでサンサテへ向かう手はずだ。
バイクに乗れないユーコはマナに同乗することになる。
救出が不要であれば、クリフトはスロークを手伝い村を作っちゃってよかったのか問題の調査を、ユーシンとアオイはカブロとともに移住者のサポートを行う。
マスターとソンチョーは今まで通り移住者受け入れの準備だ。
ここまでが決まって、とりあえずは一息つくことのできたソンチョー達。
ソンチョーもようやく眠ることができた。
**
最後の大詰め、森の外周までの行程15Kmを7日で仕上げると、ユーシン、クリフト、アオイの三人は残りの作業をトウリョー達に任せてサンサテへと向かった。
街道そのものは完成した。
トウリョーたちに任せた残りの仕上げ、まずは120Km地点の宿泊所の整備だ。
まだ資材などが散乱しているので、移住者たちがテントを張れるように片付けなければならない。
80Kmと40Km地点の広場も同様に片付けなければならないし、仮設の魔物除けとしてデモンエイプの毛皮と干し肉のチェックもしなければならない。
本来ならユーシン達三人と、ライアー、ユーコ、ユーキたちも参加しての作業になるはずだったが、いざ救出作戦となった時のため村で待機しているので負担が一気にオヤカタ達にのしかかってしまった。
人員が減ったことで厳しい作業になってしまったが、移住者が通るまでには完了できるだろう。
ユーシン達はサンサテでスロークと合流すると、確保していた宿の一室に集まった。
村で話し合ったこととスロークが調べていたことのすり合わせをするためだ。
まず、スロークが調べていた村の問題は、とりあえずこのまま、素知らぬ顔で進めた方がいいだろう、ということに落ち着きそうだ。
というのも、カブロを通じて幾人かの知識人に相談することができた結果、下手にこちらからアプローチしない方が良いというアドバイスをもらえたからだ。
余計なことをすると、確実に領権を押し付けられるだろうという。
あの森が豊かな資源に恵まれていること、少数の希少種族が暮らしているらしいことは周知の事実で、あそこで生活基盤を整えられる様な者が現れれば、是が非でも統治させて恩恵に預かりたい、と思うものは少なくないはずだと。
その後はやれ税だ、領主の義務だと厄介ごとが発生する。
森の魔獣が問題を起こせば、賠償だなんだと責められるし、問題が起こらなければ起こらないで、危険な森を治めているという名声と富を欲して、高位貴族が子や親類を統治者として押しかけてきかねない。
今は、誰の領地でもないから勝手に住んでたら人が集まって村になりました、難しいことはわかりません、で押し切った方がいいだろうということなのだ。
「どうせ奪おうにも、あんなところに軍を派遣するバカはおるまいよ。」
という現役周長(サンサテでは、城壁内を15の区画に分けておりそれぞれに税の管理、運用の代行を行う周長が市民から選出されている)の一言もあり、ならばそういうことにしておこう、ということになった。
呆気なく問題の一つが解決してしまったが、これでもう一つの問題に全員で取り組める。
**
翌日、一日をかけて各自が調べた結果を宿の一室で話し合う。
「どうも、自分が聞いた話によると興行主の評判はかなり良くないな。」
と、スローク。
「俺も聞いたっス、獣人の奴隷を抱え込んでるとか、どれもまっとうな手段で手に入れて無いって。」
ムスッとした表情で頬杖を突きながらユーシンは自分が聞いてきた話を始めた。
「孤児院から安く買った孤児を奴隷にしてるなんて話もあったっスね。」
拳が握りしめられていた。
この世界の奴隷が、自分たちのイメージと乖離していることを知ったユーシンは、何度かシンに相談したことがあった。
自分たちに何かできることは無いか、と。
「今は手出ししちゃダメ。」
シンからの返答はユーシンをガッカリさせたものだったが、すぐにシンの言葉の意味を知ることになる。
この世界での常識を、異世界から来た者の常識で否定してはならない。
否定するのであれば覚悟しなければならない。
それは、非情でもある覚悟。
時間をかけ、少しずつ浸透させてゆくしかないのだ。
その間に犠牲者が出るのもやむなし。
その覚悟が必要。
それほどに根深く、難しい問題だ。
現に向こうの世界でも、開放後数世代たってもハッキリとした溝が立ちはだかっている。
「まずは、奴隷を使うことが恥ずかしいことだと思わせたいよね。」
そんなことを言っていた。
そしてそんなシンの行動が、すこしづつ芽を出そうとしていた。
カブロは、誰に言われることなく村へ奴隷を連れてくることを止めた。
カブロ自身も、奴隷を使うことをやめていた。
まだ一歩にも満たないかもしれないけれど、確かに進みだそうとしていた。
そんな思いがあるからこそ、ユーシンは許せない。
「他の町で見たことのある行商人に話を聞けたんだけど、興行に使われる小屋っていうのか、建物は凄く特殊みたいだ。
普通はいくつもの小さな小屋が建てられて、それぞれ違った見世物をするらしいんだが、この興行団は平屋のバカでかい建物、と言うか土台を作って、その上に複数の見世物小屋を作るらしいんだ。」
「土台か・・・何かあるな。」
クリフトの報告に、スロークが反応した。
そんな土台は必要ない。
もし、奇術などとの見世物をやるとして、瞬間移動のトリックにステージの下を移動する、と言うことは考えられるが、それはあくまでも奇術を見せるステージだけ高くすればいい。
敷地全体を高くする必要はなく、それをするための莫大な資金と資材の輸送を考えれば採算なんてとれるとは思えない。
どうやら、聞いている以上に黒い組織なのかもしれない。
精査された情報から、スロークは今後の行動を決定した。
「悪いけどクリフト、至急村に戻って、ライアーたちを呼んでほしいんだ、興行団とやりあうことになりそうだと。」
移住者受け入れの準備で忙しい中、スロークが神妙な顔でソンチョー宅を訪れた。
こんなスロークは見たことが無い。
ソンチョーにも緊張感が走った。
「今まで気にも留めなかったんだが・・・自分たちは、勝手に村を作って移住者も受け入れちゃってるけど・・・よかったんだよな?」
あ・・・
ソンチョーはその問いに即答できなかった。
ゲームのシステムのまま村づくりをして来ていたけれど、この世界のことを何も考えていなかった。
「だいじょうぶ・・・じゃ、ないかなぁ・・・カブロさんとかも当たり前のように移住者の取りまとめしてるし・・・。」
言葉と裏腹にソンチョーの目は泳ぎまくっている。
すっかり失念していた。
ここって、どこかの国の、どこかの領地なんじゃないのか?
今更である。
「て、手続きとか・・・イルノカナ。」
イントネーションまでおかしくなってきた。
これはいかん。
ある意味デモンエイプ襲撃より大問題かもしれない。
「どうしよう・・・。」
引きつった表情のソンチョー。
見る間に顔色が悪くなっていく気がする。
「とりあえず、確認だけはした方がいいよね?」
誰に聞いたらいいのか見当もつかないが。
「ああ、すぐに発つ、カブロさんでいいよな?」
「良いと思う。」
というか、カブロ以外に相談できる相手がいないことにも気がついた。
ソンチョーは大きなため息を付くと、天井を見上げて最悪の事態を思い頭を悩ませる。
一方スロークは、カブロと話し合うために村を飛び出していった。
翌日帰ってきたスローク、休憩無しでとんぼ返りしてきたのだろう、疲労の影が見える。
「で、どうだった?」
部屋に入ってきたスロークの元へ駆け寄るソンチョー。
「カブロも経験が無くて分からないらしい。」
絶望的な一言が帰ってきた。
「詳しく調べてみるとのことだけど、この森についてはどこの領地でもないはずだと言っていた。」
「それって、王の直轄領とかってことでもなくて?」
ソンチョーが知る知識(シンいわく”常識”さん)では、普通は貴族の領地以外は基本的に王が直接治める、直轄領とかって扱いのはずだ。
だとすると、王の領地で勝手にやっているなんてことに・・・。
「元々はカルケール伯爵とコリント伯爵で分け合っていたらしいけど、とても管理しきれないと返上したらしい。
領地持ちの貴族にとってはとんでもなく恥ずかしい行為らしいけどな、ここで何か起こった時や、ここから外に被害が出たときに問われる責任や賠償に比べたら、ということで同時期に返上されたそうだ。
ただ、王もそれは困ると押し付け合いが始まって、結局は王すらも領権を放棄して、現状は誰も領権を保有していない空白地帯ってことになっているみたいだ。
東の端が一部隣国に接しているそうなんだが、そこからも一切口出しして来たことは無いはずだってことだ。
現状は一応サンザ王国の一部ってことだが、間違いなくここは誰のものでもない状態みたいだ。」
あ~、なるほど~。
なるほどじゃない!
これって、下手したら村があるんだからって、今後領権とやらを押し付けられる流れでは?
村周辺だけならまだしも、森全体とか言われたらスタンピード一発で処刑されたりしないよね?これ。
あぁ、こんな時シンさんがいてくれたら。
あの人、意外と悪知恵働くから頼りになるのに。
「明日にでもまたサンサテに向かうよ。
カブロさんが詳しく調べてくれているはずだし、自分も調べてみようと思う。」
頼もしいよスロークさん。
村を出ることのできない自分を歯がゆくも思いながらこの先を託すしかなかった。
「それともう一つ、サンサテでこんなものが配られていたんだ。」
と言って、スロークは一面に色鮮やかな文字や絵の描かれた紙を差し出した。
印刷技術も無く、紙が高級品のこの世界でチラシとは。
「興行かなにかのチラシ?って・・・え?」
チラシに書かれた興行日は今日から13日後に開幕とある。
しかし、重要なのはそこじゃない。
新たな問題の可能性だ。
早急に対策を考えなければならなくなった。
**
サンサテに向かうスロークが途中で街道整備組に声をかけ、緊急にソンチョー宅で話し合いが行われることになった。
スロークはそのままサンサテに向かったので、ソンチョー、ユーシン、ユーキ、マスター、クリフト、アオイ、ユーコ、マナ、ライアーの9人が閉店後の食堂に揃った。
「まだ試作品だけど、夜食代わりに。」
と言ってマスターが出してきたお楽しみは、見た目お好み焼き(大阪風)。
「あっま!」
早速がっついたユーシンが驚きの声を上げた。
「ふしぎぃ~。甘いフワッとしたお好み焼き?」
「有りね、これ。」
「おいし・・・」
女性陣には好評のようだ。
「パンケーキのつもりで作ったんだけど、セパ豆ってうまく膨らまないんだよね、でもまぁ、これはこれで有りかなって。」
そう言われると、確かに味は昔食べたホットケーキに似ている気もする。
ただ、食感と見た目は具の無いお好み焼きだからギャップが・・・。
「パンケーキもお好み焼きも知らないもんね、この世界の人たちって。もうちょっと見た目が良くなればいけるかも。」
甘味と言えばフルーツと蜂蜜しか無かったので、女性陣からの評価は上々なようだ。
緊急招集された緊張感が甘いもので和らいだ。
わざわざ未完成品のスイーツ?をマスターが出した理由は、ソンチョーの依頼があったからだ。
話の前にみんなの緊張を解しておきたかった。
これからちょっと重い話になりそうだったから。
まずは、気づいちゃったけど村、勝手に作っちゃってよかったの?問題から。
一通り話してみんなの様子を見る。
「いいんじゃないんスか?誰も支配して無いんスよね?ココ。」
「そうそう、文句言ってきたら受けて立てばいいし。」
能天気なユーシンと物騒なライアー。
「いや、そう言うわけにもいかんでしょ、実際軍となんて戦えるわけないし。」
「そうね、漫画みたいに一撃で山を吹き飛ばしたりできるわけじゃないんだから、何万人もいる軍と戦うなんて現実的じゃないでしょ。」
「馬鹿が二人もいると面倒なんだから。」
現実的なクリフト、マナ、アオイの3人。
「いやいや、この時代の戦争って、まともな情報網なんて無いんだから伝令役始末すればすぐボロボロになるって。」
「ゲームじゃないって言ってるの、伝令役って言ったって、どうやって探してどうやってたどりつくの。」
「まぁまぁ、一応スロークさんが調べに行ってくれてるから、この件はそれ頭にだけ入れて置いてくれればいいんだ、どうするかはスロークさん待ちってことで。」
険悪になりかけたライアーとマナをなだめるソンチョーに、マズいと察して厨房へ向かったマスター。
程なくパンケーキもどきの追加がやって来た。
「まぁ、最悪のケースは想定して準備だけはしておいた方が良いだろうけどね。」
と、物騒な発言をしたユーキがすこし意外だった。
「平和が一番ん~。」
マイペースなユーコ。
まとまらない。
とにかくこの件は頭にだけ入れておいてくれと伝えると、緊急招集の本題に入った。
「サンサテでこんなものが配られているらしいんだ。」
ソンチョーはテーブルに例のチラシを置いた。
のぞき込んだ一同の表情が変わる。
「・・・マジ?この絵って、同じ・・・だよね。」
興行演目の一つ、見世物小屋の紹介に描かれた絵が、全員にそれを感じさせた。
「他にもいたのか・・・」
天を仰ぐユーシン。
「アオイちゃんが二人いるぅ。」
「な、こんなんじゃないでしょ?もっとましだったでしょ?」
と言うやり取りにこらえきれず噴き出したユーシン。
すかさず肘を打ち込むアオイ。
暫しの中断・・・。
「自ら望んで、なんてことは無いよな、見世物になんて。」
自分達もそうだったのかも、とでも思っているのか、眉間に深い皺を刻んだマスターがチラシをにらむ。
「助けなきゃ。」
ぽつりとつぶやいたアオイ。
「助けるっても、どうやって?」
その後、一晩かけて話し合っても結論は出なかった。
が、確かめなければならないことは決められた。
まず、
本当にワタリビトなのか。
そして、
自ら望んでのことなのか。
この2つは最初に確認する必要がある。
もしワタリビトで、不当に見世物にされていることが確認できたら当然救出するべきだ。
が、その方法は・・・まだ結論が出ていない。
興行まではまだ10日もある。
「街道整備も大詰めに入っている、とにかく今は街道を完成させた方がいいだろうね。」
「そっスね、ターボかけりゃ、興行とやらが始まるまでに余裕で道だけはできるだろうし。」
クリフトの発案にユーシンも賛同した。
「オヤカタ達には悪いけど、道だけ完成させ次第後始末はまかせて、その足でサンサテへ向かおう。
スロークさんを手伝って情報を集めて、興行団にも接触してみなきゃ。」
「でも、いざ戦闘となったらクリフトさんは危険じゃないです?」
「いや、確かにそうだけど、僕だって何か役に立てるさ。」
「そっスよ、クリフトさんのバイクテクなら、向こうで何かあった時の伝令役任せられるし。」
「でんれ・・・いや、重要なことだよな、うん。」
と言った話し合いで、まずは街道整備組のユーシンとアオイ、クリフトに先行しているスロークの4人で調査をしてもらい、その結果次第では増援を送る、当然戦闘も視野に入れることになる。
ゲームの性質上戦闘能力が無いクリフトは、調査の結果によってはバイクでの連絡役として戻ってくることになる。
マナとユーコ、ユーキとライアーは村で待機、増援要請が入り次第バイクでサンサテへ向かう手はずだ。
バイクに乗れないユーコはマナに同乗することになる。
救出が不要であれば、クリフトはスロークを手伝い村を作っちゃってよかったのか問題の調査を、ユーシンとアオイはカブロとともに移住者のサポートを行う。
マスターとソンチョーは今まで通り移住者受け入れの準備だ。
ここまでが決まって、とりあえずは一息つくことのできたソンチョー達。
ソンチョーもようやく眠ることができた。
**
最後の大詰め、森の外周までの行程15Kmを7日で仕上げると、ユーシン、クリフト、アオイの三人は残りの作業をトウリョー達に任せてサンサテへと向かった。
街道そのものは完成した。
トウリョーたちに任せた残りの仕上げ、まずは120Km地点の宿泊所の整備だ。
まだ資材などが散乱しているので、移住者たちがテントを張れるように片付けなければならない。
80Kmと40Km地点の広場も同様に片付けなければならないし、仮設の魔物除けとしてデモンエイプの毛皮と干し肉のチェックもしなければならない。
本来ならユーシン達三人と、ライアー、ユーコ、ユーキたちも参加しての作業になるはずだったが、いざ救出作戦となった時のため村で待機しているので負担が一気にオヤカタ達にのしかかってしまった。
人員が減ったことで厳しい作業になってしまったが、移住者が通るまでには完了できるだろう。
ユーシン達はサンサテでスロークと合流すると、確保していた宿の一室に集まった。
村で話し合ったこととスロークが調べていたことのすり合わせをするためだ。
まず、スロークが調べていた村の問題は、とりあえずこのまま、素知らぬ顔で進めた方がいいだろう、ということに落ち着きそうだ。
というのも、カブロを通じて幾人かの知識人に相談することができた結果、下手にこちらからアプローチしない方が良いというアドバイスをもらえたからだ。
余計なことをすると、確実に領権を押し付けられるだろうという。
あの森が豊かな資源に恵まれていること、少数の希少種族が暮らしているらしいことは周知の事実で、あそこで生活基盤を整えられる様な者が現れれば、是が非でも統治させて恩恵に預かりたい、と思うものは少なくないはずだと。
その後はやれ税だ、領主の義務だと厄介ごとが発生する。
森の魔獣が問題を起こせば、賠償だなんだと責められるし、問題が起こらなければ起こらないで、危険な森を治めているという名声と富を欲して、高位貴族が子や親類を統治者として押しかけてきかねない。
今は、誰の領地でもないから勝手に住んでたら人が集まって村になりました、難しいことはわかりません、で押し切った方がいいだろうということなのだ。
「どうせ奪おうにも、あんなところに軍を派遣するバカはおるまいよ。」
という現役周長(サンサテでは、城壁内を15の区画に分けておりそれぞれに税の管理、運用の代行を行う周長が市民から選出されている)の一言もあり、ならばそういうことにしておこう、ということになった。
呆気なく問題の一つが解決してしまったが、これでもう一つの問題に全員で取り組める。
**
翌日、一日をかけて各自が調べた結果を宿の一室で話し合う。
「どうも、自分が聞いた話によると興行主の評判はかなり良くないな。」
と、スローク。
「俺も聞いたっス、獣人の奴隷を抱え込んでるとか、どれもまっとうな手段で手に入れて無いって。」
ムスッとした表情で頬杖を突きながらユーシンは自分が聞いてきた話を始めた。
「孤児院から安く買った孤児を奴隷にしてるなんて話もあったっスね。」
拳が握りしめられていた。
この世界の奴隷が、自分たちのイメージと乖離していることを知ったユーシンは、何度かシンに相談したことがあった。
自分たちに何かできることは無いか、と。
「今は手出ししちゃダメ。」
シンからの返答はユーシンをガッカリさせたものだったが、すぐにシンの言葉の意味を知ることになる。
この世界での常識を、異世界から来た者の常識で否定してはならない。
否定するのであれば覚悟しなければならない。
それは、非情でもある覚悟。
時間をかけ、少しずつ浸透させてゆくしかないのだ。
その間に犠牲者が出るのもやむなし。
その覚悟が必要。
それほどに根深く、難しい問題だ。
現に向こうの世界でも、開放後数世代たってもハッキリとした溝が立ちはだかっている。
「まずは、奴隷を使うことが恥ずかしいことだと思わせたいよね。」
そんなことを言っていた。
そしてそんなシンの行動が、すこしづつ芽を出そうとしていた。
カブロは、誰に言われることなく村へ奴隷を連れてくることを止めた。
カブロ自身も、奴隷を使うことをやめていた。
まだ一歩にも満たないかもしれないけれど、確かに進みだそうとしていた。
そんな思いがあるからこそ、ユーシンは許せない。
「他の町で見たことのある行商人に話を聞けたんだけど、興行に使われる小屋っていうのか、建物は凄く特殊みたいだ。
普通はいくつもの小さな小屋が建てられて、それぞれ違った見世物をするらしいんだが、この興行団は平屋のバカでかい建物、と言うか土台を作って、その上に複数の見世物小屋を作るらしいんだ。」
「土台か・・・何かあるな。」
クリフトの報告に、スロークが反応した。
そんな土台は必要ない。
もし、奇術などとの見世物をやるとして、瞬間移動のトリックにステージの下を移動する、と言うことは考えられるが、それはあくまでも奇術を見せるステージだけ高くすればいい。
敷地全体を高くする必要はなく、それをするための莫大な資金と資材の輸送を考えれば採算なんてとれるとは思えない。
どうやら、聞いている以上に黒い組織なのかもしれない。
精査された情報から、スロークは今後の行動を決定した。
「悪いけどクリフト、至急村に戻って、ライアーたちを呼んでほしいんだ、興行団とやりあうことになりそうだと。」
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その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
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